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コラム

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心の耳で聴くユニバーサル社会へ

執筆者:松森 果林
神奈川工科大学福祉システム工学科ユニバーサルデザイン非常勤講師、共用品ネット会員
株式会社ピクセン商品企画顧問として、香りを使ったユニバーサルデザインの開発に取り組む。E&Cプロジェクトでの内田洋行商品企画部メンバーとの出会いをきっかけに、製品へのアドバイスなどもいただく。
著書『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、芳賀優子さんとの共著『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(小学館)など

コミュニケーションを探して

筑波技術短期大学というところ

大学では驚きの連続でした。入学式では、学長が流暢な手話と共にスピーチし、ステージ正面のスクリーンには、タイムリーな字幕表示、学長の手元と口元の2つの画面が大きく映し出されていました。遠くにいる人にでも手話と読唇ができるようにするためです。学内放送は100台以上のモニターが文字情報を流していましたし、授業の開始や終了の合図はフラッシュランプで知らせます。授業はホワイトボードやOHP、パソコン等で最新技術を使って分かりやすく講義。お互いの顔が見えるよう三角の机を輪にして並べるコミュニケーションデスクもありました。「伝え合う」工夫が至る所に凝らされ、どんな人がいても柔軟に勉強できる環境は素晴らしいと思いました。

聞こえない人たちのコミュニケーション

何より驚いたのは学生たちのおしゃべり。キャンパスではいたるところで手が動き、顔の表情豊かに会話が交わされています。あれほど私が苦労していたコミュニケーションがここでは自由にとれているのです。
手話を少ししか知らない私はいつもスケッチブックを持ち歩き、手話がわからない時は筆談をしました。皆、筆談にも慣れているため面倒くさがったりすることもなく書きながらその手話表現を覚えました。
手話や指文字、身ぶりや顔の表情、読唇など身体の全てを使って表現する、聞こえない世界の人々は、ある種コミュニケーションのプロとも言えるかもしれません。部屋にいる人を呼ぶときには電気をチカチカと点けたり消したり。離れたところにいる人を呼ぶ時には、呼んでも聞こえないのでタオルや靴下を投げたり、机をバンバン叩いたり。伝えるためにはあらゆる手段を使ってコミュニケーションをとる人たち。聞こえる世界と聞こえない世界を知り、私はコミュニケーションに対してどんどん柔軟になっていきました。

自分からメッセージを発しなければ何も変わらない

今では私は手話や筆談で会話することができますし、分からないことはトコトン聞き返すこともできます。それは私が自分から声を出してメッセージを発しなければ何も変わらないと気づいたからです。外見で分からない聴覚障害者は、自分から歩み寄らなければ何も変わらない。コミュニケーションがこんなにも大切なことだったなんて、聞こえていた頃には気づいていませんでした。聞こえなくなってからの私は、どうすれば思いを伝え合うことができるのか、いつもそのことを考えるようになったような気がします。

松森さんが現在使われているペンとクリーナーがセットされた携帯用の「筆談機」

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