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【食品ITフェア2025 オンライン】 受注業務の自動化に挑戦!
年間3,000時間以上の削減に成功
生成AIを活用し人の判断含め完全自動化を目指す

2025/4/21 [食品,AI,RPA,セミナーレポート]

西洋料理食材の企画開発・製造販売を手掛ける専門食材商社の株式会社マツヤ様では、RPAでWeb注文データの基幹連携を自動化し、年間3,276時間の効率化に成功しました。現在は受注業務の完全自動化に向けて生成AIの活用に取り組まれています。いかにして効果を上げたのか?完全自動化の手応えはどうか?ご担当者の声を交えて紹介いたします。

株式会社マツヤ
システム管理室 室長
小嶋 康之 氏

ユーザックシステム株式会社
AIエージェント推進室 室長
上野 真裕 氏

会社概要

株式会社マツヤ様は、受注業務の完全自動化を目指して「受注AIエージェント」の実証実験(PoC)に取り組みました。この事例について、システムを提供したユーザックシステム株式会社の上野真裕が説明いたします。後半には、マツヤ様のシステム管理室の小嶋康之室長と対談をしながら、実際に取り組まれた感想など現場の声を届けたいと思います。

マツヤ様の会社概要は次の通りです。ヨーロッパの飲食料品を扱う卸売業の専門商社で、主にホテルやレストラン、ウエディング関連企業などにフレンチやイタリアン、スペイン料理などの洋食食材を販売しています。

会社概要

一方、ユーザックシステムは1971年に設立された企業で、現在はビジネス現場の効率化を支援するソフトウェア「名人シリーズ」など、販売管理と連携ができるパッケージを中心に開発、販売をしています。自動化(RPA〈Robotic Process Automation/ソフトウェアロボット〉)については、2004年からサービスを提供し、導入企業は1,400社を超えています。現在は、食品業界など注文量が多い企業に対して、煩雑な受注業務を自動化するサービスに力を入れています。

ユーザックシステムのRPAについて

人の判断が必要な受注業務を自動化したい

受注業務のデータ連携にはさまざまなやり方があります。ここでご紹介したい受注AIエージェントは、これまでは人の判断と作業が必要で自動化が難しかったところに対応するものです。

受注業務におけるデータ連携の難易度

今回、弊社が力を入れて進めている「受注AIエージェント」のサービスを、マツヤ様にPoC(実証実験)という形で取り組んでいただきました。マツヤ様には、以前から弊社のRPAツール「Autoジョブ名人」を活用いただいています。現在までに自動化した設定(スクリプト)は203個です。これにより、年間3,276時間の業務を自動化しました。

マツヤ様の自動化状況と課題

ただ、このRPAツールによって完全な自動化を達成できたのは限定的な範囲でした。対象は、帳票をデジタル上でやり取りできるBtoBプラットフォーム「infomart」の受注データのみで、マツヤ様には他のプラットフォームなどからも注文が入ります。

例えば、ホテル専門のインターネット購買サイト「IPORTER」から入る受注データは、実質的にFAXによる手書きの注文と同じ形になっていて、人の判断がどうしても必要です。注文書の印刷までしか自動化ができておらず、人の手を介さず基幹システムにデータを取り込むことが課題になっています。そこで、受注AIエージェントのPoCに取り組んで、この課題の解決を目指しました。

受注業務のあるべき姿の事例をAIエージェントで改善する案

受注AIエージェントとは何か

受注AIエージェントと従来のOCRの違いを簡単に説明します。
業務で見ると、人の判断が不要な注文の場合は、RPAなどを活用して注文書をOCRでテキスト化してデータ連携やデータ変換を段階的に図っていきます。一方、受注AIエージェントの場合は一連のプロセスをすべて自動化していきます。

受注業務におけるデータ連携の難易度

OCRでは、紙やPDFの上の文字や数字をテキストデータに変換する精度がとても重要になります。したがって、業務の担当者は、OCRが作ったデータに対して査読に近い確認をする必要が生じます。一方、受注AIエージェントの場合は、人が注文書を見て選ぶコードを同じように選択できるように仕向けます。担当者の確認作業は、文字の照合ではなく、AIが人と同じように選んでいるかどうかのチェックとなるので、負担がとても軽くなります。

マツヤ様の自動化状況と課題

受注AIエージェントの仕組みについて説明します。
一つのキーワードは「RAG(Retrieval-Augmented Generation / 検索拡張生成)」です。外部データベースから関連情報を取得(Retrieval)して、質問やプロンプトに対する回答を生成する(Generation)という意味になります。

