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【食品ITフェア2024 オンライン】 ITで量って減らそう食品ロス

2024/4/19 [食品,AI,セミナーレポート]

2030年までに食品ロスを半減させることは、SDGsの重要な目標です。この目標達成には計測が不可欠です。組織が自身の立ち位置を正確に把握し削減努力を行う中で、どれだけ成果が上がっているか、また目標にどれほど近づいているかを知るためには、量ることが必要です。国内外では、計測で食品ロスを減らした事例や、ITを活用した削減事例が多く見られます。今回は具体的な削減事例をご紹介します。

株式会社office 3.11
代表取締役
食品ロス問題ジャーナリスト
井出 留美 氏

3Rの中でもリデュースが肝心

食品ロスとは、まだ食べることができるにもかかわらず捨てられてしまう食品のことです。日本では、主に小売や外食、家庭から発生する廃棄食品を指します。しかし、FAO(国際連合食糧農業機関)では、食べ物が収穫されて家庭に届けられるまでのフードサプライチェーンにおいて発生する廃棄食品を広く「フードロス」と呼び、日本が指している可食部のみの廃棄は「フードウェイスト」と呼んでいます。ここでは、フードロスとフードウェイストを含めた「食品ロス」について話します。

食品ロス

食品ロスを削減する理由は三つあります。

一つ目は経済的な損失です。食品ロスは、家計だけでなく、企業の利益も損なう原因になります。食品ロスについては「経済を回すための必要悪で減らしてはいけない」という意見がありますが、本当にそうでしょうか。食品ロスを減らして利益を増やしたという企業はいくつもあります。

二つ目は環境負荷の低減です。食品ロスは環境に大きな負荷を与えます。例えば、水分を多く含む食品を処分するには、多くのエネルギーが必要になります。結果的に二酸化炭素を多く排出することになります。埋め立てればメタンガスも発生します。もし、食品ロスが一つの国だとしたら、世界で3番目の温室効果ガス排出国になります。食品ロスを減らすことは環境負荷の低減に大きく寄与します。

三つ目は、福祉や医療、雇用対策などの社会サービスの損失です。食品ロスを減らすと、自治体の焼却コストなどを削減できます。そのお金を別の社会サービスに振り向けることもできるでしょう。食品ロス削減は社会的な課題なのです。

では、食品ロスを減らすには、どうすればよいのでしょうか。3Rを実践することが重要です。3Rとは、リデュース(廃棄物の発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再資源化)です。

3Rの優先順位

なかでも、そもそも食品廃棄物を出さないことが大事な取り組みになります。まず、元栓を閉めるようにして食品ロスそのものを減らす。それでも生じてしまう食品廃棄物があれば、再使用することに取り組む。それでも残ってしまうものがあれば、堆肥とか飼料としてリサイクルしていくのです。

今回は、3Rの観点からITを用いた食品ロス削減の取り組みを紹介したいと思います。

量れば食品ロスが減っていく

ホテル業界で、ある食品ロス削減に関する実証実験が行われました。世界15カ国42のホテルが参加して、工夫しながら食品ロスの削減に取り組んだ結果、平均で年間21%削減することができました。また、食品ロス削減対策を導入したホテルの70%以上は1年以内に投資分を回収でき、95%は2年以内には投資分を回収できたそうです。さらに、ホテルが食品ロス対策に1ドル投資すると、平均で7ドルの運営コスト削減を見込めることも明らかになりました。

この取り組みから、ホテルの食品ロスを削減させるコツとして次の5つが効果的であることが見えてきました。

  • 食品ロスを計測し「見える化」する
  • スタッフを巻き込む
  • ビュッフェを見直す
  • 過剰生産を減らす
  • 余った食品を再利用する

特に重要なのは、食品ロスを計測することです。家庭でも同じですが、量るだけでも人の意識が変わり、行動が変わります。最近は、食品ロスの見える化を実現する計測機器もいろいろと現れています。その中には、自動で食品ロスを撮影して画像にしたり、経済損失をグラフで見せたりするものもあります。

