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【福祉・介護コラム】 「生産性向上委員会」の設置と運営 〜介護サービス事業所・施設等の新たな義務〜

2024/4/12 [福祉,コラム]

今回の福祉・介護コラムは、介護の実践現場において求められる生産性向上への取り組みについて、東洋大学にて教鞭をとっていらっしゃる高野先生に執筆いただきました。医療ソーシャルワーカー、高齢者分野の社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)をされていらっしゃったご経験、教育者としての視点を基に独自の視点で執筆いただきます。

「生産性向上」とは

今回の介護保険制度改正・介護報酬等改定の主要なポイントのひとつは「生産性向上」です。生産年齢人口の減少が今後さらに加速することを踏まえ、介護保険制度の持続可能性を高めるために、こうした議論が進められてきました。介護の現場実践・経営に生産性向上はそぐわないという意見も根強くありますが、現実的な問題として、これに取り組まない事業所・施設は、遠からず事業の継続が危うくなることは間違いありません。

この生産性向上について、介護の実践現場ではネガティブに「省力化・合理化」「将来的な人件費の節減」ととらえる穿った意見もありますが、それはまったくの見当違いです。実際、今回の制度改正・法改正の元となった審議会の意見(社会保障審議会介護保険部会『介護保険制度の見直しに関する意見』2022年12月20日)では、介護における生産性向上を「限られた資源のなかで、ひとりでも多くの利用者に質の高いケアを届けることを目的とした取り組み」「業務の見直しや効率化等により生まれた時間を有効活用して、利用者に向き合う時間を増やすなど、個人の尊厳や自立の支援につながるケアの実現を図ることに資するもの」と定義づけています。

ここで定義づけられたことを実現していく取り組みこそが、介護の実践現場において求められる生産性向上の本質だと言って良いでしょう。そのうえで、生産性向上のための手段がICT化であったり、いわゆる介護助手の導入の取り組みであったり、業務マネジメントによる「5S」の取り組みなどである、と理解することが必要です。

「生産性向上委員会」とは

同じ審議会意見では、「介護事業所において、生産性向上に向けた取組は未だ一部の事業所にとどまることから、業務改善を恒常的に実施できる取組の在り方や業務改善を推進する人材の育成など、更なる普及策について早急に検討することが必要である」「その際、個々の事業所レベルでは、経営層の示す方針の下に、現場と一体となって推進することが重要であることを、改めて周知・啓発することが必要である」と示されています。

この意見がもととなり、今回の介護報酬改定と同時に見直される事業所・施設の運営基準のなかに「利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会」の設置が義務付けられることになりました。少し長いこの委員会の名称を、私は勝手に「生産性向上委員会」と言い換えて呼んでいます。

この委員会設置が義務付けられるのは、次のサービス種別であり、3年間の経過措置(2027年3月31日まで)が設けられています。

  • 短期入所系サービス(短期入所生活介護・短期入所療養介護)
  • 居住系サービス(特定施設入居者生活介護・認知症対応型共同生活介護)
  • 多機能系サービス(小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護)
  • 施設系サービス(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院)

生産性向上委員会の実際

この委員会の設置・運営は経過措置期間が設けられているとは言え、今回新設された「生産性向上推進体制加算(T)(U)」の算定要件にも含められており、この算定にあたっては必須のものとなっています。この意味では重要な取り組みであり、早めに実働を図った方が良さそうです。

そこで、厚労省から発出された省令・通知などをもとに、この委員会の運営で求められるポイントを解説してみます。

まず、委員会のメンバーは、管理者だけでなく、ケアを行う職員を含む幅広い職種やユニットリーダー等の参画が必要であり、3ヶ月に1回以上の開催が求められます。なお、個人情報保護に適切な対応を行うことを条件として、テレビ電話装置等を活用して開催することも認められます。

また、委員会での検討事項は以下の4点が定められています。

(1)利用者の安全及びケアの質の確保について

①見守り機器等から得られる利用者の情報をもとに、職種間の連携を図り、見守り機器等の導入後の利用者等の状態が維持されているか確認する
②利用者の状態の変化等を踏まえた介護機器の活用方法の変更の必要性の有無を確認し、必要な対応を検討する
③見守り機器を活用する場合、安全面から特に留意すべき利用者については、定時巡回の実施についても検討する
④介護機器の使用に起因する施設内で発生した介護事故またはヒヤリ・ハット事例等の状況を把握し、その原因を分析して再発の防止策を検討する

(2)職員の負担の軽減及び勤務状況への配慮について

職員に対して、アンケート調査やヒアリング等を行い、介護機器等の導入後における次の@からBまでの内容をデータ等で確認し、適切な人員配置や処遇の改善の検討等を行う。

①ストレスや体調不安等、職員の心身の負担の増加の有無
②職員の負担が過度に増えている時間帯の有無
③休憩時間及び時間外勤務等の状況

(3)介護機器の定期的な点検

次の①と②の事項を行う。

①日々の業務の中で、あらかじめ時間を定めて介護機器の不具合がないことを確認するなどの不具合のチェックを行う仕組みを設ける
②使用する介護機器の開発メーカー等と連携し、定期的に点検を行う

(4)職員に対する研修について

介護機器の使用方法の講習やヒヤリ・ハット事例等の周知、その事例を通じた再 発防止策の実習等を含む職員研修を定期的に行う。

まとめ

この委員会の設置・運営については、「これまでもいろいろな委員会の設置が義務付けられてきており、さらに業務負担が増大する」「生産性向上を無理矢理にでも促すつもりなのか」といった声がありますが、前述の(1)から(4)の内容を見る限り、この委員会では、生産性向上を図っていく際に確認・検証をしなければならないことが網羅されているように思われます。まさに業務マネジメントのために必須の事柄をチェック・検討するものと言えます。

それぞれの事業所・施設でこの委員会の運営を早く軌道に乗せ、生産性向上推進体制加算の算定につなげるなどの取り組みを進めていただきたいと思います。

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東洋大学 ライフデザイン学部 准教授 高野 龍昭 氏

東洋大学
ライフデザイン学部 准教授
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