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第120回 実地指導対策費は無駄な支出の最たるもの

2021/12/27

介護事業コンサルタントとして、介護事業者の経営相談に乗ることがある。その際に、相談を受けた介護事業者の経営状況を確認するために、P/L(損益計算書)をチェックするが、経営状態が思わしくない事業者には必ず無駄な支出があり、長年それを放置したままでいることがわかる。

介護事業者における無駄で無意味な支出の最たるものとは、実地指導に備える支出である。実地指導に備える支出といっても、資料をコピーしたりする際の支出や、必要な記録を整理するために、職員が残業をする際に支出する時間外手当等が、無駄だと言っているわけではない。実地指導のために必要な最低限の業務支出というものは当然あり得るわけで、それは必要経費である。問題となるのは、実地指導対策として、経営コンサルタントに対策研修を行ってもらう際の支出や、事前の実地指導対策として、模擬訓練を行なったり、提出書式をチェックしてもらったり、助言を受けたりするために支出していることである。

それは、介護事業者が実地指導を過度に恐れて、何か指摘されたら大変なことになると思い込んでいる証拠だと思うが、定期的な実地指導に対する誤った認識でしかない。実地指導とは、不正を暴き出すために行われるものではないのだ。不適切運営や人員配置基準違反、虐待などがあるという前提で、抜き打ち的に行われる「監査」であり、「実地指導」は、行政側と事業者側が日時調整したうえで、その際に備え置くべき書類等も事前に示された中で行われるものである。このように、事前に日時やチェック書類が示されたうえで定期的に行われる「実地指導」とは、そうした「監査」とは異なるということを理解せねばならない。

実地指導は、介護事業者の適正運営を手助けする行政指導であって、法令解釈の誤解を正すなどの「助言」を主たる目的にしている。それは、介護事業者が不適切運営を行っているという前提で行われるものではないのである。そうであるがゆえに、まともに経営されている介護事業者であれば、多少の指摘事項があるからと言って、それが問題視されるわけではないのである。運営基準等の解釈に誤解や見落としがあるだけで、即指定取り消しという事態にはならないのだから、どういうアドバイスを受けられるかと、楽しみながら実地指導を受ければよい。

費用返還指導があっては困るという人がいたりするが、それは算定基準を理解していないで間違った請求をしているか、不正請求をしていない限りあり得ないことで、日ごろから事務担当者等が算定要件をチェックして、正しい請求を行っておればよいだけの話だ。仮に、間違った請求をしていた場合は、実地指導で書類を整えても、間違った請求分は返還する必要があるのだ。それを隠した場合、そのこと自体が指定取り消し事由になってしまうので、実地指導で慌てふためくのは無駄でしかない。

僕が、社会福祉法人の総合施設長を務めている間は、実地指導の際に担当職員等に伝えていたことは、『指導担当者は介護事業者に行政指導をすることが仕事なんだから、何にも指摘事項がないとがっかりするよ』、『口頭指導レベルでは、少しは指摘できる事柄も残しておいてやった方がいいよ』ということである。そして、いざ実地指導の当日は、僕が管理するネット掲示板に「実況中継」と称するスレッドを立ち上げ、現在進行形で指導担当者がどんな書類をチェックして、どのような質問をしているのかということを含めて、その結果まですべてリアルタイムで情報提供していた。指導担当者によっては、そのことを知っており「これは書かないでくださいね」なんてよく言われたものである。

実地指導とはその程度のものであり、むしろ行政職員と忌憚のない意見交換をできる貴重な機会であると考えるべきである。そのような場に、実地指導をアドバイスするコンサルなど必要なく、実地指導対策をアウトソーシングして、そこにお金をかけるほど無駄なことはないのである。

そういう意味では、実地指導対策の研修に参加することも、時間と金の無駄でしかない。運営基準と介護報酬の算定基準を読み込んで、それに沿った経営と運営を普通にしておれば、そのような無駄な支出や、時間の使い方はいらなくなるのである。実地指導対策をアウトソーシングしなければならないような事業者は、経営者を替えるか、担当職員を替えるかをせねばならないということだ。

いつまでも実地指導対策として、外部の人間のアドバイスに頼っている介護事業者は、将来的に経営に行き詰まる可能性が高い。くれぐれも、そうならないようにしていただきたい。そして、実地指導対策などという、くだらないお金の使い方をしないようにして、その分のお金の使い道を、職員に還元するものに変えれば、良い人材が集まって経営もうまく回るというものである。そういう介護事業経営を目指していただきたい。

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