食品ロスは量るだけでも減らせる

昨今、食品ロス削減のソリューションを提供する企業も現れています。そのアプローチは、AIツールを活用してリアルタイムの「見える化」を図り、飲食店などの店舗で発生する食品ロスを減らしていくというやり方です。

英国のWinnow社は、ホテルや飲食店のキッチンで生じる食品廃棄物を自動的に撮影して分析し、その量や経済的損失を算出してグラフなどで表すソリューションを開発しました。食品ロスの削減だけでなく、生産性や収益性の向上にもつながるとしています。

家具の量販で知られるイケア(IKEA UK&I)は、世界で初めて食品ロス対策でAIを活用。英国とアイルランドの店内レストランでWinnowを導入したところ、年間で1500万円以上の食品ロスを削減できたということです。

日本では、ヒルトン東京ベイがWinnowを採用して、食品ロスを50%以上削減したとのことです。米国のLeanpath社も同様のソリューションを提供しています。リッツ・カールトンが採用して、食品ロスを54%減らしたということです。

食品ロスを減らすポイントは「量る」こと

「量る」という計測とリアルタイムの「見える化」が大きなポイントで、そこでITやAIという技術がとても役に立ちます。

「量る」ことで食品ロスを減らすユニークな取り組みが日本にあります。京都市に本社があるスーパーマーケット「斗々屋」は、店内で扱う700品目〜800品目のほとんどを量り売りで販売します。特徴的な工夫の一つは、客が自ら食品を量るというシステムを導入していることです。この「セルフ量り売りシステム」を開発したのは、はかりの老舗メーカーである寺岡精工。センサーや計量器のスケール、設定した価格を電子表示する電子棚札(RFID)が一体となったシステムです。客は必要な食品を必要な分だけ購入でき、入れ物を持参すれば容器包装も不要になります。京都市上京区と東京都渋谷区に店舗があります。

期限を見直して食品ロスを減らす

ここで、混同しやすい賞味期限と消費期限の違いについて説明したいと思います。

日本の場合、保存期間がおおむね5日以内の食品には消費期限が示されます。例えば、弁当やおにぎり、サンドイッチ、お刺身、生クリームなどを使ったお菓子などが対象です。わかりやすく言えば、消費期限は「安全に食べられる期限」です。次の図をご覧ください。

賞味期限(おいしいめやす)と消費期限

このグラフの縦軸は品質の度合いを示し、横軸は保存日数の経過を示しています。オレンジの線は保存期間の短い食品を表していて、日数の経過とともに急激に品質が落ちるのが特徴です。しかし、多くの加工食品の場合は、緑の線のように品質がゆるやかに落ちていきます。味は落ちますが、安全に食べられる期間が長く続きます。賞味期限は「おいしさの目安」なのです。

また、食品企業は算出した賞味期限に対して、さらに安全係数をかけます。1より小さな数字をかけて、より安全性を高めるのです。例えば、あるカップ麺のおいしく食べられる期間が10カ月だとすれば、それに0.8という安全係数をかけて8カ月にします。直射日光に当たる場所など過酷な環境で保存された場合を考慮するからです。

しかし、リスクが高まるような場所でなければ、ほとんどは賞味期限を過ぎても飲食できます。ヨーロッパでは今、賞味期限を過ぎても飲食可能であることを伝える表示を作り、賞味期限の横に載せるようになっています。

近年は、食品のおいしく食べられる期限を正確に予測する技術も現れています。オランダのスタートアップ企業OneThird社は、野菜や果物などの青果物をスキャンするだけで、おいしく食べられる期限を予測するシステムを開発しました。現在はトマト、イチゴ、ブルーベリー、アボカドの可食期限を予測することができ、2024年までにはブドウ、バナナ、マンゴー、ラズベリーなどに拡大される予定です。日本にも、類似の計測技術を開発しているメーカーがあります。

