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【UCHIDA ビジネスITフェア 2021】 デジタル社会を見据えた物流管理と見える化によるアプローチ

2021/12/3 [物流,セミナーレポート]

2021年6月に閣議決定され公表された「総合物流施策大綱」では、物流デジタル化の強力な推進、労働力不足による自動化や機械化がテーマとして挙げられています。デジタル社会の到来とともにデジタル企業への段階的なシフトはもはや不可避といえます。本セミナーでは、デジタル社会を見据えながら、次世代の物流管理をどのように推進すべきであるか、またそのベースとなる見える化にどのような切り口でアプローチすべきかを解説いたします。

株式会社日通総合研究所
リサーチ&コンサルティング ユニット4 ユニットリーダー
井上 浩志 氏

今回の「総合物流施策大綱」(物流大綱)について

最初に、弊社について説明させてください。株式会社日通総合研究所は日本通運グループの会社で、物流に関わるコンサルティングや調査・研究、研修・セミナーの事業を展開しています。

スライド資料:日通総合研究所 会社概要

私が所属しているのは、次のスライドにある「リサーチ&コンサルティングユニット4」です。ここでは、自動化機器の導入や選定の支援をはじめ、倉庫内の作業時間を計測する独自ツール「ろじたん」に関わる事業、ITソリューションなどを展開しています。弊社の強みは、各トピックやテーマに精通したリサーチャーやコンサルタントを配置し、その専門スタッフでチームを組んで案件に取り組むところです。

スライド資料:日通総合研究所の強み

本題に入ります。
2021年6月に「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」(物流大綱)が閣議決定されました。これは日本の物流改革の指針になるものです。本日のテーマに関係あるところを中心に説明したいと思います。

今回の物流大綱の背景には4つの社会的な情勢があります。1つ目は、「ソサエティー5.0」とも呼ばれる技術革新の進展で、AIやロボットなどを活用して活力ある社会にしようという流れ。2つ目は、SDGsに取り組もうという社会的な機運。3つ目は、生産年齢人口の減少やドライバー不足という現状。4つ目は、災害の激甚化や頻発化。それらの上に新型コロナウイルスの影響も加味されて、今回の新たな物流大綱が作られました。

キーワードをいくつか挙げれば、「物流デジタル化」「自動化・機械化」「物流標準化」「労働生産性の改善」、「持続可能(BCP)」、「カーボンニュートラル」となるでしょう。今後、物流に関わる取り組みをするときは、このようなキーワードを念頭に置いて実践していく必要があります。

スライド資料:物流大綱の概要

新しい物流大綱の中で「物流デジタル化の強力な推進」をここでは取り上げさせていただきます。皆さまの身近な物流センターでも、AGV(自動搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)などの自動化機器が導入されてはいないでしょうか。今回の物流大綱でも、2025年までに達成しようというKPIとして、自動化・機械化・デジタル化着手事業者を100%にするというものや、物流DXの実現事業者を70%にするというものが示されています。

スライド資料:物流デジタル化の強力な推進

もう1つ、物流大綱の「労働生産性の改善へ向けた革新的な取組の推進」についても取り上げたいと思います。ここでも、2025年までに達成しようという2つのKPIが示されています。1つは、物流業の労働生産性を2割程度向上(2018年度比)。もう1つは、トラックの積載効率を37.7%(2019年度比)から50%にするというものです。

スライド資料:労働生産性の改善へ向けた革新的な取組の推進

ここで用いられている労働生産性は付加価値ベースのもので、企業の付加価値を労働時間で割ったものです。物流事業者の労働生産性は、金額ベースだと2,700円弱/時間。一般の事業者は3,800円弱/時間なので、約1.4倍の差があります。ここに大きな課題があるわけです。

物流業界が今取り組むべきこと

次のスライドにある2つの数値をご覧ください。何を表していると思いますか。これは物流業界における人手にかかる費用です。人件費のほかに請負費用や派遣費用も含まれますが、約半分にもなります。

スライド資料:物流業界を表す数値

次に、普通倉庫業における主要原価構成の内訳を示します。2019年度は「52.2%」。金額ベースで見ると年々増えています。この増加が事業者の負担になっています。

スライド資料:普通倉庫業における主要原価構成の推移

一般貨物運送事業者における営業費用の内訳についても示します。間接部門の人件費も含めています。2019年度は「46.8%」です。倉庫事業者も、運送事業者も、人手にかかる費用が全体のほぼ半分近くになっています。実際、事業者の皆さんは人手のかかるところで多くの課題を抱えています。

