前回のコラムでは、次期(2024年度)介護保険制度改正のなかで最も注目される「介護情報基盤の整備」に関する解説をしました。今回のコラムでは、私が2番目に注目している「介護サービス事業者の財務状況等の見える化」の概要について解説します。
この改正点については、原則として「(介護サービス分野の)すべての指定事業所・指定(許可)施設を対象」として、「事業所等の経営情報を政府・自治体が詳細に把握・分析できるよう、事業者が経営情報を都道府県知事に届け出ることを義務付ける」事業とされています。そして、その経営情報について「政府がデータベースを整備してそれを公表する」ものとされています。さらに「介護サービス情報公表制度において、事業者の財務状況を公表する」「併せて、従事者の1人当たりの賃金等についても公表の対象への追加を検討する」ことも示されています(図)。
この事業は、介護保険法において「介護サービス事業者経営情報の調査及び分析等」として法定化され、今後、詳細に関する政省令・通知等が示されることになりますが、2024年度に施行されるものであり、介護サービス事業者にとってはその準備を急ぐ必要があります。
この事業について、介護分野の民間営利法人や非営利法人の経営者・実践者の皆さんからは「面倒だ」「事務負担が重い」などと言った不満も聞こえてきます。しかし、同様な仕組みは、社会福祉法によって2014年度から社会福祉法人に対して講じられ、医療法や医療保険各法によって2023年度から医療法人に対して始まっています。この意味では、介護分野の民間営利法人などに対しては一歩遅れて始まる仕組みであり、「これで同じスタートラインに立った」と受けとめるべきものでしょう。
これにより、来年度以降、介護保険・医療保険の制度内で事業を行うほとんどの法人に毎年度の経営情報を都道府県知事に報告することが義務付けられ、それが公開されるとともに、政府が経営状況を分析することとなります。(報告等を怠った場合には罰則規定も定められています。)
この事業のねらいは、各事業所・施設の経営状況を政府が「つぶさに把握する」ためのものと言っても過言ではありません。「なぜ?」と言う声もあるでしょうが、介護保険も医療保険も公費・保険料で運営されており、それを原資としている介護サービス事業者等の経営には、そもそも一定の公益性・透明性が求められるからです。
そして、最大の目的は、介護報酬や診療報酬の改定にあたって、正確な経営情報(収支差率や人件費率など)のデータを役立てる点にあります。
また、報告の任意項目として検討されている「職種別の給与水準」については、「処遇改善加算などが適切に職員へ還元されているか否か」ということを、政府が正確に把握しようとしているものと言ってよいでしょう。実際、財政分野の政府審議会等の会議資料などをみると、「処遇改善加算が本当に介護従事者に還元されているのか」「その還元が不十分な事業者が少なくないのではないか」などといったことを問うものも散見されています。
堅実かつ公正な経営をしている事業者が大多数であることや、抑制された介護報酬によって経営に厳しさを増している事業者が多いことは、十分に知られています。しかし一方で、(脱法的な運営によって)儲すぎている事業者や、(処遇改善加算などを取得していながら)十分な給与を支払っていない事業者があるのではないか、という疑念が向けられてもいる、という問題がこの新しい事業の根底にあるわけです。
この意味で、介護サービス事業者はこの事業に誠実に向き合う姿勢を見せていただきたいと思います。そして、そこから社会的信頼性をより大きなものにしていただきたいと思います。
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