HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第132回 訪問介護と新複合型サービスについて
2023/03/27
2/1に厚労省が公表した最新の介護給付費等実態統計結果によると、訪問介護の請求事業所数が、今年度の上半期で414ヵ所増え、過去最多を更新しているそうである。
それは、何も不思議なことではなく原因も明らかだ。団塊の世代が、後期高齢者に達し始めていることから、訪問介護の利用者数も増えているからに他ならない。しかし、訪問介護員の日本全体の平均年齢は55.5歳で、しかも50歳以上が全体の73.0%を占めており、20代は1.0%という現状である。つまり訪問介護事業は、絶滅危惧サービス種別と言われている状況に変化がないことから、いずれ顧客あってサービスなしという地域が増えることが予測される。今現在も、訪問介護員の不足は深刻な状況で、サービス提供さえできれば、事業経営が続けられるのに、サービス提供できる人材を確保できずに、事業廃止する訪問介護事業者が後を絶たない。そのため、訪問介護サービスが十分に行き届かない地域もあるのが実情である。
これに対して報道記事は、国に対して抜本対策・基盤強化を求める形でまとめているが、本当に有効な対策はあるだろうか?
少なくとも、現行の指定訪問介護事業の枠組みの中で、利用者ニーズに対応できる、訪問介護員の数を確保するという対策は不可能だ。現在、施設サービスにしか認めていない外国人の人材を、居宅サービスに配置できるようにしたとしても、その数は十分確保できないだろう。仮に、訪問介護を絶滅させない手があるとしたら、訪問介護員の資格は不必要とするしかない。訪問介護事業所が雇用した介護職員はすべて、訪問資格をもって訪問介護費を請求できるとする抜本改革をしない限り、訪問介護が提供できない地域の方が、多いという実態が生まれることだろう。
だが、国はそのことも想定済みである。訪問介護というサービスを、未来永劫残そうと思っていないらしい。特に生活援助というサービスに、国費や保険料を支出するのは勿体ないと思っており、生活援助サービスについては、単独で算定させるのではなく、月額定額報酬というパッケージ報酬体系の中で、事業者が必要と思う分だけサービス提供させ、費用も定額報酬の範囲で、補わせるという考え方のようである。その為、訪問介護サービスに替わるサービスとして、「小規模多機能型居宅介護」及び、「看護小規模多機能型居宅介護」というサービスを想定して、そのサービスが地域にある限り、訪問介護は無くなっても問題ないと考えていた節がある。
しかし、国の思惑通りに小規模多機能型居宅介護が増えていない実情がある。その為、国は小規模多機能型居宅介護より、もっと柔軟でフットワークの良いサービスを、地域密着型サービスとして創設しようとしている。それが介護保険制度見直しに関する意見6頁に、「特に、都市部における居宅要介護者の様々な介護ニーズに対応できるよう、複数の在宅サービス(訪問や通所系サービスなど)を、組み合わせて提供する複合型サービスの類型などを設ける」と、記されている新サービスだ。
この新サービスの普及を図ることが、訪問介護が提供できなくなった場合に、備えた対策ということになるだろう。その為、新複合型サービスの普及に向けて、様々な対策が取られていく。その普及策の一環として、このサービスの提供事業所内に、介護支援専門員を配置しなくてよいということにもなるだろう。小規模多機能型居宅介護が普及しない最大要因は、小規模多機能型サービスを利用した途端に、居宅介護支援事業所の介護支援専門員の手を離れて、小多機事業所の介護支援専門員の担当に変わってしまうからだ。
顧客離れが進むのを嫌って、居宅ケアマネが新サービスの紹介をためらわないように、居宅介護支援事業所の担当から外れない形で、新複合型サービスを利用できるようにすることで、訪問介護が提供できない利用者も、介護難民とならずに済むということのようである。
このように国は、訪問介護の絶滅に向けたカウントダウンを、進めていると言えるのである。だからと言って、訪問介護事業所は、新複合型サービスにとって代わられるという意味ではない。訪問介護員の確保ができて、サービス提供が可能なら、訪問介護事業所として生き残っていけることは、今回の調査で訪問介護ニーズが、まだ低くないことでもわかる。新複合サービスが誕生した後も、訪問サービスに特化したサービスで、なおかつ月額定額報酬ではない、「出来高報酬」の訪問介護にニーズはなくならないのである。
ただし、次の報酬改定(2024年度)で、訪問介護費が前回並みに、身体介助・生活援助・通院等乗降介助が、それぞれ1単位しか上がらないような状況であったとしたら、それはいよいよ、この事業が見捨てられたということになるかもしれない。そんな厳しい状況になった場合には、コスパが低いサービスと化しても、隙間サービスとして生き残っていく道は、残されているということになるだろう。