スライド資料:一般貨物運送事業損益明細表の営業費用

荷主側の視点からの現状も見たいと思います。売上高物流コスト比率を見ると、2020年から大幅に増加しています。2020年度は過去20年間で2番目に高い数字です。要因としては、近年の労働力不足によるトラック運賃や荷役費の値上げだと考えられます。ただ、荷主企業の95.8%が物流事業者からの値上げ要請に応じていて、これは興味深いところです。

スライド資料:売上高物流コスト比率(荷主企業)

これらの状況を捉えた上で、荷主企業が優先してやるべき課題は、物流事業者からの値上げ要請への対応力の強化だと思います。この値上げ要請は今後も続くでしょう。荷主側は、その要請が妥当なのかどうかを見極められる判断力がより求められるのです。同時に、荷主側にも、物流をきちんと理解してオペレーションを合理化する改善提案が求められるでしょう。

スライド資料:荷主企業と物流事業者が今やるべきことは?

逆に、物流事業者は適正料金を収受するための交渉力(材料・理論武装)を強化する必要があるでしょう。また、収入拡大および費用抑制できる余地を見つけて、生産性を向上していく取り組みも必要です。具体的には、ロスを生む個別要件の排除やオペレーションの見える化、パフォーマンスの管理や向上などが重要になってくるでしょう。

荷主企業と物流企業の間は決して対立構造ではありません。それぞれが必要なデータを出し合ってすり合わせ、互いにパートナーであるという意識をもって課題を解決していく構造を作っていくのが重要です。この実現にこそ、デジタル化の推進や情報の収集・蓄積・活用が有効で、その積み重ねが会社の経営に貢献していくことになるのだと思います。

なぜ物流業界はデジタル化が進まない?

そもそも何をもって「デジタル化」とするのでしょうか。物流業界のさまざまなシーンに見られる「アナログ要素」と「デジタル要素」を私なりに整理してみました。物流業界のデジタル化のプロセスでは、このようなアナログの部分を段階的にデジタル化していくことが必要でしょう。

スライド資料:何をもってデジタル化?

アナログ業務の事例を一つ示します。倉庫事業の会社では、送り状・納品書・ピックリストの「3点セット」を人手で仕分けることがよくあると思います。ここを合理化したいのですが、納品先から求められた専用伝票でなければならないというような制約があり、なかなか作業の平準化ができなかったりします。物流業界でよく見られるようなシーンではないでしょうか。

スライド資料:アナログ業務の事例

なぜデジタル化できないのか。まず、自社によるコントロールが難しいということがあると思います。荷主ごとの独自ルールがあったり、誤出荷の暫定対応が日常的になっていたり、物流量の波動に対して人員増減で対応できるという安心感があったりなど、個別化や属人化の「吹きだまり」が物流現場にできてしまっているのです。マインド的なものもあると思います。新しいことへのチャレンジに抵抗感を覚えるところがあって、今までやり方を変えることに消極的なところが見られます。

スライド資料:なぜデジタル化できないのか?!

では、どうすればアナログの現状から脱却できるか。大きく2つあると思います。1つは、標準化へ向けた地道な取り組みです。個別に対応していることや、「この人しかできない」という業務を洗い出してみましょう。そして、自分たちでコントロールできるものと、荷主などに協力を求めるものに仕分けしていきます。その荷主や出荷元、出荷先への交渉においては、論理的に進めることが大事で、そのためのエビデンスをそろえていくことが重要です。

スライド資料:アナログ脱却の足場づくり

もう1つはデジタル化へ向けた挑戦です。普及してきた自動化機器やデジタルサービスを活用できないか、まずは調査してみましょう。そして、デジタル化にチャレンジする「挑戦予算」を確保する。デジタル化の成功はトライ&エラーの中から生まれてくるもので、まずは「少額でもいいのでやってみる」という風土の醸成がとても重要になります。

デジタル化推進のソリューションツール

デジタル時代における見える化のアプローチで役立つデジタル推進ソリューションをいくつか紹介いたします。先ほど、人手がかかる作業で多くのコストがかかっていることを指摘しましたが、その人手を見える化するソリューションを提示させていただきます。

倉庫業務の見える化を可能にするデジタルソリューションの1つに、私どもが提供している「ろじたん」というサービスツールがあります。これは、倉庫の作業者がどのように作業をしているのかを、スマートフォンとウェブを連携させることで実績として記録できます。このようにデータを取ることで、料金の交渉材料にできたり、荷主別に採算が合っているかどうかを判断できたり、作業員の待機時間などを把握できたりします。

スライド資料:倉庫業務の見える化(事務・作業スタッフ)

