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セミナーレポート
2023.7.20

子どもデータの連携と活用で学びと子育てを支える自治体先進事例

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  1. 学校巡回相談の立場から見た学齢期の相談ニーズについて
    柏市 教育委員会 学校教育部 児童生徒課 心理相談員 北村 大明 氏
  2. 子どものデータ連携と活用で学びと子育てを支える
    開成町 子育て健康課 主幹 高島 大明 氏
  3. 開成町様と一緒に取り組む「こどもに関する各種データの連携」
    株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン 小森 智子

こども家庭庁が始動し、「こどもまんなか社会」の実現が進められる今、子どもたちを誰一人取り残さず、健やかな成長を育むことが重要な課題となっています。子どもたちを取り巻くさまざまなデータを連携、活用することで、多様な子育て支援のニーズに応え、またその学習と成長につなげている神奈川県開成町と千葉県柏市の先進事例について、児童福祉と学校教育のそれぞれの立場から紹介し、皆様とともに多角的に考えます。

1 学校巡回相談の立場から見た学齢期の相談ニーズについて

<講演者>
柏市 教育委員会 学校教育部 児童生徒課 心理相談員 北村 大明 氏

index

  1. 【1】年間200回、学校を巡りながら先生の相談に対応
  2. 【2】精神的に疲弊している先生たち
  3. 【3】学校は情報が共有されにくい
  4. 【4】保護者も孤立している
  5. 【5】保護者・先生・子どもの孤立を防ぐには
  6. 【6】どういう手立てが必要なのか?
  7. 【7】教育委員会にある情報を共有へ
  8. 【8】今後への期待

【1】年間200回、学校を巡りながら先生の相談に対応

千葉県柏市の教育委員会で心理相談員をしている北村大明と申します。小学校の特別支援学級で教諭をしていました。

今年(令和5年・2023年)の3月までは千葉県柏市教育委員会で指導主事を務め、「学校巡回相談」という仕事に取り組んでいました。市内の学校を巡りながら、さまざまな課題を抱えて困っている教育現場の先生の声に耳を傾け、助言などをしてきました。巡回の数は1年間でおよそ200回。1日に3校も訪問することがありました。

この4月からは柏市に入庁し、柏市教育委員会の学校教育部児童生徒課において心理相談員を務めております。

【2】精神的に疲弊している先生たち

年間200回の巡回相談を通して、私はさまざまな問題を見てきました。学校と家庭で今何が起きているのか、簡単にお伝えしたいと思います。

まず学校の中で起きていることです。

教室の中で起きていること

先生はいつも一生懸命に授業をするのですが、1クラスに30人以上の子どもがいますので、中には私語をする子もいます。近年は立ち歩いてしまうお子さんもいます。「登校しぶり」が見られるお子さんが昇降口で泣いているというケースもよくあります。

ときには子ども同士でケンカして、友達にケガをさせてしまうこともあります。これは先生から保護者に伝えなくてはなりません。このようなトラブルは日常的に発生するので、気づくと保護者への連絡帳が山積みになったりします。

また、授業や準備以外にも保護者の対応や膨大な量の事務作業や会議、校務もあります。先生たちは、同時並行でいろいろな仕事をこなしつつ常に瞬間的な意思決定をしなくてはならない日々を送っています。

【3】学校は情報が共有されにくい

情報の観点からお話すると、クラスの児童あるいは生徒の情報は担任の先生に集積しやすいという面があります。しかし、大量の仕事に追われる先生には、その情報を他者と共有する余裕があまりありません。

子どもたちの行動には必ず理由があります。しかし、現場の先生にはそこまで目を向けることがなかなかできません。他の先生も忙しいので、校内に相談できる相手もいなかったりします。

子どもを支援するために必要な知識を学ぶ時間も不足し、やがて周囲の話についていけなくなって孤立してしまったり、あるいは子どもがいけないことを繰り返してしまって自信を失ったりします。保護者への対応も追いつかなくなっていくと、だんだんと精神的に疲弊していきます。

