【UCHIDA ビジネスITフェア 2025】 フライスターの挑戦に学ぶ、AIエージェント活用による受注業務の革新と完全自動化への道のり
2025/11/28 [食品,AI,RPA,セミナーレポート]
創業78年を迎え、パン粉業界のリーディングカンパニーとして「食感」にこだわるフライスター。人手不足・採用難に直面する今、受注業務の完全自動化は得意先様対応のみならず、経営面においても重要なテーマとなります。属人的でミス発生の恐れもあった従来の受注業務において、AIとRPAを組み合わせた「受注AIエージェント」導入により完全自動化に挑むフライスター様の実例から、業務革新のヒントと未来像を学びます。

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フライスター株式会社 営業部 業務課 課長
都丸 寿雄 氏
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ユーザックシステム株式会社 代表取締役社長
小ノ島 尚博 氏
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会社概要
1)フライスター株式会社とは
都丸様:まずフライスター株式会社の概要をご紹介します。
当社は1947年創立で、従業員170名。パン粉の製造販売を手がけるメーカーとして今年で創業78周年を迎えました。
パン粉は余ったパンを粉にすると思われがちですが、実はパン粉専用のパンを焼くところから始まり、滋賀県と静岡県の2工場で毎日、約10万斤を焼いています。それをパンの耳もそのまま粉にすることで、本来の香ばしい風味やソフトな食感が生かされたパン粉になるのです。
主力商品の「フライスターセブン」は家庭用乾燥パン粉販売量1位(※)で、来年発売60周年のロングヒット商品。「専門店仕様の生パン粉」も家庭用生パン粉販売量1位(※)と評価をいただき、食品卸会社様を中心に家庭用から業務用まで幅広く全国的な取引をいただいています。
※KSP-POSをもとに当社調べ(2024年1月〜12月)
2)ユーザックシステム株式会社とは
小ノ島様:ユーザックシステム株式会社についても、簡単にご紹介します。
当社は設立1971年、従業員140名。今年で設立55年目になります。業務自動化については、いまでいうRPA(Robotic Process Automation)、パソコン操作を自動化するソフトウェアを2004年から提供しています。
以来、さまざまなお取引先様の受注形態に合わせて、基幹システムと連携した業務自動化の課題解決に取り組んできました。
現在では受注から出荷まで、EDIやメール、FAX、スマートフォンなど、多様な受注経路に対応するソフトウェアを揃え、本日のテーマである「Knowfa(ノウファ)受注AIエージェント」は日本食糧新聞社制定の「第28回 日食優秀食品機械・資材・素材賞」を受賞しました。食品業界の受注業務における効率化・高度化を実現するソリューションを評価いただいたものと考えています。
3)「Knowfa受注AIエージェント」とは
小ノ島様:「Knowfa受注AIエージェント」とは、ひと言でいえば複雑で属人的な受注業務の自動化を実現するソフトウェアです。
FAXやPDFなどでの受注を、生成AIを活用した「AI-OCR」で読み取るツールはいろいろありますが、テキスト化しただけでは基幹システムに取り込めないという課題があります。類似した商品名があり商品マスターのどれに該当するかわからない。得意先様ごとに個別のルールがあるなど、不足している情報があるからです。
それらをAIが過去の受注実績を参照するなどして補い、データのレイアウトも整えて基幹システムに取り込めるようにするのが「Knowfa受注AIエージェント」です。
ここからは、フライスターさんが「Knowfa受注AIエージェント」の導入前後でどのような課題に取り組んでこられたかを、具体的にお聞きできればと思います。
これまでの取り組み
1)受注業務における問題点
都丸様:当社はパン粉専業メーカーですが製品は多岐に渡り、「多品種・小ロット」が特徴です。受注回数も多く、月間の受注件数は15,000件。そのうち9,500件がFAX受注という状況でした。FAXのフォーマットも得意先様によって異なり、手入力で処理することによるさまざまな問題が発生していました。
一番大きな問題は、入力の誤りです。人がする以上、ミスは避けられません。間違った商品を納品し、飛行機で緊急追送したこともありました。時間も費用もかかりますし、何より誤納があってはお客様の信頼を損なってしまいます。
また、商品によって出荷倉庫を判別するなどルールも複雑で、熟練が求められる業務でもあります。担当者が代わると知識や経験が継承されにくく、新しく入った方が習熟する前にいなくなると、もはや継承すらされない。そうしたことも、私が入社する以前から続いていました。
リードタイムは、基本的には当日受注、当日出荷。1日約750件の注文を午前中の3時間ほどで処理します。件数は当日でないとわからないため、最大値での人員確保をせざるを得ない状況でもありました。
2)改善の取り組み STEP1
