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【内田洋行ITフェア2019in東京】 「人手不足×働き方改革」の喫緊の課題にどう応える? 〜 AI・IoT・ロボティクス時代の先端物流現場システム〜

2020/1/30 [物流,セミナーレポート]

物流現場の人手不足は危機的状況です。一方で効率化を進める最大のチャンスでもあります。今回は現在の物流をめぐる問題分析から、ロボティクス・マテハン・IoT・AIなど先端テクノロジーを活用した国内外の物流現場自動化・省力化の事例紹介を中心に、これまでの常識では測れない未来志向の具体例をご紹介します。

目次

  • AI、IoT、ロボティクスは物流業界の人手不足を解消していく
  • ロボットが物を人の手元に運んでくる「GTP型自動化システム」
  • ピッキング作業まで自動化する「ハンドリングロボット」
  • 人と協働するAMR(Autonomous Mobile Robot)型自動化システム
  • ヨーロッパで見られる最先端の海外技術
  • 未来のスマートロジスティクスはどんな姿なのか

株式会社流通研究社
代表取締役社長
菊田一郎 氏

※講師プロフィールは講演当時の所属、役職となります。

82年名古屋大学経済学部卒業。83年株式会社流通研究社入社、90年より月刊「マテリアルフロー」(当時「無人化技術」)編集長、17年より現職。物流・ロジスティクス、サプライチェーン、RFID/IT関連分野まで、内外の取材・執筆を継続するかたわら、2012年より「アジア・シームレス物流フォーラム」の企画・実行統括を担当。06年より東京都中央・城北職業能力開発センター赤羽校「物流の基礎」講師。著書に「ロジスティクスで会社が変わる」(白桃書房、共著)、「物流センターシステム事例集T〜Y」(流通研究社)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(社会保健研究所、11年改訂版、共著)など。

AI、IoT、ロボティクスは物流業界の人手不足を解消していく

人手不足の問題はどの分野でも深刻です。特に物流業界ではトラックドライバー不足が危機的な状況になっています。この物流業界で、どのようなソリューションがあるのか。1つの答えとなり得るのは、AIやIoT、ロボティクスなどの技術です。その導入事例を紹介します。

まず海外の最先端事例として、中国の上海にある店舗型ネットスーパー「フーマ」について紹介します。これは、オンラインマーケットを運営しているアリババ系列の店で、生鮮食品を扱っています。店から3km以内の顧客であれば、インターネットで注文してから30分以内に配送するというサービスを展開しています。

スーパー型の店なので、店内には一般客がいて、陳列台にはカニなどの生鮮食品がずらりと並んでいます。この中に、インターネットで注文された商品を収集するピッカーも多くいて、忙しそうに歩き回っています。ネットで注文が入ると同時に、手に持ったハンディーターミナルを見ながらすぐに商品をピッキング。商品を入れた袋をコンベアのフックに引っかけていきます。その袋は自動でバックヤードに運ばれ、梱包されて顧客の手元まで配送されます。

ネットスーパーは日本では苦戦が続いていますが、中国では善戦しており、そのシステムは高度化しています。ビッグデータを解析しながら事業の予測を立て、配送の調整も完全にシステム化されているのです。

ロボットが物を人の手元に運んでくる「GTP型自動化システム」

(1)保管効率を上げるオートストア(ロボット自動倉庫)

ここからは日本の事例です。まず、物を人の手元に運んでくるGTP(Goods To Person)型自動化システムを紹介します。

トラスコ中山は物流センターを全国に持つ卸売業者です。最近、物流センターの1つである「プラネット北関東」をオートストア(ロボット自動倉庫)化しました。ここでは取り扱うアイテム数を増やし続けていて、約40万点から52万点まで拡大しようとしています。

卸売業は通常、在庫を拡大するよりも、在庫の回転率を上げようとします。しかし、こちらの企業は違います。回転率よりも顧客が求めている商品を増やすことに力を注いでおり、それを実現するためには保管効率の良い仕組みが不可欠だと考え、オートストア化をしたのです。

ここの自動倉庫ではロボットが24台走っています。ネジなどの細かい商品が多く、1つのプラスチックコンテナにも仕切りがあり、細かく仕分けて管理しています。このプラスチックのコンテナを12段積み上げ、そこから注文商品の入ったコンテナをロボットが抜き出し、ピッカーの手元まで運びます。ピッカーはそこから商品を取り出すだけなので、歩く必要がありません。また、コンテナを単純に積み上げる仕組みにすることで、他よりも高い保管効率を実現しています。

