日田市立咸宜小学校

地産地消、地場産業を活かした純木造校舎。


歴史・伝統に小さな頃から触れる。内装から構造材まで全て木材を使用。

日田杉で知られる日田市に位置する咸宜小学校。江戸時代、性別や身分を問わず塾生を受け入れた、廣瀬淡窓の私塾「咸宜園」の伝統をくむ学校です。旧校舎の老朽化に伴い、日田杉などを使用した純木造校舎に建て替えられました。内装だけでなく、構造材にもすべて木材を使用した全国的に見ても、めずらしい校舎です。特注品ではなく住宅用に加工された木材を転用することで地場産業の活性化、地産地消などに役立ち、コストを抑えることにも成功しています。
ほかにも純木造校舎が採用されたのには、歴史的な古い街並みを残す場所として知られる地域(豆田地区)に馴染む、子どもたちに早くから本物に触れてもらうなどの意図があります。内田洋行は、この校舎に馴染むよう、ロッカー、下駄箱、掃除用具入れなどの造作家具を納入。子どもたちの物を大切に扱う心の育みに、一役買っています。

玄関からすぐは、吹き抜けになっていて、風も通りやすい。天窓から差し込む光が、木造校舎の心地よさをさらに引き立てている。

太く見えている柱は、住宅用の木材を組み合わせて作られたもの。特注品を製作することは業者にとっても負担になるので、この方法が採用されている。

木材で作られた靴箱。整然と並べられた靴は、撮影のためにそろえたものではなく、指導により子どもたちが自主的に並べているもの。咸宜園の伝統がここにも受け継がれている。

純木造校舎は二階建て。隣にRC 4階建ての校舎も新築され、すべての工事が終了するのは2013年度だ。

清掃の終わりに、子どもたちは廊下に集まり正座をして静かに待つ。指導するのは5・6年生の子どもたちだ。

教室の外に掲げられているネームプレートは、咸宜の「宜」のウ冠をかたどったもの。教室を「家」のように感じて欲しいという意図もある。

机とイスは、地元の日田杉を使用したオリジナル製品。市内の公立小・中学校に導入されている。

純木造校舎のメリットを教えてください。

木の香りのする校舎は、子どもたちの精神安定につながっていると思います。私たち大人も、木の香りは落ち着きますからね。
私たちは咸宜園の伝統から、清掃の前後に廊下で正座を行う「拾薪清掃(じゅうしんせいそう)」を行っています。旧校舎でも、子どもたちは一生懸命清掃してくれていましたが、木造校舎になってからは、さらに丁寧に清掃してくれています。木は傷つきやすい素材ですが、道具なども、子どもたちは先生に注意されることなく、自主的に大切に扱ってくれるようになりました。
日田は盆地なので、冬は寒く、夏は暑い場所です。旧校舎では結露がひどかったのですが、純木造になってからは過ごしやすくなりました。完成してから、視察にこられる関係者の方も多く、純木造校舎の注目度は高いのだな…と驚いています。

中塚 雄二 教頭
日田市立咸宜小学校

日田市立咸宜小学校
明治6年に創立。時代とともに合併分割を繰り返し、昭和54 年に咸宜小学校と改称。
廣瀬淡窓の咸宜園の塾風を継承する由緒ある学校として知られている。
詳しくは: http://syou.oita-ed.jp/hita/kangi/
(2011年10月取材。所属や名称、掲載内容は取材当時のものです。)