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第107回 市町村の総合事業見直しに隠されている真実

2020/09/28

市町村が実施している介護保険の総合事業の施行規則の一部を改正する省令案について、国はパブリックコメントとして意見を募集している。

その中の(1)①第1号事業の対象者の弾力化について、多くのメディアは、国が(概要)の中で示した考え方、「要介護認定を受けると、それまで受けていた総合事業のサービスの利用が継続できなくなる点について、本人の希望を踏まえて、地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行うことが重要」という文章を、そのままに伝え論評を加えていない。そのため結果的には、その裏にある国の意図や、制度改正の布石を伝えていない状態となっている。

確かに、「サービスの継続性を担保し、地域とのつながりを維持してもらうことが狙い。」というのは、国が示している考えであり、そうした考えを示していると報道することは、「事実」を伝えていると言って間違いはない。しかし、過去の経緯を踏まえて考えたら、そもそもサービスの継続性は、何故分断されているのかということを伝えなければ、「真実」は伝わらないと思う。

「要支援から要介護になった途端、それまでのサービスが、全て使えなくなってしまうのは本人にとって良くないとして、関係者から再考を求める声が出ていた。」と報道されているが、その前に要介護だった人の身体状況が改善し、要支援になった途端、それまでのサービスを使えなくしたのは誰だと言いたい。それを伝えなければ、問題の本質は見えなくなるのではないのか?

もともと、要支援者の訪問・通所サービスは、指定介護事業者による要支援者に対する介護給付サービスとして、分断されず一体的に、サービス提供されていたのである。それが分断されたのは、介護保険法の一部改正により、2015年(平成27年)から「介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)」が、スタートしたのがきっかけであった。経過措置期間を経て、2017年4月から全国すべての市町村で、要支援者の訪問・通所サービスは、介護給付より単価が低く抑えられる総合事業に、移行させられたのである。要支援者の訪問・通所サービスを、市町村の総合事業としなければ、「要支援から要介護になった途端、それまでのサービスが全て使えなくなる」という問題もなかったのである。

「給付抑制のために要支援者の訪問・通所サービスを、市町村の総合事業にしたことが、サービス分断の原因である」という真の問題点を、どの報道機関も伝えていない。しかも、施行規則が改正された後は、要介護者になっても総合事業が使えることを、「ありがたいこと」のように報道しているが、ありがたいのは利用者ではなく市町村である。前述したように総合事業の訪問・通所サービスは、介護給付の訪問介護と通所介護より単価が安く設定されている。そのため要介護となっても、介護給付の訪問介護や通所介護を利用せずに、総合事業のサービスを利用してくれる人が増えれば、財源負担は減るのだ。よって、それは財政事情が厳しい市町村にとっては、この上なくありがたいことである。

この施行規則変更は、次の制度改正への布石にもなっている。要介護者が、総合事業の訪問・通所サービスを利用するという実績をつくることによって、要介護者にとっても総合事業の訪問・通所サービスは、効果があるという論理展開につながるわけである。このようなアリバイ作りを行なったうえで、「軽介護者(要介護1と2)については、総合事業の訪問・通所サービスが利用できれば問題ない」という論理を作り出し、介護給付の訪問・通所サービスは、要介護3以上に限定利用させるという給付抑制につながっていくことになる。

いま国は、インセンティブ交付金と連動させて、市町村の通いの場づくりを強力に推し進めている。(参照:市町村の「通いの場」の拡充と充実が促されている意味

その政策と要介護者の総合事業利用をセットで進めた先に、軽介護者の訪問・通所サービスのすべてを、総合事業化する意図や方向性を伝えた報道は皆無である。それは果たして、「真実の報道」と言ってよいものなのだろうか。大いに疑問である。介護担当のジャーナリストの魂とは何かを問いたいと思うのは、果たして僕だけだろうか。

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