フォークリフトに特化した倉庫業務の見える化を図るツール「ろじたんフォーク」もあります。カメラや位置情報を伝えるビーコンなどを使って、フォークリフトの動線や作業エリア、稼働率のデータ取得を可能にしています。今、フォークリフトのオペレーターの採用がだんだんと難しくなってきていますが、このようなデータを集めておけば、AGF(自動フォークリフト)やAGV(自動搬送車)などの自動化機器への置き換えが検討できるようになります。

スライド資料:倉庫業務の見える化(フォークリフト)

輸配送業務の見える化を図るツール「どらたん」もあります。ドライバーが持つスマートフォンに「LINE」のアプリさえ入っていれば運用できます。ドライバーが「どらたん」と対話するように情報を入力すれば、今どのような作業をしているのかを簡単に報告することが可能です。また、管理者も、ドライバーの動きをリアルタイムで一元的に把握でき、日報も自動的に作成できます。

スライド資料:輸配送業務の見える化

このように取得したデータを内田洋行の「物流KPIテンプレート」と組み合わせれば、目的に沿った見える化や「気付き」を提供することも可能になります。収益やコストを素早く分析したり、品質やサービスのレベルを分析したり、生産性を分析したりできるので、分析力や改善力の強化を図ることができるでしょう。

スライド資料:管理指標の見える化

デジタル時代の物流管理とは

デジタル時代が到来しつつある中で、物流管理のやり方も変える必要があります。ここでは、「見える化によるアプローチ」という観点からKPIを中心にした話をしたいと思います。

スライド資料:KPI管理レベルと階層(荷主イメージ)

上のスライドは荷主側のKPI管理レベルと階層について示したものです。デジタル化の影響が大きい領域はオレンジで示したところになるでしょう。人手に関わる作業効率の話に絞ります。

スライド資料:デジタル化で作業効率KPI(生産性)はどうなる?

これまで、物流業界の作業は人がメインでした。しかし、AGVやAGFなどの自動化機器の導入が増えています。ただ、現場の管理の面で悩ましいのは、今後これらの機械の導入が増えた場合、その稼働時間を生産性にどう入れればいいかという点です。

現場を管理する上では、金額ベースではなく、作業ベースで生産性を見ることが必須です。中でも作業時間を延べ作業時間で割った「人時生産性」が重要となります。しかし、デジタル化が進むと、ロボットと協働する作業やロボットに任せる作業で生産性が構成されるようになります。

スライド資料:処理能力と生産性の変化

「処理能力」と「生産性」を明確に分けて考えるようにしてください。「従来型」であれば、人が増えれば、処理能力も上がり、生産性もその分上がることが多いと思います。ロボットだけの「独立型」も同様に考えることができます。

悩ましいのは人とロボットが協働する「協働型」です。2人の人間と3台の自律走行搬送ロボット(AMR)があったところに、追加的に人を1人増やしたら生産性がどれくらい上がるのか。この計算はとても難しいものがあります。もし最初の協働状態に良いバランスがあったのであれば、1人追加すると逆にバランスが崩れて生産性が落ちてしまうでしょう。

スライド資料:協働型の人時生産性のイメージ

協働型では「自動化比率」が大きなポイントになります。イメージではありますが、人時生産性と自動化比率の関係性を示すようにグラフを作ると、自動化比率を上げすぎるとかえって生産性が落ちるような曲線を描きます。人の待ち時間が増えるからです。このケースでは、おそらく、自動化比率75〜80%の協働が最も人時生産性が高まるのではないかと思います。もちろん、これとは異なる考え方もあり得るでしょう。それぞれの現場に合わせて、結果を評価できるようにしたり、計画やオペレーションで判断できる基準を作ったりしながら、デジタル化を進めていくのがポイントです。

また、近い将来、「ロジスティクスAI」と呼ばれるようなものが進展するようになるでしょう。物流業界は人手が足りないので、「このAIに頼らざるを得ない」という状況になると思います。

スライド資料:デジタル化社会における物流の将来像

例えば、計画においては物流を予測したり、シフト計画を自動的にやったりするようになるかもしれません。オペレーションでは、作業が後れているところを見ながら自動的に人員配置を指示してくれたり、残業を予測してくれたりするようになるかもしれません。また、取得したデータから課題を見つけて解決策を提案するようにもなるかもしれません。

AIは蓄積されたデータを使って学習します。「ロジスティクスAI」はいずれ必ずやって来ますので、今から必要とするデータをきちんと蓄えておくべきです。そのようなデジタル化に多くの事業者が取り組んだとき、結果として、物流業界の高度化や安全・品質・サービスレベル・生産性が全体的に向上していくのだと思います。

※物流関連コンテンツ:食品ITマガジンvol.6【特集】「食品物流のサプライチェーン改革」もご覧ください。(PDFにてダウンロードできます)

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