HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第105回 理想の介護・普通の介護
2020/07/13
理想と現実は違うと言いながら、自分の現実の貧しさを直そうとしない人がいる。自分たちが行っている劣悪なケアの原因は、制度のせいであり、人手がないという事業者の体制のせいでしかなく、自分や仲間には何の責任もないとうそぶく人の姿は傍から見れば恐ろしく醜い。そういう人たちは、自分が届かないレベルでパフォーマンスを続けている場所があり、自分たちよりずっと高品質な介護サービスを提供している人がいるという事実を見ようとせず、あたかも自分の貧しい現実がスタンダードだと思い込んでいる。そんなふうに何も見ようとせず、聴く耳も持たない人たちには向上心の欠片もなく、現状の維持だけがすべてと思い込んで、何も変えようとしない。
自分たちと同じような人員配置で、全く違う次元の介護を実現していることを知ろうとせず、知っても無関心を装い無視する人が、介護事業者の中心にいたりする。介護サービスの一面には、こうした人たちの存在があり、こうした人たちによって、運営されている事業者があるという事実があるのだ。この闇が介護の職業を必要悪のごとく貶めている最大の要因である。そうではない事業者や従業者の方が圧倒的に多いにもかかわらず、当たり前に介護をしていることはニュースにならない。マスコミが報道するのは、ごく一握りの劣悪な事業者における不適切サービスや虐待であるが、それがあたかも、介護サービス事業のスタンダードにみられてしまうことが多い。
だからこそ、そうではないという情報発信も重要ではないかと思う。ただし、それは過信した自分たちのサービスを自慢する情報ではなく、事実ではない底上げ情報を発信するのでもない。あくまで事実に徹した正確な情報提供であらねばならない。同時に普通に黙々と対人援助に関わっている人たちは、そんな腐れた者たちに巻き込まれないようにしてほしい。
正論とは本来、いつの世であっても愚鈍で生真面目で幼稚な真理である。だからこそ、子供でも理解できるし、どんなに浅学の人にも通用する真理である。対人援助は人を幸せにするためにある。人の暮らしぶりを良くするためにある。少なくとも介護という職業は、人を苦しめ、悲しませるためにあるものではない。それこそが誰にでもわかる真理である。そのためにどうしたらよいのかを考えるのが、その職業で生活の糧を得ている者の責任であり、務めである。だからこそ、理想を胸にその実現のための理念を掲げる必要がある。「理想」とは、それが最もよいと考えられる状態のことであり、その状態になってほしいと思うものである。それを目指さないで何がプロかと言いたい。
「理念」とは、物事がどうあるべきかの基本的な考えのことで、その考えのもと行動するものである。それがあってこそ具体的行動に結び付くのだ。対人援助は、その領域で働く人間が、他人の暮らしという最もプライベートな空間に、踏み込んでいくという性格を持たざるを得ない。だからこそ、利用者のプライドを傷つけず、羞恥心に配慮することは当たり前のことである。それは理想的な介護ではなく、普通の介護なのである。
理想を失った人は、この普通さえも見えなくなるのである。そうならないようにしてほしい。理想を掲げることは決して青臭いことでもないし、幼稚な考えでもない。プロフェッショナルに必要なことなのである。プロフェッショナルに徹するために性格を変える必要はないが、プロとして介護に携わる者は、人に不快を与える態度や言葉や表情に、注意する必要は当然ある。接遇マナーは、そういう意味でもなくてはならず、丁寧な言葉遣いや、柔らかい態度で利用者対応することは、プロとして当然のことでしかない。
笑顔で利用者に接することは、介護のプロとしての基本姿勢でもある。それが日常的にできないというなら、できない理由を探す前に、介護の仕事を辞めなさいと言いたい。それほど顧客マナーに配慮するということは、どの職業にとっても当たり前なのである。それは極めて普通の介護であり、普通のこともできない人が、その仕事で生活の糧を得てよいわけがない。そしてプロとしての意識なんか持たなくても、サービス提供者がごく自然にサービスマナーに徹することができ、高齢者の方々も介護者も、ともに自然に笑顔になる・・・。そういう介護の現場であれば、これは理想である。
理想を幻想化せずに、それを目指した仕事ができる場所にしか、普通や当たり前は存在しなくなる。しかし理想を目指し続ける場所では、普通や当たり前の水準も知らぬ間に引き上げられていく。そういう場所にこそ、利用者にとって、「豊かさ」や、「暮らしの質」が存在することになるのではないだろうか。その実現を目指すのが本物の介護である。介護の職業に志(こころざし)を持つ人は、是非そうした職場を探し当てて、そこで活躍していただきたいと思う。