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【食品ITフェア2024 オンライン】 ChatGPTの実践活用
〜日清食品とマイクロソフトが語る 企業の挑戦と可能性

2024/7/16 [食品,AI,セミナーレポート]

生成AIをビジネスに取り入れるにあたり、活用方法や体制を模索している方も多いかと思います。日清食品ホールディングス 成田氏より、AI活用の具体的な戦略や効果についてお話しいただきました。また、日本マイクロソフト エバンジェリスト 西脇氏に、生成AIを幅広い業務に適用する「Microsoft 365 Copilot」について解説いただきました。本パネルディスカッションより、AI活用のヒントを得ていただきたく存じます。

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CIO
成田 敏博 氏

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員 エバンジェリスト
西脇 資哲 氏

IoTNews代表
株式会社アールジーン 代表取締役
小泉 耕二 氏

自己紹介

小泉様:本日、モデレーターを務めさせていただきます。まず、お二人に自己紹介をお願いいたします。

成田様:新卒でアクセンチュアに入社し、その後、DeNA、メルカリを経て日清食品ホールディングス株式会社に入社して4年目になります。主にインターネット関連のキャリアを積んできました。日清食品では、システム開発の民主化やサイバーセキュリティ対策、そして今年度は生成AIの導入を手掛けてきました。

西脇様:日本マイクロソフト株式会社のエバンジェリストとして、最新のサービスやプロダクト、テクノロジーを伝え広める仕事をしてきました。最近は本日のような、生成AIの仕事がとても増えています。

日清食品様の生成AI導入事例

(1) 生成AI導入の経緯

小泉様:日清食品様ではどのように生成AIを導入されているのでしょうか。

成田様:当社では、ChatGPT-4 をカスタマイズし、「NISSIN AI-chat powered by GPT-4 Turbo(以下、NISSIN AI-chat)」というサービス名で、4,800人の全従業員に生成AIのアプリケーションをパソコン版とモバイル版の2種類提供しています。
これはマイクロソフトさんの AzureOpen AI Service をエンジンとして、ユーザーインターフェース(UI)には Microsoft Power Platform を使用しています。NISSIN AI-chat には当社の情報を元に、そこから情報を引っ張ってきます。いわば、当社専用の ChatGPT です。

小泉様:導入のきっかけや経緯について教えてください。

成田様:当社CEO自らが生成AIを当社の未来のために非常に重要だと認識し、昨年(2023年)4月3日の入社式で導入の方針を発表しました。数日後にはプロジェクトチームが立ち上がり、Microsoft 様に助言をいただきながら構築し、4月25日には3,600人の社員に向けて NISSIN AI-chat をリリースしました。

公開までのスケジュール

(2) 利用率向上のための施策

小泉様:導入にあたって壁はありませんでしたか。

成田様:トップダウンであったため、キックオフからリリースまでは順調でしたが、そこから利用率を上げるまでが長い道のりでした。全社を巻き込み飛躍的な生産性向上ができて初めて成果が出たと言えます。そのためにやるべきことを整理したのが以下です。

GW明け以降の進め方

大きな成果を感じたのは、プロンプトエンジニアリング研修です。結果的に、利用率は2023年12月に全社平均で3割を超え、部門別ではマーケティングで9割、営業で7割を超えています。生産部門でも日々のレポート作成で積極的に利用されているようです。

月間利用率推移

小泉様:プロンプトエンジニアリング研修は具体的にどのようなものでしょうか。

成田様:まず全国250人の営業担当のうち20名を選抜し、以下の4ステップで研修を行いました。これによって営業部門での利用率を飛躍的に向上することができました。この方法を他部署にも展開し、全社的な利用率向上につながりました。

プロジェクト実施内容

成田様:ステップ1では、プロンプトエンジニアリングを学び、ステップ2では NISSIN AI-chat でできる業務を洗い出し、ステップ3ではプロンプトのテンプレートを作成して、ステップ4で最終的に効果を算出し成果を報告するということを行いました。ステップ3のプロンプトテンプレートの作成では、外部のコンサルタントを交えて何度も添削をして精度を上げていきました。

この方法を他部署にも展開し、結果的に全部門から約100個のプロンプトテンプレートが作成され、社内で共有されました。変数を変えれば他部署のテンプレートにも利用できます。

