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【UCHIDA ビジネスITフェア 2025】 デジタルインボイスを考える 〜Hear voice from users〜

2025/12/4 [会計,経営,セミナーレポート]

デジタル庁がデジタルインボイスのイニシアティブを主導して4年が経過し、ようやくユーザーの「声」が聞こえてくるようになりました。デジタル庁発足当初よりJapan Peppol Authorityの責任者としてPeppolに関わる加藤博之氏をお招きし、ユーザーの様々な「声」を皆様と共有して、「デジタルインボイス」がもたらすものについて考えます。

デジタル庁
国民向けサービスグループ 企画官
加藤 博之 氏

※本稿は、2025年秋に開催された「UCHIDAビジネスITフェア2025」の講演内容を元に作成しています。意見等は講演者の個人的な見解です。

デジタルインボイスとは何か?

まず、「デジタルインボイス」という言葉は、グローバルでは通用しません。グローバルでは「e-invoice(イー・インボイス)」がこのデジタルインボイスと同義だと考えてください。ただ、日本ではこのe-invoiceは「電子インボイス」と言われますが、その「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は全く別物ということになります。「デジタルインボイス」がどういうものなのか。次のように考えることになります。

【デジタルインボイス】

端的に言えば、デジタルインボイスとは「請求情報(請求にかかる情報)を、売り手のシステムから、買い手のシステムに対し、人を介することなく、直接データ連携し、自動処理される仕組み」です。要すれば、システムによる処理を前提とした標準化・構造化された請求データということです。

デジタルインボイスとは?

標準化・構造化されたデータであるということはどういうことか。その処理が「人(ヒト)」ではなく「システム(マシン)」が行うということです。つまり、デジタルインボイスは、人(ヒト)が処理することを前提にしていません。故に、人(ヒト)が処理することを前提としている画像データはデジタルインボイスではないということです。

そのうえで、時折、例えば「紙の請求書を読み取りAI処理する」といったことを「デジタルインボイス」と誤解している方もいるようです。それは「デジタルインボイス」の処理ではありません。デジタルインボイスは、構造化されたデータですので、そもそも「読み取る」といったようなマニュアル作業は要しません。

請求情報を自動処理することの恩恵

デジタルインボイスを活用した自動処理の恩恵は、「買い手」における請求処理業務の効率化にとどまりません。「売り手」にとっても、請求業務はもちろんのこと、入金消込の自動化など入金確認等の業務の効率化も期待できます。

幸い、日本は、「売り手」がデジタルインボイスの恩恵を受けるためのインフラは整っています。世界では、デジタルインボイスは、請求業務や請求処理業務の効率化に資するものとしての打ち出しが強く、その観点から日本の状況はアドバンテージがあるとも言えます。

ただ、それは実際にそのインフラが利用されていればの話です。実際、その利用は低調です。そこには様々な要因があると言われていますが、事業者の決済システムと金融機関のシステムの間での連携に想像以上に大きな分断があることが主因だと思っています。その分断が解消されれば、決済・支払業務も含め、事業者のバックオフィス業務の劇的な効率化が進むはずなのですが、事業者、金融機関のいずれにおいてもそこにモチベーションを感じていないようであり、動きが鈍い感じがします。

デジタルインボイスを活用した「自動処理」とは?

デジタルインボイスを「自分ごと」化する(デジタル庁編)

デジタル庁は、皆さんに「デジタルインボイスを使いましょう」とお願いしています。その際、「デジタル庁はデジタルインボイスを利用しているのか」という問いかけを受けてきました。もちろん、その答えは「YES」です。ようやく、胸を張ってそう答えられるようになってきました。デジタル庁においては、自らの調達に係る請求について、調達先の事業者の方に依頼し、デジタルインボイスでの請求に切り替えていってもらっています。

デジタル庁の場合、消費税のインボイス制度が始まったタイミングで、デジタルインボイスを受領し、自動処理するためのシステム(GEPS)の準備はできていました。ただ、システムの準備ができていても、その利用が低調であっては意味がありません。そこで、自らの調達先の事業者の方に対し「請求はデジタルインボイスでお願いします」といった「声かけ」を始めました。すると、ほぼすべての事業者の方から快諾いただけました。「声かけ」を行い、利用のきっかけを作るだけで状況は大きく変わるものだと、実感しました。

では、デジタルインボイスで請求を受けることでデジタル庁にどのようなメリットがあるのか。具体的には、請求処理業務に要する時間を圧倒的に減らすことができます。紙の請求書を受領した場合、担当者はその内容をシステムに入力する必要があります。しかしながら、デジタルインボイスの場合、その必要はありません。システムで自動処理(内容の確認)が行われ、担当者はその結果の「確認」を行うだけになります。シンプルに申し上げれば、「確認ボタンを押す」だけの作業になります。

それ自体は小さな変化ですが、担当者からは「ちょっと感動した」との感想が聞かれました。ただ、半年が経過した今、「特に何もない」という反応に変わっています。「感動」の賞味期限は意外に短かったですが、逆に言えば、それこそが「定着」の証なのだと思っています。

