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株式会社内田洋行 |
当社では2024年の夏ごろから Microsoft 365 Copilot を社内に導入し、活用推進のさまざまな取り組みを行ってきました。上手くいった施策もあれば、そうでなかったものもあり、本日はそうした経験や私なりの考えを率直に共有させていただきたいと思います。
まず、当社での Microsoft 365 Copilot の活用状況について。有償の Microsoft 365 Copilot ライセンスが現時点でおよそ600ユーザー、そのうち月1回以上利用するアクティブユーザーの割合は95%です。また、月間の利用総数は38,000回で、半年前の2倍にまで増加しました。
こうお話すると順調に伸びているようですが、実は土日を除く週5日間のうち3日以上使用するユーザーは全体の約4割。この4割のユーザーが全体の月間利用総数の8割を占めており、残り6割のユーザーと利用状況の差が広がっているのが正直なところです。
ただユーザーの関心は確実に高まっていて、Microsoft 365 Copilot(以下、Copilot)の活用で業務効率が上がったという声も増えています。けれど、毎日利用するには至っていない。広く周知はできたけれど、深く活用するユーザーはまだ限定的で、先ほどお話した「残り6割」をどうサポートするか。今後の定着に向けた、継続的な支援が必要だと考えているところです。
これまでも当社では、代表的な施策として下図にあるような取り組みを行ってきました。
こうした活動を通して考えてきたことを、「そんな今だから思う Copilot 活用推進のポイント5選」としてご紹介したいと思います。
まず、講習会で「Copilot は簡単に使えます」と伝えたことが、逆効果だったのではないかという振り返りがあります。心理的なハードルを下げるためでしたが、「活用を妨げる間違ったイメージ」を与えてしまったのではないかということです。
「日本語で指示するだけで使える」と言われても、どう聞けばいいのか悩んでしまう。「チャットできる」といっても、業務にどう活かせるかイメージできない。Word や Excel、PowerPoint、SharePoint、OneDrive など、Microsoft の各種アプリと連携できることも利点ですが、そもそも日頃からこうしたツールを活用していないと Copilot との連携はうまくできません。
「話に聞いたほど、簡単に使えない」と感じた人が多かったのではないかと思うのです。
こう感じたことには、実はきっかけがあります。ある時、デモが上手くいかず参加者の前で試行錯誤していたら、「Copilot はこうやって使うものなのですね」と。「上手くできない自分が悪いのかと思っていたが、デモでも失敗しているのを見て少し安心しました」と言われ、上手く使えないことを「自分が悪い」と感じるユーザーが多いことに気づいたのです。
まずは興味を持ってもらって、自分でもやってみようという気持ちを育てる工夫が必要だった。それがわかって以来、デモはあえてつくり込まず、試行錯誤しながら利用する様子を見せて、Copilot の実態を正直に伝えるようにしています。
社内のオンラインコミュニティも、「上手くいったユースケースを共有しましょう」と呼びかけても投稿がありませんでしたが、上手くいかないことをつぶやいてみたら「私も」と反応があり、「自分はこうしたらできた」と書き込んでくれる人が増えました。
新しい取り組みは「プラス」の面をアピールしがちですが、「マイナス」の面も見せることで、使ってみようというモチベーションを引き出せる。この気づきによってユーザーとの共感が深まり、非常に効果があったと感じています。
次に、プロンプト集についてです。関心を持たれる企業も多いのではないかと思います。確かに、プロンプト集があることによって、Copilot の活用イメージが具体的になるなどのメリットはありますが、実はその効果はかなり限定的だというのが、この1年半ほど取り組んでみての気づきです。
プロンプト集は、より多くのユーザーが使えるようにと考えると汎用的になりすぎ、ある業務に特化すると一部の人しか使えないものになってしまいます。またAIモデルは常に進化し、業務も変化しますので、時間をかけてプロンプト集をつくっても、メンテナンスの仕組みがないと古くなってしまうという問題もあります。
これは私見になりますが、活用の秘けつは Copilot と「会話ができるようになる」ことだと考えています。使いこなしているユーザーに話を聞くと、1回の質問で正解が返ってくることは求めていない。Copilot と対話し、話題を蛇行させながら答えに近づいていくという使い方をしていました。この「話題が蛇行する」ことが実は大切で、それによる柔軟で「動的な対話」が Copilot の活用の本質にあると思うのです。
