【食品ITフェア2026 オンライン】 製造業の生成AI活用最前線 〜生成AIやAIエージェント活用の最新動向と食品製造業適用の可能性〜
2025/5/18 [食品,AI,経営,セミナーレポート]
AIの進化は製造業にも多くの影響と可能性をもたらしつつあります。一方、日本の製造業においては現場のカイゼン力が足枷となり、AI活用の成果が創出されにくくなっているケースも見られます。
本講演では、AIの進化の動き(生成AI→AIエージェント→マルチエージェント、AtoA[Agent to Agent]など)とハノーバーメッセなどにおける最新動向、食品製造業における適用の可能性についてお話しするとともに、日本企業の活用状況、課題、活用に求められることなどについてお伝えします。

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合同会社アルファコンパス 代表CEO
福本 勲 氏
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
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イントロダクション
本日は、製造業における生成AI活用の最前線として、生成AIやAIエージェントの最新動向と、それが食品製造業にどのように適用できるのかについてお話しします。内容としては、大きく三つの観点で進めます。まず、製造業向けAI活用のトレンド変化、次に生成AIおよびAIエージェントの動きと活用領域、そして最後に日本の製造業に求められる取り組みです。
自己紹介
まず自己紹介をさせてください。
私は、合同会社アルファコンパスの代表CEOを務めております。また、いくつかの企業のアドバイザー、NewsPicks のプロピッカーなども務めております。ウェブメディアの連載、講演、書籍の出版などもしており、『製造業DX Next Stage』という書籍を昨年12月に上梓いたしました。こちらもぜひご覧いただければと思います。
製造業向けAI活用のトレンド変化
1)AIの進化の流れ
まず、AIの進化の流れを振り返ります。第3次AIブームでは、マシンラーニングやディープラーニングが注目されました。マシンラーニングは、データからパターンを学習し、需要予測や顧客離脱防止といった予測・分類を自動化する技術です。
一方、ディープラーニングはニューラルネットワークを多層化し、特徴量の抽出を自動化することで、画像認識や音声認識の精度を大きく向上させてきました。
そして、2022年11月に OpenAI が ChatGPT を発表し、わずか2カ月でグローバルアクティブユーザーが1億人を超える驚異的なヒットとなりました。
生成AIは、文章や画像、音声、コードなど、新しいコンテンツを生み出す技術であり、人間の創造性と協働しながら業務の効率化を進めるものです。ただ、現在、倫理的な課題が浮上しているという状況です。
2)生成AIがもたらしたコンピュータのインターフェース変革
生成AIのもう一つの大きな変化は、コンピュータのインターフェースです。
Windows 95 が1995年に登場しましたが、それ以前は、CUI(Character User Interface)で、コンピュータを動かすためにはコマンドを打ち込まなければなりませんでした。次にGUI(Graphical User Interface)が登場。そして今、生成AIの登場によって、自然言語による対話が中心になりつつあります。さらに、音声や画像、動画といったマルチモーダル入力が可能になりました。CUIの時代は、人がコマンドを正しく打ち込まなければコンピュータが動いてくれなかったわけですが、生成AIの登場によって、「人がコンピュータに合わせる」のではなく、「コンピュータが人に合わせる」時代へと変わっています。
また、推論能力の面でもAIは大きく進化し、一部の領域では人間を超えるレベルに達しています。このことが、生成AIを単なる支援ツールを超えた活用を可能にしています。
3)生成AIからAIエージェントへの変化
次に重要なのが、生成AIからAIエージェントへの進化です。
生成AIは、いわば「賢い辞書」のような存在で、指示に応じて単発の回答やコンテンツを生成します。
AIエージェントは「優秀な部下」に近い存在です。目標を与えると、自ら次の行動を考え、複数のタスクを連続的に処理しながら目的を達成します。そして、状況に応じて連続的にアクションやフィードバックを行ってくれる。
例えば「会議を設定してほしい」と依頼すると、関係者のスケジュールを確認し、候補日を提示し、招待メールを送るといった一連のプロセスを自律的に実行します。このように、生成AIがコンテンツ生成を担うのに対し、AIエージェントは業務遂行そのものを担う点が大きな違いです。
生成AIとAIエージェントの違いを整理したのが以下の表です。