(3) プロンプトテンプレートの例

成田様:具体的なプロンプトテンプレートの例を紹介しましょう。以下は「食べ方アイデア出し」というものです。

プロンプトサンプル「食べ方アイデア出し」

これを NISSIN AI-chat に考えさせると、30個の案が瞬時に出てきました。

中には使えないアイデアもありますが、これらをヒントにして、マーケターや営業が実際の業務に活かしていきます。答えは人間が出す前提で、そこに至るプロセスを手伝ってもらう。そういう感覚で使えば生成AIは非常に役に立ちます。

マーケターがよく使っているのが、次の「ユニークな言い換え」というプロンプトです。

プロンプトサンプル「ユニークな言い換え」言い換えたい表現など

以下はその制約条件です。

プロンプトサンプル「ユニークな言い換え」制約条件など

これらの制約条件は、スキルのあるマーケターがキャッチフレーズを考えるときの暗黙知を言語化したものにほかなりません。AIは即座に以下のようなものを出してきます。

プロンプトサンプル「ユニークな言い換え」対応関係など

こういったものを人間がゼロから考えるよりも、生成AIに考えてもらってその中から人間が選ぶほうが、はるかに生産性が上がると思います。

(4) 社内報を利用して全社的な機運を高める

社内報を利用して好事例を紹介したことも、利用率を大幅に高めた要因でした。スタートはトップダウンでしたが、その後は現場から事例を発信し社内に波及させる。トップダウンとボトムアップの両面から進めたことは効果的だったと考えています。

(5) コンプライアンス対応について

小泉様:生成AIの導入でよく問題になるのはコンプライアンスの問題です。どのように対応されていますか?

成田様:以下は、スマートフォン版の NISSIN AI-chat のログイン画面イメージです。ログインをする前に、毎回CEOからのメッセージとコンプライアンスに関する簡単な質問が表示され、それに回答することが必須になっています。ガイドラインを作ったり説明会を行っても、皆忘れてしまうので、常にコンプライアンスを意識せざるをえない仕組みをシステムに導入しました。

コンプライアンス対策

(6) 今後の構想について

小泉様:今後の構想を教えてください。

成田様:ChatGPT のようなchat型のUIを利用して、様々なプロンプトを皆が通常業務の中で使っている状態にしたいですね。生成AIのさらなる活用には、2つの軸があると思っています。1つは、システムとの連携によって「社内の情報を把握しているAI」を構築すること、もう1つは、「AIの利用を前提とした業務プロセス」を確立することです。つまり、最初から生成AIありきの業務フローに転換するということです。

たとえば、従来は人間が行っていた問合せ対応を、まず NISSIN AI-chat に答えのリストを出させてその中から人がより良い回答を選ぶというように業務プロセスを転換する。社内問合せについては既に実行していて、以下に示すように作業工数削減につながった、回答の精度が上がったなどの効果が出ています。今後は社外からの問い合わせにも NISSIN AI-chat を活用することを検討しています。

IT部門の問合せ業務における改善効果

ただ、現段階では生成AIを顧客対応の最前面に出すことは考えていません。
生成AIの回答には何らかのハルシネーション(もっともらしい嘘)が含まれる可能性があるからです。その回答が正しいか正しくないか確認できるスキルがある人が対応する形でないと、まだ危険だと思っています。

全社統合データベースとの連携

弊社では、業務システムデータを一元的に集約した全社統合データベースをAIが参照することで、より多様且つ広範囲な回答生成が可能になりました。プロンプトを使用することで、従来ならデータサイエンティストがやっていたような分析・解析も可能になっています。まだ比較や類推が苦手ですが、今後、ChatGPT がバージョンアップすることでこれらの点も改善される可能性があります。近い将来に、生成AIがデータの中から迅速にインサイト(消費者の行動や思考パターン、意識構造)を抽出できるのではと思いますし、Microsoft Copilot でも、それに近いことができるのではないでしょうか。そうなると、我々の働き方が大きく変わるのではと期待しています。ぜひそのあたりのことを西脇さんにお聞きしたいです。