受注業務のあるべき姿の事例をAIエージェントで改善する案

人もAIも、知っていることは答えられますし、知らないことは答えられません。AIは、事前の学習で一般的な知識やネットにある情報を知っています。しかし、企業の内部の情報や業務の内容は基本的に知りません。そこで、AIが社内のことについても判断できるように、社内の情報を参照できるようにするのが「RAG」です。AIが社内の情報を参照できれば、社内のことについても適切に判断できるようになります。一言で言うと、RAGとはAIに判断要素を与えるということで、いわば“カンニング”させるということです。

弊社の場合、受注AIエージェントに社内データを渡して、「A社の場合はAのルールで処理する」「BのケースはBと判断する」などと学習させていきます。そして、人と同じ処理ができるように精度の向上を図っていきます。

受注AIエージェントによる運用イメージ

受注業務でよく見られる課題の一つは、商品名や品番、ジャンコードのない注文があることです。例えば、注文書の情報が商品の略称や呼び名しかないケースがあります。「わかる人にはわかる」というパターンで、AIエージェントはコード変換ができないのでわかりません。そこで、マニュアルのようなものを作成してAIエージェントに渡すことで、自動的な判断を可能にします。

受注AIエージェントとAI-OCRの違い

商品名や略称が正確でない場合もあります。多いのは漢字表記や送り仮名の揺れで、部分的に間違っているので不一致となってしまうのです。略称の不一致も、慣れている人であれば「これだよね」とわかるのですが、従来のシステムではその感覚の再現には難しいものがありました。しかし、受注AIエージェントなら、不一致があっても「これが一番近い」といった感覚的な判断の再現が可能になります。

また、注文書の中には、備考欄に記載がある場合もあります。従来、備考に何かが書かれていると、人が見て判断するしかありませんでした。しかし、受注AIエージェントであれば、これにも対応することが可能です。

システム全体の流れはこの図のようになります。

生成AIで簡単に人の判断が再現できる理由

まず、FAXで注文が入った場合は、複合機やペーパーレスの仕組みを使ってシステム上の特定のフォルダに注文書を出力します。webEDI(プラットフォーム上の電子データ交換)やメールなどで注文が来た場合は、弊社のRPAツールを活用いただくことで、自動的にデータを収集します。そして、それらのデータを受注AIエージェントに渡します。

従来は人が判断していた注文に対しても、事前に学習したAIエージェントが業務のルールや過去の実績に沿って、人と同じような判断を実行して受注データを作成します。人がするのは、そのAIが作ったデータの確認のみです。イメージとしては、先輩の社員が後輩の社員の仕事をチェックするような作業です。

検証結果……得意先には実用できる

マツヤ様が取り組んだ受注AIエージェントのPoCについて、その検証結果を紹介します。

受注AIエージェントの検証結果

1つ目は、人の判断が必要な注文書をAIにテキスト化させるOCRの精度です。最終の結果は93%でした。この数値は今回の短い期間で出たものです。オールド型のAI-OCRと組み合わせることで、さらに高い精度を出すことが十分に可能だと考えています。

2つ目は、アウトプットフォーマット出力の検証です。具体的には、販売管理に連携できるCSV出力となります。これについては100%の精度で出力ができました。

本題となるのはここからです。
3つ目は商品情報や取引先情報の検索精度の検証です。これまで人が判断していた業務をAIがどれぐらいの精度で実行できるのか。検証結果は86%でした。しかし、この精度を上げるためにいろいろな取り組みをしたところ、最終的には人が実行したときとほぼ同じレベルの精度を確認できました。

今回の検証結果から、過去の取引実績があり、かつ社内のノウハウを生かせる得意先の注文であれば、実用できると評価しました。しかし、新規の取引先の場合は、ノウハウが生かせないこともあって、そこまでの精度が出ません。ただ、これは人が実行しても同じでしょう。まずは過去の実績とノウハウを生かせる取引先の注文に絞り、そこから実用性を高めていくことが重要だと考えています。

今回、特殊なパターンの帳票や備考のコメントが入った複雑な帳票にも、受注AIエージェントはしっかりと対応することができました。次の表にまとめた通り、必要な情報を人と同じように抜き出すことができています。

