ところで、一般に事業戦略をタイプ別に分けると以下の3つになる。
1.製品・技術を中心とした「プロダクトリーダー型」
2.コストやスピードを重視した「オペレーションエクセレンス型」
3.カスタムサービスを競争力とした「顧客との強い絆型」
多くの企業がこの3つの戦略タイプの重点化・組合せで戦略を立案し、ビジネスモデルを設計している。競争力という観点から、いま最も注目されるのが、3番目のカスタムサービスにより顧客との強い絆を作るタイプである。
顧客との関係性をしっかり構築して顧客価値を創出するのは、大きな時代の流れである。この潮流を形成した大きな要因は、世界的に急速に普及したSNSである。大企業だけでなく、中小企業でも顧客との接点に簡単にSNSを活用できるようになり、広くサービスを瞬時にオファーし、個別の顧客の要求に合わせたサービスを提供できるようになったからである。
この変化は新たなビジネスモデルを作るチャンスでもある。個別の顧客の要望に合わせて商品やサービスをフィッテングすることで競争力を上げることが、中小企業でもできるようになったのである。しかし、これを実現するにはITだけでなく、現実に個別顧客の要望に対応する現場の力がキーポイントになる。BPMはこれを強力に推し進めるビジネス手法である。
顧客価値を上げるための業務プロセス
このカスタムサービスは、「あなたのために設計します」というもので、個々の顧客と対面あるいはネットを通じて対話をしながら要望を引き出し、顧客の要望やプロフィールにぴったりの商品を作り上げるものである。このとき重要なのは、顧客の表面的な要求だけでなく、どのような背景・潜在ニーズを持っているかといった「顧客の向こう側」の事情を捉えることである。そうすることで顧客と共感し、本当の意味でフィットした価値を提供できるようになるのだ。
ITが進化し、SNSなどのソーシャルテクノロジーが発達した結果、顧客の考えていることや日常の行動を捉えることが可能になった。自社製品を利用している顧客が、どういう状況で利用しているのかが捉えられる仕掛けが整いつつある。ただ、せっかくソーシャルネットから情報を得ても、これに応える活動が連動していないと競争力を上げられない。具体的なレスポンスのためには、取引先や調達市場といったバイヤーフロントとの連動が必要である。
BPMのアプローチでは、ICTを使ってカスタマーフロントからバイヤーフロントまでの内部プロセスをデジタル化し、自在に連結する。これを人が間に入って電話やメールでやっていては、個別の要望の変化には対応できない。ITを使って、WEBで入ってきた顧客の情報を自動解析し、自動手配・自動報告できるようなプロセスに変えることがポイントである。
可視化が業務プロセス改善の前提
業務プロセスをBPMで変えるには2つのポイントがある。
1つは、プロセスの実行状態の可視化である。実際に今、どこまで仕事が進んだのかを追えるようにする。属人化させず、いつでも誰でも業務がどこまで進んでいるか、一目でわかるプロセスでならなければならない。可視化の最大の効果は、仕事を他の人に振れるようになることだ。担当者の手が一杯の時でも、誰かに引き継いで滞りなく仕事が繋がるようにする。
2つ目は、プロセス自体の柔軟な変更である。プロセス通りに仕事しようとしても、そうはいかないことがある。現実とズレが出てきたとき、それを捉えてどんな場合にうまくいかなかったかを把握して、プロセスモデルを改善するのである。声の大きい人、あるいはマネージャーが改善をするのではなく、実績数値として例えば「業務遅延件数が5件/日になった」といったことが定量的に捉えられ、アサインのルールや顧客との約束の際の基準を見直し、また実績を把握して修正するのである。このような改善活動がBPMの姿である。
実態を定量的に把握することで、マネージャーは今それぞれの仕事を誰がどれくらいやっているのかが見えるようになり、誰のところに業務がどれくらい溜まっていて、回っていないかが一目でわかるようになる。したがって、対応策を準備し緊急業務には他の人で対応する、簡単な仕事は若手に回す、あるいは今後増える予定の業務に対して予め人を手当てするといったことができるようになるのだ。
また、実績を個人別に分析ができるので、がんばってやってくれた人をきちんと評価できるようにもなる。メールとデータベースだけで仕事をしていると、楽な仕事を上手にやって点数だけ稼いでいる人が評価されがちで、難しい仕事にぶちあたってがんばってやっている人は実績件数が少ないと評価されにくいといった点も改善できる。BPMを行うということは、仕事ひとつひとつの難易度などを捉えて的確な人にアサインをし、本当に重要な仕事をやってくれた人は誰なのかがわかるようになる効果も非常に大きいのだ。
このような効果が大きいことから、多くのサービス現場でBPMが導入されているが、最もよく使われているのはアウトソーシング事業である。顧客との関係で、どういう仕事を誰が担当するかというプロセスフローを作って確認しながら、仕事の受け渡しもBPMでやるというケースがたくさん出てきている。こうすると、顧客に「今週はこれだけできました」ということを数字で示すことができ、顧客との信頼関係にも貢献している。