HOME > 情報システム分野 > IT レポート > サッポログループが考える2024年問題を見込んだロジスティクス戦略の策定と、それを支える人財の育成とは
 

【UCHIDA ビジネスITフェア 2023】 サッポログループが考える2024年問題を見込んだロジスティクス戦略の策定と、それを支える人財の育成とは

2023/12/15 [物流,食品,セミナーレポート]

2024年問題が眼前の大きな問題となっていますが、物流の労働環境問題は今に始まったことではありません。今後、さらに深刻になる労働力不足に対応し、持続可能なロジスティクス体制を実現するには、物流の根本的な見直しが必要です。未来に向けて、企業はどのような改革を行っていけば良いのでしょうか。行政の動き、各社の実践事例、そしてサッポログループ様のロジスティクス戦略策定と、それを支える人財育成についてご紹介いただきます。

サッポログループ物流株式会社
ロジスティクスソリューション部 部長
井上 剛 氏

国立大学法人 東京海洋大学
学術研究院 流通情報工学部門 教授
黒川 久幸 氏

物流2024年問題とは? [東京海洋大学 黒川 久幸 氏]

まず、「物流2024年問題」について簡単に説明したいと思います。
生産者から消費者までのサプライチェーンを描くと、その過程において物が何度も運ばれていくのがわかります。この物流における輸送手段には、トラックや船、鉄道などいくつもありますが、日本の国内輸送の90%以上をトラックが担っています。しかも遠くまで運んでいて、1,000kmを超える輸送においても、20%以上がトラックによるものです。このような現状のため、日本の物流の根幹を支えるトラック輸送の人材不足が、今大きな問題となっているわけです。

昨今、働き方改革が進められていて、法律も整備されつつあります。来年(2024年)4月からは、労働基準法において時間外労働が年960時間以内となります。また、トラック事業に対しては改善基準告示の改正もあり、 拘束時間についてもより厳しい制限がかかるようになります。しかし、現場の実態を見ると、この対応には厳しいものがあります。

トラック事業に対する改善基準告示は、

  • 1年の拘束時間……原則3,300時間(最大3,400時間)
  • 1カ月の拘束時間…原則284時間(最大310時間)
  • 1日の休息時間……継続11時間を基本とし、継続9時間

* 拘束時間=労働時間+休憩時間

一方、その実態は、全日本トラック協会の調べによると、

  • 時間外労働時間年960時間を超えるドライバーがいる事業者…29.1%
    引用)第5回働き方改革モニタリング調査〈2022年10月〉

また、厚生労働省の調べによると、

  • 1年の拘束時間3,300時間以上と回答した事業者……21.7%
    引用)自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果〈令和3年度〉

となっています。

既存のトラックドライバーだけでは、やがてすべての輸送ができなくなるでしょう。しかし、新たなトラックドライバーの確保は難しく、NX総合研究所は2030年度には最大で9.4億トン(34.1%)の貨物が運べなくなる恐れがあると指摘しています。

物流・ロジスティクス改善の取り組み [東京海洋大学 黒川 久幸 氏]

物流・ロジスティクスにかかわる改善事例をいくつか紹介します。
事例を分類すると、大きく3つに分けることができます。

① 一度にたくさん運ぶ
② 短い時間で運ぶ
③ 平準化して運ぶ

① 一度にたくさん運ぶ

同じ方面に運ぶ自社の荷物を積み合わせて車両の数を減らしたという事例や、同業他社が協力して物流の共同化を実現したという事例があります。

たとえば、アステラス製薬(株)、 武田薬品工業(株) 、武田テバファーマ(株) 、武田テバ薬品(株)は、共同で北海道共同物流センターを開設し、医療用医薬品安定供給体制を拡充しました。

これらの製薬会社は、研究・開発・営業と違い、物流は、競争する分野ではなく協力すべき分野であるという認識のもと、『医薬品の安定供給』という社会的責任を果たすため、企業の枠を超えて物流を共同化し、「一度にたくさん運ぶ」を実現しました。

その結果、以下のような効果を上げています。

荷役:コスト62%削減(入庫〈水・金曜日〉、出庫〈月・火・木曜日〉)
保管・荷捌き:コスト36%削減(メーカー間の隔壁排除、共通エリア化)
配送:コスト37%削減(受注・納品日の統一、送り状共通化など)