担任の先生のメンタルヘルスが危機的状況であることは珍しくありません。このような結果として、子どもたちへの対応がどうしても場当たり的になっていくのです。

職員室の中で起きていること

【4】保護者も孤立している

一方、家庭ではどんなことが起きているのでしょうか。

例えば、自分の子どもが同じクラスの子にケガをさせてしまうなど、やってはいけないことをしたとき、保護者は我が子に根気よく言い聞かせなくてはなりません。多くの保護者が基本的にそうしていると思います。でも、発達につまずきを抱えたお子さんの場合、同じ失敗を繰り返してしまいます。すると「なんで伝わらないの……」という思いをもってしまいます。

子育てに悩む「保護者」の背景

教育委員会には、このようなケースで困っている保護者から「どうしたらいいかわからない」という相談がよく寄せられます。話を聞いていくと、その保護者の周りに相談できる相手がいないことがとても多いのです。孤立しながら「子どもの教育は親の自己責任」という暗黙のプレッシャーに追い詰められ、「私が至らないからこうなってしまった」と悩んでいたりします。

社会的に孤立する中で精神的に不健康な状態になり、仕事と育児の毎日で心をすり減らしている保護者が数多くいます。

【5】保護者・先生・子どもの孤立を防ぐには

少し極端ですが、学校と家庭の間で起きやすい衝突を次のようにまとめました。

担任と保護者の間で起きやすいこと

簡単に言うと、互いの孤立からの情報不足によって不安と不満がぶつかり続けてしまうのです。こうなると大人同士のやり取りになってしまい、子どもを中心にした話し合いができなくなります。結果的に子どもが置き去りになってしまっているケースに出会うこともありました。

保護者・支援者(担任等)・子ども本人の「孤立」をいかに防ぐか。これが学齢期の相談において一番のポイントになると私は思っています。

【6】どういう手立てが必要なのか?

では、どうやってこの孤立を防ぐか。

子育ての困りごとを抱えている保護者は、例えば学校とのやり取りで悩んでいたり、放課後等デイサービスなどの福祉サービスの情報をどのように得て活用すればいいのかわからなかったりします。「どこに相談すればいいの?」と思っている保護者は意外と多くいます。

学校の先生はどうでしょうか。例えば、授業中に走り回ってしまうような子どもに対する手立てを求めている先生は多くいます。また、前任者から「あの子の家庭は虐待リスクが高いかもしれない」と引き継ぎ、心配なご家庭との連携をどうすればいいのかと悩んでいる先生もいます。あるいは、問題を抱えているご家庭に専門機関の情報を提供したいけれど、自分が情報を十分にもっていなくて困っている先生もいます。

学齢期の「相談ニーズ」の種別

もし自治体の中に、保護者と学校にアウトリーチしていく相談体制があったらどうでしょうか。家庭と学校にそれぞれ積極的に出向いていって話を聞く。無理に話を求めるのではなく、自ら外に出て現場に行き、孤立している保護者や先生に会って話を聴いたり、何も問題が起きなくても進捗をモニタリングしていくような相談体制です。

保護者と支援者(先生など)は、共に子育て支援チームの重要なメンバーです。保護者と支援者のそれぞれの孤立を解消し、大人も子どもも安心して人に依存できるようにする。そして共に学んで共に育っていく関係を構築していくことが、学齢期のさまざまな問題を解決する上でとても大切だと考えています。

「保護者」も「支援者」も子育て支援チームの重要な一員

学校巡回相談を通じて私が発信していることの一つは、大人も子どもも「依存先を増やす『自立』」を目指すことの大事さです。一人だけで何でもできることが「自立」のすべてではありません。困ったときに頼ることができる人や場所があり、それを増やしながら自立を目指すことが、実は重要なのです。

