<登壇者>
志木市役所 総合行政部 参事 兼 デジタル推進課長デジタル庁 デジタル改革共創プラットフォーム アンバサダー 総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業 アドバイザー
八木 征利 様

埼玉県志木市では、紙業務の削減・押印廃止・電子申請の拡大・議会ペーパーレス化などを含む「統合型内部情報システム(e-ActiveStaff)」を導入し、庶務・文書管理・財務・人事給与を一元化。業務効率化に大きな成果を上げています。また生成AIを導入し、職員の業務負担軽減に確かな手ごたえを感じておられます。志木市のDXを中心となって推進した八木征利様にその経緯をうかがいました。
志木市の概要
埼玉県志木市は、東京都の池袋と小江戸川越のほぼ中間に位置し、東にJリーグの浦和レッズと大宮アルディージャのあるさいたま市、西にはちょっと離れていますが西武ライオンズがある所沢市というスポーツにゆかりのある地域に囲まれています。人口は約7万6千人、面積9.05平方キロメートルで全国でも6番目に面積が小さい市です。
交通の利便性が高く、池袋・渋谷・永田町・新木場・横浜などへ直通で行けるベッドタウンとして発展しています。市の広報大使「カパル」は2018年の「ゆるキャラⓇグランプリ」で優勝し、全国的にも知られています。

志木市のDX推進の取り組み
志木市では近年、「小さな市だからこそできるDX」をテーマに、全庁的な業務改革を進めてきました。主な取り組みは以下のとおりです。
- 電子申請の推進:マイナポータルを含む273種類の申請を電子化(令和7年8月末時点)。
- ビジネスチャット導入:令和3年2月に全庁展開。庁内連絡をペーパーレス化。
- 書かない窓口:令和4年3月導入。住民の手書き負担を軽減。
- 複合機集約と認証印刷:印刷の無駄を削減。
- 議会のペーパーレス化:議員の提案を受け令和5年6月開始。
- 総合型内部情報システム導入:内田洋行の「e-ActiveStaff」を採用し、人事給与・庶務事務・文書管理・財務会計を一体化。
- 窓口時間の短縮:市民サービスと職員の働き方を両立させるため、8時45分~16時30分に変更。
- 会議録作成支援システム導入で記録業務を効率化。
これらの施策を通じ、「職員が本来業務に集中できる環境づくり」を進めてきました。
統合型内部情報システム導入の背景と効果
(1)導入前の課題
庁内には紙文書があふれ、机上や倉庫のスペース不足が深刻でした。押印文化が根強く、休暇明けには決裁文書が山積み。コピーやファイリング作業に多くの時間を取られていました。また、新庁舎移転後は保管場所も限られ、紙業務の効率化が喫緊の課題でした。

(2)導入検討の経緯
令和5年度にDX推進チームを設置。デジタル推進課を中心に、政策推進課・行政管理課・財政課・会計課など、組織横断的に構成されました。

当初は電子決裁の導入を検討していましたが、人事課が別途人事給与システムを導入しようとしていたため、重複や管理の煩雑化が懸念されました。そこで、業務全体を統合できる仕組みとして「総合型内部情報システム」を採用する方針に変更しました。
(3)導入決定とスケジュール
令和6年度、公募・プロポーザルを経て、内田洋行の「e-ActiveStaff」を正式採用。令和7年2月から人事給与システムが稼働し、令和7年4月から庶務事務と文書管理システムが稼働し、電子決裁が実現しました。

導入効果
導入効果は次のとおりです。
- 文書キャビネットの削減:電子文書化により保管スペースを大幅に節約。
- 決裁の迅速化:出張・テレワーク中でも電子決裁が可能になり、処理スピードが向上。
- 合議の簡素化:上長に説明が必要な場合は、ビジネスチャットで完結。
- 印刷枚数の削減:導入後3カ月で前年同期比約10万枚減少。
- 首長決裁の効率化:市長・副市長も「ポチポチ」と電子決裁へ移行し、簡易な案件は説明省略。
こうした効果により、ペーパーレス化と業務効率化が着実に進行。来年度には財務会計システムの執行系も運用開始予定で、行政のデジタル化は新たな段階に入ります。
今後は、電子契約の導入についても視野に入れ、電子決裁の恩恵をさらに広めて行きたいと考えています。

生成AIの導入と活用状況
(1)導入の経緯
志木市では令和6年5月、生成AIを本格導入しました。総務省の調査では全国の基礎自治体の導入率は約3割にとどまりますが、志木市は先進的に活用を進めています。

(2)利用実態調査
生成AI導入6カ月後と1年後に職員アンケートを実施したところ、回答率は14.5%から24.5%に上昇。実際の利用者も59人から107人に増加しました。
導入1年後、利用者の約76%が「業務時間を10%以上短縮できた」と回答し、特に「作業スピード向上」「アイデア出し」「資料の品質向上」で効果を実感しています。

(3)利用の傾向と課題
以下は、生成AIの利用状況を示したグラフです。

2024年5月、11月、2025年5月にAI研修を行っており、行うたびに利用率が上昇していることがわかりますが、定着には波があります。
志木市で導入しているシステムで利用できる生成AIモデルはChatGPT・Claude・Geminiの3種で、為替変動により月ごとの文字上限が変動。2025年1月、5月、8月、9月には文字利用率100%、つまり上限に達していることがわかります。
文字利用率が上限に達するのは多くは月末頃なのですが、2025年9月には9日で上限に達しており、残りは答弁の文書などを手動で作らねばならず、不便を感じました。