青果物のおいしく食べられる期間を予測

興味深い実証実験があります。2021年1月から2月に大手スーパーマーケットで行われた経済産業省による実証実験です。電子タグ(RFID)とダイナミックプライシングを組み合わせ、落ちていく鮮度に応じて「標準価格よりも高い価格」→「標準価格」→「標準価格よりも低い価格」と変化させて、消費者の行動がどのように変わるかを調査。すると、価格よりも鮮度優先で購入する客層がいることがわかりました。つまり、高くても「鮮度の高い食品を選びたい」と行動する消費者がいるということです。

食品の場合、価格を変えるときは標準価格より低くするだけです。しかし、価格の違いが鮮度の違いである理由さえ理解してもらえれば、高くても購入につながるのです。鮮度は、食品を購入する際の重要な選択肢であり、価格に反映することができます。これは今後の食品ロス削減の対策を考えるときに役に立つのではないでしょうか。

AI活用のダイナミック・プライシング

小売の現場で食品ロスを減らす取り組みをもう二つ紹介します。

日本では、小売店での食品ロスと作業時間を減らすアプリ型パッケージシステム「Semafo」が登場し、例えばクイーンズ伊勢丹などで採用されています。スウェーデンのフードテック企業Whywaste社の技術を使っていて、販売期限の切れそうな商品を特定して担当者に通知。値下げや売場の移動といった食品ロスを防ぐための行動を促します。

導入すると、食品ロスを半減できるとのことです。また、小売の現場では、販売期限を手作業で確認するのに多くの労力を費やしています。しかし、このアプリを使うことで労働力も半分以上削減できるそうです。

ラベルをスマート化して食品ロスを減らすという事例もあります。

通常、消費期限は日付の数字で表されますが、必ずしもこの数字はパッケージ内の食品の質を反映していません。数字上は鮮度が高いことを示しても、食品の内部では微生物が繁殖しているかもしれません。逆の場合もあり得ます。そこで、食品内の微生物の量をリアルタイムで監視してラベル上で見られる「スマートラベル」をスウェーデンとカナダの企業が開発。実際の食品の状態を「見える化」することで、期限表示の数字で判断される食品廃棄を減らすことができます。同様の技術は英国でも開発されています。

スマートラベルで実際の消費期限を表示

「つなぐ」ことで食品ロスを減らす

ここからは再使用(リユース)による食品ロス削減の取り組みを紹介していきます。

リユースの事例で世界的に知られるのは「Too Good to Go」です。スマートフォンのアプリを介して飲食店や小売店が抱える売れ残り食品を消費者につなげるサービスです。このアプリを利用すると、販売期限が近づいている食品を手頃な値段で買うことができます。デンマークのコペンハーゲンが発祥の地で、瞬く間にヨーロッパ14カ国に広がりました。

食品スーパーマーケット「カルフール」も欧州各国でToo Good to Goの活用を展開。英国では、コンビニエンスストアの余剰食品も登録されるようになっています。米国でもサービスが始まりました。2022年は、このサービスを通して7887万食の余剰食品が取り引きされ、20万トンの二酸化炭素を削減したとのことです。

フード・シェアリング・ビジネス

同様のサービスが世界のあちこちで登場しています。例えば、「Olio」(英国)、「Karma」(スウェーデン)、「Food For All」(米国)、「Tabete」(日本)などがあります。

「つなぐ」という観点の食品リユースでは、長野県にある企業が「シェアシマ」というB2Bサービスを展開しています。これは、例えば酒かすやおからなど、食品の製造現場から余剰物が出る企業と、それを必要とする企業を結び付けるというサービスです。「いらない」というサプライヤーと「買いたい」というメーカーをつなぐことで、互いにメリットがある形で食品廃棄物を減らしていきます。

未利用の余剰食品原料をシェア

国も「つなぐ」ことで食品のリユースに取り組んでいます。省庁には災害備蓄食品があり、古くなると廃棄されます。十分に食べられるものが多いのですが、無料で第三者に寄付したくても法的に許されず、処分せざるを得ませんでした。しかし、2019年に「食品ロス削減推進法」が施行され、寄付ができるようになりました。

現在、これらの食品は農林水産省の公式ウェブサイトにリストアップされています。その中には、賞味期限が少し過ぎてはいるものの安全性が確認できた缶詰などもあります。食料支援団体やフードバンク、子ども食堂などが活用しています。

