セミナーレポート
2026.8.6

【図書館総合展2025年度フォーラム】
さらに前進する図書館、自治体の新しい取組の最新事例!

奈良県奈良市様では、デジタル田園都市国家構想交付金を活用し、図書館サービスの新たな可能性へアプローチされています。特に若年層の利用促進を目指し、主要駅に「予約本貸出ロッカー」を設置。通勤・通学の途中でも気軽に本を受け取れる仕組みを整え、図書館をもっと身近な存在へと進化させています。本フォーラムでは、この取り組みの背景や導入の目的、稼働・運用にあたっての課題と今後の展望について、ご紹介いただきます。地域の図書館がどのようにデジタルを活用し、新たな図書館サービスを実現していくか、今後の取り組みの手がかりとなるフォーラムです。

<登壇者>
奈良市教育委員会 中央図書館 主任 村田 直史 氏

村田 直史 氏

奈良市が取り組む図書館DX

奈良市は、奈良県の最北部に位置する市です。北は京都府に、西側は大阪府に面し交通の便が良く、大阪のベッドタウンになっています。この奈良市には図書館が3館、「中央図書館」「西部図書館」「北部図書館」があります。

三つの図書館の立地

▼中央図書館の立地

  • 観光地の中心地(ならまちエリアや奈良公園に近い)

→景観は良いが、住民よりも観光客のほうが多い

▼西部図書館の立地

→住宅地(人口密集地であり貸出や図書のニーズが多い)

▼北部図書館の立地

→高の原駅前

奈良市立図書館の現状

奈良市立図書館の概要

奈良市の図書館が取り組んできたさまざまなDXを紹介します。
大きく七つの取り組みがあります。

奈良市の図書館DX

  1. ① IC系(BDS〈ブックディテクションシステム:不正持ち出し禁止ゲート〉、自動貸出機、自動返却機、予約本照会機)
  2. ② ホームページ系(オンライン利用者登録、オンライン期限更新、仮利用者登録)
  3. ③ 電子図書館、オーディオブック
  4. ④ 館内利用者登録用パソコン、タブレット、利用者仮登録二次元バーコード
  5. ⑤ マイナンバーカード連携、電子貸出券
  6. ⑥ 子育て支援、障害者等無料郵送サービス連携
  7. ⑦ 移動図書館(Wi-Fi等)
  1. ② のホームページ系について少し説明します。

奈良市の図書館では、来館することなくオンラインだけで利用者登録を完結できる「オンライン利用者登録」の仕組みを整えています。これは、後ほど説明する予約本貸出ロッカーの運用を支えるシステムの一つです。

電子図書館を導入したとき、「電子図書館なのに、利用券を作るために図書館本館へ行かなくてはならないのですか」というご意見をいただきました。そこで、検討が始まり、最終的にオンラインだけで貸出券を発行できるシステムを作りました。

オンライン利用者登録・更新

利用者は、まずホームページのトップ画面に「貸出券をつくられる方はこちら」というボタンをクリックします。次の画面で必要な情報を入力して、マイナンバーカードもしくは運転免許証をスマホのカメラなどで撮影して送信。すると、その身分証明書に書かれた情報と打ち込んだ情報がシステムの中で照合されて、間違いがなければオンライン上で電子貸出券が発行されます。

この貸出券を使えば、図書館本館に来なくても、電子図書を借りたり、読みたい紙の本を予約したりできます。その予約した本は予約本貸出ロッカーで受け取ることもできます。なお、照合で使用した身分証明書の情報は、照合が終われば自動的に削除されるので、図書館のサーバー上に情報が残ることはありません。

書架案内ロボット

最近導入した、書架案内ロボットについても少し紹介したいと思います。設置している場所は、中央図書館の児童書室にある図書検索端末の横です。利用者は、図書検索の端末で本を検索し、表示された「案内」のボタンを押すと、ロボットが動き出して本のある棚まで導いてくれます。

ロボット本体は掃除ロボットのような形をしていますが、その上に台を取り付けて奈良市のキャラクター「しかまろくん」を載せることで、親しみやすい姿にしています。子どもたちにはとても人気で、小学校の学習活動でこのロボットを実際に目にすると「図書館ってこんなにハイテクな場所なんだ」と感心してくれます。後日、保護者を連れてきてくれる場合もあり、ロボットが読書振興にも役立っています。

