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【食品ITフェア2024 オンライン】 FSSC22000(第6版)認証取得に向けた着目点
〜“監査の目”を踏まえた効率的スマートシステムへ〜

2024/4/3 [食品,セミナーレポート]

いよいよ4月以降のFSSC22000第6版による審査を控えている食品等事業者の経営者や品質管理責任者に向けて、審査員の視点から踏まえたシステマティックアプローチに焦点を当てて解説します。衛生管理と文書化を徹底し記録保持システムを大幅に強化したつもりなのに監査ではボロボロになるまで指摘される。その理由の多くは、計画が系統的(システマティック)でないことに由来します。最新版に加えられた要求事項に加え、今回はその現場への適用(文書化や記録システムの整備)、陥り易いわな(罠)、さらに食品安全文化(経営者の役割)へのシンプルな理解に焦点を置いて解説します。

株式会社鶏卵肉情報センター
代表取締役社長(月刊HACCP発行人)
杉浦 嘉彦 氏

審査員の視点

私は、『月刊HACCP』の発行人です。一般社団法人日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)専務理事でもあり、JHTCの各事業計画から運用、監督まで携わっています。

FSSC22000第6版が出ました。この4月から新しいFSSC22000に基づく審査を控えている食品等事業者の経営者や品質管理責任者を対象に、FSSC22000への適切な対処法を、“審査員の視点“をふまえて解説します。

審査員は審査をする時、基本的に要求事項どおりなら問題にはしませんが、システマティックに(系統的に)説明していただけることを期待しています。あなたの会社が、衛生管理と文書化を徹底し、記録保持システムを大幅に強化したにもかかわらず、監査ではボロボロになるまで指摘されるのは、多くの場合、その計画がシステマティックでないことが原因です。

この点に焦点を当てて話をしたいと思います。

審査員の監査のプロセスをまとめたのが以下の図です。

審査員:システム監査のプロセス

基本的には、要求事項をベースに監査に入ります。食品衛生法などの規制との適合性の確認もありますが、要求事項に適合しているかどうかが基本です。「要求事項に対応する文書はありますか?」「記録はありますか?」「現場は文書のとおり運用されていますか?」ということを確認します。さらに、現場の方々が、文書の意味を理解して記録作業を行っているか(形だけになっていないか)、従業者インタビューを行って確認します。要するに、現場の観察やインタビューを通して文書や記録が実際に遵守されているかを証拠として収集していきます。

とても大事なことは、文書と現場のオペレーションに矛盾がないか。この確認が非常に大事です。
その上で、衛生管理手段の有効性を見ていきたいと考えています。これが審査員の視点です。

事業者側の視点

一方、事業者側は、HACCPプランを作成して運用していく立場です。
事業者側の視点でHACCPプラン開発のプロセスを図示すると以下のようになります。

事業者:プラン開発のプロセス

まず自分たちが作っている製品の安全性の保障をするために、消費者に喫食されるまでを想定して製品や原材料、その仕様、現場のオペレーション、施設等といったハザード分析の背景情報を見える化します。

そしてハザード分析を実施し、潜在的ハザードを特定し、どの程度のリスクがあるのかを評価します。その評価に基づいて、ハザードと紐づけされる衛生管理手段の有効性評価をしていくわけです。

もし自社に既存の衛生管理手段がある場合は、それをハザード分析に基づいて紐づけしていきます。ない場合は、新たに衛生管理手段を導入します。
このようにして、リスクに対し、誰が、いつ、何を、どのようにするか(5W1H)を明確にする仕組みを作ります。

その仕組みを実際に現場で回すためには、標準作業手順(SOP)を整備し、これを遵守していかなければいけません。ここからがシステム化になります。システム化とは遵守し続ける作業のことであり、人間が関わりますので、トレーニングは必須です。
モニタリング、是正措置(CA)、検証、それぞれの担当者にトレーニングが必要です。また、そこに関わるすべての機器に対してもメインテナンスプログラムを合わせて実施しなければなりません。

このトレーニングとメンテナンスが維持され続けていて、それが満たされた状態の中でHACCPプランが適切に実行されている。これらの証拠は実施と記録にあります。FSSCでは記録されていないものはやっていないものとみなされます。従って、記録でもって証明するというのが全ての基本になるわけです。

監査する側と受ける側との関係

今申し上げた、監査をする側のアプローチと監査を受ける側のアプローチは、実は表裏一体です。下図を見てください。

監査する側 vs 受ける側

審査員は、この図の右から左に、要求事項からのハザードベースアプローチを行っています。現場に入る前に文書や記録の確認をし、次に現場で文書や記録通りに運用されているか。それに対し現場の職責ある人間が、現場のハザードとリスクを自覚しているか。また、文書と現場とちゃんとフィットしているか、フィット&ギャップをしっかりと確認していきます。