この事例は、2018年度(第35回)ロジスティクス大賞を受賞しています。

物流の共同化

今、いろいろな業種で物流の共同化が進められています。共同輸送を実現できれば輸送に必要な車両台数を減らすことが可能です。

ただ、近年は同業他社との共同輸送だけでなく、より大きな改善効果が期待できる異業種との共同輸送も進められています。たとえば、重量勝ちの荷物と容積勝ちの荷物を組み合わせることでより多くの荷物を、1台のトラックで一度にたくさん運べるようになります。

また、パレットへの荷物の積み方を変えたり、容器サイズを変更したりして、一度に積める荷物の量を増やした事例もあります。

② 短い時間で運ぶ

トラックの1日の稼働時間が12時間だとすると、そのうち輸送で使われる時間は6時間ほどしかありません。残りは、積み下ろしなどの順番を待つ「手待ち」や「荷役」などです。このような輸送にかかわらない時間を削減することが物流の改善につながります。

あるメーカーでは、対策として以下の3つを実施しました。

  • 予約受付システムの導入によって、トラックの到着時間の集中を緩和し、待ち時間を削減
  • 一貫パレチゼーション(工場用のパレットと流通センター用のパレットを共通化)の実施によって手積み、手卸しの時間を削減
  • ノー検品により、検品中の手待ち時間を削減

③ 平準化して運ぶ

物流において物量の変動(波動)は大きな課題となってきました。特に、消費者物流は曜日による波動がとても大きいのが特徴です。近年、この波動の予測精度をAIを使うことで高めることができ、商品を前もって小売店に送る(前送り)ことでトラック輸送の平準化を図るという取り組みが出てきています。

2016年度(第33回)のロジスティクス大賞 業務革新賞を受賞した花王(株)では、調達から販売に至るあらゆる計画に需要予測を用いた業務改善を実施しました。具体的な取組は以下のとおりです。

  • 2週間先の需要予測から出荷量の曜日波動やキャンペーンによる波動を予測
  • 商品の前送りを実施
  • 輸送用のトラック台数の平準化や荷姿のパレット化などを実現

その結果、以下のような効果が出ています。

  • 安定したトラック車両の確保と荷役作業の効率化、積載率の向上を実現
  • パレット輸送比率16%向上
  • 輸送時に使用するパレット枚数平均12枚削減
  • 輸送台数の変動(5〜20台 → 8台〜12台)
  • ピッキング生産性9.1%向上

さて、ここまで各社の取組を見てきましたが、サッポログループさんも物流2024年問題に対して意欲的に取り組んでいらっしゃいます。そして、いろいろな施策を打ち出されていますが、その全体像や具体的な内容について、井上さんからご紹介いただきたいと思います。

サッポログループの取り組み [サッポログループ物流株式会社 井上 剛 氏]

サッポログループは物流2024年問題に対して5年ほど前からさまざまな取り組みを行ってきました。その対応策を整理したものが次の図になります。大きな方針は、「大きく運ぶ」「距離を短く・回転良く運ぶ」「平準化して運ぶ」「生産性向上」の4つです。

具体的な取り組みをいくつか紹介します。
1つ目は、日清食品さんとの共同配送です。2022年3月から始めています。ビール製品は、容積に対する重さの割合が大きい「重量勝ち」の荷物であり、一方の即席麺は逆に重さの割合が小さい「容積勝ち」の荷物です。そこで、ビール製品の上の空間に日清食品さんの即席麺を積んで、積載効率を向上させました。また、ビールと即席麺では、オンピーク・オフピークの時期が逆で、季節波動の吸収ができるという効果も出ています。

こう説明すると簡単そうに聞こえるかもしれませんが、この共同配送の実現にはいろいろな苦労がありました。そもそも商習慣もパレットのサイズも違います。特に配送のシステムが違うので、担当者間のデータシェアリングにはとても苦労しました。また、出荷指示タイミングなどのオペレーションを統一化していくところでも、いろいろな交渉が必要でした。

こういった苦労を積み重ねながら「利益を分配しよう」という思いを一致させることで、異業種との共同配送の実現を図ってきました。私どもは、異業種の相手先は数多くあると思っています。2社だけでもこれだけの効果を出すことができるのですから、多くの方と接点を持ちながら、新たに何かできないかと考えています。

