世田谷教育委員会

教育現場の先生方に聞くICT支援員の役割と期待

写真左から 世田谷区教育委員会 井元 章二 氏、世田谷区立 深沢中学校 校長 佐野 晴子 氏、世田谷区立 深沢中学校 教務部 研究主任 深沢 享史 氏

独自の教育改革「せたがや11+」を推進している世田谷区。子どもたちが学ぶことと人生や社会とのつながりを実感しながら、主体的に進むために必要な資質・能力を育てるための新しい教育を目指しています。その実現に不可欠なのがICTの活用です。内田洋行では、ICTの活用をサポートするため、世田谷区の要望を受けて2019年10月に3名のICT支援員を派遣。以降も順次増員を重ね、区立の全小中学校90校を定期的に訪問しています。

ICT支援サービスの背景と概要
教職員のICTスキルを向上し学びのスタイルの転換を目指す

世田谷区独自の教育理念「せたがや11+~キャリア・未来デザイン教育~」では、教育の質の転換、誰一人置き去りにしない教育の推進、子どもたちの学びを支える環境の整備を3つの柱としています。

「それにはICTの活用が不可欠です」と教育委員会の井元章二氏は強調します。
世田谷区では、教育の質的転換を効果的に実現するツールとして、2020年11月から順次、児童・生徒1人1台環境に向けてタブレット型情報端末を配備。

学校に高速大容量通信ネットワークとクラウド環境を導入し、学びを支える環境を整備しました。
「ただし、単に授業にICT機器を取り入れるだけではなく、ICT機器を効果的に活用して探究的な学び(知的好奇心や探究心を生かした学習)や協働的な学び(地域や社会と積極的に関わる学習)、個別最適な学び(児童生徒の特性を活かす学習)へと授業や学びのスタイルを転換していくことが教育の基本方針です。それによって、児童生徒が変化に柔軟に対応したり、未来への活路を見出すための資質・能力を育成していくことができるようになると考えています」(井元氏)

ICT機器は、世田谷区が目指す教育の姿を実現していくための強力なツールとなりますが、現場の先生方が十分に使いこなせなければ新しい教育は実現できません。そこで世田谷区ではまず、2019年10月にICT支援員(3名体制)を配置し、教職員のICTスキルの向上を図り、分かりやすく効果的な授業を教職員が行えるようになることを目指しました。

当初は、教育委員会が選定した拠点校3校を週3回訪問し、先生方へのタブレットやアプリ操作のサポート、デジタル教科書を使った授業の支援、不具合が発生した機器の切り分けなどを行いました。その経験を基に授業事例を作成し、支援員を通じて他校への展開を進めていきました。

2020年4月よりICT支援員の訪問は準拠点校15校に拡大、拠点校で実施していたICT活用の授業内容を、準拠点校の先生にも共有しながらICT活用のアドバイスを実施。さらに訪問を希望する学校へと対象が拡大していきました。合わせてICT支援員の増員も図られ、2021年4月からは12名に増員となり、現在では区立の小中学校全90校について、月2回程度の訪問を行っています。

お客様インタビュー
ICT支援員と一緒になって今後の授業づくりを考えたい

世田谷区教育委員会 井元 章二 氏

ICT支援員を配置した成果について、井元氏は次のように語ります。

「児童生徒が文房具の一つとしてICTを使いこなせるようにサポートしてもらっています。また、先生方もICT機器の設定や使い方に手間取らなくなり、児童生徒に対して、個別に対応する時間をしっかり取れるようになったことも大きいですね。コミュニケーションを深めることもできますし、個別最適な学びのサポートにも貢献してくれています。」
授業スタイルの変化も見られるようになってきました。先生が説明する時間を短くして生徒が主体的に考える時間に充てるケースが増えています。
「ICT支援員のサポートを受けて、先生自ら機器を使って説明する内容を動画でコンパクトにまとめるなど、教材作りにもアドバイスが役立っているようです」(井元氏)

生徒自ら好奇心を持ち主体的に学んでいく「探究的学び」を促進するため、タブレット端末のフィルタリングは最低限のものにしているといいます。
「生徒がせっかく関心を持ちアクセスしても、表示できないと意欲が失われますから」ある学校の社会科の授業では、ICT支援員のアドバイスを受け、Google Mapのバーチャル体験により自分の街を知るという授業を実施しました。

「いつもの視点と違う、俯瞰的に自分の街を見ることで新しい発見、気付きを得たようです。それをまとめ発表の場を設けて生徒同士で共有すると、新たな興味につながる。また、発信することの面白さを感じて、発表方法も工夫するようになるなど、主体的な学びが進んでいきます」(井元氏)

世田谷区では、推進する「新しい教育」がどのように学びを変えるのかを保護者に知ってもらい、タブレットの効果的な使い方を一緒に考える機会として、教育委員会主催の保護者向けオンラインセミナーを2021年5月15日に開催しました。

「セミナーには1400名が参加しました。さらに、YouTubeでも配信したところ9000を超える視聴があるなど、関心の高さが伺えるものでした」(井元氏)