(2)シャトル自動倉庫でのサービスアップ

次は医療品などを卸しているメディセオの事例です。GTP型自動化システムに分類される事例ですが、ロボット自動倉庫のオートストアではなく、シャトル自動倉庫と呼ばれるタイプです。

埼玉県にある倉庫では、シャトルと呼ばれる電動台車が棚の中に組み込まれていて、そのシャトルが高速で動くことで、商品の入った箱がピッカーの手元に素早く届けられます。こちらのタイプもピッカーが商品を探して歩く必要はありません。

特筆すべきは、仕分けシュートの箱詰め担当者が商品を出荷用の箱に入れるとき、それを箱の中のどこに置くかが示されるところです。この企業は医療品などを卸していて、届け先の顧客が商品を一筆書きで棚に置いていけるように配慮しているのです。倉庫機能を使って大きくサービスアップすることに成功しています。

また、ピックアップの正確率は99.9997%。いわゆる「シックスシグマ」の品質を保っていて、梱包された荷物は顧客が開封するまで誰も開けられません。

(3)棚をロボットが運ぶ――棚搬送ロボット

GTP型自動化システムの代表と言えば、ロボットが棚をピッカーのところまで持って来る「棚搬送ロボット」です。工業用間接資材の通信販売会社、モノタロウの例を紹介します。

こちらの企業は、工具やガムテープなどの中間材を扱う、巨大なBtoB事業を展開しています。取り扱うアイテム数を拡大していて、物流センターでは今、最大50万点の実在庫を持とうとしています。喫緊の課題は、多数のアイテムを効率的に入出庫することです。

そこで導入したのが日立製作所の棚搬送ロボット「ラックル」でした。このロボットのコンセプトは、有名なアマゾンの棚搬送ロボット(旧Kiva Systems)と基本的に同じです。この企業の広い物流センターには、数多くのアイテムの入った棚がずらりと並んでいます。その間を154台のラックルが縦横に走り回っていて、棚をピッカーの手元に運びます。ここでも人が歩いたり探したりする光景は見られません。

ピッキング作業まで自動化する「ハンドリングロボット」

(1)ロボットでピースピッキングに挑戦

ここからはロボティクスの話をします。最初は、事務用品などの通信販売会社であるアスクルの事例を紹介します。

こちらの企業は3年ほど前から倉庫業務の自動化に取り組んでいて、特にピースピッキングにチャレンジしています。今では有名になったロボットコントロールメーカーのベンチャー「MUJIN」とは、スタートアップの頃から手を組んでいて、共同で物流分野のロボットを開発してきました。

先に紹介した事例は、ロボットが棚や箱を人の手元まで運び、人はそこから商品を選び出すという流れでした。この企業では、この箱から商品を取り出す作業までロボットにやらせようとしています。このようなロボットを「ハンドリングロボット」と呼びます。

倉庫では、自動走行ロボットがハンドリングロボットの手元まで箱を運びます。その箱の中から、ハンドリングロボットが商品を選び出して、出荷用の箱に入れます。その手は、空気を吸うバキューム機能が備わっていて、商品をうまく把持します。近年は、自動パッキング技術も進んでいますので、すべて組み合わせれば、完全な無人化を実現させることも可能です。

ちなみに、ここの倉庫でもシャトル自動倉庫システムが導入されています。担当者に話を聞くと、このシステムは天井まで商品を積み上げられ、倉庫のスペースを無駄なく活用できると話していました。棚搬送ロボットだと、棚の高さの上限が3m程度になってしまい、天井が5mの倉庫の場合、高さ2m分のスペースを活用できなくなります。土地の価格が高いところでは、シャトル自動倉庫システムの方が有利です。

(2)異なる箱を扱うパレット作業を自動化

次は日用品などの卸売業を営んでいる、株式会社あらたの事例を紹介します。この企業は鹿児島県に中規模の物流センターを設けています。特徴は、従来の仕組みの中で、小さな改善を積み重ねている点です。

注目のポイントは、パレット作業の自動化です。従来は、人がパレットに高く積まれたさまざまな箱をばらしながら入庫作業をしていました。中には数十kgに及ぶ重い箱もあります。あらたは、ここに2台のロボットを導入し、自動化に取り組みました。

以前からパレットの作業を自動化するパレタイザーはありました。しかし、そのロボットは、あらかじめサイズがわかっている商品の箱しか扱えません。メーカーなどでは活用できますが、さまざまな商品を扱う卸売業では、事前にすべての箱の大きさや重さを予測することはできず、使えません。しかし、新しいロボットが開発されました。その場で箱を撮影し、その画像から種類を判別して、適切な動作計画を瞬時に立て、実行できるようにしたのです。事前に教え込むティーチングをしなくても、ロボットが初めて見た物をしっかりとつかみます。

