HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第146回 医療職と介護職のタスク・シフト/シェア議論について
2024/07/22
政府の「規制改革推進会議」による今年度の答申が5/31岸田文雄首相へ提出された。
この62頁に、「医療職・介護職間のタスク・シフト/シェア等」という考え方が示されている。タスク・シフト/シェアとは、一定の業務を他者に移管する、あるいは共同実施することであり、医療職と介護職のタスク・シフト/シェアとは、医師や看護職員にしか行えなかった業務の一部を、介護職員に分担する仕組みを指す。
答申の62頁〜64頁では、「急速な高齢者人口の増加に伴い、ケアを必要とする利用者も含め、利用者が増加する一方、医療・介護人材の不足・偏在に現場が直面しており、現場の問題解決・課題解決のために、必要な制度整備を行うのみならず、実際に現場の問題解決・課題解決がなされることが、喫緊の課題である。」としたうえ、医療職・介護職間のタスク・シフト/シェアを更に推進し、安全性を確保しつつ、利用者本位のサービスを実現するための措置として、「医行為ではないと考えられる範囲を、更に整理する。」としている。
更に、介護職員の行うことができない医行為について、以下のような改革案が示されている。
『介護現場で実施されることが多いと考えられる行為のうち、医行為に該当すると考えられるものであっても、例えば、介護職員が、利用者本人との介護サービス契約や、利用者同意を前提に、当該行為を実施するとともに、目的の正当性、手段の相当性、必要性・緊急性等が認められる場合には、実質的違法性阻却が、認められる可能性があるのではないかとの指摘を踏まえ、一定の要件の下、介護職員が、実施可能と考えられる行為の明確化について、その可否を含めて検討し、結論を得る。
その上で、厚生労働省は、介護職員が、実施可能とする行為があるとの結論を得た場合には、一定の要件の下、介護職員が、実施可能とする行為の実現のために、必要な法令及び研修体系等について検討し、結論を得次第、速やかに必要な措置を講ずる。』
違法性阻却とは、『ある行為が、外形的には犯罪や不法行為になるように見えても、法律上その行為を正当とする理由があるため、違法性がなくなり、犯罪や不法行為とならないこと。正当防衛や医師の手術行為などに適用。(デジタル大辞泉 より引用)』であり、行って構わないという意味になる。
喀痰吸引や経管栄養(胃ろう・腸ろうなど)については、介護職員が研修等を受講して、「認定特定行為業務従事者」となること等で、可能な行為になるわけであるが、それはあまりに狭い範囲の行為である。(※ちなみに喀痰吸引などが、認定特定行為とされる以前は、一定の研修を受けた介護職員が、これらの行為を違法性阻却として、実施することが認められていた)
超高齢社会が進行する現代社会では、医療器具をつけ、毎日何らかの医行為を、必要とする人が増え続けている。その為、そうした行為に、対応する人材を増やしていくことが、社会全体のニーズであるが、認定特定行為という形でしか、対応が許されていないことが、時代のニーズに合致していないともいえるわけである。
特に問題となっているのが、インスリン注射である。在宅生活を送る人の中には、自分で注射ができない、認知症の人も居られる。高齢者夫婦世帯で、夫がそうした状態となっている人に対し、手の震えがある高齢の妻が、インスリン注射をしているケースもある。ところがその夫が、いざ特養に入所しようとしたときに、家族ではない介護職員には、インスリン注射を行うことは許されていないとして、看護職員が対応できない施設に、入所を拒まれるというケースがある。妻からしてみれば、手の震えがある自分が行っている行為を、なぜ介護の専門職ができないのかと、憤りをぬぐえないのも、当然と言えるのではないだろうか。
それは行き場のない介護難民を、生む元凶ともいえる問題である。それらを解決するために、今回の答申は意味があるし、その実現に向けてスピード感をもって、取り組んでほしいと思う。そういう意味では、違法性阻却であろうと、利用者との契約や同意など一定の条件のもとであろうと、どのような形でも良いから、インスリン注射を、介護職員が行ってよいとする改革を急いでほしい。
インスリンが注射ではなく、経口摂取できるならば問題ないのだろうが、近い将来そうなる見込みもないのだから、早急に改革してほしいと切に願うものである。