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【内田洋行ITフェア2016in東京】 高精度の気象予測で、売れ残り廃棄する食品を減らす
「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」

2016/12/5 [食品,物流,セミナーレポート]

気象が貢献できる分野として、食品業界における食品ロスという課題があります。食べることができるものを捨てざるを得ないという無駄を、気象予測技術により解消するための実証実験と、その結果について解説します。商品の物流形態を、より環境負荷の少ない方向へシフトすることに活用した「気象予測技術」。その画期的な成果もご紹介します。

目次

  • 気象技術はどんなことに貢献できるか?
  • 食品業界が抱える食品ロスという課題
  • Twitterのデータを解析して体感温度を数値化
  • 日配品「豆腐」の食品ロスを30%削減
  • 季節商品「冷やし中華つゆ」の在庫を約20%削減
  • 「飲料」のモーダルシフトを可能にした2週間予測

内田洋行ITフェア2016 in 東京にて

一般財団法人日本気象協会
事業本部 技師
中野 俊夫 氏

気象技術はどんなことに貢献できるか?

2015年は第4次産業革命の元年といわれました。今後は、あらゆるモノや情報がインターネットを通じて繋がることになり、IoTにより人工知能を使った自律化、相互協調が必要といわれています。こうした環境の中で、気象(技術)は何ができるのかというと、大きな特徴が3つあります。
1.将来の予測ができる
 気象は、唯一、将来を物理学的に予測できるものであって、予測を経営効率化に役立てられると考えられます。
2.様々な業界とのつながり
 全産業のおよそ1/3は何らかの気象リスクを持っており、気象をハブに連携を推進していくことができるでしょう
3.気候の大きな変化
 近年は、温暖化が進行して気候が大きく変化しています。東京はこの100年間に平均気温が約3℃上昇し、これまで経験したことのないような猛暑、暖冬が頻繁に起きるようになってきています。そこで、こうした猛暑や暖冬に対応したオペレーションが重要になってきます。

一方、気象理論の発展で予測の精度は向上しています。日本の気象庁はこの15年間で約30%誤差を削減しました。現在はIoT環境の進化によってヨーロッパの気象データも使えるようになり、より精度の高い予測ができるようになっています。

食品業界が抱える食品ロスという課題

気象が貢献できる分野として、食品業界における食品ロスが考えられます。全世界の食品ロスは年間642万トンで、世界の食品援助量(320万トン)よりも多く発生しています。人間は暑い日には冷たい飲食物を、寒い日には暖かい飲食物を欲しくなりますが、寒暖を正確に予測できれば、需要予測も高い精度で行うことができます。それがうまくできないことが、食品ロスを生む大きな原因となってきました。

食品の生産と流通には、メーカー(製)、卸(配)、小売(販)の3つの業態が関わっていますが、共通の課題として次のような点が挙げられています。
・食品ロス・販売機会ロスの発生
・売上増加への施策が必要
・人材不足
・需要予測精度が十分でない
・天候不順(変化)への対策

こういった課題は1業態だけでは解決できないので、業種の壁を越えた連携を行う必要があり、気象が貢献できる部分も大きいと考えられます。

私たちの提案した「需要予測の精度向上・共有化による省エネ物流プロジェクト」は、経済産業省の「次世代物流システム構築事業」に採択され、平成26〜28年度の3年間をかけて実証事業を行っています。

Twitterのデータを解析して体感温度を数値化

今回は、昨年度の成果についてお話させていただきますが、その前に私たちが需要予測に利用した「体感温度」について簡単に紹介します。

人間の気象に対する体感はかなり曖昧です。同じ30℃でも5月に一気に気温が上がって30℃になったときと、8月に連日35℃を経験した後の30℃では、5月のほうが暑く感じます。そこで、人々がどのように暑さを感じているのか、Twitterの「つぶやき」データを解析し数値化しています。

5月の気温の上昇期には「暑い」というツイートが増えますが、8月に同じ30℃になっても暑いというツイートはほとんどありません。気温に慣れてしまうわけですが、慣れがじつは食品の売り上げにも影響があるのです。私たちは、こういったツイートデータを見ながら、どういうものが人間の感じる気温に影響しているのか、解析しました。その結果、購買行動に直結する、体感に即した気象情報を作成できるようになりました。「暑い」「寒い」の体感と商品需要の相関関係も確認できました。

