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今、生成AIが大ブームです。しかし、生成AIはブームで終わりません。これは大きな変革をもたらすものです。では、この新たな流れを作ったきっかけは何だったでしょうか。間違いなく生成AI「ChatGPT」の登場です。
生成AIとは何でしょうか?
生成AIは世界中の情報を学習し、それをもとに作り上げられた頭脳のようなものです。
今、加速度的に情報(学習データ)が増えています。ウェブページ、ニュース、SNS、オンラインメディア、オンラインストリーミング、IoT……。それらはすべてAIの学習データになります。そして、その量は今後も増え続けます。
では、いったい生成AIの登場で何が変わったのでしょうか?
人間とコンピューターとの関係が変わりました。
これまでは人間がコンピューターに歩み寄っていました。コンピューターの能力を引き出すためにプログラミングを学んだり、コンピューターがわかる命令コマンドを勉強して打ち込んだりしなくてはなりませんでした。だから、コンピューターの使い方を学んだ人と学んでいない人の間に差がありました。
ところが、生成AIの登場でこの関係性が変わりました。コンピューターが人間の言葉を理解して人間側に歩み寄ってきたのです。言い換えると、人間がコンピューターに対して自然言語で指示や対話ができるようになり、コンピューターの能力を引き出すための専門的な知識を必要としなくなったのです。
例を出しましょう。
生成AIに「日本において秋の訪れを感じさせる風物詩をいくつか教えてください」と問いかけます。すると、すぐに五つほどの回答を出して、簡単な説明を付けてくれます。この最初に問いかけた文章はプログラムでもコマンドでもありません。普段使っている言葉です。会話ができる人なら難なく書くことができる言葉でしょう。つまり、誰でもコンピューターの能力を引き出せるようになったということです。
続けて、対話をするように「さらに五つを追加で教えてください」とお願いしてみましょう。すぐに追加で五つの回答を出してくれます。生成AIを使ってコンピューターと対話をしてください。対話をすることによってコンピューターの能力を手に入れることができるのです。質問をたくさんして、その能力を100%引き出すように対話する。それが生成AIを使いこなすやり方です。
先ほどのチャットの続きで、さらに「それぞれ10個の項目を中国語にしてください。それぞれに日本の秋に観光に来たくなるようなメッセージも含めて中国語にしてください」と入れてみましょう。すぐに、指示通りのものが出てきます。
よくある自動翻訳ツールではこのような回答は得られません。もともとの日本語の文章に触れる必要があるからです。実際のビジネスの現場で欲しいものは、単なる翻訳ではなく、この生成AIが見せたようなものではないでしょうか。
経営者は次のような能力の持ち主を雇用したいと考えていると思います。
これらは生成AIの能力の一部です。
私が経営者なら、このような能力をもつ人材であふれる会社にしたい。でも、現実は無理です。でも、この能力をもつ生成AIを月額数千円で従業員に渡すことができます。その生成AIは、新入社員でも使いこなすことができます。組織全体で使うことができるのです。
しかし、2024年7月に総務省が発表した「情報通信白書」によれば、日本において生成AIを使っている人はわずか9.1%です。私には信じられません。無料でも使える生成AIを使わないのは、目の前に電卓を使わずに、そろばんをがんばって使っているのと同じです。
若者は違います。2024年5月の全国大学生活協同組合連合会の調査によれば、半数近くの学生が生成AIを使っています。2年生と3年生に限れば、90%を超えます。就職活動の履歴書やエントリーシートの作成、面接の対策などで使うようになるからです。ということは、2年後には生成AIを使いこなす若い人が会社に入ってくるということです。生成AIを当たり前のように活用する時代がもう目の前に来ています。
世界的に見ても、日本では生成AIを使っている人の割合がとても低い。皆さんの会社では、社員たちがパソコンやインターネットを使っていると思います。そうしないと生産性が落ちるからです。同様に、これからは生成AIを使わないと生産性が落ちるでしょう。いずれ、ほとんどの人が生成AIを使うようになります。
今、生成AIがいくつも登場し、競い合っています。中でも、Google、Claude、そして ChatGPT を開発した OpenAI / Microsoft が大量の資金をつぎ込んで世界1位の性能を獲得しようと激しく競争しています。
この技術競争の恩恵を受けるのは誰でしょうか。生成AIを活用する皆さんです。
Microsoft の生成AI「Copilot」にかかわる技術は、ChatGPT を開発し生成AIをリードする OpenAI の技術と同じで、共有しています。Microsoft Office 製品ラインのサブスクリプションサービス「Microsoft 365」でも、この生成AI「Copilot」を使うことができます。
今の仕事を生成AIにやらせましょう。電卓が登場したとき、そろばんでやっていたことを電卓でやるようになりました。それと同じです。
例えば、メールを書こうと思ったら、Outlook に搭載されている生成AI「Copilot」のアイコンをクリックして、これから書きたいメールの内容を要点だけ入れてください。普段使っている言葉で大丈夫です。そのとき「例文を四つ書いてください」と添えれば、すぐに四つの例文が出てきます。
メールの返事を書くときも、相手のメールをコピーしてから生成AIに「このメールの返事を考えてください」と指示すればいいのです。すぐに文案を示してくれます。
上司から文書ファイルが送られて「チェックしておいて」と頼まれたら、Word に搭載されている生成AIに「この文章の内容に間違いがないかを確認し、誤字脱字を修正して、文章のレイアウトを整えてください」と指示すれば、すぐにやってくれます。
今やっている仕事を生成AIでやってみる。この考え方がとても大事です。実にいろいろなことができます。
