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第111回 サービス付き高齢者向け住宅の規制強化に伴う賢い選択

2021/01/25

2021年度介護報酬改定の柱の一つ、「制度の安定性・持続可能性の確保」の中では、評価の適正化・重点化策として、サービス付き高齢者向け住宅に関する指導強化が図られている。具体的には、サービス付き高齢者向け住宅等における適正なサービス提供を確保する観点から、事業所指定の際の条件付け(利用者の一定割合以上を併設集合住宅以外の利用者とする等)や家賃・ケアプランの確認などを通じて、自治体による更なる指導の徹底を図るとしている。

このことに関連して、政府は2021年度から、高齢者住宅に対するさらなる監視強化の方針を固め、全施設に入居・退去者数や退去理由などの公開を義務付けるほか、自社の介護サービスのみを過剰に使わせるために、家賃を安く抑える可能性が高い施設を、補助金の対象から外す方向で検討している。対象から外されるのは、1戸あたり90万〜180万円の整備費補助や、固定資産税の減額などである。こうした一連の規制強化の理由は、サービス付き高齢者向け住宅の突然の廃業などで高齢者が住まいを失うケースが相次いでいるためだ。現在全国でサービス付き高齢者向け住宅の数は、7735施設となっているそうだ。(※2020年11月現在)。そこで暮らす高齢者数は約26万人とされている。

高齢化が進む現代社会において、住み慣れた自宅であっても、心身の状況変化に環境適応できなくなり、住み替えが必要になる高齢者が増えてきた。そのため、高齢者の新たな居所を創造する必要があったために、「高齢者住まい法」に位置付けられたサービス付き高齢者向け住宅は、国がたくさんの補助金を支出して、全国にその数を増やす政策をとったこともあって、参入業者が爆発的に増えてきた。サービス付き高齢者向け住宅の数が、短期間にこれほど増えてきた背景には、このような要因があったが、参入業者は玉石混交である。利用者の福祉を第一に考えて、サービス付き高齢者向け住宅を経営している事業者がある反面で、中には、「儲け」しか考えず、サービスの質という概念もなく、事業計画もずさんで、安易に、「高齢者の数が増えるから、入居者確保には困らない」として、事業参入してきた業者も多い。しかし実際には、家賃収入だけでは借入金を返還しながら収益を挙げることは難しく、自社で外部サービス部門をつくって、そのサービスをサービス付き高齢者向け住宅の入居者に張り付けることで、収益を挙げようとする事業者が多くなり、家賃収入を下げてでも、訪問介護等の自社サービスへの、「囲い込み」を強力に進めようとする事業者が増えてきている。

このような囲い込みに応じない利用者を、排除する利用契約を結んでいる事業者もあることは、様々な場面で指摘されていることだ。ここにメスを入れたいというのが、今般の国の規制強化策である。このことは、良質な事業者が残っていくためには、必要な策であると評価してよいと思う。特に、補助金や減税が必要ないという事業者はいないだろうから、この対策は介護事業の運営基準改正より実効性が挙がると思われる。

しかし問題は、「自社の介護サービスのみを過剰に使わせるために、家賃を安く抑える可能性が高い施設」をどう選別できるのかということだ。サービス付き高齢者向け住宅を経営する事業者が、囲い込みを高らかに宣言するケースはそう多くはない。本音はともかく、建前としては、利用者の選択を尊重すると喧伝しながら、利用者を集めているケースが多いのだ。そうなると申請段階で、国が問題視する規制対象事業者であるとは認定できずに、すり抜けて補助金を得たり、減税対象になったりしてしまう事業者も、少なくはないだろうと思われる。そうであれば、この規制には一段の強化策が、セットで求められてくる。事業開始後であっても、囲い込みの状況を市町村が、確認するシステムを強化する必要があるし、利用者やその家族、担当ケアマネなどが、サービス付き高齢者向け住宅の過度な囲い込みや、法令違反の契約内容について、行政に訴えられる窓口をつくり、そのことを広くアナウンスする必要がある。それとともに、不適切運営が明らかになった後に、補助金や減税分の返還を求めることができる法令等の整備も、必要不可欠ではないのだろうか。

規制強化策には、全施設の入居・退去者数や、退去理由等の情報公開が含まれているが、これをもって利用者が、上手に選択せよというのは、過度な希望である。そうした情報によって、施設の良否が判断できないのは、介護サービス情報の公表制度でも証明されていることであって、大きな期待は寄せないほうが良い。

それよりも有効な情報は、サービス付き高齢者向け住宅の事業者以外の事業者に、所属する周辺地域の居宅介護支援事業所が持つ情報だと思う。自分が住む地域の、居宅介護支援事業所に所属する、ケアマネジャーの本音を集めてみたら、どのサービス付き高齢者向け住宅が安心して住み続けられ、どのサービス付き高齢者向け住宅は選択しない方がよいのかということがわかるのではないだろうか。

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