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第141回 家庭的・アットホームという理念は昭和の遺物

2024/01/15

介護保険施設や居住系施設は、何らかの理由で自宅での暮らしが不自由となった方が、住み替えの場所として選択する新たな居所である。しかし、そのような住み替えは、決して軽い気持ちでできるものではない。

人生の晩年期を迎えた人が、住み慣れた自宅を離れ、住み替えようとするには、相当の覚悟と決意が必要だろうと想像できるのである。住み替えようと決意する人には、それだけ切羽詰まった事情があると同時に、住み替えによって、それまでより良い暮らしを手にすることができると、期待しているのではないだろうか。

だからこそ、住み替え場所として選択される場所で働く関係者は、その期待に沿うことができるスキルを備えて、サービスを提供しなければならない。それがプロとして、他者に関わる者の矜持(きょうじ)ではないかと思う。そうしたプロの矜持をもって、仕事に従事することが、私たちの社会的使命といえるし、その使命を果たすことが、自分の職業に誇りを持つことができることに、繋がるのではないだろうか。

私たち人間は、人生を過ごす大部分の時間を、仕事をする時間に費やすのだから、自分の就く職業に対し、そうした使命と誇りを抱くことができることこそ、人生を豊かにすることではないかと思う。だからこそ自分が働く職場が、どのような理念を掲げているのかは重要なことである。

理念とは、「このようにあるべき」という根本となる考えを意味するものであり、介護事業者の理念は、何のために介護事業者が、存在しているのかという根本を司るものである。

その理念が、「家庭的〜」とか「アットホーム」であるとしたら情けないと思う。それは素人の発想であり、昭和の遺物でしかない、古く拙(つたな)い考え方といってよい。

介護施設は、家族のように遠慮ない関係で、馴れ馴れしく接して、サービス提供する場所ではないのである。そこでは介護支援のプロとして、適切な知識と確かな技術をもって、利用者に向かい合うことが、求められているのだから、それにふさわしい、パフォーマンスにつながる理念を掲げてほしい。

そうした理念を達成する方法論を持つことで、介護保険施設や居住系施設は、利用者にとって、どこよりも安全で安心した暮らしの場となるのである。そうした場とするための理念が、きちんと掲げられているだろうか・・・。

しかし、未だに介護施設の理念の中には、家庭的とかアットホームという言葉が目に付く。そのような、くだらない理念を掲げているから、理念は形骸化するし、家庭的という言葉に胡坐をかいて、無礼で馴れ馴れしい利用者対応が横行するのだ。そしてその先には、利用者の人権を無視した不適切対応〜虐待に、繋がっていくのである。その結果、利用者への暴力行為で職員が逮捕というニュースが、11月だけで何件も報道されている。

例えば、僕が管理する情報掲示板には、特別養護老人ホームの職員と思しき人から、「家族から職員への差し入れ品を、SNSに画像アップしているが、あまり豪華な品物だと、他の家族も豪華なものを、差し入れないとならないと思うのではないか」という意見が書き込まれている。
これもひどく拙い発想だ。差し入れ物品を、SNSで投稿するか否かとか、品物が高価なものであるか否かではなく、誰かひとりであっても、家族から差し入れ品を受け取ってしまえば、他の人も差し入れしなければならないと思うのが普通である。差し入れ品を安易に受け取ってしまうことを、疑問視する意識がなければならない。こんな書き込みを見て、日本の介護事業とは、なんと民度が低いのだろうと思う人も出てくるだろう。

対人援助のプロとして求められる理念を掲げて、その理念の達成に向かう目標を持たない限り、そうした見方に反論できなくなってしまう。そうであってはならないのだ。なぜならそんな職業であるとしたら、有能な人材がますます介護という職業を見放して、人材不足に拍車をかけかねないからである。そうならないようにするためには、対人援助は、「人権」を護ることが何よりも重要であり、そのことを実現できる形骸化しない理念を掲げてほしいと思う。

例えば、「対人援助のプロとしての知識と技術を備えた支援者により、お客様一人一人に安心で豊かな暮らしを提供します」といった理念はどうだろう・・・どちらにしても、対人援助のプロとしての矜持を持つことができる、理念づくりをしていかないと、理念という名のお飾りができて終わりということに、なりかねないだろうか。

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