柏市において、これからの学齢期の相談体制をどうするか。このことを常に考えています。

【7】教育委員会にある情報を共有へ

まず、この4月から「校務支援システム」が新しくなっています。同時に、教育委員会が管轄する相談情報を管理するこども総合相談システムも、今年度中に稼働する予定です。教育委員会の中にはいろいろな部署があり、それぞれが相談情報をもっています。それらの情報を連携して、学校と一緒に何かできないか。それをこれから考えることになっています。

柏市の「校務支援システム」の展望

共有された情報を使って何をしていくか。
具体的なことはこれからという段階ですが、目指すのはやはり「切れ目のない支援」の実現になると思います。私個人の考えになってしまいますが、人をつなぐ相談体制、そして時間と空間をつなぐ「システム」。これらで、学校と家庭で一人も孤立させないようにすることが重要だと思っています。

人をつなぐ相談体制だけでは不十分です。子どもが生まれてから自立するまで、システムで時間と空間をしっかりつなぎ、それぞれの子どもにかかわる情報を次につないでいくことが大切です。

目指すのは、「切れ目のない支援」の実現

【8】今後への期待

学齢期の子どもにおける相談体制やシステムのあり方を考えるとき、一番大切になることは保護者や本人の当事者性だと考えています。

今後への期待

「障害者の権利に関する条約」のスローガンに「Nothing about us without us.(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」という言葉があります。学齢期の相談においても、何より保護者や本人が具体的にどうなりたいのか、どうなっていきたいのか、その思いを実現するために何ができるのか、この観点を取り入れることがとても重要だと思っています。

相談を受ける側が「一緒にやっていきませんか」というスタンスを相談者に対してもつことがとても大事になります。当事者との共同作業をどうやって作っていくか。その当事者が問題を解決して今度は同じように困っている保護者や本人の話を聞く側に回るまで、いかに寄り添い続けるか。新たな相談体制やシステムを考えるとき、このようなところが大きなポイントになるでしょう。

2 子どものデータ連携と活用で学びと子育てを支える

<講演者>
開成町 子育て健康課 主幹 高島 大明 氏

index

  1. 【1】開成町—小さいけれど住みやすい街
  2. 【2】子育て支援の課題が複雑化している
  3. 【3】子どもにかかわるデータの課題
  4. 【4】子どもを中心にデータを連携する
  5. 【5】開成町「(仮称)こども見守りシステム」のイメージ
  6. 【6】システム稼働後の子ども家庭相談の流れ(想定)
  7. 【7】今後の課題

【1】開成町—小さいけれど住みやすい街

神奈川県開成町では今、子どもデータの連携と活用で学びと子育てを支える取り組みを始めようとしてます。その内容について紹介させていただきます。

神奈川県開成町について

【開成町】

  • 神奈川県の西部、足柄上地区の中央部に位置。
  • 人口は18,557人(令和5年3月末住基人口)
  • 東京から70キロ圏内。横浜から50km圏内。
  • 総面積は6.55平方km。神奈川県では一番小さい面積。100%の平坦。
  • 交通の利便性は良い。小田急小田原線「開成駅」から新宿まで急行で約1時間20分。
    小田原駅から新幹線を利用すれば50分程度。
  • 町名は、町内にある「開成小学校」が由来。語源は中国の言葉「開物成務」(学問、知識を開発し、世のため成すべき務めを成さしめる)。

開成町の人口は、昭和30年(1955年)の町制の施行以来、増加を続けています。平成27年国勢調査から令和2年国勢調査までの5年間の人口増加率は7.7%で、神奈川県内市町村の中では最も高い人口増加率となっています。

神奈川県開成町について

また、令和2年の国勢調査では、総人口に占める0歳から14歳までの人口(年少人口)の割合は14.8%。県内市町村の中で1位となっています。良好な住環境の整備と町のブランディング、そして子育て支援策のハードとソフトの両面における重点的な実施が大きな要因となっていると考えています。

開成町の子育て支援

開成町は子育て支援に力を入れています。妊娠期から子育て期まで、いかに切れ目なく支援していくか。ここに重点を置き、特に相談事業に重点を置いています。各家庭に寄り添い、きめ細かい支援ができるのは、開成町の人口規模だからできるのではないかと思っています。