2つ目に紹介したいのは、ビール4社の連携によるパレットの共同回収です。
これはビールメーカー特有の問題かもしれませんが、 この業種には酒類飲料業界で共同利用しているビールパレットの回収という「静脈物流」が発生します。ビールメーカー4社が個別に回収をしていた際は、1つの卸店に対し各社それぞれトラック手配をするという非効率な状況となっていました。また、各社が我先にと卸店に出向いてパレットを根こそぎ回収することから、企業ごとのパレット保有数に偏りが生じてしまうという課題が生じていました。こうした適切な管理ができていない状況が遠因となり、回収ができないパレットが大量に出て、損失に影響を与えることになっていたのです。そこで、ビールメーカー4社で話し合う場を設けたところ、「これは無駄だ」となり、各社のパレットの数量を見える化してエリア別に回収を分担。大きな効果を得ることができました。

取り組みをもうひとつ紹介したいと思います。
物流2024年問題に対するど真ん中の対策の1つに「ASN(事前出荷情報)」があります。 メーカー側からあらかじめ品目、数量、納品先、鮮度などの情報を届け先に伝えることで荷下ろしの際に生じる作業を省力化し、届け先・ドライバー双方の検品時間ロスを短縮しました。また、ASN提供により優先的に荷降ろしをするバースを届け先に設けてもらうことで、ドライバーの待機時間削減の効果を生み出しています。

今後も、「ドライバーファースト」の観点で、トラックがスムーズにピットインして早くピットアウトできる仕組みを増やしていく工夫と努力を続けていきたいと考えています。また、対象エリアの拡大にも取り組んでいるところです。

今、私どもはメーカー物流として大きな変革に取り組んでいます。
物流拠点の再編です。これまでは拠点を少なくして遠いところまで運ぶようにしてきましたが、2024年問題を前にして「このやり方は続けられない」と認識し、消費者に近いところに拠点を分散的に設けて、短く運ぶという配送方法に切り変えていきました。ひとつのポイントは配送距離です。およそ150kmを上限にして拠点を構えるという戦略で、全国的な整備を進めています。

2022年4月、群馬県伊勢崎市に新たな物流拠点を設けました。ここに2種類の製品を置いて配送しています。以前はいろいろな工場から配送していましたが、現在はこの拠点で北関東や新潟、長野方面をカバーし、配送距離を約51パーセント短縮しました。

ロジスティクス業務における課題に対して、私どもはさまざまに取り組んできました。現時点から振り返ると次のようにまとめられるでしょう。次なる取り組みは、機械化や自動化です。業務標準化を基盤に、さらなる業務改革を進めたいと考えています。

物流における人財育成の現状 [東京海洋大学 黒川 久幸 氏]

このように問題の多いロジスティクスの現状について、改善あるいは改革していくには何が必要なのでしょうか。私は人財育成が重要ではないかと考えています。

人財育成については、政府も積極的に取り組んでいます。例えば、日本全体の物流の政策を決める「総合物流施策大綱(2017〜2020年度)」では、人を育て確保することの重要性が明記されています。また、直近の「総合物流施策大綱(2021〜2025年度)」においても、DXを進めるための「高度物流人材の育成・確保」が必要であると指摘されています。

公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会は物流現場の改善活動について実態調査をしていて、そのアンケート結果を見ると現場における人財育成の様子が見えてきます。

まず、「人材育成は誰に対して行われていますか」という問いには、物流現場のリーダーや責任者など現場にかかわる人たちが中心で、現場を管理する層も対象にしている企業は半数以下でした。

また、教育内容を問う項目では、物流現場の改善に直接かかわるものが多い一方で、ICTなどの先進技術の活用方法を教えている企業は1割ほどしかなく、データ分析で4割弱、現場の調査手法や科学的管理・分析も2割弱でした。さらに、現場改善が定着している企業を見ると、そのための教育予算を確保している傾向があるのですが、実際には多くの企業で教育予算が確保されていないのが現状です。

では、サッポログループさんはどのように人財育成に取り組まれているのでしょうか。

サッポログループの人財育成 [サッポログループ物流株式会社 井上 剛 氏]

