多くの自治体で内部事務の見直しが進む中、茨城県那珂市では、庁内に分散していた業務システムを整理し、内部事務システムの統合方針を定めたことを契機に、業務プロセス全体の再構築に取り組んでいます。
令和7年度から内部事務システムの導入を開始し、令和8年10月の文書管理システム稼働を見据えて、紙文書の分類を起点とした業務フロー改善を進めてきました。モデル所属では、紙文書分類の再構築とそれに伴う執務室内文書の洗い出し・整理を実施した結果、紙文書の保管量を30%削減するなど、他自治体でも応用可能な成果が生まれています。
一方で、内部事務全体の業務フロー見直しは分野ごとに進捗が異なり、庁内調整や整理が続いています。本講演では、こうした取組の背景や実践内容に加え、庁内調整で直面した課題、職員研修による意識変化を紹介します。また、電子文書管理や電子決裁の導入に向けた現在の課題と今後の展望を共有し、自治体が内部事務DXを進めるうえでの具体的なヒントと舞台裏をお届けします。
<登壇者>
茨城県那珂市 総務部管財課 課長補佐 稲田 政徳 様
同 総務部管財課DX推進室兼情報システムグループ 鹿志村 裕太 様

株式会社オフィスミカサ 代表取締役 長野 ゆか 様

那珂市の概況
稲田様:茨城県那珂市管財課の稲田と申します。本日は、那珂市の文書管理改革の取り組みについて3名でお話させていただきます。まず市の概況ですが、那珂市は平成17年1月に旧那珂町と旧瓜連町が合併し、誕生しました。市内には常磐自動車道の那珂インターチェンジがあり、令和10年度のオープンを目指して道の駅の整備を進めているところです。人口は平成12年をピークに緩やかな減少傾向が続いています。

内部事務DX推進の背景
(1)全体最適を重視し、一括調達を選択
これまで事務運用は紙中心であり、内部事務システムも部署ごとに契約し分散した状態でした。今回、文書管理のシステム化や電子決裁に取り組むことを機に、内部事務全体の連携を考えた再設計を目指して選択したのが、一括調達です。
対象とした内部事務システム範囲は下図の通り、ポイントは個別業務の部分最適ではなく、全体のつながりを重視したことです。また、人事異動や組織改編の際のアカウント管理等の負荷を軽減するため、職員認証と電子決裁を共通基盤とする構成としました。

(2)なぜ文書管理と電子決裁を核にしたのか
出発点として課題にしたのは、紙中心の行政事務における諸問題です。回覧が滞留しがちになり、文書を探すのにも時間がかかる。保管や廃棄のルールも人それぞれといった状況でした。
そこで、まずは文書管理のシステム化から着手したわけですが、文書は業務の出入り口です。申請・起案・決裁・監査・保管・廃棄といった文書の流れをたどると、業務の流れが見えてきます。もう一つの核に据えた電子決裁導入も、単に押印を画面に置き換えることではなく、誰がどの順番で何を確認し、どこで滞るのかを見直す作業です。
このように、紙を減らすこと自体が目的ではなく、文書管理と電子決裁を核に内部事務全体の標準化を進めることを狙って、今回のシステム化を進めることになりました。
(3)全庁的に推進する流れをつくる
ただ、一括調達は最初から決まっていたわけではなく、システム化も歓迎されたわけではありませんでした。まず、令和4年4月に文書管理の担当である総務課に打診したところ、「必要があるのか」と。反対・慎重論がある中、どうすれば進むかと悩んで思いついたのが、文書管理のシステム化を全庁的な方針として位置付けるということです。
那珂市には、副市長を情報化統括責任者とする『情報化推進委員会』があります。「情報化推進委員会の場で、文書管理システム導入の検討を始めることを宣言してほしい」と総務課に依頼し、令和5年3月には『那珂市デジタル化推進指針策定』が承認されました。基本方針の一つに『行政事務のデジタル化』があり、『文書管理・電子決裁システムの導入』が明記されています。
方針文書に載せることで、予算確保や庁内調整がスムーズになります。こうして全庁的に推進する土台を作ったことが、大きな転換点になりました。

(4)一括調達のメリット、リスク、対策
推進指針を受け、令和5年6月から先進自治体の視察や事業者への相談を進めていきました。そこで見えてきたのが、文書管理のシステム化だけでは十分ではないということです。電子決裁とつなげるには、組織情報や利用者情報との連携が必要です。文書管理、財務会計、契約管理、庶務事務なども対象となるため、共通基盤を持たなければ運用が複雑になります。
ここで助け舟となったのが、予算を握る財政課からの助言でした。「システムを一括調達してはどうか」という発案が後押しになり、令和6年3月に情報化推進委員会の下部組織として専門部会を立ち上げ、同年8月に委員会の承認を得て一括調達を進めていくことになります。
一括調達のメリット、リスク、対策を下図にまとめました。