需要予測には、人工知能(AI)の機械学習を用いる解析も採り入れています。気温・雨・湿度・日射量・体感気温などを使って需要予測を行っていますが、従来の解析手法に比べ、機械学習による解析では精度が大きく向上しています。

日配品「豆腐」の食品ロスを30%削減

相模屋食料様に協力していただき、豆腐で実証実験を行いました。豆腐の特徴は、冷蔵が必要であり、賞味期限が短く、日々生産する商品であるということです。生産には2日ぐらいかかりますが、小売店からの発注は前日ぐらいにあります。したがって、小売店からの発注を予測して、見込みで生産しなければなりません。しかし、小売店からの発注は曜日あるいは特売の有無、来店客数、天気、気温といったものによって大きく変動するので、これらを予測することも重要です。豆腐には、木綿豆腐、絹豆腐、厚揚げ、焼き豆腐など様々な種類がありますが、今回は最も売上が大きく、気象によって影響を受けやすい(気象感応度が高い)「寄せ豆腐」について実証実験を行いました。

豆腐の売上は曜日にも影響されるということなので、前週の各曜日より今週はどのぐらい気温が上がるか下がるかなども予測し、実際の商品の売上予測を「寄せ豆腐指数」という数値で送らせていただきました。これに、体感気温や天気の情報も加え、これらのデータをもとに生産調整をしていただきました。その結果、2015年には需要予測精度が30%向上し、食品ロスを削減することができました。

季節商品「冷やし中華つゆ」の在庫を約20%削減

ミツカン様にご協力いただき「冷やし中華つゆ」でも実証実験を行いました。冷やし中華つゆは、特定の季節に需要が集中する商品です。7月〜8月に売上が伸びますが、秋になると一気に減っていき、最終的にはゼロになります。したがって、最終生産の後、売れ残った商品はすべて廃棄せざるを得ません。

そこでまず解析しました。下のグラフの黒い線が実際の売上、赤い線は私たちの解析値、青い線は気温だけを考慮した予測値です。グラフを見てわかるように、売上の上昇時は気温だけでほとんど説明ができます。しかし、売上の下降時は気温との関係性がかなり薄れてしまいます。売上減少時の予測は難しいという話も伺いました。

先ほど紹介した人間の気温に対する慣れを数値化する「体感気温」を使わせていただき、解析に利用しました。これにより精度を向上させることができました。この決定係数は0.97、すなわち売上の97%を気象で説明可能という結果が出ました。以前は決定係数が0.59だったので、気象で説明できない部分が約4割もあったことになります。それを3%にまで減らすことができたわけです。実際にオペレーションに利用した結果、2015年に在庫を20%弱削減することができました。

「飲料」のモーダルシフトを可能にした2週間予測

3つ目は飲料の実証実験です。ネスレ日本様と川崎近海汽船様にご協力をいただきました。

飲料の特徴としては、需要変動が大きく、在庫と物流最適化が重要だということが挙げられます。これまでネスレ日本様では、気象庁の1週間予測を利用してオペレーションを行っていました。関東から北海道あるいは九州へ荷を運ぶ場合、できれば船で運びたいところですが、1週間予測では意思決定が間に合わない場合があります。

私たちには、気象庁よりも精度の高いヨーロッパの気象予測データを使うことで、2週間の気象予測が可能であることがわかっていました。そこで、このデータを利用して、トラックから船へと輸送手段を変える「モーダルシフト」実現のお手伝いをさせていただきました。

実際に2週間予測により意思決定を早めることができ、モーダルシフトを推進することができましたが、経済運行にも貢献させていただきました。関東から九州に船で荷を運ぶ場合、西から東へ流れる黒潮の影響を受けます。私たちは気象だけでなく海流の予測も行っているので、黒潮が流れている海域を割り出し、どの航路を通れば最も燃料を節約できるかを予測しました。これにより経済運行も実現し、モーダルシフトと両方で二酸化炭素排出量を48%削減することができました。この取り組みには、「物流環境大賞」受賞という高い評価もいただきました。

プロジェクト最終年となった平成28年度も、新たな実証実験に取り組んでいます。その成果についても、ご報告できる機会が持てることを願っております。

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