まず自律性。AIはプロンプトによる指示を待っている。一方、AIエージェントは目標を与えると人の指示を待たずに自分で次のステップを考えて実行してくれる。
実行範囲は、生成AIはテキストや画像の生成が中心ですが、 AIエージェントはファイル操作やツール連携もやってくれる。
タスク処理は、生成AIが単発であるのに対して、 AIエージェントは複数のタスクを連続的に処理してくれる。
主体性については、生成AIは受動的にプロンプトの指示を待っている。AIエージェントは能動的に行動する。
役割は、生成AIがコンテンツ生成中心であるのに対してAIエージェントは目標達成支援まで行う。
こういう違いがあります。
製造業における生成AIやAIエージェントの活用領域
1)製造業における生成AIの活用
現在、製造業における生成AIの活用領域は急速に広がっています。すでにPoC(概念実証)だけでなく、実運用に近い形での活用も始まっています。
2025年のハノーバーメッセの展示では、ロボット・機械制御のプログラミング変更を自然言語指示で生成AIが実施する事例、異なるコンテキストの多様なデータの二次利用を容易化した事例、インタラクティブなコミュニケーション能力を活かした適用例などが多数展示されていました。活用レベルも相当上がってきていると感じます。
2)日本企業の現状と課題
ところが、日本では生成AIの導入や試験利用があまり進んでいません。
以下は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)による、2025年の国別生成AIの導入状況です。
生成AIを「導入している」「現在試験利用している」「利用に向けて検討をすすめている」企業の合計は、米国では77.9%、ドイツは67.8%。日本はその半分以下の48.7%に過ぎません。
「関心はあるがまだ特に予定はない」(緑の部分)が27.2%で、アメリカやドイツに比べて非常に高い。4社に1社を超えています。これは導入の意思決定が進んでいないことを示しています。
ただし、従業員1,001人以上、いわゆる大企業に限ってみると状況は異なります。2023年と2024年の比較をすると、試験利用や検討段階の企業は減少する一方で、導入をしている企業が32.8%から50%と大幅に上昇。こらは、アメリカやドイツよりも高い。
大企業のレベルではかなり本格的に導入が進んできているということがわかります。
それなのに全体で見ると、米国、ドイツに大きく遅れているということは、中小企業で生成AI導入が進んでいない。つまり、二極化が起こっているということです。
生成AIは、業務の効率化や生産性の向上だけでなくバリューアップにも寄与します。中小企業が導入しないということは、大きな課題ではないかと思います。
3)企業の生成AI活用の進化
企業の生成AI活用はどのように進化しているのでしょうか。
2023年頃から、生成AIをトライアル導入する企業が増えてきました。社内で生成AIの環境を作って、どんなことができるのか模索をする動きが出てきます。2024年頃からは、自社の業務データを連携や学習させて、たとえば、アフターサービス時に過去のトラブル情報と組み合わせて、適切な対処法を導き出すといった、カスタマーサポートの領域での活用が出てきました。
この頃に、複数のAIエージェントを活用したマルチエージェントの取り組みも始まっています。
例えば社内の業務に合わせて、複数の専門AIエージェントを持ち、それらがオーケストレーターエージェントの下で議論をし、問題を解決する。複数のAIが役割分担しながら連携することで、より複雑な業務プロセスを自動化することが可能になります。
4)ハノーバーメッセ2025の動向
前述のハノーバーメッセ2025について、展示の一部を紹介します。
ドイツの Siemens は、生成AIによるロボットがロボットを作るような取り組みを紹介していました。
フランスの Schneider Electric は牛小屋の事例を展示。牛の位置に応じて天井のファンを制御し、快適性とエネルギー最小化を両立するソフトウェア制御を紹介していました。
同じ Schneider Electric と Microsoft が共同開発した「Automation Copilot」は、生成AIが仕様書を読み取り、制御プログラムの作成からドキュメント生成、さらにテストシナリオに基づくシミュレーションまでを一貫して支援します。既存コードの内容を分かりやすく説明する機能もあり、ソフトに詳しくない技術者でも扱いやすい点が特徴です。特に教育用途では有効で、プログラミング習得の効率化と指導負担の軽減に寄与するのでは思います。
Schneider Electric のもう一つの展示は、飲料生産ラインの、AIによる品質管理の取り組み紹介でした。飲料は攪拌や温度によって味が変わるため、多数のセンサーで状態を取得し、エッジAIでリアルタイムに制御しています。さらに、充填装置では注入速度やキャップ締付けなどの条件を、デジタルツイン上で事前にシミュレーションし、その結果を現場に反映して最適化します。物理設備とAIを連動させた高度な制御の例といえます。
