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コラム

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心の耳で聴くユニバーサル社会へ

執筆者:松森 果林
神奈川工科大学福祉システム工学科ユニバーサルデザイン非常勤講師、共用品ネット会員
株式会社ピクセン商品企画顧問として、香りを使ったユニバーサルデザインの開発に取り組む。E&Cプロジェクトでの内田洋行商品企画部メンバーとの出会いをきっかけに、製品へのアドバイスなどもいただく。
著書『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、芳賀優子さんとの共著『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(小学館)など

香りとユニバーサルデザイン

星の音

「こんなにたくさんの星が出ていたら、きっとうるさいんだろうね」。満天の星空を見上げ、遊びに来ていた6歳の少女がたどたどしい手話で私に言いました。「きらきらきら」「ぴかぴかぴか」。絵本やマンガで読んだ擬態語が実際にある音と思ったのでしょう。生まれたときから耳の聞こえない少女の素朴な疑問でした。

聴覚という一つの感覚を失うと、自然と他の知覚が研ぎ澄まされていきます。初恋の人がつけていたマンダリンの香りは、いまだに過去を一瞬にしてよみがえらせます。学生時代には香水を片っ端から集め、2001年には香りの専門学校に入って香水のブレンドも勉強。その時創ったのが「Listeningリスニング〜星の音〜」というジャスミンの香りをベースにした香水です。以下はコンペの時に発表したコンセプトの抜粋です。

Listening リスニング 〜星の音〜

聞くということを考える時、人は自然と耳のことを思うでしょう。
〈リスニング〉とは、心の耳で聴くこと。ただ単に聞くだけの〈ヒアリング〉とは違うものである。すなわち自分から何かに気づき、メッセージを受け取ろうとうすること。
私を取り囲む静寂の世界でも〈聴くこと〉によってより豊かなものになる。
目に見えぬ香りもまた同じである。
眠っていた五感を目覚めさせる香り〜Listening〜。

見上げると今にも降り出しそうな満天の星空。
「カシャカシャカシャ……」
「シャラシャラシャラ……」
線香花火の様に耳にくすぐったい感じの音が聴こえるような気がする。
流星がロケット花火の様に「ヒュ―――!」と音をたてて海に落ちる。
星の光の強さや、色によっても音の感じがちがうのではないか。
星座がゆっくりとかたむく様子を見ていると、
宇宙からのメッセージを受け取っているように、心地よい気分となる。

視覚障害者も聴覚障害者も、香りなら同じ体験を共有できる

香りへの興味が導いたのか、2002年、香りを化学・電子技術によって商品化する企業(株)ピクセンと出会い、商品企画のお手伝いをさせていただくようになりました。基本的には在宅勤務、メールで連絡を取り合い打合せの時に出社し、聞こえない人の立場から商品企画を出したりアドバイスをしたりしています。
ピクセンでは、着信すると香りを放つ携帯電話や携帯ストラップ、香りで目を覚まさせる目覚まし時計、オフィス空間で香りによってストレスコントロールをする装置などの開発に取り組んでいます。レモンやローズの香りで目覚めるなんて素敵でしょ。携帯ストラップの香りにはチョコレートの香りや焼肉の香りなんていうのもあります。視覚障害者も聴覚障害者も、そして一般の人たちも、香りなら同じように感じ取り、同じ体験を共有することができる。そんな可能性にとても心ひかれます。

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