この企業では、このロボットを使って、最速で6秒ワンサイクルの作業を実現。箱の重さは最大15kgまで対応でき、2基で毎時900ケースをさばきます。従来は、3人が対応していた作業でしたが、ロボット導入後は省人化ができ、現在の作業員は1人のみとなっています。卸売業の物流には課題が多いのですが、この企業はいろいろな工夫をして、その課題を一つ一つ乗り越えています。

(3)ついにピースピッキングを自動化できるか

卸売業のPALTACの事例も紹介したいと思います。この企業は、新たな物流センター「埼玉RDC」を開設し、最先端の設備を導入しました。

大きなポイントの1つは、日本で初めて導入されたAIピースピッキングロボットです。最大の特徴は、大きく開く長い指を持つ手。卸売業では掴みにくい商品がたくさんありますが、この手は上手にそれらを掴みます。手の中央から棒状の物がカメレオンの舌のように伸び、その棒はバキューム機能を持っていて、狙った物に吸着して引き寄せ、そして長い指でしっかりと把持。さまざまな形の商品や箱を確実に、そして高速でピッキングしていきます。

ピースピッキングの自動化は、物流業界では永遠の課題と言われていました。しかし、このロボットの作業するところを見て、この課題をついにクリアできる段階に入ってきたと実感しました。

人と協働するAMR(Autonomous Mobile Robot)型自動化システム

AMRとは、Autonomous Mobile Robotの略で自立移動ロボットのことです。ロボット自身で段差や地面のでこぼこを検知しながら目的地へ移動します。

AMR型自動化システムの事例を1つ紹介したいと思います。このシステムのロボットは、人がやっているピッキング作業を真似するように動くのが特徴です。自律的に動き、探している商品が入っているケースのある場所まで人のように移動し、そして取り出すのです。

美容商材卸のきくや美粧堂は、物流センターにAMRを試験的に導入しました。ピッカーの人たちが動いている中でロボットも人のように走行し、まさに人とロボットが協働しているといった光景です。

このAMRは、自ら地図を作成しながら走行し、レーザースキャナーでケースの中の商品を判別していきます。とても役立つロボットでしょう。しかし、どれくらいの期間でどれほどの投資効果があるかは、これからの取り組みの中で見えてくると思います。

ヨーロッパで見られる最先端の海外技術

海外の最先端技術も紹介しましょう。最初は、靴のピッキングロボット「Magasino」です。広い面積の物流センターで自走ロボットが棚の間を走り回り、商品を探して、見つけたら腕と手を伸ばして取り出します。ロボットは、その商品を腹の空間に入れて、出庫用の棚まで運び、人がピックアップします。

もう一つ紹介しましょう。最近の物流現場では、コンテナやトラック内の荷積みや荷下ろしの自動化のニーズがとても高くなっています。Copal社のローディング/アンローディングロボットはまさにこのニーズに応えるものです。このロボットは、まずスキャナーで積み荷の状況を読み取ります。そして位置や大きさを検知してから腕を伸ばして積み荷を引き込み、そして持ち上げて振り返るように向きを変え、コンベアなどに載せ替えていきます。しかし、同じサイズの箱や荷物しか扱えないので、対応できないケースも少なくないと思われます。

ここでもう一つ紹介したいのがBastian社のローディング/アンローディングロボットです。荷物を1つずつ取り出すのですが、ロボット自体にコンベアが取り付けられていて、連続的に荷を降ろしたり積んだりできます。振り返る必要がないので、効率的な作業が可能です。

コンテナやトラック内は、真夏だと気温が40 ℃に達することもあり、2時間の作業でも健康被害が出る危険性があるそうです。自動化が強く望まれています。

未来のスマートロジスティクスはどんな姿なのか

この先、物流がどこまでスマート化するのでしょうか。中国のeコマース大手「JD.com」が描いている物流の未来イメージを紹介したいと思います。

JD.comの未来イメージビデオを見ると、物流がすべて自動化されています。特に面白いのは、自動化された物流センターから商品が運び出された後からです。地下のチューブを走る搬送ロボットにパレット単位で商品を運び入れ、それを隣街まで輸送。そして、各地の集配センターにコンテナボックス単位で下ろしていきます。そこからは無人走行の自動車やドローンを使って顧客の手元まで運びます。中国の新しい街なら、実現可能なのかもしれません。

このような未来が実現するのかどうか、コスト面で見合うのかどうか、またこのようなシステムが人の幸福につながるのかどうかはまだ分かりません。さまざまな議論も必要でしょう。ただ、物流の様々な課題を解決するにはこのような未来像を常に考えていく必要があると考えています。

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