都丸様:こうした状況を打破すべく、ある大口の得意先様と専用EDIを結んだことが改善の第一歩でした。15年ほど前のことです。前掲のスライドでWebEDIからの受注が「月5,500件」とあるのがこれによるもので、その分のFAX受注が削減でき、当時としては画期的な取り組みでした。
しかし、それでも月9,500件のFAX受注が残っていました。件数はこれ以上減らせなくても入力ミスは減らそうと、次に取り組んだのが「電話取次業務の削減」と「Teamsチャットの活用」です。
私ども業務課は受注入力だけでなく、電話取次などいろいろな業務を兼任しています。しかし、手は入力で動かしながら耳で電話を聞いてというのでは、集中して処理できません。そこで、得意先様に各部署の直通電話をお知らせする、営業の名刺に携帯電話番号を載せるなどして、電話取次業務を削減しました。
工場とも在庫確認等で何度も電話連絡が発生していましたので、Teamsチャットに切り替えました。これは、チャットメンバー全員に情報を共有できる利点もあり、業務効率化につながりましたね。
3)改善の取り組み STEP2
都丸様:とはいえ、やはり受注入力の件数を減らしたい。そこで、一昨年から「EDI比率の増加」に取り組んでいます。食品業界向けのEDIプラットフォームサービスを導入し、FAX注文の得意先様に切り替えを地道にお願いして、月1,500件ほどをEDIに切り替えることができました。
しかし、残念ながらレコードの形式が違うために受注データを販売管理システムに取り込めず、結局は紙に印刷して手入力していたのです。これではFAXと変わらない。悩んでいたときにユーザックさんから紹介を受けたのが、RPAツール「Autoジョブ名人」です。
「Autoジョブ名人」を使ってWebEDIから受注データを自動でダウンロードし、これもユーザックさんの「TranSpeed」というソフトウェアでレコード形式を変換して、販売管理システムに取り込むまでの一連を自動化できるというものです。
これにより、手入力を別の担当者2人がかりでチェックしていた負担を削減できました。イレギュラーな注文の確認作業は今も残っていますが、1件の受注処理に3人かけていたものが1人で済むようになった。手入力によるミスもなくなり、大きな業務改善につながっています。
4)RPA導入だけでは解決できない課題
小ノ島様:ただ、依然として月8,000件のFAX受注が残ったということですね。RPA導入だけでは解決できない課題は、どのようなものだったのでしょうか。
都丸様:まず、得意先各社様とEDI切り替えの交渉が必要だということです。了承いただいても、データ形式やデータ取得のタイミングなどの協議に時間を要します。
また、EDI契約を結ぶ得意先(帳合元)様ではなく、その先の納品先様から直接、注文FAXをいただくこともあります。得意先様経由で納品先様からのFAXを転送いただくこともあり、完全EDI化は難しいのが現状です。
FAX受注はなくせないとしても、当社が目指す最終的な目標は「手入力受注“ゼロ”」。そこで、「Knowfa受注AIエージェント」の導入に至ったということです。
受注業務完全自動化へ
1)「人の目・頭脳・手」の機能を備えたシステム
小ノ島様:ここで改めて、「Knowfa受注AIエージェント」の機能の概要をご紹介したいと思います。フライスターさんはじめ5社の食品メーカー様と実証実験を重ねてつくり上げたシステムです。
AI-OCRで注文FAXを読み取っただけでは基幹システムに取り込めないという課題は、冒頭で述べた通りです。そこで、3つの機能を検証ポイントに開発に取り組みました。①受注情報を解析すること、②読み取った受注情報を補正すること、③基幹システムの指定フォーマットに変換すること、という3点。「人の目」「人の頭脳」「人の手」に相当する機能です。
「人の目」は、得意先様ごとに異なる注文書のフォーマットを生成AI-OCRによって読み取り、テキスト化する機能です。複数のAIエンジンを入れ替えながら検証し、95%の精度を実現しています。
都丸様:次の「人の頭脳」の部分は、画期的な機能ですね。たとえば、注文FAXに「パン粉 180g」とあっても、商品マスターに似た商品名がいくつもあり、慣れた人でないとどれかがわからない。それを、「Knowfa受注AIエージェント」が得意先様ごとの受注実績を参照し、商品コードを取得してくれるというものです。これは、すごいなと思いました。
小ノ島様:最後の「人の手」は、基幹システムのファイルレイアウトにあわせたデータ変換の機能です。これも難しい設定は不要で、いろいろな販売管理システムに対応した変換が可能です。
都丸様:当社では、先に導入していたRPAシステム「Autoジョブ名人」を「Knowfa受注AIエージェント」と組み合わせて使うことで、注文FAXの読み取りから販売管理システムに取り込むまでの一連を自動化できました。人の手を介さず、完全な自動化です。
2)実際の処理の流れ
小ノ島様:では、実際に処理がどう流れるのか。「Knowfa受注AIエージェント」はクラウドサービスですので、まず注文FAXをクラウドにアップロードしていただきます。
次に行う処理が、「得意先判定」です。下の画面キャプチャーにあるように「電話番号が○○の場合は、△△会社を出力してください」などとプロンプト(AIへの指示)を入力しておくことで、注文FAXに社名がなくても得意先の判定が可能になります。