FSSCの要求事項はすべてのハザードを網羅的に監査できるように設計されています。つまり、監査はすべてのハザードの可能性を網羅的にチェックするというアプローチです。しかも、限られた監査時間の中で、最大限の証拠を収集しなければなりません。審査員も大変なんです。

では、監査を受ける側の皆さんはどうでしょうか。監査とは真逆の流れになります。

まず、現場のハザードとリスクを評価し、衛生管理手段を講じ、標準作業手順を作成し、それに従って実施と記録を行っているはずです。

それを審査員など監査される方々にどのように説明をするかがポイントです。

みなさんは、リスクベースで現場に応じて効率的に食品安全計画(衛生管理計画)を組んでこられたはずです。ですから、その手順に沿って行われた記録や文書は、きちんとプランに沿ってやってきましたよという証拠なのです。

一方、審査員は、起こり得るすべてのリスクについて網羅的に証拠を収集しようとします。
この時に注意が必要なのは、監査側からの要求事項に関する質問に対して、自社の現状に即して適用対象の要求事項なのか、それとも適用除外の要求事項なのかをクリティカルに回答できるかということです。

審査員の言われるままに受け身で聞いていると、自分たちはリスクベースでルールをちゃんと作ったにもかかわらず、「あれもできていない、これもできてない」となってしまいます。

検証「ベリフィケーション」と妥当性確認「バリデーション」

Codex「食品衛生の一般原則」の「HACCP原則6:検証と妥当性確認」が、2020年6月に改訂されました。以下の赤字で示したところが、変更箇所です。

HACCP 原則6:検証と妥当性確認

定義の中に、検証「ベリフィケーション」と、妥当性確認「バリデーション」という2つの要素が明記されていることが、過去に世界でも大きな混乱の原因になってきました。
私たちはまず、この2つがどう違うかを認識しておく必要があります。

ベリフィケーション(検証)は、HACCP計画に対して意図したとおり運用されているか。遵守検証と言い換えるのが一番わかりやすいと思います。
一方、バリデーション(妥当性確認)は、そのHACCP計画が有効か、ちゃんと成果が得られる計画になっているかが問われます。

検証の2つの活動

ベリフィケーションとバリデーションを明確に分けて考えることが必要です。

以下は、バリデーション(妥当性確認)で何が見られるかをまとめたものです。

妥当性確認の例

特に大事なのは1つ目の項目、ハザード分析をして、重大なハザードなのか、そうではないのかを判断するということ。重大なハザードではないとは、HACCPでは取り扱わないということですから、GHPs(Good Hygiene Practice:要するに一般衛生管理)で十分だという判断になります。

一方、遵守検証で何が問われるかを示したのが以下です。

遵守検証の例

要するに計画通りに実施できているかどうかが問われます。

これらをちゃんと踏まえて、審査を受けていただく必要があります。

正しい応答例

ここからは、審査員との質疑応答のシミュレーションをしてみましょう。
以下の例を見てください。

審査員の質問「ご飯を炊く加熱ステップはCCPにしていないのですか?」という質問に対し、回答1の「はい、CCPにします。」は非常に残念な回答例です。
回答2のように答えてほしいところです。

残念な/期待される回答(事例)

ポイントは、通常考えて起こりやすいハザードについてCCP設定をするというロジックに基づき、「炊飯ステップは、重大なハザードではないので、CCP設定していない」と答えている点です。

次の事例も見てみましょう。

残念な/期待される回答(事例)

回答1は残念な回答です。回答2のように答えてほしいところです。

ポイントは、金属探知機があるかどうかではなく、金属異物をコントロールできるかどうかです。また、目視等の官能的指標 が許容限界たり得ることは、食品規格Codex(コーデックス)にも明記されているので基礎知識として持っておいていただきたいところです。

FSSC22000第6版に追加された要求事項についても、回答例を紹介します。
まず「アレルゲン管理」についてです。

残念な/期待される回答(事例)

審査員の「どのように管理されますか?」という質問について、回答1の回答では、何の責任回避にもなりません。回答2と比べるとどうでしょうか。どちらが信頼できますか?