受注AIエージェントによる人の判断の再現

〈ディスカッション〉システム担当者の感想と期待

ここからは、受注AIエージェントのPoCに取り組んだ株式会社マツヤの小嶋様とディスカッションをしながら、ご担当者の率直な思いや考えを伝えたいと思います。

―― 食品卸における業界の課題を教えてください。

マツヤ 小嶋様:食品卸業の会社は、朝の受注処理に時間がかかるので出社時間が早くなります。弊社の場合は、朝7時が定時です。昔はもっと早い時間から始めていたのですが、RPAツール「Autoジョブ名人」を導入したことで開始時刻を遅らせることができました。当業界における受注業務の一番の課題はこのデータ処理だと思っています。

―― 貴社の受注業務における課題を具体的に教えてください。

マツヤ 小嶋様:今でも電話やFAX、メールでのご注文があります。ここを減らすために「Autoジョブ名人」を導入して部分的に自動取込を可能にしました。これだけでもある程度の効果を出すことができたのですが、基幹システムとの連動性がない販売プラットフォームのデータは印刷するまでの自動化となりました。結局は、慣れた担当者が印刷された紙を見て打ち込むので、その方が不在だとミスが生じやすくなります。こういった属人化を減らすためにも、人の手を使わずに入力できるようにしたいと考えています。すぐには100%の自動化は無理だと思いますが、70%、80%、90%と段階的に高めていくことができればいいと思っています。

―― 人の判断の再現において「これは難しそうだ」と思ったところはありますか。

マツヤ 小嶋様:例えば、注文書のコメント欄を使った呼び名による注文です。類似商品が多いので、これはベテランの方でも難しい判断となります。また、同じ商品でもフランス語やイタリア語など、いろいろな呼び名があります。そういった違いを含んで、AIがシステムの登録情報といかに一致させることができるか。正直、半信半疑のところがありました。

―― 今回の検証のとき、商品名が1文字も正しくない注文もありました。ただ、この課題には個別の対応で解決できることを確認させていただいております。今後、さらなる精度向上に向けて取り組んでいきたいと考えています。

―― 今回のPoCを通じて受注AIエージェントの運用フローやプロセスで改善が必要だと感じたところはありますか。

マツヤ 小嶋様:初めて扱う商品の注文がお客様から入ったときは、基幹システムのデータベース(商品マスター)と照らし合わせてヒットさせます。ただ、初めての商品なので、間違いが起きる可能性があるのではないかと思いました。今回の検証は、受注データと紐づけたデータを出すところまででしたが、次はそのデータを基幹システムに入れるので、おそらくそこで改善点が出てくるのではないでしょうか。

―― 新規商品についても、やはりAIエージェントの結果を人で何度か確認いただければ、それ以降は従来のやり方と同じレベルで処理できると考えています。また、そこまで進めば、あとは従来の変換プログラムなどを経由して基幹システムに取り込めるとも思っています。

―― 仮に受注AIエージェントを活用いただけるとなった場合、改めて期待することを教えてください。

マツヤ 小嶋様:今回の検証実験では、人の判断が多く必要となる販売プラットフォーム「IPORTER」の受注データを使い、受注AIエージェントの実効性を確認できました。電子データをやり取りするEDIにはいろいろなものがありますが、IPORTERで可能ならば、ほかのものでも対応できるでしょう。また、メールや手書きのFAXによる注文に対しても、AIを使って同じように処理できることを期待しています。これが可能になれば、受注データ入力の完全自動化が見えてきます。

担当者の負担が少ないPoCサービス

弊社の受注AIエージェントのPoCサービスをご利用いただくにあたっては、まずAIにどこまで判断を任せられるのかを確認させていただきます。その上で最適なAIモデルを提案いたします。全体の期間はおよそ2カ月です。

最初の1カ月は、実際にどういう業務をしているのかを把握させていただきます。例えば、担当者はどのような注文書でどういった判断をしているのかをヒアリング。そこからAIの学習内容を確定して、開発します。2カ月目は、AIが出した結果を繰り返し検証して、精度を高めます。AIが間違った場合は、どうして間違っていたのかを確認し、正答できるように調整を繰り返します。

PoCサービスイメージ

このPoCを実施するにあたっては、新たに必要となる情報や作業はありません。お客様に取り組んでいただくことは、数回の打ち合わせと既にある情報の提供のみです。

PoCに必要な情報と検証企業様の工数について

この弊社のPoCサービスはご担当者の負担が少ないのが特徴です。受注AIエージェントの活用を検討されているのなら、ぜひお問い合わせください。

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