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セミナーレポート
2019.12.10

働き方改革を推進する鎌倉市の取組
“行政手続きオンライン化”と“テレワーク”が作る新しいライフスタイル

鎌倉市行政経営部行政経営課 担当課長 橋本怜子氏

鎌倉市行政経営部行政経営課 担当課長 橋本怜子氏

全国初、「鎌倉市くらしの手続きガイド」を導入

鎌倉市では、市民サービスの向上につながるICT活用の取組の一つとして、“行政手続オンライン化”に取り組んでいます。一般的に、行政のホームページは見づらいものが多く、手続の際にどのページを閲覧したらいいのかわかりづらいことが多いようです。そこで、鎌倉市では、転入、転居、転出、結婚、出生、離婚、氏名変更、死亡という8つのライフイベントに関して、個人の状況に応じた手続内容や必要な書類等の情報をウェブ・スマートフォン上で案内する「鎌倉市くらしの手続きガイド」の運用を2018年11月21日より開始しました。このようなガイドの導入は、鎌倉市が全国初となります。

鎌倉市 くらいの手続きガイドサイト

オンライン上で必要な手続が明確に。書類作成、印刷も

たとえば、転入手続をしたい人は、「転入」をクリックし、画面に表示される指示に従って質問に答えていくと、その人の事情に合わせて必要な手続や、どの窓口に行けばいいか、必要な持ち物などが表示されます。「せっかく会社を休んで窓口に行ったのに、印鑑が足りなかったために手続ができなかった」といったことを未然に防ぐことができますし、次にどんな手続が必要かもわかるので予定が立てやすくなります。
鎌倉市の公式LINEから「くらしの手続きガイド」にアクセスした場合には、この情報(質問に答えた後表示される自分に必要な手続等)を、LINE上でいつでも見ることができます。

鎌倉市LINE

これに加え、現在、オンライン上での書類作成・印刷機能について実証実験を行っています。
「鎌倉市くらしの手続きガイド」から「書類作成」の画面を開き、住所、氏名、電話番号などの情報を入力すると2次元バーコードが生成されます。これを持って市役所に行き、タブレットに2次元バーコードをかざすと、すでに入力した基本情報が印字された状態で書類が印刷され、住所・氏名を何度も書く手間が省けます。

オンライン上での書類作成・印刷機能についての実証実験中

導入から数カ月で高い利用率

「鎌倉市くらしの手続きガイド」の運用は、2018年11月21日のスタート以来、アクセス数は月1,000~1,800件。実際のライフイベントの手続発生件数は月約1500件ですので、かなり利用されていると言えます。アクセス数の多い順で見ると、転入、死亡、転居、転出、出生、結婚、離婚、氏名変更の順となっています。

画面の遷移率、つまり、トップ画面から結果画面までたどりついている割合は約60%。これは、一般的なウェブサービスと比べかなり高い水準です。

成功の秘訣はトップダウン

「鎌倉市くらしの手続きガイド」の導入は、GovTech分野のベンチャー企業と契約し行いました。鎌倉市はもともと、PubliTech(パブリテック)といって、行政へのテクノロジー活用を目指してきました。
「鎌倉市くらしの手続きガイド」の導入の成功要因は、一つには、市長のトップダウンで行われたことにあります。次に、新規開発ではなく、すでにあるサービスを活用したこと。どんなことができるサービスかを事前に見ることができ、それを鎌倉市に合わせてカスタマイズしたため、作業がしやすく、また現場の理解も容易に得られました。また、導入しても、これまでの業務プロセスは変えなかったため、現場からも抵抗感なく受け入れられたのだと思います。

課題としては、効果測定が難しいことです。たとえば、導入によって、手続に関する問合わせの電話が減ったかどうかは、目的別に電話の本数を調べているわけではないので厳密には測定ができていません。ただ、「鎌倉市くらしの手続きガイド」へのアクセス数は伸びているので、一定の効果はあったと判断しています。

今後の展開は、実証実験の結果なども踏まえて判断していきたいと考えています。

鎌倉市が目指すテレワーク

鎌倉市が目指すテレワーク

「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」の発足

鎌倉市は、観光地というイメージが強いですが、実は東京まで電車で1時間ほどという立地にあり、鎌倉から東京に通勤している人も多いです。しかし、若年層では、就職や進学を機に鎌倉市から転出する人が少なくありません。それは、満員電車に乗って東京に通うことが障壁になっているのではないか、その解消が課題の一つです。また、鎌倉の知名度や豊かな自然環境など、観光地としてのイメージも生かしつつ、新しいワークスタイルを創造し、発信することで、クリエイティブな人材を集積し新しい経済圏を作っていきたいと考えています。そんな思いを込めて、2018年11月に、「鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会」を発足しました。企業や個人に参加してもらい、講演会やイベントを開催し、テレワークに関する周知啓発や、情報発信を行っています。
同時に、「先ず隗より始めよ」ということで、市長が、鎌倉市役所において「今年度内に、課長以上のテレワーク、3年後までに一般職員に対象を広げたテレワーク環境を整え、健康経営を推進する」と宣言しました。そして、実際に、管理職のテレワーク制度を、2018年度末に試行導入、2019年8月には本格的に運用を開始しました。

テレワークというと、育児や介護中の女性のための在宅勤務、というイメージがあるかもしれませんが、それだけではありません。一般的には、テレワークには、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトワークの3種類があると言われています。また、リモートワークという呼び方もあります。

鎌倉市では、在宅勤務とモバイルワークを導入し、以下のように定義しています。
在宅勤務は、自宅でパソコン等を活用して勤務をすること。また自宅以外でも、例えば、親の介護がある場合など、実家で在宅勤務をすることも可能です。
モバイルワークは、外出中や出張中にパソコン等を活用して業務を行うこと。あるいは、自席以外の庁舎内(会議室など)での作業も含みます。