最後に、今後「新しい教育」を推進していく上で、ICT支援員への期待を井元氏にお聞きしました。
「はじめは環境の整備を中心にサポートをお願いしましたが、それが落ち着くと先生方の要望はICT機器やアプリの活用方法に移りました。これからは、生徒の学びを深めるためのアイデアを期待しています。新しい教育スタイルや授業づくりのためのアドバイス、ノウハウを提供してもらい、一緒になって授業を創っていければと考えています」

Zoom配信のトラブルでICT支援員の存在を強く認識

深沢中学校は昨年度からICT支援員が派遣されてきましたが、ICT支援員の活動で特に助けられていることはありますか。

世田谷区立 深沢中学校 校長 佐野 晴子 氏

佐野校長:本校は昨年度(2020年度)に1人1台環境が整い、現在では多くの授業でタブレット端末が活用されています。 ICT支援員の方にはこれまで様々なサポートを受けてきましたが、特に存在の大きさを感じたのは昨年9月の土曜日に行われた生徒会役員の選挙でした。

コロナ禍のため、世田谷区のガイドラインに従って3年生のみ会場に集まり、1、2年生は教室でZoomで配信された演説会の様子を見て投票するという流れになっていました。しかし、1年生の一部の教室への配信がうまくいかずボツになり、月曜日に持ち越すことになったのです。担当された先生はそれがトラウマになるほどで、その時、ICT支援員さんがいれば、こんなことにはならなかったと強く思った出来事でした。

その後は、毎月の朝礼、生徒会の朝会をいかにスムーズに配信できるかをICT支援員さんに検討してもらい、色々と提案をいただきました。その結果、本校専用のチャネル(深沢チャネル)を開設し、Zoom経由でケーブルテレビのように校内配信ができる仕組みを整えてもらいました。今では保護者会や学校運営委員会、PTA共催の行事などにも、校内配信の仕組みを活用しています。

朝礼の様子

朝礼の様子

ICT支援員の存在は、大きな安心感につながりますので、大きな行事の際にはスケジュールを調整してもらって支援をしていただいています。昨年度の卒業式も1、2年生は教室参加での実施でしたが、無事に行うことができました。体育祭も保護者の方が校内には入れないため、生配信しました。その意味でも、学校全体を支えてもらっている存在です。

生徒総会の様子

生徒総会の様子

授業でのICT支援員の具体的な活動内容はどのような感じでしょうか。

深沢先生:タブレット端末の導入に合わせて授業支援ツールのロイロノート・スクールが導入されましたが、まず、その教職員研修をサポートしてもらいました。その後の授業の支援も受けています。
学校のICT活用が難しいのは、知識や操作にレベルの差があることです。学年横並びでスタートしようという時に、ICT支援員の方がそばにいてくれることはとても助かりました。
当初は全クラスに入ってもらうことを前提にスケジュールを調整してもらいましたが、操作等に慣れてきた現在では、1年生のみ全クラスサポートを受けて、他の学年は適時サポートを受ける形に変えています。

佐野校長:ロイロノート、マイクロソフト365、AI型教材のキュビナなど、アカウントの登録・管理についてサポートしてもらったり、一括で管理できるよう環境を整えてもらったのですが、限られた時間の中でかなり効率良く実施していただきました。

深沢先生:アカウント管理が整ったことで、先生は生徒のログイン等のことで時間をとられることなくすぐに授業を始めることができるので、授業そのものに専念することができます。

他校での経験などノウハウを活かした提案に期待

端末の導入時と比べて、ICT支援員が行うサポート内容に変化はありますか。

世田谷区立 深沢中学校 教務部 研究主任 深沢 享史 氏

深沢先生:はじめは操作や設定が中心でしたが、今は先生方の要望も、提出されたデータのPDF化の方法や、機材や教材をどのように使えばよいかなど、活用方法へとシフトしています。コロナ対応で学校としてさまざまな動画を教材としてアップしていますが、その支援もしてもらっています。

教職員研修で役立ったことはありますか。

深沢先生:色々ありますが、例えば、ロイロノートにおける授業の設定に加えて、生徒のデータ管理方法まで落とし込んで話をしてくれたことで、校内での使い方のルールを決めることができました。それにより授業での活用も進んでいるので助かっています。

また、今年度からは各種のアンケートをロイロノートの機能を活用して行う取り組みを進めていますが、それが進むことで、ペーパーレス化や私たち教員の働き方改革にも貢献できるものと考えています。
私自身、研修担当でもあるので、各アプリのさまざまな活用方法を教えてもらえると、参考になることが多く、新たな気付きにもつながります。

数学の授業の様子

英語の授業の様子

世田谷区立 深沢中学校

数学の授業の様子

英語の授業の様子

世田谷区立 深沢中学校

今後、どのような支援を望んでいますか。

佐野校長:不登校の生徒やコロナを気にして登校できない生徒に向けて、当校でも授業のオンライン配信を開始しています。ICT支援員の方は、多くの学校を回ってノウハウを持っているので、効率的な配信方法や、どのように配信すれば効果的かといった提案をしてもらえるようお願いしています。

また、今もZoom配信やICT活用を苦手にしている先生は少なくありません。もし、配信がうまくできないという時に、支援員さんが傍にいて、すぐに助けてもらえるという安心感はとても大きいので、これからもサポートを期待しています。

※2021年7月取材。掲載内容は当時のものです。

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