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ユニバーサルデザインが描く未来

執筆者:鴨志田 厚子
鴨志田デザイン事務所代表、静岡文化芸術大学デザイン学部教授
東京芸術大学卒業後、静岡県工業試験場意匠課を経てデザイナーとして独立。理論だけではなく、実際の製品デザインやフィッティングデザインでユニバーサルデザインを実践。
外部デザイナーの先駆者として、内田洋行の商品を数十点デザインし、ユニバーサルデザイン基準設定を監修。

複雑化する社会と人間をつなぐデザイン

物理的なバリアをなくしても精神的なバリアができることも

ユニバーサルデザインというのは、実はめだたないもの、さりげないものであることが理想だと私は考えています。この「さりげなく」というのがなかなか難しい。例えば、障害者がにぎりやすいように開発された、形状記憶の素材でできたスプーン。手の形に合わせて柔軟に変化するものの、デザインが洗練されるところまでいっていない感じがして、少し残念です。バリアフリーを意識しすぎると「いかにも」の製品ができあがってしまい、逆にバリアを感じてしまいます。物理的な側面だけでバリアをなくすと精神的なバリアができることがあるものです。

80%の優しさと20%の自助努力

モノをつくる側からすると、ユニバーサルデザインにとりくむのは難しいのではないか?と考えてしまうことが多いようです。でも、ユーザーにとって100%使いやすいモノを作るということは、不可能にちかいと私は思います。目標は80%くらい、あとの20%は使う側の自助努力で補う。人には学習能力があります。最初ちょっと使いにくいなと思っていても、慣れてくることで使いやすくなってくるものです。新しい機器など、自分の努力で使いこなせるようになったという嬉しさもある。また、わかりやすい取扱い説明書が添えられていることで解決することもある。ハードルを低くすることで、モノづくりにも着手しやすくなるのではないかと思っています。

ユニバーサルデザインに取り組む企業

日本でユニバーサルデザインに積極的に取り組む企業は、まだまだ少ないと思います。けれども、まもなくユニバーサルデザインが当たり前の時代が来ます。家電メーカー各社は、高齢者にも使いやすいラジオを開発しています。年をとると高い音が聞き取りにくくなるものですが、聞きやすい低音にもなり、操作ボタンが大きく、表示も見やすい、そういうラジオです。開発した製品は、使って評価することが大切です。一見の評価だけでは、本当に良い商品は育ちませんから、充分な評価、それもユーザーの評価を受けとめていく事が重要です。
自動車メーカーも、人に優しいことを打ち出したファミリーカーを売り始めました。「乗る人すべてに、使いやすく」ということで、乗り降りがしやすく、運転しやすい工夫もされています。障害者や高齢者だけでなく、介助者にも配慮されています。世代や個人差を超えた交流を可能にするモノやサービスが、これからどんどん登場し注目される時代になるのではないでしょうか。

デジタル時代こそ人間対応のモノづくりが必要

デジタル時代などと言いますが、しょせん人間はアナログなもの。アナログがわかっていなければデジタル化もできません。デザインもパソコンで描くようになりましたが、パソコンが考えてくれるわけではありません。アナログでイメージできなければ、デジタルに置き換えることはできませんから。
私は静岡文化芸術大学でデザインを教えるとき、ユニバーサルデザインの基礎としてフィッティングデザインを重視しています。人間の体の寸法・動き・力や好みを知り、その体の部分に美しくフィットするのはどんな形でどんなサイズなのかを研究する学問です。人間の体や心のあり様をふまえたうえで、デザインに取り組む必要が今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
ユーザーインターフェイスとも言いますが、人間中心のモノづくりに帰ることがユニバーサルデザインの根本にはあると思います。逆にいえば、いままで人間中心のモノづくり、環境づくりをしてこなかったといえます。高齢社会の中で、高度情報化、デジタル化はこれからもどんどん進んでいくでしょう。その進化とユーザーをつなぐことが、ユニバーサルデザインの役目だと考えています。

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