開成町の子育て支援の体制においては、令和2年5月の新庁舎の供用開始に合わせ、町の組織を再編しました。児童福祉分野を担当する「子ども育成班」と、母子保健分野を担当する「健康づくり班」を統合。2班で構成する「子育て健康課」を新設しました。

保健師が所属し、母子保健分野を担当する「健康づくり班」では、平成29年4月に設置した開成町の子育て世代包括支援センターである「母子健康包括支援センターひだまり」を所管しており、妊娠期から子育て期の相談支援を実施してきました。

児童福祉分野を担当する「子ども育成班」では、社会福祉士や精神保健福祉士などのケースワーカーが所属し、令和4年4月から「子ども家庭総合支援拠点」を新たに設置し、児童相談の機能を強化しました。

開成町の子育て支援

また、子育て支援の一元化を図るため、「子育て世代包括支援センター」と「子ども家庭総合支援拠点」の一体化による「こども家庭センター」の設置努力義務化も見据えています。開成町では、令和4年4月に「こども政策担当課長」を新設し、「母子健康包括支援センターひだまり」と「子ども家庭総合支援拠点」が連携しての子育て家庭への支援を開始しました。

保健師と児童福祉分野のケースワーカーが一つの課になったことで、妊娠期から18歳まで切れ目なく支援、相談、援助を実施することがより一層可能となっています。

令和6年には、「子育て世代包括支援センター」と「子ども家庭総合支援拠点」を一体化した「こども家庭センター」へ移行する予定です。

【2】子育て支援の課題が複雑化している

次に、開成町における子育て支援の課題についてお話したいと思います。

開成町では子育て世帯が多く住み、子どもの数については横ばいが続いていますが、これは町外からの転入が多いためです。

開成町の子育て支援の課題

今課題となっているのは、近隣に親族がおらず、すぐに子育ての相談や手を貸してくれる人がいないという方が多くなっていることです。また、課題を抱えたご家庭や、要保護・要支援児童、虐待相談通告件数、産院から情報提供されるハイリスク妊婦も増加しています。健診がすべて終わった学齢期の子どもをもつ世帯の転入も多く、開成町の保健師の接触機会がないことから、家庭の背景が不明なご家庭も増えています。

家庭が抱える問題も複雑化しています。近年、学校や庁内の福祉担当、児童相談所などの連携が求められるケースが増えていて、特に保健師やケースワーカーの取り扱う件数が増加。業務負担が増しています。

これまでは、保健師や職員が「気になる子ども」「気になる親子」をキャッチして支援を実施してきました。しかし、今までなかったような複雑なケースの対応を求められたり、経験年数の浅い職員が増えていたりするため、職員の質のさらなる向上が必要となってきています。

同時に、職員の個の能力に頼った要支援家庭の発見は限界があるとも感じています。

【3】子どもにかかわるデータの課題

開成町では現在、各課や所属機関が子どもの育ちに関する情報を個別に保有しています。子どもの就学前においては「母子健康包括支援センター」や「子ども家庭総合支援拠点」などが情報を詳しく把握しています。しかし、それらの情報を子どもの就学後に教育委員会や学校と連携させる仕組みはありません。

開成町の子育て支援の課題

令和3年度からは基幹系システムで母子保健や児童福祉、障害福祉、介護などの相談記録を住民基本台帳と紐づけて一元的に管理するようにしています。ただ、今のシステムではデータが機能別に分けられていて、相談記録や健診、手当などのデータが分断されています。子どもを軸として管理することができていない状態です。

現在、支援が必要な子どもの情報を集めたい場合は、職員が人力で各担当者と相談や連携しながら収集します。しかし、先ほどもお伝えしましたが、取り扱うケースが増加し、その業務負担は増しています。

【4】子どもを中心にデータを連携する

私どもがこうした課題を抱えていたとき、デジタル庁による子どもデータ連携の実証事業のことを知りました。これは開成町が抱えている課題の解決の一助になる。そう考えました。

