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【食品ITフェア2024 オンライン】 食品産業におけるDX化成功のポイント 〜最新の事例を中心に〜

2024/4/3 [食品,セミナーレポート]

少子高齢化・人口減少社会である日本において人手不足は慢性化し、DXによる省人化・省力化はまさに待ったなしの状況です。本講演では、国の政策やテクノロジーを活用した最新事例等を通じて、食品産業のスマート化、DXの成功ポイントについてお話いたします。

公益財団法人 流通経済研究所
主任研究員
久保田 倫生 氏

日本の食品産業を取り巻く厳しい状況

(1)働き手の減少は避けられない

食品産業の話に入る前に、まず日本の少子高齢化と人口減少を前提として考える必要があります。日本の人口は減少しており、15歳から64歳までの生産年齢人口も減っています。しかも、生産年齢人口の減少スピードは、総人口が減るスピードよりも速いです。2019年には生産年齢人口が全人口の60%を下回りました。2021年には団塊ジュニア世代が50代に突入。2024年には、人口の3分の1が65歳以上になると予測されています。働き手が減少しているのです。

人口推計から予測されること(〜2030年)

労働力は不足し、賃金の上昇は利益を圧迫します。今後のことを考えると、賃金を上げて人が雇えればまだマシです。今後はどんなに賃上げしても人が集まらないといった可能性もあります。食品産業・製造業の場合は、生産拠点がある地方では人口減少が激しいため、人が集まらず、生産拠点を維持できないという話が起こる可能性もあります。

一方で、消費者側を見ると、仕事を求めて若者がどんどん都市に移っていく一方です。高齢の方々の大多数が動けない、あるいは動きたくないなどの問題もあり、働き手が減り、高齢者のみが残るため、エリアによってはコミュニティそのものが維持できなくなる可能性もあります。いかにDX、IoT、AI、ロボティクスなどを使い人手不足を解決し、コミュニティを維持できるようにしていくかが課題です。

(2)食品産業を取り巻く厳しい環境

続いて国内産業における農業・食品関連産業の位置づけを見てみましょう。農業・食品関連産業の国内生産額は108.5兆円で、全経済活動の国内生産額の約11%を占めています。しかしながら、食品産業の労働生産性は他産業と比べて低いです。賃金を低く押さえていることもあり、欠員率も高いです。ただでさえ日本全体で人口が減少し、労働力の獲得競争が起きているにも関わらず、労働者にとって魅力的な産業に見えないことが食品産業の課題です。

他産業と比べて低い労働生産性

この状況下で、社会変化にも対応していかなくてはなりません。例えば、日本の食品ロス523万トンに対して、国連が全世界で行っている食糧支援は480万トンです。ロスを減らせばそっくりそのまま世界中の食べ物がない方々にも寄付できる計算になります。

(3)2024年問題で何が起こる?

直近では、物流の2024年問題があります。食品産業に限らず運送業界も人手不足で大変です。2024年度からトラックドライバーに時間外労働の上限規制を適用することが決まりました。総労働時間も減ります。もし何も効率的な取り組みを行わなかった場合、労働力不足による物流の需給と供給の逼迫が更に深刻化する可能性があります。最大で14.2%の輸送能力不足が発生すると試算されています。さらに2030年には34.1%の輸送能力不足に陥る可能性もあります。工場で生産できたとしても運べない時代がくるのではないかと危惧されています。

その中で、内閣総理大臣が物流革新に関する関係閣僚会議を立ち上げ、物流革新に向けた政策パッケージを打ち出しました。物流革新に向けて効率化を妨げる商慣習を見直しすること。投資を促進し、物流の効率化を進めること。そして、荷主・消費者の行動変容を起こすこと。この三つを柱として政策が行われています。

このように、食品産業を取り巻く環境は、大変厳しい状況にあります。その一方で、大変な状況をチャンスに変えて飛躍する可能性もあると私は思っています。

DXとは企業の変革そのものである

(1)DXの定義

経済産業省の資料の中に、DXの定義がありましたのでそのまま引用します。

DXの定義

DXとは企業の変革そのものであるとよくわかると思います。定義の通りDXとは自分たちの組織そのものを変えていくことですから、会社のトップにDXを実現するんだという強い意志がないと進みません。そして、DXを進める上で重要なことは「見える化」と「標準化」です。そして、情報を「共有化」する、ということです。

(2)「見える化」の第一歩は紙をデータに変えること

「見える化」をするためには、データ化が不可欠です。デジタル技術を活用しても、すぐに何かができるわけではありません。データがなければ何も始まらないのです。まずは、紙をデータに置き換えるところから始めましょう。