しかし対話をテンプレート化するのは難しく、プロンプト集からは対話のスキルは学べません。むしろ、テンプレートのようにしっかりとしたプロンプトを書いて聞かなくてはといけないという間違ったイメージを与えてしまうように思います。
では、対話力には何が必要か。いろいろな要素が考えられますが、ここでは下図のようにまとめました。
まず、①業務文脈の整理。何をしようとしているのか、背景や目的、求める成果を言葉にしてCopilot に伝えるということです。そして、②対話の進め方。これは人との会話と同じで、Copilot の答えが求めるものと異なるときは「この部分は違う」とフィードバックして、対話を続けるということ。最後に、③試行錯誤の姿勢。1回の答えに完璧を求めず、Copilot と付き合うということです。
このように、試行錯誤しながら気軽に対話していくのが Copilot なのだとユーザーにイメージしてもらうためにお勧めなのが、「音声入力による利用」のデモンストレーションです。
今ここで、実際に行ってみたいと思います。
太田(PCのマイクに向かって):「ちょっと悩んでいることがあって、話を聞いてほしいんだけど」
Copilot(画面にテキストで返答):「悩みとはどのようなことでしょうか?」
太田(同):「Microsoft 365 Copilot の使い方をユーザーに説明したいのだけど、私としては〜と考えているんですよ」
Copilot(同):「それはいい視点ですね。でしたら〜」
実はこの程度の簡単なプロンプトで Copilot は意味を理解しようとしてくれ、講習会の構成案を返してくれるわけです。私も日頃からプレゼン資料を作るときなどに、Copilot に自分の考えを音声でただ話すといったことをよくします。すると Copilot は私の考えを体系化し、整理してくれる。これだけでも非常に便利です。
何か決まったテンプレートで指示しなくてはと思うと、日々の細かな業務で使ってみようという気にはなりにくい。気軽に使って構わないと理解してもらうために、音声入力のデモは非常にお勧めの方法です。
3つ目の活用推進のポイントは、Copilot の進化が非常に速いということです。1年半前に作成した社内講習会用の資料も、今ではすべて古くなってしまいました。今年だけでも使い方が大きく変わりそうないくつかのアップデートがあります。
特に大きいのが、2025年8月に OpenAI から最新のAIモデル「GPT-5」がリリースされたことです。Microsoft 365 Copilot でも、その日のうちに「GPT-5」を利用できるようになりました。つまり、半年前の Copilot と今の Copilot は「違うもの」になっている。できることが変わっているということです。
こうした最新情報をキャッチアップして社内に共有し、ユーザーがCopilotの利用に活かせるようにすることも大事なポイントになります。
そもそもAIモデルの進化とはどのようなものか、下図に概要をまとめました。
ポイントは、AIモデルの進化に合わせて、私たちが語りかける方法を変えなくてはいけないということです。2025年8月以前、「GPT-4」の時代は手順や制約条件を明確に指示するプロンプトが主流でした。
「GPT-5」はよりシンプルに、何をしたいかを会話のように伝えるだけで十分です。逆によかれと思って条件を細かく指示することで、「GPT-5」の足を引っ張ってしまう。そうしたことが、現実に起きています。
こうしたアップデートを共有するために、当社では毎週1回15分間の「プチ勉強会」という場を設けています。「新しい機能がわかる」とユーザーからの評判もよく、2024年12月に開始してまもなく一年になりますが、継続して行っているところです。
時間は朝9時15分から。朝なら学んだことをその日のうちに試せますが、夕方だと「明日やってみよう」と思っても、次の日になったら忘れているかもしれませんよね。そのため「朝」という時間にもこだわって実施しています。
次は視点を少し変え、ユーザーが Copilot に不満を感じるのはどのようなポイントかをお話したいと思います。
当社では、定期的に社内ユーザーにアンケートを実施しているのですが、「業務に役立つか」という質問に大半は「役立つ」と回答する一方で、「役立たない」というユーザーが約10%います。理由は「社内情報の検索を Copilot に依頼したが、使えない情報しか返ってこなかった」というものです。
なぜ、Copilot が返す社内情報が使えないのか。原因の一つに、Microsoft 365 にある情報が多すぎるということがあります。膨大なドキュメントのなかには、古いものもあれば作成途中のものもある。Copilot はユーザーから何かを聞かれたら、そのすべてから探そうとして「使えない情報が返ってきた」となってしまうわけです。
「社内情報の検索」というユーザーのニーズがある以上、うまく応えないと「Copilot は使えない」と評価されてしまいます。その解決策になるのが「エージェント」という機能です。
