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第114回 利用者本位が、本音か建て前なのかが問われる新加算

2021/04/19

令和3年度介護報酬改定において、通所介護と通所リハビリに新設された入浴介助加算Ⅱは、利用者居宅を訪問し、浴室アセスメントを行って、自宅で入浴できるように、利用者居宅の浴室環境等を踏まえた個別の入浴計画を作成したうえで、個浴その他の利用者の居宅状況に近い環境にて、入浴介助を行うことで、従前の入浴介助加算(新年度からは入浴加算Ⅰ)より、高い単位数を算定できるものだ。

従前の入浴介助加算としての新加算Ⅰは下位区分となり、単位数も10単位下がっていることから、通所サービス事業所としては、何とか新加算Ⅱを算定して、減収を防ぎたいと考えているところが多い。しかし、この加算を算定する必要性はないと、考える計画担当ケアマネジャーなどの理解を得られず、中には露骨に新加算Ⅱを算定しないように圧力がかかっているという訴えが聴こえてくる。

居宅サービス計画と、通所介護や通所リハビリの計画書の関連で言えば、入浴介助加算をⅠで算定するかⅡで算定するかは、通所サービス事業所の計画書に位置付けるべき問題で、そのことについて、計画担当ケアマネジャーに同意を得る必要はない。居宅サービス計画には、通所サービスを利用する必要性が書かれておればよいのであって、居宅サービス計画に位置付けられた通所サービスでどのような具体的サービスを行うかは、通所サービス事業所の計画書によることになっているので、居宅サービス計画書には、「通所サービス事業所で入浴支援を受ける」という記述さえも必要とされないからだ。

しかし、この新加算Ⅱの算定に反対するケアマネジャーの考えも十分理解できる。そもそも通所サービスで入浴支援を受けている人で、自宅で何とか入浴したいのだという希望を持つ人は少ない。むしろ自宅で入浴するより、広くて温かい通所サービスの浴槽で、ゆったりと入浴したいという希望を持っている人の方が多い。一人暮らしの人であれば、自宅で自分一人のためにお湯を張って、狭くて寒い浴室で入浴し、浴室清掃も行わなければならないことを、非効率的で不経済で、面倒くさいと思っている人が多い。ましてや浴室設備の改修や福祉用具をレンタルまでして、お金をさらにかけて、自宅入浴にこだわる必要などないと考えるのである。

そうした理由で、1日おきとか2日おきに通う通所サービスで、入浴できれば十分だと思っている人たちにとって、今回の入浴介助加算Ⅱの算定要件は、余計なお世話でしかない。そうした事情を十分汲み取れば、通所サービス事業所は、何が何でも新加算Ⅱを算定するのではなく、利用者の希望とニーズを十分汲み取ったうえで、本当に必要な人だけ、新加算Ⅱを算定するように慎重に対応すべきだ。加算届はⅡを出しておけばⅠも算定できるのだから、人によって加算区分が異なることは問題ないのである。

そもそもこの加算は、ケアマネジャーの同意が必要ないとしても、利用者もしくは家族の同意は必須である。この同意を、利用者の個別事情を考慮せずに、強要することがあってはならない。新加算Ⅱは、利用者宅の訪問アセスメントが必要で、その訪問は個別機能訓練加算等の訪問と、同時に行うことが許されていると言っても、職員負担は重いものとなるのだから、その点でも何がなんでも、新加算Ⅱを算定する必要はないと考えるべきだ。入浴加算の算定区分については、サービス担当者会議において、利用者もしくは家族と、担当ケアマネジャーを交えて、じっくり話し合いの機会を持って、全員が納得する結論を得たうえで、慎重に算定区分決定をしてほしい。単位が減らされた新加算Ⅰを、算定せざるを得なくなっても、単位数が10倍となったADL維持等加算や、新設された科学的介護体制加算を算定して、その分を補って余りあるようにすればよいわけである。

この問題は、利用者にとって、どちらの入浴介助加算の算定要件が、必要とされているのかという観点から考えないと、利用者不在・利用者ニーズ無視という、対人援助の精神にそぐわない問題を、生じさせかねないことに十分注意が必要だ。それは私たちが従事する介護サービス事業が、なんのために存在しているのかが、問われる問題であり、利用者本位という言葉を、建前に終わらせるのか、本音にできるのかが、問われる問題と言えるのかもしれない。

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