メリットの一番は、やはり『データ連携』です。一方でリスクとしては、関係部署との調整負荷が高く、稼働時期が重なると不具合の対応も集中します。その対策として、現場ヒアリングを重ねて段階的に導入を進めましたが、それでも稼働前後の苦労は相当あり、現在も進行中で各部署と調整を重ねているところです。
(5)一括調達の基本方針と体制づくり
一括調達にあたって重視したのは、原則を明示するということ。具体的には、以下の全体原則を仕様書の基本方針に明記しました。

体制づくりでは、各部署のシステム担当職員を専門部会に加えたことで、調整がスムーズに進みました。具体的な役割分担は、下図の通りです。

(6)公募プロポーザルの評価方針
一括調達は、公募型プロポーザルで実施しました。機能の個別評価よりも、内部事務全体としての整合が取れるか、標準機能でどこまで対応できるかを重視しながら、下図の観点で評価を行いました。

ただ、要求が多くなると重要な原則が抜けてしまいます。ノンカスタマイズ原則など意思決定のポイントを絞り、導入後の研修体制などは後の検討に残すなど、要点を見極めることが大事だと感じています。
(7)ここまでの学びと次につなぐ視点
改めて、一括調達を進めることができた要因は、以下の2点だと考えています。
- 方針文書に載せ、全庁案件化したこと
- 電子決裁を核に、全体最適で考えたこと
つまずきやすい注意点は、以下の2つです。
- 「今のやり方を残したい」という圧力は強い
- 稼働前の調整負荷を甘く見ないこと
システムは、契約してからが本番です。稼働後は運用フォローや効果測定も考えなくてはなりません。文書管理システムは今年10月に稼働予定ですが、そこで終わりではなく、活用促進や効果測定の工夫が続いていくことになると考えています。
導入調整と稼働準備
(1)複数の内部事務システムが、同時期に順次切り替わる
鹿志村様:那珂市管財課DX推進室 兼 情報システムグループの鹿志村と申します。ここからは、文書管理改革の実際についてお話いたします。
先ほど、文書管理のシステム化について、当初は総務課が反対していたという話がありました。実は私は、まさにその総務課がシステム化を受け入れていく段階で担当となった者です(笑)。その後、システムは一括調達となったので、いったんはお役御免かと思っていたのですが、管財課に異動となり、現在は調達から携わっているところです。
当市の内部事務DXはまだ途上のため、美しい成功談ではありませんが、担当者目線で失敗や反省も含めてお話できればと思います。特にお伝えしたいのは、職員に受け入れられる体制をどうつくるかということです。
下図は内部事務システムの稼働時系列、令和8年10月に『文書管理・電子決裁』とあるのが今回の話題の中心のシステムです。

(2)関係者を3層で捉え、必要なサポートを考える
このように短期間で次々とシステムが変わる中で、職員が受け止める負荷をどう抑えるか。関係者を下図のように3層に分け、業務所管課と利用職員は『現場の職員』と一括りにせず、それぞれに必要なサポートを考えることが大切だと感じています。

