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セミナーレポート

2019.7.19

自治体職員・教員が“幸福”に働くための『働き方改革』
―風土とツールの改革が導く、これからの自治体・学校の多様な働き方

総務省 ワークライフバランス推進 外部アドバイザー 内閣官房 「霞が関の働き方改革に関する懇談会」 メンバー 厚生労働省 「働き方の未来2035懇談会」メンバー 文部科学省 未来の学びコンソーシアム運営協議会 委員 サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久 氏

総務省 ワークライフバランス推進 外部アドバイザー
内閣官房 「霞が関の働き方改革に関する懇談会」 メンバー
厚生労働省 「働き方の未来2035懇談会」メンバー
文部科学省 未来の学びコンソーシアム運営協議会 委員
サイボウズ株式会社 代表取締役社長
青野 慶久 氏

はじめに

サイボウズは、愛媛県松山市で、3人で始めた会社です。「チームワークあふれる社会を作る。チームワークあふれる会社を作る」を企業理念とし、主に、企業向けのグループウエアや、チームワーク強化メソッドの開発・販売・運用を行っています。

今、働き方改革への関心が高まっています。今年から、働き方関連法も段階的に施行されます。
私が考える働き方改革のキーワードは「幸福」です。これまで、企業は生産性を重視して、社員の幸福度は軽視してきました。しかし、時代の流れは変わってきています。幸福度を上げれば生産性も上がる。それはどういうことか、サイボウズの事例を紹介しながら、お話しします。

サイボウズの働き方改革

サイボウズは、様々な働き方改革を行ってきました。とはいえ「改革をした」というつもりはなく、「多様化をしてきた」と言ったほうが正しいと思います。

当社はもともとITベンチャーですから、徹夜、残業は当たり前。週1回徹夜会議もありました。会社で寝泊まりする人も少なくありませんでしたが、ITベンチャーなのだからそういうものだと思っていました。ところが、離職率が高かった。ITベンチャーなら15~20%の離職率は標準と言われていましたが、あるとき28%を超えました。

離職率が高いと社員を多く募集しなければなりません。採用広告をどんどん出して、面接、内定、採用、そして教育。やっと育ったと思ったら、半年くらいで辞めていく。コストと時間の無駄ではないかと考えました。そこで、経営効率の面から、働き方を見直すことにしたのです。

辞めたいという人、一人ひとりに理由を聞きました。すると、長時間労働が嫌、家の近くで働きたい、友達がベンチャーを立ち上げるので手伝いたい、もっと給料の高い所からオファーがあった、など、それぞれ理由が異なることがわかりました。これは1つのルールでは解決できないと思い、「これからは100人100通りでいく。気に入らないことがあったら言ってくれ。全部はできないが、できることからやる」と宣言したのです。

すると、「残業したくない」「短時間勤務したい」「週3日しか働きたくない」、働くママからは「週1回は在宅勤務がしたい」など、わがままのオンパレード。しかし、やめられるよりましだと思い、すべて受け入れました。中には、「通勤電車に乗るのが嫌だから1日も出社したくない」というのも出てきました。そこで、完全在宅勤務も認めることにしました。他にも「育児休業を子どもが小学校1年になるまで取りたい」「子どもが夏休みに入るので子連れ出勤がしたい」「副業をしたい」など、すべて受け入れました。今も、日々統廃合したり見直しながら、働き方の多様化を進めています。

働き方を変えると離職率が減り、売上は上がった

制度を変えたというより、いろいろな選択肢を足していきました。その結果、離職率が、5%にまで下がりました。IT業界としては大変低い数字で、採用効率はかなりいい状態です。

サイボウズでは、辞めやすい制度も作っています。退社しても再入社できる制度です。たとえば、数年、友達の会社を手伝いたいという社員には、「手伝ってうまくいかなければもどってきていいぞ」と再入社パスポートを渡して送り出しました。自分探しの旅に出る者もいます。

このような話をすると、「そんなことで利益が出るのか。社員が喜んでも、利益が上がらなければ結局みんなに辞めてもらうしかなくなる。利益を上げることのほうが大事」とよく言われます。しかし、徹夜をしながら会社を大きくしようとがんばっていた、離職率が高かった頃よりも売上は、上がっていったのです。

離職率と売上高

2008年にリーマンショックがあり、売上が伸び悩んだことがありました。同じころ、グループウエアの市場に、Googleがクラウドという新しい技術を引っ提げて参入してきました。これはサイボウズのような弱小企業にとっては脅威です。もう終わったと思いました。ところが、社員が「僕たちも、Googleに負けない物を作る」と宣言し、クラウドサービスの開発に着手し始めました。それから売上は急上昇していったのです。

「働き方の多様化で業績が上がる」、そんな単純な話ではないかもしれませんが、自分に合った働き方を選択し、気持ちよく働いているメンバーなら、ピンチになった時には自らアイデア出すのだ、そういう中から次のビジネスチャンスが生まれてくるのだと確信しました。