紙を使う作業には人が介在します。すると、「担当者じゃないとわからない」みたいな話が出てくる。仕事が属人化している状態ですね。データ化する際には、その属人的な仕事のプロセスの見える化します。見える化をすることで、業務の効率化が進められます。

また、紙があると紙ありきのオペレーションが維持されてしまいます。「その作業は必要でしたっけ」というような作業も、紙が温存されてしまうと、その作業も温存されてしまうわけです。紙をデータに置き換えることによって、作業を見直す良いきっかけになります。

たとえば、ある百貨店は1回の取引で6枚の伝票を使っていました。本当にそれが必要なのか、という話です。
見える化では情物一致が重要です。情物一致とは、管理者が持っている「情報」と実際に現場にある「モノ」の数や状態が一致していることが重要という意味です。

見える化 情物一致の重要性

有効な手段として自動認識技術があります。代表的な自動認識技術には、バーコード、2次元コード(QRコード)、RFIDなどがあります。これらを使うことによって、情報とモノを一致させていくことが「見える化」のポイントです。

(3)「標準化」とはルールを決めること

続いて「標準化」の話です。「標準化」とは、関係各所が同様の見方ができるように、見せ方やデータフォーマット、そしてフォーマットの項目の付番ルール等を決めることです。自社だけではなく、他社も巻き込むことが非常に重要になります。私が一番の成功例だと感じているのは、JANコード(GTIN)です。

標準化の成功例 JANコード

たとえば、このペットボトル商品の後ろにはバーコードが貼ってあり、49から始まる13桁の番号があります。この番号は伊藤園のお茶体験という商品であるとメーカーが決めています。この情報をみんなで共有しているのがポイントです。そして、このコード体系や付番ルールについてもGS1というグローバル民間標準団体があり、ルールが決まっています。システム端末を使えば、数字を打ち込むことなくコードを読み取ることができるため、レジ業務が省力化され、しかも正確になります。

またレジ業務の省力化だけではなく、そのレジのデータからどの商品が何個売れたかもわかるため、3個売れたら3個自動発注なんてこともできます。このデータを使って、例えばAIを活用した自動発注にもつながりますし、自社のポイントカードを使ったデータ分析もできます。顧客分析をしてレコメンドしたり、買い忘れのリマインドをしたり、いろいろ活用できるんですね。これらはデータ化されていないと実現できません。まずはデータ化し、標準化してみんなで活用していくことが大事です。

(4)「共有化」の範囲は広ければ広いほどいい

続いて「共有化」について説明します。データを共有することが大事です。自社内だけでも効率化はできますが、社外の関係者を含めて広げれば広げるほど効果が大きくなり、新たな効率化や価値創出につながるとされています。ここから、見える化したデータを社内外で共有化したことによる効率化事例をいくつかご紹介します。

食品業界の自社内DXの事例

(1)食品工場で紙を75%削減

株式会社サトーで提供している「FOOD‐Pro」という食品トレーサビリティソリューションがあります。原材料入荷から製品出荷まで工場内の物の動きを管理し、生産現場から出荷するまでトレーサビリティがとれるというものです。

自社内DXの事例1 食品工場でのDX化事例

仕組みはシンプルです。まず、物を識別するためのQRコードを発行します。情報を読み取れるQRコードも含めたラベルを発行します。作業を行う際には、何か動かすたびにQRコードを読み取って、作業記録を全てデータ化します。データが蓄積されることで、トレーサビリティを確保することができます。

作業をする方々は、何か作業を行うたびにこのQRコードを読み込みます。ある食品工場では、このソリューションを導入したことにより、紙の使用量を75%削減できました。棚卸も紙で行うと手間がかかりますが、QRコードで管理しているため、時間を25%短縮できました。

(2)RFIDを活用し棚卸の時間を89%削減

サトーは、ラベルプリンターやラベル、RFIDなどのサービスを提供している会社です。機材を自社内で管理しており、いわゆる保守部品の管理を自動認識でやっています。お客様サポートセンターでは、棚卸パーツの持ち出しや返却などに手間がかかっていました。その管理の手間が膨大だったため、顧客対応の機会損失に繋がっていたいたそうです。そこでRFIDを導入し、運用負荷を低減し、棚卸作業を削減しました。その結果、アフターサービスに集中でき、顧客満足度が向上したという話です。

このRFIDという技術の活用で一番有名なのはユニクロですね。カゴに商品を入れて、レジに入れると電波で読み取る仕組みです。バーコードの場合は、接触して読まないといけませんが、RFIDの場合は電波を飛ばして識別できるため、広範囲で一気に読み取りができます。サトー社は備品にRFIDのタグを組み込んで物を陳列して、電波で管理しているそうです。これにより棚卸の時間が、3.5日から3時間11分になり、89%の時間削減につながりました。