例えば、日々の業務を止めたくない利用職員と、運用上の責任があり安全に導入したい業務所管課。業務フローの一元化を目指すシステム部門と、今の運用でも回っていると一元化による業務影響を懸念する業務所管課や利用職員。理想と現実のギャップをどう埋めるか、両者の落としどころを探ることを常に意識しています。
また、利用職員にとってシステムは、日々の仕事の進め方そのものです。慣れた画面操作があり、その操作を前提とした確認フローがある。システム部門にとってのシステム変更は、システム部門から見ると機能や画面の変更として捉えがちな部分でも、職員にとっては仕事の進め方そのものが変わることになります。ですが、職員にとっては仕事の進め方が変わることへの不安や、新しいことを覚える負担感を伴います。
だからこそ、機能や操作の説明だけでなく「誰の仕事がどう変わるのか」「例外はどう扱うのか」といったことまで整理しておく必要がある。これも、職員に受け入れてもらう体制をつくるために意識していることです。
(3)混乱時のサポート体制を先につくっておく
ここで一つ、反省の多かった事例をお話させていただきます。令和8年3月に、庶務事務・人事給与システムを稼働させたときのことです。
稼働直後にシステム稼働における想定外の不具合が発生し、総務部門がその対応に追われてしまうという事態が発生しました。結果として、システム部門・業務所管課・利用職員の3者に不安が広がりました。
システム導入では、問い合わせや想定外の事象は避けられません。混乱をゼロにするのではなく、混乱した時の対応策を準備しておくことが今後の教訓です。サポート体制を先につくっておくことが、職員に変化を受け入れてもらうための土台になると感じています。
推進の肝となる庁内調整
(1)文書整理は、庁内の仕事の整理
先の話にもあったように、文書管理・電子決裁は、単に紙を画面に置き換えるものではありません。文書管理には分類・保存・廃棄の考え方あり、電子決裁には起案・合議・決裁・施行の流れがあります。さらに財務会計・契約管理・庶務事務・共有ファイル・紙文書の例外処理とも関係してきます。
つまり文書管理・電子決裁を導入するには、庁内の仕事の流れを整理する必要がある。ここが決まらないとシステムの要件も決定できません。どの事務を電子決裁に載せるか、何を紙で残すか。共有ファイルサーバーに何を置き、グループウェアで扱うものは何か。
マイナンバー利用事務も、扱いが難しいものの一つでした。セキュリティ上、どこまで文書管理システムに載せてよいのか。関係する窓口部署は非常に多く、載せられないとなると、ではシステムは何に使えるのかという話にもなります。このあたりの調整を、文書管理コンサルに入っていただいたオフィスミカサ様にもご相談しながら、方向性を決めていきました。
(2)システム導入前に、文書と業務を整理する
システムを導入してから文書管理や業務を徐々に見直す方法もありますが、導入後の整理は負担が大きく、結局整えきれないという事態もありえます。そこで、那珂市では導入前にできる限りの整理をすることを選びました。
具体的にはファイル基準表を再構築し、下図のように整理を進めていきました。

基本的な運用案はDX推進室で作成しましたが、例えば大判の図面や分厚い冊子はどう扱うかなど、各部署で文書を洗い出さないとわからないこともあります。そのため、例外対応できる柔軟性を持った運用設計を心がけました。
今年10月の文書管理・電子決裁システム稼働に向けて、6月の今の時点で文書の仕分けはある程度終了し、システム要件や運用ルール、職員への説明などもたたき台ができている状態となっています。
(3)文書整理をモデル課室で先行実践。紙を30%削減
文書整理を庁内展開するにあたって、何か事例があるといいとオフィスミカサ様から助言いただき、総務課と管財課の2部署でコンサル支援を受けながら先行実践しました。実は、まずは総務課で行おうとしたところ急きょ衆議院選挙が決まり、管財課が応援に入って協力体制で実施したという経緯です。
整理してみると、複数の人が同じ文書を持っていたり、廃棄年限を過ぎた文書も見つかり、結果としてモデル課室において紙文書保管量30%削減の効果がありました。次のステップとして、電子決裁に載せる事務と例外として紙で残す事務を分け、前者はシステム稼働後に電子化が進む見込みです。
文書管理改革の実際。モデル→全庁展開へ
(1)株式会社オフィスミカサについて
長野様:株式会社オフィスミカサの長野と申します。弊社は文書管理、業務改善などを支援領域とする会社で、全国の自治体や商工会議所といった団体、企業のコンサルティングや研修を多く手がけています。
実は私自身が元自治体職員で、情報システム部門に勤務していました。弊社の社員も、元自治体職員がいます。システム導入担当者の負担も、各所属職員の負担も知ったうえで、両者のジレンマをどう調整するか。いろいろな自治体の文書管理やネットワーク環境も見てきたからこその知見も強みに、支援をいたしております。

(2)文書管理を中心に、関連規定も見直す総合的な取り組み
他自治体の例となりますが、全庁展開では一年をかけて書類量を40%削減されました。削減だけなら『書類整理』ですが、ポイントは『文書管理』にあります。全所属の行政文書をリスト化して、ファイル基準表を3階層分類(大・中・小分類)で作成し、庁内共通ルールのもとで文書を管理するというもの。全情報資産の見える化につながる取り組みです。
那珂市様でも、全所属のファイル基準表の再構築を支援しました。ただ、ファイル基準表単体では抜本的な改革は難しい面があります。那珂市では、歴史的公文書規定といった関連規定の改定や業務フローの見直し、文書管理マニュアルの作成など、総合的なご依頼をいただいたこともうまく進められた要因でした。
(3)モデル課室での先行実践を通じて、庁内支援者を育成
総務課・管財課様の2部署に関しては、モデル課室として紙文書の管理改善から支援しました。もともと個別フォルダーという紙タイプの収納用品で文書を管理されており、ファイル基準表の3階層分類に相性がいい管理状態でした。よくある分厚いチューブファイルでは4階層目ができがちで、分類が深くなります。
手順としてはまず、すべての紙文書を洗い出します。もちろん手元・足元・引き出しの重複書類もチェック。それを整理し、収納(個別フォルダ化)そして、Excelのファイル基準表に入力し、文書管理スキルである「分類・配列・タイトル」を検討して、業務の流れや職員の思考に沿ったものに仕上げていきます。この作業を通じて文書管理スキルを習得する、重要なステップです。
那珂市様では60~70点ではなく、100点を目指して取り組まれました。結果、総務課で1363行、管財課で1063行のファイル基準表が完成し、書類量は30%削減できました。
Excelは文書管理システムにインポートすれば、電子決裁やファイルサーバーの分類体系にもなります。これがファイル基準表の価値です。