得意先を判定したら、次は「データ取得」。注文書の内容を読み取り、テキスト化するステップです。そして「得意先別等ルール適応」。たとえば「この得意先の商品は□□倉庫から出荷するので、納期はプラス1日」など、個別の設定をプロンプトに入力しておき、それに従った処理をするプロセスです。
フライスターさんでは、「得意先別等ルール」にかなり細かな設定をされていますね。
都丸様:はい。人と同じ対応ができるよう、人が記憶しているルールはここで設定するようにしています。たとえば納期以外にも、注文書によってはケース数とバラ数(パック数)が併記される書式があります。人なら迷わずケース数を入力できますが、AIは書いてある数字はすべて読み取りますので、その中から「注文数量にはケース数を入れる」旨の指示が必要になるのです。
ただ、最初は指示に反して「バラ数」を抽出したので、「ケースの“数値”を入れてください」とプロンプトに書いたら、次は数量の欄に「数値」と漢字をそのまま入れてきた。こんな新入社員いないだろうと(笑)。その後、指示を工夫してケース数を出力できるようになりましたが、当初はちょっとした苦労がありましたね。
小ノ島様:AIは処理を重ねるごとに学習して精度が高まりますが、最初は教育が必要ということですね。ありがとうございます。
もう1つの例として、下図のように白紙に手書きの注文も「Knowfa受注AIエージェント」は読み取ることができます。
この例では「関東ミート横浜」は「関東ミート株式会社 横浜支店」として認識し、「りんごジュース」は正しい商品名に変換して、「JANコード」と「商品コード」を商品マスターや過去の受注実績から取得しています。
そして、自動化のためのシステムではありますが、AIが読み取った結果を人が最終確認し、必要があれば修正できる機能も実装しました。
都丸様:当社も「完全自動化」とお話ししましたが、この段階で人による確認を行っています。商品の紐づけ修正がある場合も、「Knowfa受注AIエージェント」の画面から商品マスターを検索できるように改善いただきましたので、販売管理システムを操作しているようにシームレスで作業効率が高まりましたね。
ただ、これもプロンプトを修正すると紐づけの精度が上がりますので、ルールをどう入力するかが大切です。当社では、受注処理全体に共通するルールと、得意先様ごとの独自ルールと2段階で考えて設定するようにしています。
3)運用の工夫
小ノ島様:「Knowfa受注AIエージェント」の運用で工夫されたことを改めてお聞かせください。
都丸様:当社は情報システムの専任部署がなく、業務課が兼任していることもあり、ITに関してはまだまだ素人です。そうした状況下で、このプロジェクトを息の長い持続的なものにするために、一足飛びに自動化を目指すのではなく、得意先様を絞って導入しやすいところから進めるというやり方をとっています。
受注処理の熟練者からすれば、実は手入力する方がまだ速いという現状もあり、完全自動化を強制したのでは、抵抗を感じる人が出るかもしれません。時間をかけて「『Knowfa受注AIエージェント』は良いものだ」とみんなに実感してもらい、徐々にシフトチェンジしていく方が、当社にはあっていると思うのです。
小ノ島様:熟練の方々のノウハウをAIに伝えていくにも、ある程度の時間は必要ですね。
都丸様:そう思います。プロンプトの書き方も最初はうまくいかなくても、「時間をかけて覚えさせようね」と。これを機に運用を変えようと気づきを得ることもあり、業務の整理にもつながっています。
小ノ島様:AIの導入については、「トップの理解がない」や「トップから指示されたが何をしてよいかわからない」といった声もよく聞かれます。
都丸様:当社はオーナー企業ですが、社長自身もChatGPTなどのAIを積極的に利用しており、新しいことにチャレンジする社風があります。トップダウンではなく現場からの自然発生的なプロジェクトだったことも、進めやすくよかったと思いますね。
今後の展望
都丸様:当社は、今は人員を確保できていますが、いつか必ず人手不足に直面します。働き方改革がいわれ、担当者の高齢化やライフプランの変化にも備えておかなくてはいけません。将来的に、すべての受注処理を完全自動化することは不可欠です。
経営資源の観点からも、売り上げを伸ばしてもバックオフィスの処理コストは抑え、製造や販売に資源を集中させたい。地方の工場では熟練者の代替わりの時期を迎え、技能継承の問題も発生しています。そうしたさまざまな課題に対して、いまからできることを徐々に進めていきたいと考えています。
そうしたなかで、これまで20年以上もの間、変えることは不可能だと思っていた「受注の手入力」が、一昨年に「Autoジョブ名人」、今年になって「Knowfa受注AIエージェント」を導入したことで、実は自動化できるとわかったことは大きな発見でした。
これを発展させて、ほかの業務もAIを活用して変革できると肌で感じています。ユーザックさんにもさらにご協力いただいて進めていきたいと思います。
小ノ島様:今回は受注業務の完全自動化についてうかがいましたが、今後さまざまな業務でAIを活用する時代がきますね。本日はありがとうございました。
食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