以下の表は、生成AI活用による、時間短縮効果を表しています。

導入6か月後よりも1年後のほうが効果を実感する人が多く、また、効果がないと感じる人が少なくなっていることがわかります。
生成AIを何に使っているかを尋ねたところで、主に以下のような回答が挙がりました。
- 文書作成・要約・広報原稿構成
- エクセル関数やマクロ作成支援
- 調査・情報収集
- 国や県の通知の要約
- アンケート設問作成 など
さまざまな用途に使われていることがわかります。
一方で、生成AIを使っていない人にその理由を聞いたところ、トップ3は、「使い方がわからない」「活用できるか不安」「従来の方法で十分」でした。

では、使っていない人は今後、生成AIを使いたいのかを聞いたのが以下のグラフです。

導入6か月後よりも1年後のほうが「よくわからない」「どのように活用すればいいかわからない」という人が増えています。これらの人にリーチできれば、利用ユーザーを増やす伸びしろはまだあると考えられます。
「使い方がわからない」と答えている人に対しては、今後は庁内のヘビーユーザーをインフルエンサーとして周知を進めたり、外部講師による研修も計画しています。内部の人に言われても動かない人も、外部から言われると「なるほど」と聞く耳を持つからです。
今後の展望
文書作成が多い自治体業務において、生成AIの活用は極めて有効です。導入にはセキュリティやガイドライン整備が不可欠ですが、「まず触ってみる」ことが理解の第一歩です。
DX推進の考え方とメッセージ
DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質は「課題を見つけて解決する力=X」にあります。単なるデジタル化(D)ではなく、現場の課題を整理し、業務を“片づける”ことが重要です。
よく「DXはルンバに例えられる」と言われます。ルンバを動かすには、まず部屋を片づける必要があります。これと同じように、業務を整理(=X)した上でデジタルツール(=D)を活用することで、初めて自動化や効率化が実現します。
また、DXは「ドラえもんとのび太の関係」にも似ています。困っているのび太(=現場)が課題を見つけ、ドラえもん(=デジタル)がそれを解決する。つまり、テクノロジーはあくまで道具であり、課題発見こそが出発点なのです。
情報共有と今後の連携
志木市は、全国自治体の生成AI活用事例をまとめた「自治体AI活用マガジン」(横須賀市・note連携)に参画しています。基礎自治体のリアルな活用事例を共有することで、未導入自治体の支援につなげています。

さらに、デジタル改革共創プラットフォームの「#デジ_pj_ai活用チャンネル」では、自治体・省庁・企業が垣根を越えて情報交換を行っています。AIだけでなく、内部情報システム、医療福祉、議会、農業、上下水道など幅広い分野での共創が進んでいます。それぞれのチャンネルで積極的に情報交換がされており、国の省庁の方や県の職員とも情報交換ができる場となっていますので、ぜひ、この共創プラットフォームに参加して活用いただければと思います。

まとめ
志木市のDXはまだ道半ばです。しかし、電子決裁・生成AIなどの導入を通じて、確実に「紙と時間に縛られない行政」へと変化しつつあります。
業務効率化の目的は、単なる省力化ではなく、職員の事務負担軽減と市民サービスの質を高めること。テクノロジーはその手段です。
今後も、現場発の課題解決を原点に、柔軟にデジタル技術を取り入れながら、“人にやさしい行政DX”を推進していきます。
質疑応答
質問:業務の効率化と言いますが、公務員は案外、細かい作業が好きなのでは?
八木様:確かに、細かい仕事にやりがいを感じる人もいるでしょう。しかし、そうした作業ばかりに時間をかけていては、本来の目的である「市民のための仕事」が進みません。
だからこそ、面倒な作業はDX(デジタル化)で効率化し、市民サービスの向上といった本質的な業務に力を注ぐべきだと考えています。
質問:統合型内部情報システムを使うメリットは?
八木様:内部のシステムが連携していることが大きな利点です。たとえば、電子申請、財務会計、人事給与の各システムがバラバラだと、それぞれでユーザーアカウントを作成・管理する必要があり、非常に手間がかかります。
しかし、人事部門が職員情報を一元管理し、それを他システムと連携させれば、重複作業は不要になります。これが統合の最大のメリットです。
質問:上司が「生成AIを使うと職員の能力が下がる」と反対している場合、どう対応すればよいでしょうか。
八木様:実際、志木市でも同じ声がありましたが、それは誤解です。生成AIは「どう指示を出せば良い答えを引き出せるか」を考える力を育てます。つまり、AIとのやりとり自体が新しい仕事のスキルになるのです。
最初は新人職員レベルの回答しか返さないAIでも、「もっと具体的に」「別の視点で」と条件を工夫すれば、次第にレベルの高い回答を出すようになります。まるで人材育成のようなプロセスです。
志木市では、生成AIの導入によってどれだけ業務時間が削減されたかをダッシュボードで可視化しています。たとえば「先月は300時間の削減効果」といったデータが表示されます。こうした成果を一度でも目で見れば、反対派の意識も変わるはずです。
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