このファイル基準表が完成するまでに、弊社と10往復以上の修正のやり取りがありました。例えば、ファイルのタイトルに『その他』や『○○関係』など具体的に内容がわからないものはNGです。
何度も修正を重ね、業務担当外の職員でも指定された文書を探せるか、『他者検索』のテストも行いました。総務課の文書を管財課の方が探すのに13.8秒、管財課の文書を総務課の方が探すのに11秒。目標としていた30秒以内を大きく下回る結果となりました。

文書の整理からファイル基準表作成に至る一連の流れを経験することで、弊社のコンサルティング終了後も、経験した方が庁内展開を支援することができます。このように長期的な視点で維持管理できる体制をつくることも、弊社が大切にしていることです。
(4)実践研修を通じて、全庁展開を推進
全庁展開にあたっては、ファイル基準表作成の研修を行いました。事前課題として各部署のファイル基準表を作成して提出いただき、集合研修の場で分類・配列・タイトルを見直し、作り込む実践形式です。この研修を3回繰り返して仕上げていただきましたが、受講者をサポートするのは弊社だけでなく、先行実践を経た総務課・管財課の職員様もでした。経験がスキル移譲につながった成果です。

研修後のアンケートには「他人事の絵物語になりがちな話ですが、すでに総務課と管財課で運用されているので安心して取り組める」といった声が寄せられました。推進役のリーダーが一番に汗をかいて実践したことが、庁内の自分事化につながった結果でした。

また那珂市様では所属ごとのファイル基準表と併せて、『全所属共通分類』も作成されました。予算決算や議会など、どの所属にもある業務を同じタイトル・分類・配列にして全庁で利用する取り組みです。これがあることで、どの所属で配属になっても「予算決算の書類は何番目」かは共通なのでわかりますし、システムに反映すればファイルサーバーでも予算決算がある階層が全部署共通になります。アナログの文書整理を全庁共通の標準化につなげたことも、大きな成果でした。
さらに、弊社からも文書管理マニュアルを提供いたしましたが、プロジェクトチームのみなさまがモデル実践を踏まえてさらに詳細な説明書を作成し、全庁的に展開されました。これだけの取り組みがあってこそ、内部事務DXが前進しているということです。事務局様の尽力にも着目していただけたらと思います。
(5)自治体の熱意が、事業者との相乗効果を生む
自治体職員の皆様は、住民一人ひとりの暮らしを最も身近な場所で支える仕事をされています。子育てや福祉、防災、教育など、生活に欠かせない行政サービスを届けるその役割は、地域社会を支える土台そのものだと思っています。そんな職員の方々をサポートしたいという思いが、私の起業の原点です。那珂市の職員様は弊社がフィードバックする度にすぐさま改善した上で「次はどうしましょう」と新しい課題を相談してくださる。その熱意のある職員様がいて一緒にお仕事をさせていただけたことが、今回の成果につながったと感じています。
まとめ
鹿志村様:モデル課室として文書分類に取り組むのは、実はかなりしんどい作業でした。「文書のタイトルに『〇〇関係』のような曖昧な表現は避ける」「分類の配列は、業務の順番を反映していますか?」。オフィスミカサ様からの指摘に感じたのは、文書と向き合うことから逃がさないという強い意志でした。
さて、改めて本日のまとめをお伝えしたいと思います。内部事務DXは『導入』より『整える』。紙・分散・属人化した運用を、電子決裁に載せる前に整理することが大切だということです。

文書管理・電子決裁は、総務課だけ、システム担当だけの仕事ではありません。利用する全職員が同じ業務フローを見据えながら、運用を揃えていく取り組みです。システム稼働日はゴールではなく、定着サイクルのスタート。うまくいかなかったら反省を活かして、次を考え続けることがDX推進担当の仕事だと考えています。
当市では、まだまだ稼働が続きます。前進を続けていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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