HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第136回 介護報酬改定を巡る攻防〜物価高に対応したプラス改定は実現するのか
2023/06/26
諸物価と人件費の高騰が経営を直撃し、厳しさを増している介護事業者にとって、来年度の介護報酬改定で大幅なプラス改定がないと、今後の事業経営の先は真っ暗闇になりかねない。そのような危機感が、多方面に伝わっていることから、政治家も報酬アップに動き出している。
5/22に自民党の社会保障制度調査会・介護委員会が、次期改定時に介護報酬を大幅に引き上げるよう求める要望書をまとめ、厚生労働省へ提出したのに引き続き、5/31には自民党の「介護福祉議員連盟(麻生太郎会長)」と、「地域の介護と福祉を考える参議院議員の会(末松信介会長)」が連名で、大幅な介護報酬アップを訴える決議文を、鈴木俊一財務相へ提出した。
与党第一党の議員団が、財務大臣に直接決議文を手渡し、介護報酬の大幅なアップが不可欠であると、訴えている影響は小さくはないと、言えるのではないだろうか・・・。これもまた介護事業者にとっては、大きな追い風といえそうだ。
しかし、こうした動きをけん制する動きも、同時に目立っている。6/7の経済財政諮問会議で示された、今年度の「骨太の方針」の原案を読むと、「医療・介護の不断の改革により、ワイズスペンディングを徹底」という文章が目に入ってくる。
ワイズスペンディングとは経済用語であり、『財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を、生み出すことが見込まれる事業・分野に対して、選択的に行うことが望ましい』という意味だ。さすれば、上記で紹介した文章の意味は、介護報酬の引き上げを求める声が強いことに対して、「それは将来的に、この国の利益につながるのか」ということを論じて、結論を出すという意味である。単に介護事業者の利益のためだけにしかならない報酬引き上げは、行わないという意味にもなる。
しかし、これも随分と介護関係者を馬鹿にした話である。介護報酬の大幅な引き上げが必要であると訴える人々は、何も自分の懐を温めるために、そう訴えているわけではない。諸般の物価高による経営悪化は、従来型特養や通所介護事業所でいえば、実に4割を超える事業者が単年度赤字である。繰越金を取り崩して、何とか運営しているのである。しかし、繰越金はいつまでも存在し続けるわけではない。それがなくなった際に、零細な介護事業者に貸し付けを行ってくれる金融機関は存在しない。
そんなふうに廃業が、間近に迫っている介護事業者が少なくないが、それは経営努力が足りないとか、顧客確保の工夫がないという問題ではない。公費運営の介護事業者が苦しい経営状況になっているのは、内部留保批判から始まった、大幅な介護給付費の引き下げが最大原因である。従業員の処遇改善のみにスポットを当てて、運営費を削って、そこに回すような報酬改定が続いていることが、今日の状況を生んでいるのである。
しかも世間を見渡せば、物価高であるという認識が、国民に広く浸透しているため、世に出回る商品等の値段が高騰することに、抵抗感が薄くなっている。つまり今現在、あらゆる商品は値上げしやすいという意味にもなる。そうした中で、物価高等に応じた費用を、価格転嫁できる企業等は、利益を確保しながら、インフレ率を上回る、従業員の給与アップが可能となっている。現に今年の春闘の賃上げ率は、史上最高額となったとされている。それが不可能な介護事業者は、収支率の悪化もあって、さほど従業員の給与アップもままならないのが現状だ。
このままでは、多くの介護事業者が廃業の憂き目にあい、制度あってサービスなしという状況になりかねない。何とか経営を続けられたとしても、他産業との給与差が広がり、介護事業者の求人に、応募する人材も益々減ることになるが、そのしわ寄せは、サービスの品質劣化という形で、利用者=すなわち国民の不利益となって現れるのである。
つまり介護給付費引き上げの要望は、マクロ的には国民の福祉の向上を、頓挫させないためなのである。それは官僚の言うところの、「ワイズスペンディングの徹底」と合致するものといってよいだろう。よって国民の福祉を護るための介護報酬の大幅引き上げを、何もためらう必要はないのである。