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第106回 クラスター感染発生施設の介護サービスの実態に思うこと

2020/08/17

今回のコロナ禍の中で、クラスター感染が発生した札幌市の老健施設では、約1か月設置した現地対策本部を6月22日に解散し、7月3日付でクラスター感染の終息を宣言している。その後、道内の地方新聞やテレビ放送局では、今回のクラスター感染の発生から終息に至るまでの動きを、特集して記事にしたり、放映したりしている。

そこでは、人手が少なくなる中で、最後まで頑張り続けた職員の姿も浮かび上がっていたし、たくさんの方が、感染したり死亡したりする中で、利用者の家族から、ずっと信頼し続けられた施設や職員の姿も感じ取られ、日ごろから良い介護サービスを、提供しようと努めてきたのであろう姿勢も垣間見られた。一連の報道内容に接して、そうしたことも理解できたという前提の上で、取材対象となった施設や、そこに勤める従業員の方々に対して、対人援助として人の暮らしに寄り添うプロとしての姿勢を、あえて問いたい部分がある。クラスター感染が発生した施設にも、「割れ窓」があり、それが感染発生や被害拡大に関連性があるのではないかということである。

テレビで放映された特番報道では、当該施設について、「アットホームな対応をしてくれる職員が多く、地域住民の信頼も得られている。」という内容が、テレビ画面を通じて伝えられており、その具体例として利用者の家族が、「ほっぺたにチューしてくれたり、すごく本当にかわいがって」と発言をし、その言葉がテロップとして画面に表示されていた。

僕は、このナレーションを聴いた途端、がっかりした。赤ん坊や幼児ではあるまいし、赤の他人が、人生の先輩でもある高齢者の方の頬にキスすることが、「アットホーム」だと考えるテレビ局や家族にも、がっかりしたし、そういう行動をとっている施設職員にも、がっかりする。

他のどの職業で、顧客の頬にキスすることが、許される職業があるというのだろう。介護の職業だけが許されるとすれば、それはもう、世間の常識とは異なる特殊な職業としか言えない。そもそも、世間一般的にみても、大の大人同士が、親しみを込めるために、他人の頬にキスする習慣なんて、この国にはないはずだ。介護施設の中でそれが許され、それがアットホームな対応だと思い込むことは、利用者をまともな大人だとは、見ていないということに他ならない。馬鹿にしているとしか思えないのだ。

例えば、自分の親が介護施設に入所したとして、そこで親が、職員から頬にキスされたとして喜ぶだろうか。少なくとも僕は喜ばない。自分の親を子ども扱いするなと言うだろう。例え自分の親が、認知症になったとしても、許すことができる行為ではないと思う。私たちは、介護サービスの場では、介護支援のプロに徹する必要がある。そこではどんなに我々が、親身になって関わろうとしたとしても、我々は、家族そのものにはなれないし、なってはならないのである。プロの介護支援者として、適切な距離感を保ったうえで、利用者に親愛の情を伝えるのがプロの仕事だ。

過去の虐待事例には、高齢者の体を触ったり、抱きついたり、ここで行為内容を書くのもはばかられるような、許されざる性的虐待が存在している。それを考えれば、介護事業においては、いつであっても、誰であっても、李下に冠を正さずの精神は求められるのだ。キスをするなんてことを許しておくのは、その労務管理が、なっていないとしか言えない。当該老健の施設長や管理職は、この一点で批判を浴びてやむを得ないだろう。

感染予防という観点から云っても、頬にチューはいただけない。これからの介護事業は、with感染症の意識が欠かせないが、そんなこと以前に、介護支援という場で、生活習慣にない、不要な濃厚接触は戒めるというのが、今までだって常識だ。今回この施設に、クラスター感染が発生したことの一因に、こうした行為を許していたことが、関係ないとは言えないわけである。そういう意味でも、利用者の頬にチューしてしか家庭的雰囲気を、表現できない施設の発想や介護の質は、貧弱この上ないとしか言えない。

このような、おかしな意識をなくさないと、本当の意味で、地域の信頼を得られるプロ集団になれないし、こんな報道で、その施設が良い施設だと、紹介される介護業界の幼稚さをなくさないと、介護の職業は、本当の意味で国民から信頼を得られる職業になれない。

その特番報道の最後では、職員が、入院先から帰ってきた利用者に、「良かったね、また戻ってこれて〜」、「うれしいかい」的な声を掛けている場面が、放映されていた。その職員の言葉遣いは、タメ口そのものであり、上から目線の声かけにしか僕には聞こえなかった。思わず、「それが、死線をさまよって戻ってこられた、利用者に対して掛ける言葉か。」と言いたくなった。このような映像を見て、この施設の実像に触れると、当該施設が、万全の感染予防対策を取ったにもかかわらず、やむを得ない状況で感染拡大したということも、額面通りに受け取れなくなる。その施設には、プロとしてあるまじき、「言葉の割れ窓」があったのだから、対応にも「割れ窓」があって、それが原因で、ウイルスがフロアを横断・縦断して、感染が広がったのではないかと、疑う人も出て当然だ。

サービスマナー意識を軽視して、プロとしての顧客対応に徹していない施設は、世間から何でもあるだろうなと思われてしまうのである。その恐ろしさを知るならば、職員に対するサービスマナー教育は、さらに徹底されなければならないことに、気が付くであろう。

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