予約本貸出ロッカーの導入――電車内を読書活動の居場所に

ここから奈良市が導入した図書受取ロッカー(予約本貸出ロッカー)について説明します。

図書貸出ロッカーの政策

この新設備は、国の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用して取り入れたものです。予約本貸出ロッカーの設置だけで交付金を得たわけではなく、先ほど紹介したロボットの導入と合わせて申請しました。この二つの取り組みの事業費は1,923万8,000円で、この半額を国から出してもらった形になります。

この予約本貸出ロッカーを導入するきっかけは、市長の発想です。奈良市には大都市の大阪に通う通勤通学の市民が多くいます。ここに着目して、電車内を市民の読書活動の場所にできないかと考えたのです。それで、駅に予約本を受け取ることができる貸出ロッカーの設置を検討することになりました。

この発想の背景には、近年の図書館サービスの変化があります。今、従来の資料提供サービスだけでなく、居場所としての空間を提供するサービスも意識した図書館が次々に現れるようになっています。

予約本貸出ロッカーの政策的な背景

〈近年の図書館サービス〉

  • 「資料提供サービス」+「空間提供サービス」
  • 孤独・孤立対策推進法等……居場所としての図書館
    • 滞在型図書館……居心地が良く、長時間過ごすことができる空間
      カフェやワークスペースの併設、さまざまな文化活動
  • 新設館を中心に多機能を複合した図書館が注目を浴びている

〈奈良市の政策的な観点〉

  • 財政的な余裕がないので図書館を作ることができない
  • 奈良市は大都市への通勤・通学の人が多い。
  • 図書館本体に「居場所」を求めるのではなく、電車の車内を読書活動の「居場所」とする

図書受取ロッカー事業(概要)

昨年度、予約本貸出ロッカーを2カ所に設置しました。運用開始日は2024年10月16日になります。ターゲットは、図書館を利用しにくい通勤・通学者です。このロッカーを使えば、図書館に一度も来なくても本を借りることができます。

設置した場所は、奈良市内の乗降客数ランキングで2位と3位の駅です。1位の近鉄奈良駅は観光で訪れる方の利用も多く、政策のコンセプトから外れると判断。奈良市内の通勤や通学で利用している市民が多い学園前駅(ランキング2位)と大和西大寺駅(同3位)を選定しました。

図書貸出ロッカー設置場所

どちらの予約本貸出ロッカーも、扉(間口)数は38です。大和西大寺駅に設置した予約本貸出ロッカーについては、通年で24時間利用できます。もう一つのロッカーは、学園前駅のそばにある奈良市の施設「西部会館」の中に設置していて、通年7時から22時まで利用できます。設置場所や周囲の環境に合わせて、筐体(きょうたい)やデザインも変えています。

ロッカーの利用方法――図書館に行くことなく本を借りることができる

予約本貸出ロッカーの利用方法は以下の流れになります。

予約本貸出ロッカー利用の流れ

〈利用券を持っている場合〉

  1. ① 図書館ホームページで予約
  2. ② 本の受取場所を「予約本貸出ロッカー」に指定
  3. ③ 予約本貸出ロッカーで本を受け取る

〈利用券を持っていない場合〉

  1. ① オンライン利用者登録
  2. ② 電子貸出券を入手
  3. ③ 図書館ホームページで予約
  4. ④ 本の受取場所を「予約本貸出ロッカー」に指定
  5. ⑤ 予約本貸出ロッカーで本を受け取る

図書受付ロッカーで本を受け取る

先ほど説明しましたが、図書館の利用券を持っていなくても、ホームページ上で手続きをすれば電子貸出券が即時発行されるので、図書館に行かなくても本を予約できます。予約した本が用意されると、メールで通知。そして予約本貸出ロッカーに行き、中央上部の画面上で簡単な操作をして利用権や電子貸出券、あるいは利用券にひも付けられたマイナンバーカードをスキャナーに読み取らせると、画面上に番号が表示され、その指定番号の扉を開くと予約本を受け取ることができます。

予約本貸出ロッカー運用の映像解説

運用上の特徴の一つは、利用者が本を取り出してロッカーの扉を閉めた時点から貸出期間が開始される点です。同時に、利用者にはメールで電子レシートが送信され、返却期限日などが知らされます。