生成AI導入成功のポイント

(1) 利用率が上がらないのは良いプロンプトが足りないから

西脇様:日清食品様の事例をお聞きして、まさに理想的な進め方だと思いました。プロンプトテンプレートも非常に練られていますね。一般的には「○○のアイデアを考えてください」といったごく簡単なプロンプトが書かれることが多いです。日清食品様のような制約条件や追加情報はほとんど書かない。当然これでは良い結果は返ってこないので、「なんだ、この程度か、使えないな」と思われ、利用したいとは思わなくなります。
私は色々な企業様のお手伝いをしていますが、3割の壁というのがあります。利用率が3割を超えると定着するのですが、なかなか超えない。その原因は、良いプロンプトが足りないからです。考えてみれば、「使って良かった」と実感しなければ使わないですよね。

生成AIを使いこなすために何が必要かをまとめたのが以下です。

ChatGPT をもっと使いこなすための取り組み例

要するに、良いプロンプトの例を表示し、カタログ化し、部門内で共有して、「これを使うとすごくいいよ」ということを広げていかなければならない。まさに日清食品様が実践されていることですね。

生成AIを活用していくために皆さんにお願いしたいのは、ChatGPT と対話をしてくださいということ。多くの人は、一発で答えを求めようとする。そうではなく、ChatGPT が出した答えに対して、「もっとほかにアイデアはないですか」「もっとこんなものをテーマにしてはどうですか」「他の角度からみたらどうですか」「これ本当ですか」と何回も対話をする。対話をしながら物事を進めていくのが生成AIとの向き合い方です。

(2) 生成AIのメリットとは

成田様:営業部隊では、従来はお客様に提案するプレゼン資料を個々人が作っていました。しかし、プレゼン資料を作るのが上手な人がプロンプトを作り、それを共有したところ、それを使うと自分でゼロから作るより短時間で質の高いものができることを皆が実感しました。それから営業部隊の利用率がぐっと上がりました。また、NISSIN AI-chat を使うことで、従業員のアウトプットや業務が標準化されるという副次効果もありました。

西脇様:おっしゃる通り、業務の標準化、スキルの標準化は生成AIを活用するメリットのひとつです。以下の図に示すように、普通は従業員のスキルはバラバラで、みなそれぞれ強み弱みがあります。しかし、生成AIを活用することで弱みを埋めることができるのです。

生成AIが与えるスキルへのインパクト

もっと言えば、全従業員が、MBA、医師免許、司法試験の合格レベルの能力を持つことができる。これは経営からするとものすごいインパクトです。それと、先ほど成田さんが「暗黙知」と言いましたが、生成AIを使うことで、これまでベテランの人しか持っていなかった暗黙知を新入社員も共有できるようになる。これらによって従業員のアウトプットの質が向上し、企業の生産性向上に大きく寄与することができます。これは経営陣に対して、大変大きな説得力があります。

また、生成AIを活用すればトライ&エラーがやりやすくなります。仮説・検証も生成AIがしてくれるので、短期間で何度もトライ&エラーができるのです。

何度でも仮説を立てる力・検証する力を発揮できる

生成AIに関するよくある不安

小泉様:生成AIの導入に際して、データ保全性への不安、つまり自社のデータを読み込ませると生成AIが勝手に学習してしまうのではという不安をお聞きすることがあるのですが、その点はいかがでしょうか。

西脇様:ChatGPT をはじめ皆さんが通常使う生成AIは、今ある情報を参照・参考しながら答えを出すだけで、勝手に情報を収集したり、学習してモデルを強化するということはありません。確かに一部製薬会社や研究機関などでは学習型のAIが使われていますが、それとは全く別のものです。

小泉様:なるほど。自社のデータをインプットしたからといって、生成AIのモデル自体が変わるわけではないのですね。それは重要なポイントですね。

西脇様:更に一般企業で使う生成AIでポイントとなるのは、アクセス権の管理です。日清食品様のように、SharePoint上でドキュメントを管理してそれを参照するようにすれば、生成AIは問いかける人がアクセスしていい情報だけを参照して回答を作ることができます。

小泉様:ドキュメントに設定された権限を、生成AIが勝手に考慮して回答してくれるということですね。それをするには何が必要なのでしょうか。

西脇様:Active Directory と Microsoft 365 がベースで、その上に Azure ベースの生成AIがあればできます!

