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第122回 介護現場の実態と乖離した経団連の提言

2022/03/07

2022年1月18日付で、経団連が医療・介護分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けた新たな提言を公表した。その中の「介護」では、「介護施設人員基準 3:1の見直し」が声高らかに提言されている。

当該文書では、「2040年度までに、2019年度時点と比べて、約69万人の介護職員を追加で確保しなければならない。生産年齢人口が減少するなかで、非常に厳しい状況にある。この問題の解決策として、テクノロジーを活用した介護業務の効率化、さまざまな医療・介護データを活用した重症化予防や自立支援介護が注目されている。」としたうえで、「介護ロボットやICTの導入が、介護の品質向上や効率化に寄与することが明らかになってきた。」と理論展開している。そして、そのことを根拠として、「利用者にとっての品質確保、職員の負担軽減が図られ、テクノロジー・データ活用による業務時間の削減効果が認められる場合、その改善効果の範囲で、配置すべき員数を見直すべきである。」として、3:1配置の見直しを求めている。それは即ち、介護施設の配置基準を緩めて、もっと人員の少ない配置を認めるという提言に他ならない。その先には、配置人員を現在より少なくして、コストも減るのだから、介護報酬の基本サービス費も、下げられるだろうという理屈に結びつけていくことも容易に想像がつく。

経団連は今更言うまでもなく、日本経済団体連合会の略称である。この団体は日本の代表的な企業や業種別全国団体・地方別経済団体などから構成されているもので、もともとは戦後の日本経済の再建・復興を目指して設立されたものである。現在では政府等に対して、多岐にわたる政策提言を行っているが、その目的については、「日本の経済を元気にすること、それが日本経団連の一番大きな役割」とアナウンスしている。

介護保険制度に関連しても影響力は小さくない。介護給付費分科会にも常務理事を委員として送り込んで、過去にも様々な給付制限等に、言及しているところだ。それは企業等の社員の介護保険料を、労使折半で負担している企業を代表する立場から、労使双方の保険料負担を減らすことを、目的としているものである。今回の配置基準緩和提言もその一つであり、「またか」という感はあるが、決して放置してよい問題ではない。本当に配置基準緩和されてしまえば、職員に負担がかかるのは間違いない結果で、重労働化を嫌って介護施設で働く人がいなくなるからである。基準緩和は介護人材対策になるどころか、介護崩壊につながりかねない問題なのだ。

そもそも経団連は、介護施設が実際に3:1の職員配置で、運営されているのかを調査しているのだろうか。多分そんなことはしておらず、実態を見ずに基準だけを念頭に、提言を行っているのだと思う。3:1とはその日働く職員の比率ではなく、配置されている職員比率の最低基準であるが、実際に対利用者比3:1しか、職員を配置していない介護施設はほとんどない。そんな配置では仕事が回らないし、職員はまともに休みも取れなくなるからだ。3:1しか配置していない場合には、全職員が、有給休暇を完全消化するなんてことは絶対に不可能だが、そんな実態を経団連は知っているのだろうか。そして、そのことを経団連は許すとでもいうのだろうか。

最低基準配置しかしていない場合は、最低基準のケアしかできないし、それもままならなくなることが多いが、利用者はそれで満足できるのだろうか。見守りセンサーが反応して、対応するのがロボットであれば、人は減らすことが可能になるだろうが、見守りセンサーに対応するのは人なのである。配置を減らして、高性能センサーを多用する中で、センサー反応のコールが鳴り響く中で、いったい誰が、センサー反応に対応するというのだろうか。

「なぜ仕事が3:1では回らないのか」という問いかけに対しては、逆に「そもそもなぜ3:1が配置基準なのか。それは十分、介護が提供できる基準として設定されているのか」、「介護保険制度開始以後、サービスの品質向上を、報酬改定のたびに求められているのに、なぜ同じ配置基準のままなのか」、「やむを得ず配置人員が多い日と、少ない日が生じてしまうが、そこでサービスの質の差が生ずることに、目をつぶってよいのか」等々を問いたい。

根本的な問題として、経団連は介護労働の実態を知って提言しているのだろうか。是非とも、介護施設での体験実習を行ったうえで、本当にテクノロジーの活用で、人員配置を減らすことができるのかを、考えてみていただきたい。

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