行政などがもつ関連データを連携させて集約すれば、子どもたちの今の状況を分析して可視化することができるかもしれない。それができれば、問題を抱える家庭に対して早期の支援につなげられる。年齢や所属による切れ目のない支援が可能になるのではないかと思ったのです。

データ連携のねらい

今、私どもは子どもにかかわるデータを連携しようとしています。これができれば、これまで職員の人力で発見していた「気になる家庭」「気になる子ども」が見えてくるのではないかと考えています。

決してこれは、職員がもつ「何か気になる」という感覚を否定するものではありません。現場で感じた感覚を大切にしながら、データ連携によって今まで見過ごしていた家庭、あるいは潜在的に支援が必要な家庭の発見につなげたいと思っています。

そして、そういった家庭に対してプッシュ型の支援を行うことで、家庭の抱える問題が大きくなる前に解決する方向にもっていきたいと思っています。また、データ連携によって支援対象の家庭や個人の状況を把握・分析することで、個人ごとの状況・課題に応じて必要な支援・サービスを提案していけるとも考えています。

【5】開成町「(仮称)こども見守りシステム」のイメージ

データ連携から支援に結び付けていくイメージは次の通りです。

データ連携から支援のイメージ

各部署(各機関)が保有する子どもにかかわるデータを連携し、リスク判定をはじめ、支援やリスクの分析、可視化するシステムを作る予定です。そして、ケースワーカーや保健師、スクールソーシャルワーカーなどが早期に適切な支援ができる仕組みを構築します。名称は、仮称の段階ですが『開成町「(仮称)こども見守りシステム」』(以下「こども見守りシステム」)としています。

今回のシステムの開発にあたっては、次のスケジュールで進めています。

データ連携取り組みのスケジュール/令和4年度取り組みの流れ

令和4年度は、庁内各課が保有しているデータについての調査を行い、それらを連携する目的・手段・効果の整理や、データを連携させた場合に期待させる効果を整理しました。
令和5年度は、支援が必要な家庭を見つけ出す上で有用な結果を導き出せるデータを洗い出し、それらのデータを連携させるシステムを構築します。
本稼働は令和6年度を目指しています。

【6】システム稼働後の子ども家庭相談の流れ(想定)

「こども見守りシステム」を用いた家庭相談の流れは次のように想定しています。

開成町でのこども家庭相談の流れ

まず、「こども見守りシステム」から抽出された支援対象の候補リストを関係者で確認します。次に、現在の子ども家庭総合支援拠点が主体となり、母子健康包括支援センターと毎月開催する庁内ネットワーク会議でリスクの高い家庭については児童相談の一つとして受理し、カンファレンスを実施し、保健師やケースワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士)、助産師、保育士などが役割分担して調査などを実施します。その後、支援を実際にする対象者を決め、具体的な支援策も決定します。開成町では令和6年度に「こども家庭センター」を設置する予定で、これらの取り組みもこのセンターの中で行われるようになります。

システムのリスク判定で支援対象を抽出しても、すぐに支援を開始するわけではありません。あくまでも子育て家庭の情報の一つとして捉え、カンファレンスを行いつつ、必要に応じて適切な支援を行っていくという流れにする想定です。

【7】今後の課題

データ連携については、今後の課題がいくつかあると思っています。

データ連携の課題

一つ目は、個人情報の取り扱いです。
この種のデータ連携で先進的な取り組みをしている自治体さんや子ども家庭庁のガイドラインなどを参考にしながら、法律に沿った制度設計をしていきたいと思っています。

二つ目は、連携するデータ項目の選定です。
現在保有しているデータは多岐に渡ります。どの項目が支援家庭を見つけるのに有用なのか、令和4年度から調査をしていますが、今後もトライ&エラーでの作業が必要になると思っています。また、担当課の理解を得ながら、システムはあるものの「データ化」されていない重要情報をいかにデータ化していくかも課題です。