サイボウズの社員で、副業として農業をやりながら働いている人がいます。週4日サイボウズに出社し、週3日は農業をしています。彼がすごいのは、農地にセンサーを設置し、天候や作物の状況などのデータをkintone(サイボウズが提供するクラウドサービス。簡単な操作で業務管理システムなどのアプリが作れる)にアップして、全国の農家と共有し、品切れが起こらないよう、また値崩れしないよう、適正な出荷計画を立てていることです。これが、総務省のICT地域活性化事例100選に選ばれ、彼は一躍有名になりました。その結果、サイボウズのkintoneの売上も上がりました。
副業を認めたら、社員が勝手に先進事例をつくり、勝手にブランディングをして、お客さんを呼んできてくれたのです。これって、オープンイノベーションと同じですよね。情報をオープンにして、外に出ていくことで、化学反応が起こり、新しい何かが作られていく。

多様な働き方……報酬はどうするのか

在宅勤務や短時間勤務、副業……、これだけ多様な働き方をしていると、給料はどうしたらいいのでしょうか。
サイボウズでは、社員同士を比較するのをやめました。比較するのは社外です。もし社外に転職したらいくらもらえるか、転職市場を目安にしています。もちろんそれだけではなく、勤続年数や能力、成果、いろいろ見た上で、決めています。新卒の給料にも差をつけます。大学時代からプログラマーとしてばりばり稼いでいるような新入社員は当然高くなります。もし納得いかなければ交渉してねと言っています。こうすることにより、社員は、自分の市場価格はいくらだろうと外に意識がいくようになりました。

働き方改革は経営戦略のレベルで重要

現在、サイボウズの社員のうち女性は4割です。産休後の復帰率は100%。GPTWジャパンによる「働きがいのある会社ランキング」では、中規模部門で今年(2019年)、第2位となりました。

働き方改革は、単に社員のためだけでなく、よい人材を確保し、企業の競争力を高めていく=経営戦略のレベルで重要になっています。しかし、まだ気づいていてないトップも多いです。

働き方改革に必要な3要素は、制度、ツール、風土です。この3つすべてが大事で、制度だけ変えたら組織が変わる、という簡単な話ではありません。
在宅制度を導入しても、パソコン、セキュアな環境、クラウドなどのツールがないと働けません。風土も重要です。「在宅勤務をする人はやる気がない人だから、給料は上げなくていい」と思う人が一人でもいると改革は難しい。価値観の入れ替えまでしないと無理です。そのためには、トップのマインドから変えなければなりません。

働き方改革を成功させる2つのポイント

サイボウズの今の仕組みがうまくまわるためには、「公明正大」と「自立と議論」の風土が不可欠です。公明正大とは嘘がないこと。たとえば、寝坊したときに、「寝坊したので遅れます」と言っても許されるが、「電車が遅れました」と嘘を言うことは許されません。小さな嘘でも、一度不信感が募ると、もう、多様な働き方は成り立たなくなります。
また、多様・自由であるということは、自分で選ぶことが求められ、自らの選択・行動に責任が生じます。問題が起こったときは、建設的な議論をして、解決する。これが「自立と議論」です。

サイボウズでは、会議があれば議事録を即日公開しています。社員はそれに対し、質問責任があります。疑問や不満があれば、質問せよ、意見を出せ、陰で言うな、後で文句を言うな、というルールです。

当社のように、社員の要望をすべて聞き入れていたら「ぶらさがり社員が出てくるのでは?」という声も聞かれます。

すべての制度には目的があります。サイボウズの場合は、「チームワークあふれる社会を創る。世界で一番使われるグループウェアメーカーになる」が目的です。社員にラクをさせるための制度ではありません。

たとえば、以前、営業担当の社員から、外回りのときのコーヒー代を負担してほしいという要望がありました。最初は呆れたのですが、その社員の、「よい仕事をするために1分も無駄にしたくない。出先で時間が空いたときにはスタバで仕事をしたい。それは会社の利益のためにもなる」という主張に納得し、コーヒー代を負担することにしました。しかし、サンドイッチ代まで負担しろ、といったらそれは違う。権利を主張するのではなく、目的と照らし合わせて考える、という意識を徹底すれば、ぶらさがり社員は出て来ません。

トップが変わると風土が変わる

私は本来、育メンではありませんが、率先垂範だと思い、2週間だけ育児休暇を取得しました。時短勤務も利用し、上の子どもの保育園のお迎えにも行きました。社長自らが堂々と4時に退社するようになり、社内の空気が変わりました。それまでは、保育園のお迎えのために、申し訳なさそうに退社していた人が気軽に「お先に失礼します」と帰れるようになった。今では、育休を取らない男性のほうが少なくなりました。

