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第139回 看護・介護職員配置基準緩和の危うさ

2023/11/06

介護人材不足が益々深刻化する介護事業、来年度の介護報酬改定の主な論点の一つには、「介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」が挙げられている。

介護保険制度改正でも、介護DXによる生産性向上を目的とした方向性が示されている。その一環として、介護ロボット・ICT機器の導入支援を要件とした、配置基準緩和(4:1配置へ)のモデル事業が実施されている最中だ。(※モデル事業実施施設は、三重県津市の老人保健施設)

しかし、配置基準緩和したからと言って、実際に介護施設等の職員数を、そこまで減らそうと考える経営者や管理者は、どれほどいるのだろうか。僕は、社会福祉法人の総合施設長として、100人定員の既存型多床室もある特別養護老人ホームを経営していたが、配置基準の3:1ではシフトが回せないと考えていたため、実際の職員配置数は、対利用者比2:1まで介護職員を増やしていた。何故基準配置でシフトが回せないのか・・・、それは実際の職場では、従業員に有給休暇を与える必要があり、僕は法人内でその消化率を、8割以上に保つことが健全な職場と考えていたためである。

このことを理解しやすくするために、仮に職員配置が、利用者比4:1になったとして、基準人数ぎりぎりしか職員配置しなかった場合の、特別養護老人ホームの介護職員の配置状況と、業務をシュミレーションしてみよう。

看護・介護職員数が、対利用者比4:1とした場合、前年度の平均利用者数50人の特別養護老人ホームで、必要な看護・介護職員数が12.5人となる。わかりやすいように13人と考えてみよう。このうち看護職員が最低2名必要だから、介護職員は11名ということになる。11名のうち必ず夜勤者が2名必要となる。よって夜勤明けが2名ということも必然だ。通常のシフトでは、夜勤明けの翌日が公休となるのだから公休者も2名となる。よってこの6名を除いて、日中の勤務は5名で回さなければならないということだ。しかし、週休2日を基準としている事業者が多い現状で、4週8休を実現するためには、「夜勤〜明け〜公休」というシフトを回し続けては、その平均勤務時間を超えてしまうことになる。シフトの中で、「夜勤〜明け〜公休〜公休」などという調整が必要になるのだ。つまり日勤時間帯を残りの職員でカバーする必要があり、日によってはその人数が、3名以下になることもあるのだ。ユニット型特別養護老人ホームだと、日中すべてのユニットに、1名以上の配置が必要だが、その基準を満たせない日が生じる恐れがある。

そのように考えた場合、50人の利用者に対し夜勤以外の日勤時間帯を、3名〜5名で永遠とシフトを回し続けることが、果たして可能と言えるだろうか・・・。
(※夜間帯は22:00〜翌5:00を含めた連続した16時間という定めがあるため、日勤帯は8時間であるが、3名〜5名でカバーする時間帯とは、夜勤帯のうち早出や遅出がカバーする時間も含まれるため、実際には10時間〜12時間程度と想定できる。)

そのような勤務体制が、ICTやAIロボット等を活用した介護DXを実現して、可能となるのだろうか・・・。見守りセンサーが、いくら優れた性能となっていると言っても、見守りセンサーは、異常を知らせるだけであり、そこに掛けつけて利用者対応するロボットは存在しない。日中のルーティンワークをこなしながら、食事・移動・入浴と言った必要なADL介護を行いつつ、たった3人以下の職員で、50人の利用者対応がどれだけできるのだろう。

僕は、とてもではないが、そんなシフトは続けられないと思う。ましてや、そのシフトの中で、有給休暇を取得するのはかなり困難で、休みを取るたびに、他の職員から白い眼で見られかねない。そんな職場環境で、健全に働き続けられる人がどれだけいるのだろう・・・。

そういう意味では、看護・介護職員数が対利用者比4:1とするモデル事業においては、看護・介護職員の有給取得率の低下が、起きないかも検証すべきであると思う。それがないなら、「配置基準緩和は可能」という結論が出されたとしても、それは配置基準緩和ありきといったトップの意向に忖度した結果としか言えないのである。

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