三つ目は、データ量にかかわる課題です。
開成町の規模では分析するデータ量が少なく、自然言語分析などをするときにデータ数が足りないことがあります。県内町村などの横連携によってデータ数を増やすと、分析の精度を高めていけるのではないかと思っています。

また、実際の支援の実施についても課題があると思っています。早期のプッシュ型支援を行う場合、いったいどのように実施すればいいのか。実は、ここが一番大きな課題だと考えています。

特に就学後の支援はどういった形でアプローチするのか。学校が大きく関係するので、教育委員会も交えながら検討していく必要があると思っています。

始めたばかりで手探りの状態ですが、幸いにもこども家庭庁のデータ連携実証事業(令和5年度)に採択していただきました。先進的に取り組まれている自治体さんや内田洋行から勉強させていただきながら、今後も開成町らしいやり方で子育て支援を推進していきたいと思っています。

3 開成町様と一緒に取り組む「こどもに関する各種データの連携」

<講演者>
株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン 小森 智子

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  1. 【1】まずデータ連携の目的を明確にする
  2. 【2】目の前のデータは「管理したいデータ」なのか
  3. 【3】連携対象のデータ項目をどのように決めるか
  4. 【4】システムには大きく三つの機能をもたせる
  5. 【5】お客様と一緒に成長できる仕組みを作る

【1】まずデータ連携の目的を明確にする

開成町様が取り組んでいる子育て支援において、子どもデータ連携に関する仕組みの構築を支援している内田洋行の小森智子から、当社がどのような取り組みをしているのかを紹介したいと思います。

お伝えしたいことは、大きく次の2点です。

はじめに

まず、昨年度(令和4年度)に取り組んだことを紹介したいと思います。

力を入れたのは「データ連携による目的・目標・手段・効果の整理」です。狙いは、この事業に取り組むにあたって「このシステムを利用することでどのようになりたいのか」「このシステムを何に役に立たせたいのか」を、きちんと言葉にしておこうということでした。

データ連携による目的・目標・手段・効果の整理

子どもに関する各種データ連携を実現するためには、解決しなくてはいけない課題も多く、思った通りに物事が進まないこともあると思われます。その度に「こうだったらできる」「あのようにしたら可能になる」と、柔軟に対応しながら前に進めていくことになるでしょう。

ただ、このような試行錯誤を続けていくと、「そもそも何がしたかったのか?」となりやすくなります。いつの間にか目的から離れてしまうことがないように、システムに求めることをあらかじめ明確にしておこうと考えたわけです。

今回のデータ連携で実現したいのは何か。それは、見えていない問題を見つけることにあると考えています。子どもにかかわる問題には見えやすい問題と見えにくい問題があります。そのような見えにくい問題を新しいシステムで早期に発見し、早期に支援する。ここが大事なポイントだと思っています。

【2】目の前のデータは「管理したいデータ」なのか

今回の場合、システム開発の第一歩は関連するさまざまなデータを一元的に結び付けて見えやすい状態にすることです。これができれば、データ分析をしたりアラートを出せるようになります。

今、関連のデータを一覧でまとめることに取り組んでいます。泥臭い地道な作業です。関連する部署ごとに「こういう情報はおもちではないですか」と尋ねながら調査し、どのようなデータがどこにあるかを整理していきます。

現状の環境や課題の調査

調べていくと、いろいろな形のデータがあるとわかりました。その中には、システムではなくExcelで管理しているデータや、紙のままのデータもあります。どのようなデータなのか。どのようなシステムを使っているのか。デジタルで管理しているのか。どこのネットワークに入っているのか。どのようなIDで管理しているのか。このような項目をいくつも並べて関連データの状態を洗い出します。

また、目の前のデータが「管理したいデータ」なのかどうかを見極めることも重要です。それができないと利用目的があいまいになっていきます。データの利用目的がはっきしないと、異なる部署との間でデータをやり取りできません。そのデータはどのような目的なら利用できるものなのか。それも明確にしながら整理していきます。

