HOME > U+(ユープラス) > masaの介護・福祉よもやま話 > 第155回 規制緩和が何より求められる訪問介護
2025/06/09
4月16日に公表された東京商工リサーチの最新レポートによると、昨年度(2024年4月から2025年3月)の訪問介護の倒産は86件。前年度から21.1%増加し、過去最多を大幅に更新した。昨年度の介護事業者の倒産は全体で179件、訪問介護はその約半数を占めている。
この数字は、2024年度の報酬改定でマイナス改定となった訪問介護の経営の厳しさが、浮き彫りになっているものであり、ある意味当然と言える結果である。マイナス改定とされた理由は、2022年度決算の介護経営実態調査で、訪問介護の収益率が高かったからだというが、そもそも、その調査対象はどのように選択されているのかが大いに疑問だ。全国展開している大手事業者は、それなりの収益率を上げているが、中山間地などの過疎地域の住民に目を向けて、そこにサービスを行き届けるために、頑張っている小規模事業者の収支差率は、もともと厳しい状況にある。
そうした事業者が、物価高と人件費高騰の波をもろにかぶって、経営困難になることは容易に予測できたのに、それらの小規模事業者を切り捨てるような報酬改定が、2024年度に行われたのである。その為に、収益が悪化して経営に行き詰まる訪問介護事業者が増えている。特に小規模の訪問介護事業者は、荒波に呑み込まれているというわけだ。
だがこの状況を、手をこまねいて見つめているだけだと、訪問介護事業そのものが枯渇しかねない。特に高齢者人口がピークに達して減っていく、「中山間・人口減少地域」からは、コスパを考慮すると、営業を躊躇する事業者も少なくなくなり、訪問介護事業者が撤退・廃業して、訪問介護真空地帯となりかねない。よって期中改定を含めて、訪問介護費(基本サービス費)の引き上げが不可欠ではないかと考える。
だが国は、その部分は非常に腰が重たい。将来に渡って財源が枯渇しないようにするには、介護給付費の縮小が必要であるとして、訪問介護費自体の引き上げには及び腰だ。そのかわり地域におけるサービスを確保し、複雑化したニーズに対応するためには、協働化・大規模化等による経営改善が必要だとして、例えば中小の事業者合併ではなく、事業所同士の連携(※バックオフィスの共同化やアウトソーシング等)に対する補助事業を強化するなどを模索している。
さらに、5月2日付で介護保険最新情報のVol.1382を発出し、既存の「中山間地域等における小規模事業所加算(所定単位数の10%)」の要件を弾力化して、加算の要件として設けている訪問回数の基準を緩和し、さらにこれまでは、地域区分が「その他」の事業所のみを対象としてきたが、過疎地や辺地、豪雪地などであれば、他の地域区分の事業所でも算定できるように見直したうえで、5月の算定分から適用するとした。
これは歓迎できる要件緩和ではあるが、それだけで訪問介護事業の存続が、保障されるわけではない。何よりもヘルパーの成り手の確保が問題であり、ここに大きなメスを入れなければ、根本問題は解決しないからだ。
このことに関連して、淑徳大学の結城康博教授は、「介護保険制度が導入される前は、多くの自治体で公務員ヘルパーが活躍していた。」・「公務員ヘルパーの再興が不可欠」・「若い人材が公務員ヘルパーとして、地域に根ざして働けるようになれば、地方創生という観点からも大きな意味を持つ」と提言する。
しかし、介護保険制度創設以前と比較すると、訪問介護利用者は、大幅に増えているのだ。それに対応して、自治体職員の身分を与えたヘルパーで対応するとしても、地方自治体にその財源があるのかという問題がある。多くの地方自治体は、財政難に苦慮している状況を鑑みると、自治体が責任を持ってヘルパーを確保するにしても、訪問介護事業が成り立つ報酬設定が絶対に必要なのだ。訪問介護費の引き上げを視野に入れてほしい。
それと共に、中山間・人口減少地域などの利用者に、くまなくサービス提供できるように、小規模事業者に対する規制緩和が必要不可欠だ。
介護保険サービスのうち、介護職員に資格(※初任者件数受講などのヘルパー要件)を、求めているのは訪問介護だけである。小規模多機能居宅サービスの訪問サービスは、ほぼ訪問介護と同じサービスなのに資格要件はない。そうであれば思い切って、訪問介護も資格要件を外しても良いと思う。
同時に次の基準緩和も必要不可欠だ。
・指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準
第五条「指定訪問介護の事業を行う者ごとに置くべき訪問介護員等の員数は、常勤換算方法で、二・五以上とする」
必ず2.5人以上の訪問介護員を確保していないと、訪問介護事業の指定を受けることができない規定が、訪問介護事業の立ち上げの足かせになっていると同時に、人材不足が加速化する現状で、2.5人の訪問介護員確保が、難しくなったことが原因で、事業廃止しなければならない事業者も多い。逆に言えば、この規定がなければ、事業廃止せずに、2.5人未満の訪問介護員で、事業を継続できる訪問介護事業者もあるのだ。
このように、ヘルパー資格の廃止と、最低配置基準2.5人の見直しを進めることは、訪問介護事業の絶滅を防ぐ、最低限の措置ではないかと考える。