また、予約本は手提げ袋に入れられてロッカーに収納されます。本の取り忘れを防止するためです。利用者は、この袋に入った状態で持ち帰り、返却時も袋に入れた状態で戻してもらいます。

想定を上回る人気――数週間のロッカー利用待ち状態が発生

1年間、予約本貸出ロッカーを運用した結果、利用実績は次のようになりました。

図書受取ロッカー利用データ

想定以上の人気で、本を用意できても、ロッカーの間口が埋まっていて待機せざるを得ない状況が多数発生しました。大和西大寺駅に設置したロッカーでは最大で3~ 4週間の利用待ち、西部会館のロッカーでは最大2~3週間の利用待ちが生じました。

現在も、図書館の職員が予約本貸出ロッカーに行って、確保期限(5日)が過ぎた本を引き上げては予約の本を入れるという作業を毎日繰り返しています。この順番待ちの解消が、現在抱えている最大の課題です。

年代別の利用者割合は、次の通りです。

図書受取ロッカー利用データ 年代別の利用者割合

図書館本館では、0~12歳の子どもと61歳以上の高齢者、特に70歳以上の方が多く利用しています。一方、予約本貸出ロッカーでは、いわゆる現役世代の23~60歳の方の利用が多くなっています。

図書受取ロッカー利用データ 今後の課題

また、利用者の満足度調査を実施すると、設置場所を増やしてほしいという要望が多く寄せられました。スマホで簡単に操作できるシステムに対しても、とても使いやすいという声を多くいただきました。

運用して1年経過――予約本貸出ロッカーのメリット・デメリット

図書館政策における予約本貸出ロッカーのメリットについて、私が思うところをまとめてみました。

図書館政策上のメリット

  • 置きたい場所に置ける
    • これまでの課題:新設館や受け渡し窓口など、人が集まる場所をはじめとして
      ・場所の確保と維持が難しい
    →「すき間」を見つければ、需要が高い場所でも本が貸せる
  • 新設館や窓口を設置するよりも安い
    • これまでの課題:受け渡し窓口(月30日 7:00~21:00開所)
      日額の会計年度任用職員(17日勤務)の年収が200万円として、
      ・1日2交代制としても5人程度は必要
      ・1年で1000万、5年で5000万円以上のコスト
      ・3窓口なら3倍かかる
      ・また、図書館システム使用料や場所代がかかる場合も
    →予約本貸出ロッカーなら初期導入500~1000万、ランニングコスト年300万

デメリットについても言及すると、一番は扉数が限られることです。置く場所を考えると、大きいロッカーを用意することはできません。しかし、扉数が少ないと、利用できるまでに「数週間待ち」という状態が生じます。導入時は、扉数を慎重に検討する必要があります。

また、今回の取り組みで最も苦労したのは、最適な設置場所を見つけるということでした。「すき間」というスペースは、実際に探すと「あるようでなかなかない」ということを実感しました。

昨年度、大和西大寺駅に設置しようと、鉄道会社の方と何度も交渉しました。この駅は2線が交わる乗換駅なので、こちらは改札の中に予約本貸出ロッカーを置くことを要望しました。しかし、改札内には条件に合うスペースがあまりなく、電力を確保するための配線工事が必要であるなど、いろいろと支障があって改札内の設置は断念しました。

そこで、改札の外に設置することを検討したのですが、良いスペースにはすでに自動販売機などが置いてあったりと、やはり場所探しは簡単ではありませんでした。また、この予約本貸出ロッカーは完全防水ではないので、室内でなくても、屋根があって雨をしのげるような「半屋外」の環境が求められます。このような制約を踏まえて適所を探していくと、改札に近くて雨にも濡れない場所をなんとか見つけることができ、そこに予約本貸出ロッカーを設置させてもらうことになりました。

この事業を進めるには、「ここに置けば効果的だ」というスペースをいかに見つけるかがとても重要になると思います。

奈良市立図書館予約本受取ロッカー

実際に導入して――運用していく中で生じた課題とその解決

運用を開始すると、システム上の課題がいろいろと出てきました。

今回、図書館のシステムと予約本貸出ロッカーのシステムを完全に連携させる形を想定し、仕様を作りました。ただ、その仕様でシステムを作って実際に運用してみると、例えば何らかの理由で図書館システムのサーバーが停止したり、通信状況が悪くなったりすると、予約本貸出ロッカーも使えなくなるという状況が生じてしまいます。