次に「環境モニタリング」に関する質疑応答を見てみましょう。

残念な/期待される回答(事例)

回答1は、環境検査をしているだけに過ぎず国際的に通用しません。それに対し回答2は、はっきりとリステリア属菌をターゲットとして、菌を探し出して撲滅することを目的としていることが示されています。「陰性だから良し」ではなく、「陰性結果が続く場合は、サニタリングのニッチを見逃していないかどうかチームで検討しています」。ここまで言えればベストの回答です。

「新しい機器の導入・設置」に関しても質疑応答の例を見てみましょう。

残念な/期待される回答(事例)

審査員は、「機器の更新が重大な変化に当たるかどうか」を聞きたいのです。従って、機器の更新が重大な変化に当たるかをチームで検討し、システムの変更が必要な場合には、回答2のように「機器の更新が重大な変化に当たるか検討し、(中略)ハザード分析から再評価しています」と答えてほしいところです。

監査する側と受ける側はVSではない

私が皆さまに申し上げたいのは、審査員と監査を受ける側(事業所)は決して敵対関係ではなく、協力関係にあるのだということ、これを強調したいです。

規格要求事項は、ハザードベースで策定されています。つまりあらゆるハザードに対して、網羅的に作られています。一方、事業者側は、自分たちの取り扱っている原材料や製品、施設やオペレーションの状況に合わせて、潜在的ハザードの中から自分たちにとってリスクが高いハザードに対してルールを定めるアプローチ採ります。従って、すべてのハザードを網羅する計画など要求されません。事業者は、リスクベースで判断して適切な計画をしっかりと作り、それを計画どおり運用していれば、全く問題ありません。

リスクもないのにあれもこれも取り組むのは、屋上屋を架すようなものです。それはムリ・ムダ・ムラの温床となり、現場の反発を招き、りっぱなファイルは作ったけれど現場では遵守されないという典型的な事態を招きかねません。それはやがて、食中毒など企業の存続をゆるがす大問題につながるかもしれません。

もし皆さまが、審査員のハザードベースの質問に、きちっとリスクベースで回答ができないとしたら、自分たちの会社の存続を危うくするような“わな”にはまっているのではないかと自問していただきたい。この点を強調しておきたいです。

リスクベースの食品安全文化

Codex HACCPで、「食品安全文化」が採用されました。FSSC22000でも、これからの審査では食品安全文化が審査されます。しかし、「文化」というものをいかにして審査できるのでしょうか。これもシンプルにリスクベースで考えればいいのです。

Codexでは食品安全文化を醸成する要素として以下の5つを挙げています。

食品安全文化を醸成する5要素(復習)

つまり、食品安全文化とは「食品安全が文化として必ず保たれている状態」であり、これが維持できていることが求められています。

食品安全が適切に保たれるために求められるのが、
1.経営層と全従業者のコミットメントであり、2.正しい方向性を示し全従業者を関与させるリーダーシップです。さらに、3.全従業者が食品衛生の重要性を自覚して適切に行うこと。

そういうことを、4.全ての従業者間でコミュニケーションをとってやりましょう。もし逸脱があったらちゃんと是正措置をとるだけでなく、再発防止や根本原因分析までやる。自分たちではできなければ上長に相談する。そういうコミュニケーションが欠けてはいけません。

1〜4が実行されるためにはきちんと、5.トレーニング、つまり十分な資源を与えられることが要求事項です。欧米ではQualified Individual(QI:資格のある個人)と呼ばれますが、すべての現場従事者は職責に応じQIでなければいけません。

食品安全文化の監査で見るポイントは以下のとおりです。

食品安全文化の監査(復習)

これらを経営層までさかのぼることで、食品安全文化というのは監査「可能な」要求事項なのです。これをしっかりおさえておいていただきたいと思います。

最後に、みなさんがやっているHACCPは、「Hard」つらくて、「Agonizing」苦痛で、「Complicated」複雑な、「Confusing」わかりにくい、「Paperwork」文書業務になっていませんか? あるいは「Have A Cup of Coffee and Pray」=「一杯のコーヒーを飲み、あとは天に祈るのみ」になっていませんか?

私たちがやりたいのは、「Hazard Analysis and Critical Control Points(危害分析重要管理点)」です。これをちゃんとやっている経営者には、「HACCPはすごくいいね、HACCPをちゃんとやると儲かるね」と思っていただけるはずです。

実効的なグローバル認証により、私たちは攻めの持続可能性を実現することができるはずです。まずは食品安全意識を、現場担当者と経営者が同じレベルで合意する。そのためには、「なぜ」を基軸にしたリスクベースのコントロール手段が必要です。トレーニングによって担当者の職責に応じた力量の育成も必要。そして、食品安全に真正面から取り組むことで、最前線のプライドを育てる。それによって、皆さんの会社は儲かる会社になり得ますし、国際的に認められる食品安全行動の実現ができるのではないかと期待しております。

実効的なグローバル認証により、攻めの持続可能性を実現しよう!

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