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第149回 市町村の度を超えた適正化事業が介護難民を生み出している

2024/10/21

居宅介護支援事業所の介護支援専門員(以下、居宅ケアマネと略す)が居宅サービス計画書を作成する際に行うアセスメントとは、利用者が必要とするサービスを客観的に導き出すために行われるものだ。つまりアセスメントとは、居宅サービス計画書に載せられる、利用するサービスの必要性の根拠となり得るものである。本来、その根拠を否定できる何ものも存在しないはずである。

しかし、その根拠を真っ向から否定するかのように、市町村ごとにケアプランチェック(適正化事業)が行われている。そこでは利用者の状態像からは、不必要と思われる過剰サービスをあぶり出して、居宅サービス計画の不適切さを指摘され、適正化という名のもとに、計画の修正が強要される・・・。しかし、それらの指摘を受けたプランは、本当に不適切で過剰なサービスなのだろうか。

利用者が希望しないのに、居宅ケアマネの所属法人のサービスを、過剰に提供していることが明らかなケース・・・機械的に区分支給限度額いっぱいまで、サービスを組み入れるプランなどは、不適切と指摘されても仕方がないが、利用者が望んだために組み込んだサービスはどうだろうか・・・。それをニーズではなく単なるデマンドであると決めつけて、削り取る権利が保険者にあるのだろうか。介護保険料を支払い、利用者一部負担金を支払っている利用者に対し、区分支給限度額内のサービス利用を、放棄させる法的根拠はどこにあるのだろうか・・・。

そもそもケアプランの内容に関係なく、保険者が勝手に制限ルールを決めて当てはめている事例もある。例えば、ある地域では居宅介護支援事業所に対し、「週3回の入浴(デイケアで週2回、訪問介護で週1回)は正しい給付でない・本人が希望するだけではダメ・どうしても週3回必要な理由は何か示す必要がある」という運営指導を堂々と行っている。この指導は介護保険施設の入浴支援の基準が、週2回以上とされていることに根拠が置かれているそうだ。しかし、週2回を超えて入浴支援を行ってはならないわけではない。週2回というのは、あくまで最低基準であり、それを下回ってはならないという基準だ・・・しかもそれは、1963年に老人福祉法が制定された当時からの古い基準を、引き継いでいるにしか過ぎず、現在の世相や生活習慣とは異なる中で、規定された大昔の基準である。一般家庭に内風呂がなかった時代は、週2回程度の入浴習慣しかなかった人も、少なくないのかもしれないが、現代社会で、週2回しか入浴していない人は極めて少ない。高齢者の多くも毎日あるいは、隔日ごとに入浴している人が多いのである。そうであるにも関わらず、要介護者の入浴支援プランを、週2回が基準であるというのは、要介護者に対する差別でしかない。

利用者の身体状況や生活習慣を無視した、こうした根拠のない制限がローカルルールとしてまかり通っているのも、ケアプランチェックを通して、権力をふるうことに酔った輩が生まれる結果だろう。江戸時代の「お代官様」になった気分の役人が、そこかしこに存在しているのだ。

居宅ケアマネが、こうした度を超えた制限ルールに対抗する手段は、たった一つしかない。それはそうした制限を行っている市町村ではない、他の市町村の居宅介護支援事業所に転職することである。

だがこうしてケアマネの転出が相次ぐ市町村では、ケアマネ不足も深刻化し、居宅サービス計画を立ててくれるケアマネが見つからない、「ケアマネ難民」が生まれるだろう。この場合、セルフプランの作成が不可能な住民に対しては、市町村が変わって、居宅サービス計画を立てなければならないことを、保険者は理解しているのだろうか・・・そしてそういう能力や余力が、保険者にあるのだろうか。だがそれも保険者の自己責任である。

どちらにしても、制限ルールに辟易(へきえき)している居宅ケアマネは、機会があるならば、制限のない他市町村の所属事業所に転職することもありだ。そうした決断をためらう必要はないだろう。

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