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第118回 介護助手を増やして誰が喜ぶのか

2021/11/01

厚労省は、都道府県が福祉人材センターに「介護助手等普及推進員(仮称)」を配置した際に、人件費などを補助していく方針を決定し、来年度予算の概算要求に3億円を盛り込んだ。推進員の役割は、各地の社会福祉協議会や福祉事務所などを巡回して、介護助手の担い手の掘り起こしや、介護助手の受け入れに有効な介護事業者の業務改善、求人開拓などに関する助言などを、行うことであると例示されており、当面は、都道府県ごとに1人以上の推進員の配置を目指すそうである。

しかし、こんなことを介護事業者や国民が、求めていると本当に思っているのだろうか? そもそも、介護助手なんて介護現場で本当に役に立つのだろうか?

助手の役割とは、施設などで物品の補充や食事の配膳、清掃といった仕事をこなし、身体介護などの担い手をバックアップすることである。それによって、介護職の人手不足を補うと国は主張しているが、本当にそんなことで、介護職員の業務負担が減って、仕事が回っていくだろうか。

そもそも、清掃を介護職員が行っているという施設はもうほとんどない。清掃員は別に配置されているところがほとんどであるし、配膳だって、調理委託する業者の職員が行うのが普通だ。それらは、既に介護の場からアウトソーシングされ、介護事業者の業務負担ではなくなっている。物品の補充だって、営繕職員か事務職が行っているだろう。今更、介護助手を雇って行わせるような業務ではない。

僕が、社会福祉法人の総合施設長を務めていた当時、忙しく重労働に励む介護職員の業務を、少しでも楽にしようとして、フルタイムで働くことができない事情のある人や、一部の介護業務しかこなせないスキルの人も雇い入れ、その事情や能力に応じた短時間配置を行ったりした時期がある。その中には、現在、国が配置を促している介護助手に当てはまる職員も複数いた。しかし、そうした職員雇用に対して、介護職員からの評判は良くなかった。どうせ人を雇うなら、きちんと介護ができる人を、雇ってくださいと言われたものだ。特定の時間に、特定の行為しかできない人がいても、邪魔になるだけだと言われたこともある。なるほど・・・。配膳した後、食事介助を行うことができない職員が、そこにいて何の意味があるのだというわけである。それならいっそ調理の人が、配膳して、そのあと厨房に入っていてくれた方がマシということだ。

そのように考えると、介護施設で、介護助手が必要とされる場面というのは、ほとんどないと言ってよく、そういう人がいた場合には、介護職員が、あまり介護に精通していない人に何をすべきか、何をしてはならないのかを、細かく指示するだけ、業務負担が増える結果になりかねない。助手的な業務しかできない人は、スキルもそれなりで、指示に沿わない動きもしてしまうだろうから、そのことは介護職員の大きなストレス要因だ。しかも、今般の予算要求は、介護助手そのものに対する費用ではなく、その配置をバックアップする推進員を配置するのにかける費用だ。それに対して、この財政難の折に3億もの国費を投入するのも疑問だ。実績のない推進員を配置したからと言って、介護人材不足の解消につながるなんて考えられないからである。無駄金・死に金としか思えない。

さらに言えば、推進員が、介護助手を「掘り起こす」というが、介護業務を担えないスキルの人材を掘り起こして、その人が、介護事業者の戦力になるとでも思っているのか。そんな中途半端なスキルしかない人物を、掘り起こしたところで、事業者のお荷物か、場合によっては、事故や不適切対応が増大するというリスク要因にしかならない。

介護人材不足は深刻で、だからと言って、介護という専門職は、誰にでも担える業務ではないことから、それを補う別な人材を配置して、少しでも介護職員の業務負担を、減らそうという目論見はわからないでもない。しかし、所詮介護実務に精通していないお役人の考えることである。介護事業者のニーズと、その考えは全くあっていない。

推進員の詳しい要件にしても同様で、社会保険労務士や経営者らを想定していると言うが、社労士が制度を熟知している人と言えるだろうか?これもあっち向いてホイの考え方である。

お役人は、自分の身体を使って、介護労働を一度もしたことのない人だから、机上の上だけで数合わせや、業務軽減というものを考えてしまう。だからこのような無駄で意味のない対策しか取れないのである。地位や身分を抜きにして、介護の場に精通した人であって、かつその考え方をきちんと言葉や文章にできる人から、意見を聴くべきだと思う。そうしない限り、本当に必要な対策など打ち立てられるわけがないのだ・・・。

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