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第121回 カスタマーハラスメント対策は顧客救済策とセットで考える

2022/02/07

今年度の介護報酬改定時に、同時に行われた基準改正では、全ての介護事業者にカスタマーハラスメント対策を講ずる義務が課せられた。

その背景には他法改正の影響がある。2020年6月1日より改正労働施策総合推進法が施行され、パワハラの防止対策が企業の義務として定められた。(※中小企業については、努力義務期間が2022年3月31日まで設定されており、2022年4月1日から義務化)併せて、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法においても、セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに係る規定が一部改正され、今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止や国、事業主及び労働者の責務が明確化されるなど、防止対策の強化が図られた。この流れを受けて、今年度の介護報酬改定と併せて行われた基準改正において、令和3年度から全ての介護事業者に、ハラスメント対策を講ずることを義務付けることにしたのである。

当初その対策とは、パワーハラスメントと、セクシュアルハラスメントを防ぐものとして議論されていたが、その中で訪問介護等の訪問サービスでは、ヘルパーや事業者に非がないにもかかわらず、密室化されやすい利用者宅で、顧客(利用者及びその家族)から、怒鳴り散らされ恫喝されるというカスタマーハラスメントが問題視された。例えば、ヘルパーが顧客から理不尽な暴言を浴び、脅すような態度をとられたとしても、「相手はお客様なのだから、多少のわがままは仕方ない」、「顧客を失わないために、あまり気にせず何とかやり過ごせ」などというように、従業員に過度の我慢を強いて、何も対策しない事業主が多いという現状が問題視されたのである。そうした態度は、事業者責任を放棄した態度であるとして、運営基準の中で、カスタマーハラスメントからも従業員を護る責任が、事業者及び事業主にあることを明記したのである。

その際、事業者が雇用管理上の配慮として行うことが望ましい取組の例として、以下の3例が示されている。
①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
②被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)
③被害防止のための取組(マニュアル作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)

介護事業経営者は、法律違反の要求だけではなく、倫理上問題のある行為、要求を受け入れる必要はないことをしっかりと確認するとともに、事業者・事業主の責任として、カスタマーハラスメントは放っておかないことを、その責任とともに理解しなければならないし、従業員は、カスタマーハラスメントを我慢する必要がないことを、運営基準に明記したのである。そのため全ての介護事業者が、利用者からの理不尽な要求や態度には、事業者側が、毅然とした態度で応ずるべきであることを、念頭に置くことは当然である。

しかし、毅然とした顧客対応が『介護難民』を生み出しては、本末転倒であるということも考えておかねばならない。カスタマーハラスメント対策として、どうしても暴言や威嚇行為をやめない利用者に対しては、契約破棄も手段の一つだが、私たちの仕事は、社会福祉援助であり、人の暮らしを護るために存在するのだから、契約を破棄して、あとは知らないという態度であってよいわけがない。利用者側の問題で、契約を終了せざるを得ない場合も、後は勝手にしてくれというのでは、あまりに無責任と考えるべきであり、契約を終了せざるを得ないケースであっても、地域包括支援センターとの連携によるアフターフォローは不可欠と考えてほしい。

カスタマーハラスメントを繰り返す利用者や家族は、そのような問題を起こす病理的原因が、家庭の中に隠されているのではないかという観点も含めて、地域ケア会議の検討対象とする必要があるのだと思う。地域ケア会議の第1の目的は、法の理念に基づいた、高齢者の自立支援に資する地域の介護支援専門員のケアマネジメント支援なのだから、その機能が発揮できない、カスタマーハラスメントを繰り返す利用者や家族の問題について、その原因を明らかにして対策を取ることは、地域ケア会議の目的に沿ったものであることを、忘れてはならないのである。

介護サービス利用者は、単なるユーザーではなくお客様である。しかし、お客様は神様ではない。だから毅然とした態度は時に必要になるが、介護支援を必要としている人に問題があるからと言って、その人たちが切り捨てられ、介護難民となっても仕方がないということではないのである。私たちは、捨てる人ではなく、救う人・寄り添う人であることを忘れてはならない。そうしたバランスを考えるべき職業が、対人援助という職業であることを理解する必要があるのだ。

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