これは特定の業務や情報に詳しい Copilot のチャットボットのようなもので、Copilot Studio(※)の画面から設定します。
※Microsoft 365 Copilot と統合されたアプリ。2025年11月時点では Microsoft 365 の範囲内で動くエージェントに限定され、それ以外の範囲に連携・接続するエージェントの作成は別途、有償の Copilot Studio ライセンスが必要です。
具体的な作成手順としては、まず、どのようなエージェントが必要か、求める役割をチャット形式で入力します。ここで大事になるのが、「ナレッジの設定」です。たとえば、製品情報を調べるエージェントであれば、関連するドキュメントが SharePoint のどのライブラリにあるかを指定しておける機能です。
これによって、エージェントはむやみに全体から探すのではなく、指定されたライブラリを参照するため、正しい情報を返す確率を高めることができるのです。作成したエージェントは、チーム内や社内全体でも共有できますので、よく利用されるテーマはあらかじめエージェントを用意しておくことも、ユーザーの活用推進に効果的です。
独自エージェントの作成はハードルが高いようなら、SharePoint にあらかじめ組み込まれたエージェントを活用する方法もあります。SharePoint のサイトの右上にエージェントのアイコンがあり、クリックするとユーザーが参照中のライブラリの情報に対して答えてくれるというものです。検索したいライブラリが特定できている場合に効率的に活用できる、お勧めの機能です。
ただ実はこのエージェントに関して、「こうしておけばよかった」と思う最大の反省があります。15年前に遡るのですが、当時、当社は Lotus Notes というグループウエアを使用していました。それを Microsoft のクラウドサービスに乗り換える際に、Lotus Notes のデータベースで管理していた情報を SharePoint リストに、えいやと移行したのです。
SharePoint リストは表形式で、データベースのテーブルに似ているからという理由で選んだ方法でしたが、現時点では Copilot が SharePoint リストの情報を上手く扱えないため、これが大きな制約になっています。人事規定や各種事務手続などよく参照される情報が多く、SharePoint リストで本当によいのか慎重に検討すべきだったと、かなり後悔しています。
今からできる解決策としては、一覧化が必要なデータは Excel にエクスポートする、人事規定や事務手続のマニュアルなどは Word や PDF で再作成するといったところでしょうか。将来的には Copilot が SharePoint リストも検索できるようになることを期待していますが、ユーザーが再利用する情報はドキュメントファイルとしてライブラリに入れておくことが、現状の Microsoft 365 では必要な対応といえます。
最後に、活用推進の社内体制づくりについて。社内の有志を巻き込むことが大切だと、よく言われます。確かにそうした体制づくりは効果的ではありますが、これもつまずきポイントがあると、実際に推進するなかで感じているところです。
つまずきポイントとは、「有志」であるという点です。手伝ってくれる人たちは、あくまでも本業の傍らで時間を使ってくれているわけです。その人たちに何かしらプラスの側面を提供できないと、持続的な取り組みにはならないと思うのです。
たとえば、活用推進の活動が上司から認められ、人事評価にも反映される。上司だけでなく、同僚など社内にも認知される。本業の傍らで負担が重くならないよう配慮するなど、有志メンバーを組織的に支援する仕組みが必要だということです。
また、少なくともひとりは Copilot の活用推進を本業の一部として、上司のコミットメントを得たうえで活動するリーダーを置くことも、取り組みを継続させるためには大事になります。当社でも、推進活動の意義を知ってもらうために社内報で紹介するなど、有志メンバーのモチベーションにつながる支援を続けているところです。
ここまで「Copilot 活用推進の5選」をお話しました。改めて、大切だと思うポイントがあります。
それは①継続すること、②組織的に支援することという2点です。
今後、Copilot など生成AIの活用が業務で不可欠になっていくのであれば、Copilot 活用スキルの育成は、特定の情報システムに限った話ではなく、組織全体の人材育成として取り組む課題になります。
しかし、スキルの育成は一朝一夕にできるものではありません。人それぞれに成長スピードがあり、その時々の業務の負荷にもよります。そうした中で学び続けるためには、個人の努力に頼るだけでなく、継続した組織的な支援が大切だと感じているところです。
本日は、この一年半ほど推進するなかで実感したことをお話させていただきました。ありがとうございました。
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