食品を資源として活用する

再資源化(リサイクル)の取り組みで食品ロスを削減する事例をいくつか紹介したいと思います。

国内の取り組みでは、神奈川県相模原市にある「日本フードエコロジーセンター」という企業が知られています。ここでは、小売店などで廃棄された食品を引き取り、それを処理することでブタの飼料などに変えます。その取り組みは広く注目されていて、数多くの視察者が訪れています。

2023年11月、この会社の向かいに新しい企業が立ち上がり操業を開始しました。名称は「さがみはらバイオガスパワー」。社長は、日本フードエコロジーセンターと同じです。ここでは食品の残渣(ざんさ)から再生可能エネルギー(バイオエネルギー)や肥料原料を製造しています。

食品ロスの資源化「飼料・肥料・再生可能エネルギー」

特徴は、高塩分や高脂質の食品をリサイクルしていることです。マヨネーズや焼き肉のタレなど、塩分や脂質が多い食品はブタ用飼料の原料に向かないのですが、こちらの会社ではそのような食品でメタン発酵をさせて、エネルギーや肥料を作り出します。飼料、肥料、バイオ燃料の3つを食品リサイクルで製造する企業は、日本では珍しいと思います。

日本では、多くの食品ごみが「生ごみ」として、多くのエネルギーを費やして燃やされます。しかし、諸外国では、食品ごみは資源であると考えてリサイクルする事例が見られるようになっています。

例えば、韓国の首都ソウル市内には生ごみ専用のポストがあります。従量課金制なので、そのポストに生ごみを多く入れた人は多くの処理コストを支払う仕組みになっています。これは食品ロス削減のモチベーションを高める工夫でもあります。また、回収した食品廃棄物はメタン発酵で肥料やバイオ燃料に変えます。よく「生ごみのリサイクルは都市ではできない」と言われますが、ソウルの事例を見れば、大都市でも可能であることがわかります。

米国のニューヨーク市にも、生ごみをリサイクルするためのポストが街中にたくさんあります。オレンジ色の大きな箱で、その前面には「Compost」と書かれています。このポストを利用するには、まずアプリをスマートフォンなどにダウンロードします。そして、このアプリを使って投入口の扉の鍵を開けます。また、各コンポストの空き容量が信号機のような3色で示されるので、どこに持っていけば投入できるかもわかりやすいです。

市民が投入した生ごみはニューヨーク市が回収。その後は、例えばセントラルパークの堆肥になります。今、ニューヨーク市は、生ごみや落ち葉、剪定(せんてい)した枝などの有機廃棄物をリサイクル資源として活用することを義務づけようとしています。これまでは埋め立て処理をしていましたが、そうすると二酸化炭素だけでなくメタンという温室効果の高いガスも出てしまうことから、これをやめようという動きが本格化しているのです。

先進国では、食べ切れなかった食品を資源として活用する動きがいろいろと出ています。環境やリサイクルの分野では「混ぜればごみ 分ければ資源」という標語がありますが、日本でも食品の廃棄物を資源として認識することが重要だと思います。

最後に紹介したいのは、東京都渋谷区において3年連続で行われているスマートコンポストの実証実験です。都市圏では、食品の資源で堆肥を作っても使うところが少ないという悩みがあります。しかし、この実証実験で用いたkomham社製の「スマートコンポスト」は、土の中に含まれる微生物群「コムハム」に分解してもらう仕組みで、使い道のない堆肥を作らずに、98%を水と二酸化炭素に分解します。

生ごみを98%分解するスマートコンポスト

天板のパネルで太陽光発電した電力で内部の土を自動撹拌(かくはん)。発生する水は微生物の分解熱で気化されて排気されるため、コンポストにつきものの排水処理は不要です。低コストで1台あたり5kg/日ほど処理できます。これは都市部で有効な方法だと思います。

このほかにも伝えたいことはたくさんありますが、今回はこのあたりで終わりにします。よろしかったら、これまでに書いた書籍やヤフーニュースの記事などを見てみてください。

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