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【福祉・介護コラム】 2024年度介護報酬改定の「改定率」は?

2023/9/25 [福祉,コラム]

今回の福祉・介護コラムは、2024年度介護報酬改定の「改定率(現段階での予測)」について、東洋大学にて教鞭をとっていらっしゃる高野先生に執筆いただきました。医療ソーシャルワーカー、高齢者分野の社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)をされていらっしゃったご経験、教育者としての視点を基に独自の視点で執筆いただきます。

介護報酬の改定率

介護サービス事業者・施設の経営者や介護従事者が最も気になる介護報酬の改定率については、前回のコラムで「一番気になる介護報酬の改定率については、12月時点での社会経済情勢や政治情勢に影響されます」「現時点で予測をするのはなかなか難しいと思います」と述べました。

しかし、介護サービス事業の経営や実践を最も左右するのがこの改定率ですので、予測がなかなか難しいとは言え、周辺の情勢から検討を加えてみたいと思います。

過去の改定率と診療報酬(本体)の改定率

私は、医療経済学分野の著名な研究者から「介護報酬改定率は、直近の診療報酬(本体)改定率と関係があるようにみえる」と言う話をうかがいました。そこで、2002年以降の介護報酬改定率と診療報酬改定率を図に示してみました。診療報酬については、全体・本体部分・薬価と3つに分け、診療報酬本体と介護報酬の改定率を太線で表しています。

ご存じのとおり、介護報酬は原則として3年ごと、診療報酬は原則2年ごとに改定されます。その概要をあらためてグラフに示してみると、私が聴いた研究者の話に納得させられます。イレギュラーな事態が起きた改定(たとえば、2015年に介護報酬が大幅に引き下げられた時など)以外は、その上がり方・下がり方は概ねよく似ていると言ってもよいでしょう。

そうだとすれば、2024年の介護報酬の改定率は、診療報酬の「+0%台の半ば」という最近の動きと同水準と予測してよいのかも知れません。さらに、直近・2022年の診療報酬(本体)の改定率は+0.43%ですから、この前後が妥当なところではないかと考えられます。

経済情勢から考える

しかし、介護報酬の改定は、そのときの政治・経済情勢にも左右されます。

まず、経済情勢について言えば、わが国の政府・自治体の財政状況はコロナ禍によって大幅に悪化しています。バブル崩壊以降、わが国の政府の財政は悪化し、債務(公債)が累積されています。
そのうえ、2020年度から2022年度は、新型コロナ感染症への財政的対応のため、例年は年間100兆円前後の歳出が140兆円ほどに膨らみました。その大部分は国債で賄うほかなく、ますます債務が累積される事態となっています。

介護保険の保険給付の半分は公費(税財源)ですから、このことは介護報酬の改定に際しては強い「向かい風」を及ぼすこととなります。

また、わが国のGDP(国内総生産)は、2017年度から2019年度にかけて年間550兆円を超える水準を示していましたが、それもコロナ禍によって2020年度は527兆円ほどに落ち込み、マイナス5%ほどの「経済成長縮小」となりました。これはリーマンショック期以来の事態です。2022年度時点でもGDPがまだ540兆円台にとどまっており、コロナ禍前の水準に回復していません。

介護保険の給付の半分は保険料で賄われますが、このような経済情勢は、国民や企業の保険料負担を増やす政策を実行しにくくさせることになり、介護報酬改定にはこれも「向かい風」となります。

その一方、介護報酬は「介護サービスの提供に係る平均的な費用を勘案して厚生労働大臣が決定する」ことを前回のこのコラムで説明しましたが、その「費用」に大きな影響を及ぼしているのが、2022年初頭以降の物価高騰です。

消費者物価指数でみると、2020年の物価の平均を100としたとき、2023年1月には104.7に、7月には105.7に上昇しています。このことは、介護サービス事業者のサービス提供に係る費用(経費)を上昇させ、経営を悪化させていることを客観的に示す数値となります。

このことは、介護報酬をプラス改定に促す「追い風」となる動向と言えます。

「全世代型社会保障」との兼ね合い

つまり、経済情勢からみると、介護報酬改定には「向かい風」が強いものの、物価高騰という「追い風」ももたらされているわけです。ここに政府の賃金水準向上の政策も加わり、公定価格=介護報酬を押し上げる力も加わるとみて良いでしょう。

これらの動きを複雑化させているのが、政府の重点施策である「全世代社会保障」です。これは、子ども・子育て世代のための社会保障を充実させ、少子化対策を行うために「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心であったこれまでの社会保障の体系を見直す」「高齢者にも相応の負担を求め、子ども・子育て世代への給付を増やす」「(債務などの)負担を将来世代に求めることを極力避ける」といったフレーズで説明されています。

高齢者介護・高齢者医療に軸足を置きながらこの議論を俯瞰すると、社会保障全体の費用を増やすという議論とコンセンサスのないなかで「全世代型社会保障」を推進しようとすれば、高齢者介護・医療の給付を見直す(抑制する)ことでしか現役世代のための給付の財源を確保する方策は見当たりません。

このことと、前述の経済情勢を勘案すれば、年末に決まる介護報酬の改定率は、「マイナスとはならないとしても、さほどにプラスになることも期待できない」といったとことが現実的な予測となるように考えられます。

こうした見通しを、次年度以降の介護サービスの経営・実践に活かしていただきたいと思います。

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東洋大学 ライフデザイン学部 准教授 高野 龍昭 氏

東洋大学
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