育休を取得したことで、育児の大変さを知りましたし、多くのことを学びました。最初は、わずかな離乳食を食べさせるのに30分もかかり、「子育てとはなんと効率の悪いことか」とイライライしていたのですが、あるときふと、「この子が20年後大人になるとしたら、未来の客だ」と気づきました。このとき、育児と経済がつながった。育児をすることで、次の働き手が生まれ、次の市場が生まれる。育児をしない社会は、商売できない社会です。育児は社会のインフラとも言えるのではないか。

育児を知る前の私は会社人、つまり、会社について詳しいだけの人でした。今、ようやく社会人、つまり社会について詳しい人になれたと思っています。社会とは、子ども、お年寄り、企業、自治体、地域コミュニティ、医療も教育も含まれます。

様々な社会問題を解決することが企業の存在意義です。育児経験を経て、私は昔より視野が広い人間になれました。これまでは、会社を成功させることばかり考えていましたが、今は、社会問題を解決するために、事業を考えられるようになりました。

育児にコミットするようになって困ったのは、労働時間が半減したことです。これでは今までの仕事量をこなせないと悩みました。その結果、個人戦はやめよう。僕の仕事も分担しよう。私宛てのメールもメンバーに共有し、スケジュールも公開しよう。他の人に助けてもらうようにしました。個人戦をやめチーム戦に切り替えたのです。

今は、営業職も、訪問先、商談内容をすべて公開し、連携プレーで営業するようになりました。

石垣を作るように、個性を活かす

これからの組織は、ばらばらの石で石垣を作るように、個性を活かすことが大事です。これまでの組織は、1個1個の石を同じ形にそろえようとしていました。子育てや介護で仕事に制約がある人は、これまでは使いにくい人と思われてきましたが、組み合わせればうまくいく。とがった石も大歓迎です。

働き方改革によって、ブラックな職場からホワイトな職場に変わる、ではなく、カラフルになればいいと思っています。そのためには、何が必要でしょうか。
「公平」を挙げる人もいるかもしれませんが、私は敢えて否定したい。公平は幸福ではありません。「公平」はときとして不幸を生みます。公平よりも「幸福」かどうかを重んじたほうがいい。

「わがまま」はどうか。私は、わがままは悪ではないと思っています。わがままはモチベーションの源泉です。わがままが組織の目的と重ね合わされば組織の進化につながります。

経営者と現場の人とのすれ違いは、どうして起こるのか。
経営者は、生産性を基準に物事を考える。現場の人は幸福度に基づいて考える。話がかみ合っていないのです。

「働き方」の問題は様々

経営者の方は、働き方改革を考えるときに、ぜひ、生産性向上ではなく、幸福度向上のためにどうするかという視点で考えてほしい。すると、多様な働き方にせざるを得ません。個人戦ではなく、チーム戦にせざるを得ません。そのためには、業務を見える化し、全体最適させるしかありません。それが結果的に、生産性向上につながるのです。

働き方改革は、まず、幸福度の向上、次に生産性の向上の順番に行うべし。逆ではうまくいきません。

ボトルネックはビジネスモデルにあるのかも

「多様な働き方」など無理、という場合、ボトルネックはビジネスモデルかもしれません。たとえば、ネットでいつでも買い物ができる時代に、24時間営業や、初売りなど、本当に必要でしょうか。1月2日にお店を開けるからみんなが忙しくなる。

365日無休だったラーメンチェーン店の幸楽苑は、売上は2億下がるが働く人の幸福度を重視して、大晦日と元旦を休業日とすると発表しました。これは2億円事件とも呼ばれ、大変話題になりました。その後、追随する外食チェーンが増えています。初売りをやめる店舗、定休日を設けるホテルも出てきました。日本郵便は土曜の配達をやめると発表しました。流れは確実に変わっています。

日本は、従順に働く従業員を量産する時代から、自分らしく生きることで効率と幸福を両立する時代へ変わりつつあるのです。ただ、もっと急ぎたい。社会が抱える課題は山積しています。

働き方改革の本当の意味とは

働き方の多様化によって、一人ひとりの異なるモチベーションを引き出すことができます。個人プレーをやめ、業務をチーム化すれば、個性を活かした強い組織を作ることができます。
働き方改革は、単に、社員をラクさせるためのものではありません。社員が働きやすい環境を作ることで企業の生産性を高め、クリエイティブな業務にシフトするための重要課題なのです。

総務省 ワークライフバランス推進 外部アドバイザー
内閣官房 「霞が関の働き方改革に関する懇談会」 メンバー
厚生労働省 「働き方の未来2035懇談会」メンバー
文部科学省 未来の学びコンソーシアム運営協議会 委員
サイボウズ株式会社 代表取締役社長

青野 慶久

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。
大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。
2005年4月代表取締役社長に就任。
2018年1月代表取締役社長 兼 チームワーク総研所長(現任)社内のワークスタイル変革を推進し離職率を7分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。
また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。
総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。
著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)がある。