HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第150回 メンタルヘルス不調の兆候を見逃さず、うつ病を予防しよう
2024/12/09
僕が9年前まで総合施設長を務めていた社会福祉法人は、母体が精神科医療機関であった。大学を卒業して、特別養護老人ホームの生活指導員として採用された僕は、母体の医療相談室で相談援助職としての訓練を受けて、特別養護老人ホームでの利用者対応に臨んだ。辞令を受けた後は、たった一人で、特別養護老人ホームでの相談援助業務を担ったわけだが、新卒の時点で利用者対応がすべて完璧にこなせるわけがないので、折に触れ、機を見ながら、医療相談室に足を運んで先輩のPSWから指導を受けていた。(※母体の医療法人相談室には当時、なぜかMSWがおらずPSWのみの配置だった。)
当然そうなると、医療機関での相談援助実務の場にも、臨場することが多くなる。そこではアルコール中毒の方や、統合失調症の方などが、多く入院していたわけであるが、うつ病患者の方とも数多く相対した。それらの方々が、うつになった原因は、仕事上の様々な問題であることが見てとれ、必然的に仕事盛りの壮年期の人が多かった。40年以上前のことであり、セクハラという言葉は存在していたが、今のようにパワハラとか、モラハラという言葉は、一般的ではなかった。それもあって、職場で上司からパワハラを受けて、うつ病になる人は非常に多かった印象がある。
よく介護の仕事は、ストレスが多いと云われるが、精神科病棟でうつ病の人を見ると、介護関連の職種だった人は意外に少ない。むしろ売り上げノルマのあるセールスマン・・・特に中間管理職として、上からも下からもプレッシャーを受ける人が、うつ病の発症リスクが高いように思えた。
うつ病は、真面目な人や責任感強い人が、発症しやすいとか、メンタルが異常に強い人は、うつ病とは無縁だとか言われることがある・・・しかし、それはすべて嘘・大間違いである。うつ病は、どのような性格の人でも発症するし、メンタルが強いと思われていた人でも、何かのきっかけで、うつ病になるのである。うつ病にならない鉄板メンタルは、存在しないのである。
うつ病の恐ろしさは、治癒率の低さと、再発率の高さである。うつ病をいったん発症した場合、2/3の患者が、寛解(※完治はしていないが症状がなくなった状態)までもっていくことができる。しかし、そのうち半分以上が再発するという怖い病気だ。だからこそ、うつ病にならないように、メンタルヘルスケアを心掛ける必要がある。我が国では法改正されて、その責任は、職場・経営者にあるとされているのだから、管理職は、しっかりと部下のメンタルヘルス管理をしなければならない。
メンタルヘルス不調につながるストレスに対しては、自分の気持ちや、感情を誰かに聞いてもらうなどして、相談することで気持ちの整理をすることが、有効に作用する。しかし、日本人はどちらかというと、ネガティブな感情を誰にも言わず、自分の中に溜め込んでしまう感情抑圧型の人が多いように思う。だからこそ管理職・上司は、部下と日ごろから良好なコミュニケーションを、交わせる関係性を築き、部下の表情が乏しくなる・ため息が多くなる・遅刻が増えるなどの状態変化に気づき、相談を受けるように、積極的に話しかけてほしい。業務上のミスが続いたときは、既に入院が必要な赤信号だ。そうなる前に対処することで、深刻な状態に陥らずに、済むかもしれないのだ。
うつ病の発症前に、本人は自分が少しおかしな状態である事に、気が付いているケースが多い。だからこそ、「大丈夫。問題ない」が口癖になる人が多い。そういう言葉を、頻繁に口に出すようになった部下は、一旦休ませるなどの対応が必要であることを、管理職の方々は、日ごろから理解しておいてほしい。
くれぐれも、うつ病は、本人の気持ち次第だとか、性格上の問題だとか言う勘違いを、しないでいただきたい。メンタルヘルス不調に陥る要因は様々であり、それは本人ではどうしようもない問題であり、避けようとしても、避けられないうちに、深い沼にはまっているのが特徴なのだ。それを救うのは、周囲の理解と深い愛情しかないのである。