食品業界の自社外DXの事例

(1)検品作業の時間を60%削減し、ドライバーの待ち時間を軽減

続いて取引先とのDXの事例を紹介します。ヤマサ醤油は原材料を受け入れた段階から、QRコードを使用してロット管理を行い、商品が届け先に配送されるまでの管理が実現できているそうです。醤油は原材料のまま真空パッケージに入っていれば、例えば賞味期限が1年とか長期間もつのですが、それをボトリングすると、例えば賞味期限が3ヶ月等に変わります。形が変わった段階で毎回QRコードを発行し、ロットがわかれるごとにORコードを発行し、データの紐付けを行っているところがポイントです。その結果、届け先までのトレーサビリティを実現しました。

取引先とのDXの事例 ヤマサ醤油ほか

ヤマサ醤油に関しては、自社内で全てのロット管理が可能であり、商品の賞味期限がシステムの中にデータとして残っています。そのため、そのデータを用いて取引先へ事前に出荷情報を送ることができます。。従来は、受け入れ商品の検品の際に、紙の納品伝票と現物の照合を行い、賞味期限を端末で手入力していたため、荷卸の時間がかかり、トラックドライバーを待たせることにつながっていましたが、システム導入後は、事前に情報を送っているので、受け取る側は確認をするだけで済み、結果として1車両当たりの検品作業が60%削減されました。物流の2024年問題を解決する手段の一つとして本取組は納品作業の効率化や車両待機時間の削減等につながる大変重要な取り組みだと考えられています。

(2)データを活用したダイナミックプライシングの実証実験

続いて、共有範囲を消費者まで広げたらどんなことができるのかを紹介します。経済産業省の令和2年度の「食品ロス削減事業」では、さまざまな事業者が集まり、生鮮食品の産地から消費者までのトレーサビリティを確保する仕組みを実証環境として構築しました。

産地から食品にRFIDを貼り付け、産地から消費者まで食品のトレーサビリティを確保するものです。物が産地から、卸売市場を通って最終的な消費者に届くまでの流通過程において、温度や湿度の履歴もとっています。そのデータを用いて、鮮度予測可視化システムを構築し、これと連携して青果物の鮮度予想と結果を表示し、鮮度に応じて価格を出し分けて販売しました。

消費者まで共有された事例 経産省 食品ロス削減事業

たとえば同じほうれん草でも物によって鮮度が異なる場合があります。収穫時から流通過程において温湿度をとっているため、そのデータを使ってほうれん草の鮮度予測が可能になるわけです。鮮度に応じて価格が設定されます。これによって食品ロスを削減できるかどうか実証実験を行いました。

ほうれん草は当然、鮮度が時間とともに徐々に低下していきます。在庫の鮮度を予測することもできるため、「そんなに下がるなら今のうちに使おう」など、家庭での消費を促したりすることで、家庭内の食品ロス削減にも貢献できます。

こちらの実証実験についてはテレビでも紹介されました

DX化のその先へ

日本は「質」で世界を凌駕する

さて、ここまでDXのポイントを話してきましたが、最後に「この先」の話をしたいと思います。

DX化のその先へ⇒世界は日本を目指す!!

例として、私が好きな日本酒の話をします。市場によく出回っている日本酒の4号瓶は大体2000円ぐらいです。獺祭で一番売れている「磨き2割3分」という商品は4号瓶で5500円ぐらいです。更に獺祭「その先へ」という商品は、4合瓶で3万8000円を超えています。平均的な金額である2000円の10倍以上になります。

DXのその先、私は絶対に「質」にいくと思っています。量にはどうしても限界がありますが、質の向上には限界がありません。高めようと思えば、いくらでも高められます。美味しいものを作るのもそうですが、ストーリーや世界観も含めて質を高めることができます。一般的にマーケティングやブランディングと呼ばれていますが、実際にはこのような世界がもうすぐ来るんじゃないかと思っています。

量から質への転換が進むと、世界は日本を目指すようになるでしょう。日本が世界で一番、質が高いからです。

たとえば日本酒の蔵は創業が350年前だったりします。これをアメリカ人が聞くと大変驚きます。アメリカは建国して約250年しか経ってないからです。積み重ねてきた歴史や質自体のレベルがすべてにおいて全くことなるからです。そうした日本の製品などに価値を感じて多くの人が海外から日本を目指すことでしょう。一般的な観光としてだけでなく、より高いレベルでの質、体験を目的に来訪される観光客も増えていくしょう。私は、今の10倍や20倍の価格で物を売るという未来が絶対訪れると考えています。

それができるのは日本企業だけです。DX化で既存のビジネスの省力化・自動化を進めつつ、質の向上部分は省力化によって創出された余力を使って人が担う方向性になるでしょう。これらを含めて、ぜひいろいろと考えて戦略を立てていただければと思っています。

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