小泉様:もう一点、初めから生成AIありきで生活をしていると、経験やノウハウが身につく機会が減るのではという危惧がありますがそれについてはいかがでしょうか。

成田様:生成AIが答えを出してくれますが、それが全てではなく、あくまでもそれをヒントとして人間がさらにその先を考えるのが本来の使い方だと考えています。私もAIと会話することによって以前は考えていたことを考えなくなりましたが、じゃあ考えることが減ったかというとそうではなく、AIの回答をインプットしてさらにその先をより迅速に考えられるようになりました。思考の幅が狭まったという感覚はないですし、社内でもそこが議論になることはないですね。

西脇様:全く同様です。私の場合、生成AIを活用することで自分の思考が長期的になりました。短期的な目標の達成はほとんど生成AIでできる。それを使ってどうしていくか、次へ次へともっと先を考えるようになる。長期的なことを考えるのが経営で、それを細分化して考えるのが担当者であり、AIであるという考え方に変わってきていると考えます。

Microsoft 365 Copilot ができること

小泉様:先ほど成田様も言及されていた Microsoft 365 Copilot で何ができるのでしょうか。

西脇様:皆さんは、よくお使いの Word、Excel、PowerPoint、Outlook の機能をどのくらいご存知でしょうか。一般的には30%程度と言われています。つまり、ほとんどの機能は知られていないし使われていない。しかし Copilot を使えば、ソフトウエアの使い方を知らなくても目的が達成できるのです。

Microsoft 365 でも使える生成AI「Copilot」

たとえば、以下に Excel で作成した「提案中の案件一覧」があります。これを担当営業ごとにソートしてランキングを出しグラフにしたいという場合、Copilot のボタンを押してその指示を入力すると、グラフの作り方を知らなくても一瞬でグラフを作成してくれます。

Copilotのデモ-Excel
Copilotのデモ-Excel2

PowerPoint でも同様に、Copilot のボタンを押して「海外からの観光客向けに英語で、高齢の方が楽しめる三重県の観光地を紹介するプレゼンテーションを作成したい」と指示を書けば瞬時に数ページのスライドを作ることができます。素材探しや翻訳やレイアウトも勝手に Copilot がしてくれる。

Copilotのデモ-PowerPoint

これまでは、別の担当者にばらばらに依頼していた作業を、Copilot に自然言語で指示をするだけで、すべて実現してくれる。こうなると働き方が変わりますよね。

生成AI(Copilot)がすべての入口になる

成田様:確かに NISSIN AI-chat を開かなくても Excel や Word、PowerPoint に直接指示を出すことができれば生産性はぐっと上がるのではととても期待しています。

小泉様:本来の目的は、「生成AIを使うこと」ではなく、業務を効率化することですからね。そういう意味では、普段からなじみのあるツールが賢くなってくれるのは良いことですね。

ChatGPT の進化の先は

小泉様:ChatGPT-4 が、5、6へと進化したらどんな変化があるのでしょうか。

西脇様:現時点では ChatGPT は、出力はマルチモーダルですが入力はテキストのみです。これが入力も画像などをどんどん使うことができるマルチモーダルになっていくでしょう。また、現在の生成AIはリアクティブ(受動的)、つまり指示を出せば動いてくれますが、今後は、プロアクティブ(能動的)に実行されるようになるでしょう。たとえば会議が終わったら、「西脇さん、これをやったほうがいいですよ」と生成AIから言われるようになる。

小泉様:では上司は生成AIですね(笑)

西脇様:怖い世界ですよね。でも、指示をされてもそれをするかどうかは人間が判断することですから、ディストピアみたいなことにはならない。

成田様:私もディストピア的な未来にはならないと思っています。いかに活用するかによって私たちの仕事や生活がより便利に、より幸せになるのではと楽天的に考えています。

西脇様:生成AIの活用は、時代の要請であり避けられません。私の好きな言葉に「AIに仕事が奪われるのではない、AIを使いこなしている人に仕事が奪われるのである」(日本マイクロソフト株式会社 Cloud Senior Solution Architect 畠山大有氏)があります。ぜひみなさんには使いこなす側に回っていただきたいですね。

小泉様:今回お二人の話を聞いて、かなり生成AIや Copilot の理解が進みました。これから導入しようという企業様には、壁はあると思いますが、1年前に比べたらずいぶん事例も増え、活用方法も見えてきていますので、ぜひ今日の話を参考にして自分たちの業務に役立ていただければと思います。今日はありがとうございました。

▼Copilot for Microsoft 365 の特徴や魅力を紹介するセミナー動画もご覧ください
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