そのほか、データの特性を把握したり、システムによって異なる個人識別IDの紐づけ方を検討したりなど、やるべきことや注意すべきことはたくさんあります。

【3】連携対象のデータ項目をどのように決めるか

データ連携の仕組みを構築するためには、活用するデータをどのように選定するかが大事になります。

デジタル庁では、令和4年度「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」の成果報告書が公開されており、それを見ると、ガイドラインが掲載されていて、どのように事業に取り組んで、何に注意すべきかということが示されています。当社もこのガイドラインを読み込み、どのようにシステムを作ってデータを連携させることが求められているのかを理解しながら、作業を進めているところです。

このガイドラインには、データ項目を決めるときの注意点が記載されています。ただ、このガイドラインがあれば誰でもできるという内容ではありません。実際には、洗い出したデータを項目ごとに「これが把握できたことによって子どものどのような困難な状態を類推できるか」と明確にしていく必要があります。そうして地道に整理して作った基礎情報を土台にして「これがしたいからこのデータとあのデータを連携する」と決めていきます。

連携対象とするシステム及びデータ項目の整理

開成町の高島主幹のお話にもありましたが、今あるデータだけですべての課題が解決できるわけではありません。例えば、小学校入学以降の情報は入手しにくくなるのが現状です。開成町と一緒に「新たにこういうところと連携させてはどうか」などと検討しています。

また、データの連携をしたときに期待される効果についても、明確化しておくことが重要です。

データ連携させた場合に期待される効果の整理

【4】システムには大きく三つの機能をもたせる

では、実際にどのようなシステムにするのか。大きく三つの機能を作りたいと提案しております。

一つ目は、子どもを見守るための共有データベース。これを真ん中に据えて、データを集めて活用しやすい形にまとめます。

具体的な実現方法の設計

具体的な実現方法の設計「こども見守り共有データベース」

二つ目は、ダッシュボードです。データをさまざまに可視化できるようにします。

具体的な実現方法の設計「ダッシュボード」機能

三つ目は「リスク判定・データ分析」機能です。この実現はとても難しいと思いますが、さまざまなデータを掛け合わせる中で課題を発見するための分析が可能になる仕組みを構築したいと考えています。

具体的な実現方法の設計「リスク判断・データ分析」機能

【5】お客様と一緒に成長できる仕組みを作る

最後に、今回の取り組みにおいて、私たちが特に意識的にやってることを2点お伝えしたいと思います。

一つ目は、今回作っているシステムには正解がないということです。お客様に「どうぞお使いください」とシステムを渡した瞬間、それからすべてがうまくいくということにはならないでしょう。

私たちが意識していること

どんなデータを集めて、それらをどのようなプロセスで今回の仕組みの中に入れ、そこから何を見せるようにするのか。基本的なところも含めて、手探りで進めている状態です。今後も試行錯誤を繰り返すことが求められると考えています。

弊社には、このような手探りのシステム作りを取り組みやすくするDX推進ツール「Mµgen(ミュージェン)」があります。これを用いながら、今後もデータの利活用がしやすくなる仕組みを作ります。

二つ目は、システムの“存在感”です。当社は今回のシステムを開発するにあたって、開成町の職員の方が「まるで職員が一人増えた感じがするね」と言われることを目指しています。

私たちが意識していること

今回のシステムは、AIがブラックボックスの中ですべてを解決するようなものではありません。今のご担当者が「この子どもは他の子とちょっと様子が違う」と感じ取る感覚をシステムに反映させて、それを見やすい形で示す。それが今回のシステムで実現したいことの1つだと思っています。子どもの見守りをするのは「人」であって「システム」ではありません。お客様と一緒に成長できるような仕組みを作りたいと思っています。

当社は、いろいろなシステムやデータをつなぐ仕組みを作ることで、自治体様のお力になりたいと思っております。「ウチダと一緒に考える」。こちらが私どもの気持ちのすべてでございます。今後も一緒に考えながら、前に進んでいきたいと思っております。

内田洋行が目指す「こどもに関する各種データの連携」