2024年度は介護保険制度(介護保険法)の改正とともに、介護報酬の改定も行われます。次年度は、診療報酬(薬価を含む)・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の3つの改定が重なる年次であり、「トリプル改定」とも言われています。
介護報酬の改定は、厚生労働省の「社会保障審議会介護給付費分科会」(以下「分科会」)で報酬の体系や単位数(金額)、人員・運営基準などのあり方が議論され、その結論(意見)を受けて厚生労働大臣が決定することになります。今、まさにその分科会での議論が最終段階に入っています。
通常のスケジュールの場合、まず12月下旬に介護報酬の全体の改定率が示されます。そののち、1月中旬に分科会の意見が取りまとめられ、個々の報酬単価や各種の加算の詳細、基準の見直しの具体的内容が示されることになります。それを受けて、報酬や基準の改定内容が厚生労働省令や通知として即刻発出され、4月から新しい介護報酬の施行が始まります。
次年度の改定もこれとほぼ同様のスケジュールで状況が動いていくものと思われます。ただし、次年度の診療報酬改定の施行時期を4月から6月に遅らせることが決まっており、介護報酬もそれに倣うことになるのかどうか、まだはっきりとは見通せない状況です。
本稿執筆時点(11月末)では介護報酬改定に関して決定された事項は何もありません。しかし、2022年以降の物価高騰の影響を受けて事業所・施設の経営状況が厳しくなっていること、政府が民間企業に賃上げを促す政策方針を示していることなどを考えると、全体の改定率はプラス数%程度が期待できる状況だと考えられます。
また、具体的な改定内容については、今秋の分科会で次の4つの「基本的な視点」に沿って議論を深める方向性が示されています。
① 地域包括ケアシステムの深化・推進
② 自立支援・重度化防止に向けた対応
③ 良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり
④ 制度の安定性・持続可能性の確保
出典)厚生労働省「第227回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料(2023年10月11日開催)」
① は、認知症のケアに対する評価を高めることや、医療介護連携や看取りに関する対応を促すような検討を行うことを意味しており、② は、LIFE(科学的介護情報システム)の利活用を一層推進し、高齢者の自立支援に資する介護サービスを後押しするような報酬改定を目指すことを意味しています。また、③ は、分立している数種類の処遇改善加算を一元化すること、ICT/DX化の推進による介護従事者の業務負担の軽減・生産性の向上を後押しするような改定を検討することを示しています。そして、④ は複雑化した各種加算の改廃とともに、公正さ・中立性に欠けるようなサービス提供を見直すこと示唆しています。
介護従事者・経営者は、こうした動向を踏まえて次年度以降の対応・準備を早めに進めておくことが重要です。
11月10日の分科会では「令和5年度介護事業経営実態調査」(以下「実態調査」)の結果が示されました。
この実態調査は、介護報酬は「サービスに要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める」(介護保険法第41条第4項第1号など)と規定されているため、3年に1度の介護報酬の改定の際、厚生労働省が全国の事業所・施設の経営状況について詳細な調査を行うものです。したがって、その結果は報酬改定の最も重要なデータとして用いられることになります。
今回の実態調査の結果をみると、令和4年度決算における全サービス事業所・施設の平均の収支差率は+2.4%(税引き前の収支差率:コロナ関連補助金および物価高騰対策関連補助金を含まないもの)となっています。
サービス種別ごとの収支差率は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)では−1.0%(同)となっているなど、施設系のサービスは物価高騰などの影響を大きく受けて経営状況が悪化していることが示されています。一方、訪問介護は+7.8%(同)、訪問看護は+5.9%(同)、居宅介護支援で+4.9%などとなっており、これらの訪問系サービスはコロナ禍による利用者減の状況から回復していることが示されています。また、通所介護は+1.5%、通所リハは+1.8%と通所系サービスにおいては利益幅が極めて少ない水準にとどまっていることが示されています。
次年度の介護報酬改定は、こうしたことに加え、継続的な物価上昇の影響や労働者(介護従事者)の賃上げを基調とする政策の影響を受け、最終的に決定されることになります。
▽福祉業界の方向けに、新着コラムやITの最新動向など、お役立ち情報をメールでお届けします!
登録は無料ですので、お気軽にお申し込みください
関連記事
東洋大学 |
高齢者福祉施設の経営者・職員の皆さまへ