例えば、生成AIに「台風の影響でイベントが中止になりました。そのイベントへの参加を申し込んでいた方にお詫びの文章を書いてください」と入れれば、ある程度のレベルの文章が即座に出てきます。
苦手な英語のニュースサイト記事も、ブラウザに搭載されている生成AIに「このニュースの内容を箇条書きで要約してください」と日本語で指示すれば、すぐに日本語で要約してくれます。私がグローバル目線の経営者だったら、英語のニュースを毎朝読んでいる社員を優秀だと思うでしょう。
よくミーティングでホワイトボードを使うときがあります。こういうときはスマートフォンのカメラなどで撮影して画像にしましょう。Microsoft 365 のアプリの生成AIに「この画像から会議の内容を教えてください」と指示すると、テキストで議論した内容を整理してくれます。手書きのメモなども画像にして生成AIでテキスト化すると、検索で見つけやすくなります。
PowerPoint のスライドは、もはやAIに作ってもらう時代です。ある金融業界のお客様が活用している例を紹介しましょう。
このお客様は、PowerPoint の生成AIを使って、例えば「株式投資におけるドルコスト平均法について解説をするプレゼンテーションを作ってください」などと指示して、いろいろな説明スライドを作成させています。既存のものがたくさんあるのですが、それでも生成AIに作成させます。なぜか。それは、MBAレベルの知能がどのようにドルコスト平均法を説明するかを知りたいからです。私だったら、このやり方で5パターンのスライドを作り、各パターンを勉強して自分のプレゼンテーションの引き出しを増やすでしょう。
会社の中で生成AIをもっと活用しましょう。企業内の情報を生成AIに学習させるのです。
ある不動産会社の事例です。
こちらの会社では、生成AIを使って不動産の査定をしています。不動産の査定にはさまざまな情報が必要です。市場価格をはじめ、過去の取引状況や地域の情報などを参照する必要があり、それなりの労力を要します。生成AIにやらせましょう。
まず、この会社がもっている「区分所有物件売買価格査定表」を生成AIに読み込ませます。撮影した画像で入力することもできます。そして、査定したい物件の情報を生成AIに入れると、最近の取引や地域の特色、取引の傾向、金利の状況などを考慮した査定金額が出ます。実際に人間が査定した金額の範囲と生成AIが出した金額の範囲はほぼ合致します。
生成AIが社内システムに蓄えられたデータを見ることができるようにしましょう。
例えば、飲料の商品を扱っている会社であれば、「関西営業所にあるエナジードリンクの在庫を教えてください」と生成AIに質問すると、在庫管理システムにある情報をすぐに見つけて「800ケースです」と回答してくれます。
得意先から急に「出荷可能なA商品をすべて今日中に送ってほしいんだけど、いくつある?」という問い合わせが来たら、生成AIに尋ねましょう。「本日これから出荷できるA商品の数はいくつですか?」と質問すれば、すぐにシステムにある情報を見つけて答えてくれるでしょう。
工場をもつ会社なら、生成AIと工場のシステムを連携させましょう。例えば、「現在の稼働状況を教えてください」と質問すると、「稼働率は84〜95%です。製造ライン1から6の中でライン2に位置ずれのアラートが報告されていて、ベルトコンベアのスリップが検出されています」などと答えてくれます。
そんなときは、さらに「製造ライン2におけるベルトコンベアのスリップの数値はいくつですか」と聞きましょう。工場のシステムの中にIoTセンサーのデータが蓄えられていれば、生成AIがすぐに答えます。担当者はその回答の数値を見て、短時間で「明日点検すればいい」あるいは「今すぐ確認しなくてはならない」と判断することができます。
もう一つ事例を出しましょう。
製造業では今、設計で用いるCAD図面を生成AIで作り始めています。過去のCAD図面や設計データを学習させれば、生成AIが新しい設計案を作り出すことが可能です。
例えば、「新しいレストランの天井に取り付けるシーリング用220V/40Aコネクターをデザインしてください」と指示すると、生成AIが過去のデザインを踏まえた設計図を作成します。
大事なのは、ここから対話をすることです。「どうして二つのコネクターを対角線上に配置する設計なのか説明してください」と聞けば、「このように配置しないと熱効率が悪くなりショートする危険性が高まります」などと答えてくれます。このような対話を重ねれば、より完璧な設計図を作ることができます。その後の製造工程で必要となる、加工予測時間や見積原価などの資料、工作機械用のNCプログラム、制作で必要な材料や工具のセット、材料の手配にかかわる資料、加工工程の手順書などもすぐに作ってくれます。
皆さんは今、なぜデジタル化が大事なのか、なぜIoT化が必要なのかを理解したのではないでしょうか。デジタル化やIoT化をすると、そのデータをAIで活用できるようになるのです。
生成AIを企業で使うことによって生まれる効果についてまとめます。
まず、時短です。
この生成AIを活用することで業務時間を圧倒的に短縮できます。この生産性向上によって生じた新たな時間は、競争力を高めるアイデアや工夫の創出に使いましょう。あるいは、人間がもっているセンスを活用したり、重要な判断や指示をしたり、お客様の対応をしたりするために使いましょう。就業時間そのものの短縮やワークライフバランスをとるために使ってもいいと思います。
また、生成AIを活用することで「仮説・実証・検証」のサイクルを加速することができます。これは、マーケティングやキャンペーン、プロモーションの業務においてとても重要なことです。従来の1サイクル分の時間で5サイクルを実践できるようになれば、それだけヒットの確率が高まります。
さらに、全従業員のスキルを全体的に引き上げることができます。誰でも使える生成AIを従業員に渡せば、さまざまなスキルを高いレベルで均一にすることができます。
AIによって皆さんの仕事が奪われることはありません。AIを使いこなしている人に仕事が奪われるのです。ぜひ皆さんには生成AIを使いこなしていただきたいと思います。
Microsoft 365 の導入・活用を検討されている方へ