会場の様子

なぜ管理職からテレワークなのか

鎌倉市のテレワーク導入についてよくある質問の1つに「なぜ課長級以上からなのか?子育て中の職員からでは?」というものがあります。
この理由は、テレワークの普及には管理職の意識改革が重要だと考えるからです。

働き方改革の取組については民間企業の事例を見ても、育休や時短制度があっても後ろめたくて使えないという例は枚挙に暇がありません。テレワークも同様です。もし管理職が、「〇〇さんはテレワークだから仕事を振れないな」などと口にしてしまうようでは絶対に広がらない。逆に、管理職がまずテレワークを実践し、テレワークの活用が当たり前になれば、一般職員にも広がっていきます。
私も初めてテレワークを経験する前は「そうはいっても自宅で仕事なんてできるだろうか」と思っていましたが、やってみると意外とできるのです。管理職がその感覚を持つことが大事だと思います。

テレワークは、働き方の選択肢の一つ

「市役所の仕事は、窓口業務もある、テレワークは適さないのでは」という声もよく聞かれます。しかし、毎日テレワークをするわけではありません。
たとえば、文書作成などの作業は、必ずしも庁内で行う必要はありません。これをテレワークにすれば、電話で遮られることもなく業務効率が上がります。出張時にモバイルワークができれば空き時間を有効活用できます。

テレワークは、働き方の選択肢の一つです。テレワークは育児介護中の人だけが使うもの、という考え方だと、業務効率化という観点が抜け落ちてしまいます。

テレワークによって業務効率化を達成し、職員のワークライフバランスが向上すれば、優秀な人材の確保や離職防止にも役立ちます。それは結局、市民サービスの向上にもつながるのです。

橋本怜子氏

管理職を対象とした研修

管理職の意識改革のために、テレワークを活用した「新しい働き方」について研修を行いました。総務省地域情報化アドバイザーの森本登志男氏を講師に招き、テレワークが必要とされる背景や、先進自治体である佐賀県庁での活用状況や事例についてお話しいただきました。また、テレワークだけでなく、フリーアドレス制、チャットツール、ウェブ会議システムなどについて、民間企業にも協力をいただきながら、研修を実施しました。

これらの研修の結果、約9割の管理職が、テレワークや新しい働き方について理解が深まったと回答。約8割が、テレワークやチャットツールを積極的に活用したいと回答しています。

テレワークの実施状況は、2019年4月・5月で30%以上が在宅勤務を実施、40%以上がモバイルワークを実施しています。

テレワークの実施状況

経験者からは、「集中して仕事ができた」「通勤時間を有効に活用できた」「チャットやメールでも職場にいるのと遜色なく意思疎通ができる」「出張時に、その場で記録作成ができてよい」などの声が挙がっています。

一方で、テレワークの実現にはハードルもあります。鎌倉市では電子決裁システムを採用しており、起案は90%以上が電子で行われています。これは自治体の中ではかなり高い水準ですが、それでも案件によっては紙の書類を別途添付する必要があり、テレワークだけだと処理が難しいケースがあります。また業務上、電子化できない書類や、持ち出しができない文書もあるため、テレワークが難しかったり、ウェブ会議の活用にもシステム上の制約があったりします。

一般職員にも拡大

今後、一般職員にもテレワークを拡大していく計画です。あらかじめ職員の働き方の実態やニーズを把握し、検証を行ったうえで、効率的な制度を構築し導入する必要があると考えています。現在、制度や運用面、モバイル端末の課題等を洗い出しており、今年度中に対象職員を庁内で公募し、実証を開始する予定です。

RPAの導入

RPAについても2018年から導入の検討を始めました。どのような業務がRPA化できるのか、業務を洗い出し、汎用性と業務時間削減の観点から、①学校配当予算の支払い業務、②還付支払い業務(歳入)、③還付支払い業務(歳出)、④境界確定事務(測量業者への発注依頼)、⑤子どもの家・子どもひろば集計データ取得業務の5業務を選び、2018年度にRPAを試行構築しました。現在は、本格導入に切り替える準備を行っています。RPA導入による業務時間の削減はトータルで約700時間になると見込んでいます。

業務の内容

職員力向上プロジェクト

鎌倉市では、慢性的な超過勤務を改善し、職員力・組織力を向上するプロジェクトに取り組んでいます。

職員力向上プロジェクト

まず、実際の業務量の調査を行います。次にその調査結果に基づき、行政経営課と原課(対象部署)が改善策を企画。改善プロジェクト(職員力向上プロジェクト)を組んで、計画内容を実行していきます。原課で対応できる改善策は現場の判断で実行し、職員増員や執務環境の改善など、原課だけでは対応できないことは、関連する部署に掛け合いながら対応を進めています。

部署ごとに取り組み方は異なりますが、超過勤務時間の削減、有給休暇取得率の向上、市民サービスの向上、職員の意識改革など、大きな成果が上がっています。

まとめにかえて

何かを変えようとすると、必ず、抵抗があるものです。また、いざ改善策を検討し始めると、立場ごとに意見が異なるので、なかなか決定することができず、簡単には進みません。
まず一歩一歩やっていく。その姿を見せていく。そして、少しずつ成功体験を積ませながら進めていくことが大事だと思います。

橋本怜子氏

鎌倉市行政経営部行政経営課 担当課長
橋本怜子

2013年総務省入省。2018年7月より鎌倉市行政経営部行政経営課担当課長として、市役所内の働き方改革やテレワーク・RPA導入、行政のデジタル化を担当。
働き方変革は10年来のライフテーマであり、鎌倉におけるテレワークの推進により、鎌倉で暮らし・働く、新しいワーク・ライフスタイルの発信も行っている。