このような状態になると、利用者がロッカーから本を取り出せなくなってしまうというトラブルが生じます。導入当初は、ロッカーの合鍵を複数用意して、もし利用者から「ロッカーの扉が開かない」と連絡を受けたら、近くの図書館の職員が駆けつけて合鍵で扉を開けるという運用にしました。

しかし、この運用は職員の負担が大きいです。この課題を解決するために、システム導入後にベンダーの内田洋行に相談したところ、調整してもらえることになり、予約本貸出ロッカー単独で本の受け取りができるシステムに改修してもらうことができました。

また、図書館の職員は常に予約本貸出ロッカーが今どのような状態になっているのかを把握しておく必要があります。この機能は仕様には書かれていなかったのですが、内田洋行に相談したところ、予約本貸出ロッカーの今の状態を図書館の事務所で知ることができるようにもカスタマイズしてもらいました。

初めて導入するシステムは、実際に運用してみるといろいろな課題が出てくるものです。多くの場合、仕様に書いていないことは対応してもらえず、運用でカバーすることになります。しかし、今回はシステムを作る中でベンダーの方と「このやり方で利用者が本当に使いやすいのか」という話を真剣に重ねる中で、互いに「より良いシステムを作って運用をしよう」という思いが強まり、結果的に導入後もいろいろと調整してもらうことができました。ベンダーとの間で目指すものを共有できたことが、今の順調な運用につながっていると思っています。

今後、予約本貸出ロッカーを導入する自治体は、すでに奈良市のケースでいろいろな課題が出て解決されているので、使いやすいシステムを構築できると思います。

今後の展開――新たに3基の設置を計画

導入してから1年ほどが過ぎた2025年9月、奈良市議会議員から次の質問をいただきました。

奈良市議会での質問

「読書離れが進んでいると言われるご時世に、順番待ちが3週間や1カ月も発生している事態をどう考えているか?」

この質問に対する回答を肯定的に考えれば、奈良市において潜在的にあった読書に対する需要を掘り起こすことができたと言えるでしょう。逆に、否定的に考えれば、奈良市の図書館政策(全域サービス)が十分でないことが明らかとなったとも言えます。いずれにしても、奈良市民の期待に対して図書館政策を検討し続ける重要性を再認識しました。

今年度、奈良市は新たに3基の予約本貸出ロッカーを設置することで計画を進めています。このうちの二つは、JRの奈良駅と近鉄の富雄駅が候補です。残る一つは、近鉄の学研奈良登美ヶ丘駅のそばにあるショッピングモール内に設置したいと考えていて、事業者と話を進めています。

令和7年度設置予定の図書貸出ロッカー

このショッピングモールへの設置については、運営事業者から「地域の方に何かできることはないか」という話をいただいたことがきっかけになっています。この施設には、大きな駐車場があり、7時から23時まで使える通路があります。この通路に設置することを検討しているところです。また、ファミリー層が多く利用する施設なので、予約本貸出ロッカーのデザインについてもファミリー層向けにできないかと内田洋行に相談しています。

図書館DXで大事なこと

DX推進のメリットの一つは、利用者の利便性が向上することです。ICTを使うことで、今までできなかったことが可能になります。その一方で、業務の効率化という面もあります。職員の負担を軽くすることにも役立ちますが、一方で人件費をカットされる話にもつながりやすいところもあります。

合理化によって生まれた時間で、何ができるのか。時代にあった図書館のあり方の検討や、DXに左右されないところへのしっかりした取り組みが必要だと思います。

まとめ

奈良市では、図書館がここに紹介したような取り組みを積極的に発信していくことで、市民や市議会議員から「図書館っていいね」という声が多く聞かれるようになってきました。一番大事なのは、図書館のファンや味方を作っていく努力ではないかと思います。

もう一つ言うと、市役所の職員は異動があるので、専門性があまり蓄積されません。図書館のシステムや設備を導入するにあたっては、いろいろな外部の専門的な方たちの協力が必要です。そのとき、いかにベンダーなどの専門的な事業者とうまく協働できるか。自治体側がしっかりとプランを持って専門的な事業者と一緒に取り組むことが重要だと思っています。市役所と事業者の間で「図書館を通して市民サービスをしたい」という思いを共有できたとき、図書館のDXが良い形で前に進んでいくのではないでしょうか。

以上、私が予約本貸出ロッカーを運用してきて感じたことでした。

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