AWS(Amazon Web Service)は、事前学習なしで、製造品データのみを学習し検査できる検査AIを紹介。従来の検査AIは、異常データを大量に学習させなければならず、これがユーザーの大きな負担になっていました。この検査AIがあれば、高速ラインでの全量検査がかなり効率化すると考えられます 。
Tulip社はマルチ言語対応の現場支援ツール(Frontline Copilot)を紹介。生成AIを組み込んだソリューションで、作業指示やチェック、さらには多言語対応まで自動化が進んでいます。ピッキングや組立、検査といった現場作業も、AIが指示・監視し、ミスを即座にフィードバックする仕組みが現実になりつつあります。
日本の製造業に求められる取組
1)現場改善アプローチの比較(日本 vs 欧米)
欧米ではトップダウンでシステムを設計し、将来的にはヒューマノイドや産業用ロボットの導入を前提とした、AI導入が進んでいます。一方、日本は現場改善を軸とした独自の進化を続けています。
しかし、すべての仕事がヒューマノイドや産業用ロボットで自動化されてしまったら、その後改善が続けられるのかという疑問が残ります。生成AI自体が改善をし続けてくれるなら問題ありませんが、これまでやったことがないことを生成AIが考えられるかというと、現時点ではおそらく難しいと思います。しかし将来どうなるかはわからない。また、生産技術領域まで完全自動化できるかですが、これも現時点では難しいと思われます。
今後、複数のAIエージェントが相互に連携することで、単一のAIエージェントだけでは達成が難しかった、複雑で大規模なタスクを遂行できるようになっていく。AtoA(エージェントtoエージェント)の時代になっていくと思われます。AIエージェント同士がやりとりしていくための、共通ルール策定の動きも加速をしていくでしょう。
2)フィジカルAI元年
NVIDIA(エヌビディア)のCEO、ジェンスン・フアン氏は、「2026年はフィジカルAI元年になる」と述べています。フィジカルAIとは、AIがロボットや自動車などの物理的な体(フィジカル)をもち、現実世界で自律的に動く技術のことです。
これまでのロボットは、マシンラーニングによって大量データから作業パターンを学習し、決められたルールの中で動くのが限界でした。例えば、不良品を検知して取り除く、あるいは倉庫で型番に応じて所定の場所に運ぶといった作業が主な役割でした。
これに対して、生成AIやAIエージェントの進化により、状況を自ら判断して動くロボットやヒューマノイドの実現が見えてきています。こうしたフィジカルAIは、2026年以降の成長領域として注目されています。
生成AIは情報の世界では大きく進展していますが、現実のフィジカルな世界との最適化はまだ十分に進んでいません。一方で、日本の製造業は高い知見と現場の暗黙知を持っています。これらを構造化・言語化し、フィジカルAIと組み合わせることができれば、大きな強みになる可能性があります。
3)食品業界と生成AI
生成AIやAIエージェントを食品業界はどのように活用できるのでしょうか。その可能性をまとめたのが以下の表です。
品質管理・検品、需要予測、新商品開発など、さまざまな活用方法があるのではないかと思っています。
4)人のやるべき仕事はどこまで変化するか
欧米は、すでにルーティン業務のデジタルへのシフトや無駄なプロセスの削減に長く取り組んできていますが、生成AIやAIエージェントなどの新たなデジタルテクノロジーの活用によって、この対象がノンルーティン業務の一部にもシフトし始めているように感じます。
一方、日本は、少子高齢化が急速に進んでいるにもかかわらず、ルーティン業務のデジタルへのシフトや無駄なプロセスの削減が進んでいないと感じられます。生成AIなどをいかに活用して、この壁を越えられるかが今後の課題になっていくでしょう。
しかしながら、日本の産業界からは、まだ生成AIにはできないことも多く、業務には使えないという声もよく聞きます。あるいは、使ってはみるのですが、使ってつまずくとその先は使わないという企業も少なくありません。これは、数年後には大きな活用格差になっていくのではと危惧しています。
とにかく使ってみて、何が使えて何が使えないのか、使えないところはどう解決するのかということを、施行錯誤をしながら、小さな成功事例を積み重ねていく。そういった取り組みが非常に大事ではないかと思います。
新たなテクノロジーの登場により、事業や組織、人材など企業全体の在り方を見直す時期にきています。世界から送れないために、日本もこれらの活用を積極的に推進していくことが求められるのではないでしょうか。
食品業の経営者・マネージャーの皆さまへ