ロジスティクスは経営そのものだと思います。しかし、5年ほど前、サッポログループ内で物流の理解者がどれぐらいいるのかと考えたとき、ほとんどいないと思いました。この状況を変えなくてはならない。そう思い、物流の知識があるメンバーやロジスティクスの協力者を育て増やそうと、「サッポロ・ロジスティクス☆人づくり大学」(ロジ大)の創設を強く訴えました。そして、2019年2月に開校することができました。

10年で300人の「物流伝道師」を育てたいという信念のもと、物流分野にかかわる者だけでなく、マーケティング部門や営業部門などにも呼びかけ、物流をしっかり知ることができる機会を広く設けてきました。

昨今、「バリューチェーン」という言葉をよく耳にするようになっていますが、これはロジスティクスが高度化していることも意味しています。以前は、問題があっても、現場力でなんとか解決できたり、時間とコストをかけてカバーしたりすることができましたが、それがもはやできなくなりました。物流にかかわる人財の力を高め、ロジスティクスの難題を解決できる人を輩出していかなければなりません。新たな学びの場が必要になっているのです。

ロジ大による人財育成の効果は少しずつ現れています。 例えば、ロジ大を修了した営業担当者は、自ら配送コストを考えて「SKU(最小管理単位)の削減」という提案を出し、ロジスティクスの現場を改善しようとしています。ロジ大で学ぶ者に対しても、提案するだけでなく、実際の行動に移していくところをポイントにしています。特に、ロジスティクス分野ではない人財の行動が重要になるだろうと感じているところです。

2023年現在、ロジ大は第5期を迎えています。第4期までの修了者は82名。さまざまな分野のメンバーを巻き込みたいと思っています。ロジ大を通してメンバーが増えれば、ロジスティクスの難題に取り組んで解決できることも多くなっていくはずです。例えば、修了生同士で配送にかかわる悩みを相談し合う中で、他社との共同配送の可能性を模索して実現に至ることもあるかもしれません。

人と情報をつなげることが難題の解決の糸口となり、そこから価値を生み出すことができる。私自身もそれをモットーにして、今後も活動していきたいと思っています。

2024年以降、ロジスティクスが経営に与えるインパクトがどれだけあるのかが見えてくるでしょう。今まさに、ロジスティクスの現場では「このままの体制ではもう運べない」という状況が起きようとしています。このリアルな現場をしっかり見て感じて、危機意識をグループ内で共通に認識して、持続可能なロジスティクスの体制を構築し、「変化をチャンスとして運びきる」ことで自らバリューチェーンの価値を上げていくことが求められているのです。

一社だけでは発展できない [東京海洋大学 黒川 久幸 氏]

サッポログループさんの取り組みで注目すべき点は、時代の変化を見据えて、いち早く変革に取り組んできたということです。その時代の変化とは何かと言えば、例えば需給バランスの変化や人々の価値観の変化、あるいは技術の革新など、いろいろな変化があるでしょう。

需給バランスについて一つ言えば、日本の人口は2008年の約1億2800万人をピークに、2011年以降はずっと減り続けています。技術革新について言えば、例えば生成AIや ChatGPT などが広く急速に浸透し始めているということがあります。このような変化は2024年で終わるわけではありません。将来にわたって続いていく問題なのです。

このような時代の変化の中で、今回ご紹介したサッポログループの戦略と、それを実現するための人財育成のあり方はとても参考になる事例でしょう。特に大事なメッセージの一つは「一社だけではできない」ということです。さまざまな関係者が一体となって取り組むことが必要であり、重要です。ここにいる皆さんも含めて、あらゆる関係者が協力して尽力することが日本の物流をさらに発展させることにつながっていくと私は考えています。

食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ

主な製品シリーズ

  • 文書自動配信サービス「AirRepo(エアレポ)」
  • 業種特化型基幹業務システム スーパーカクテルCore
  • 会議室予約・運用システム SMART ROOMS
  • 絆 高齢者介護システム
  • 絆 障がい者福祉システム あすなろ台帳

セミナーレポートやホワイトペーパーなど、IT・経営に関する旬な情報をお届けする [ ITレポート ] です。

PAGE TOP

COPYRIGHT(C) UCHIDA YOKO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.