そのうえで、「すべてがデジタルインボイスに変わってくれればよいのに」といった反応もありました。その担当者の実情としては、デジタルインボイスの確認作業はそれほど多いわけではありません。それにも関わらず、そのような反応になるということは、まさに、マインドチェンジが起きているのかもしれません。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とはこういうことか、思ったりもしました。

「とりあえずやってみよう」という"ノリ"でチャレンジ

デジタル庁のウェブサイトでは、事業者がデジタルインボイスを「自分ごと」化して取り組んだ例を紹介しています。

デジタル庁としては、まず、Peppolに対応したサービス・プロダクトを提供しているサービスプロバイダーにデジタルインボイスの利用を求めています。例えば「自社のサービス利用に係る請求をデジタルインボイスで行ってください」といったような足下からの取り組みの推奨です。そのうえで、そのアクションがきっかけになり、サービス利用者(事業者)が自らの企業間取引においてもデジタルインボイスの利用を進めていく(デジタルインボイスで請求を行う)動きがあればと強く期待しています。実際、そのような取組に着手している税理士事務所もあります。

また、税理士事務所では、例えば「クライアントの求め」に応じ、デジタルインボイスでの請求に切り替えるといった事例もあります。とりわけ、ウェブサイトでは、新たに設立された法人からデジタルインボイスでの請求を求められ、それに対応しようとする税理士事務所の事例を掲載しています。

なお、デジタルインボイスは大企業だけがやるものではありません。「中堅企業や中小企業には関係ない」と勘違いしている人もいますが、それは違います。むしろ逆です。身動きをとりやすい中小・中堅企業の方のほうが「とりあえずやってみよう」と取り組みやすいのも事実です。そして、実際にやってみて得られる「ちょっとした感動」も中小・中堅企業の方の方が実感しやすいかもしれません。

大事なのは「できるところからやってみよう」「せっかくなのでここだけやってみよう」という"ノリ"です。とりあえずやってみて、「ちょっとした感動」を積み重ねる。すると、いつの間にかDXの「X」(Transformation:変革)が進んでいきます。

世界でのデジタルインボイスの現在地

少し視点を変え、世界の動きを確認したいと思います。世界は、確実にデジタルインボイス(e-invoice)が進んでいますが、その進み方は日本とはやや異なります。

時折、「世界ではe-invoiceが義務化されている」といった話を見聞きしますが、それらの多くは正確ではありません。「何を義務化しているのか」、その点が明確に区分されていないことが多いからです。

実際、世界のe-invoiceの義務化の潮流は、売り手と買い手の間での請求のやり取りのe-invoiceへの切り替えではなく、そのデータ(TDD、Tax Data Document)の税務当局への提供の義務化です。要すれば、売り手と買い手の間での請求のやり取りはPDFや紙で行われつつも、その内容は(標準化・構造化された)データで税務当局のシステムへ提出してくださいといった話です。その一例はマレーシアです。

一方、マレーシアの隣国のシンガポールでは、売り手と買い手の間でやり取りされるものをTDDとして提供することを求めています。要すれば、TDDにだけ個別に対応するということが非効率であることから、売り手と買い手の間での請求のe-invoiceへの切り替えが「事実上の義務」となっています。

そう遠くない将来、デジタルインボイスへの対応を求められる

さらに、e-invoiceを先導するヨーロッパではどうか。2035年までに段階的な義務化が実現されます。そして、その義務化には、TDDの提供のみならず、売り手と買い手の間でのe-invoiceでのやり取りの義務化も含まれています。

2025年下半期、ヨーロッパでもっともホットな国はベルギーです。2026年1月、ベルギーでは売り手と買い手の間の請求をe-invoiceで行うことが義務化されます。ベルギーには、欧州拠点を置く日本企業も多く、その方々にお話しを伺うと「今、まさに対応を進めているところ」とのことでした。そして、同時に「日本の本社に相談しているが温度感が低い」といった悩みも吐露されていました。最近になり、ようやく私のところにも「海外でe-invoiceの義務化が始まっているようであるがどう対応したらよいのか」といった問い合わせが増えてきました。そのような状況を勘案すれば、日本の本社の「温度」も少しずつですが上昇していると思っています。

e-invoice(デジタルインボイス)は今、世界的な規模で確実に動いています。それは、私たち行政の人間よりも実際にビジネスをされている皆様の方がひしひしと感じていらっしゃると思います。ぜひ、皆様には、日本のことだけを見るのではなく、世界の動きを頭の中に入れておきながら、デジタルインボイスの対応を進めていただければと思います。

なお、その前提は、皆様が利用しているシステム・サービスがきちんとデジタルインボイスに対応できるものであることです。内田洋行さんが提供する販売管理・債権/債務管理システムである「スーパーカクテルCore」は、今まさに、皆様に最適なシステム・サービスを提供することができるよう、皆様の「声」を取り入れつつ鋭意検討している最中だと伺っております。内田洋行さんが、然るべきタイミングで、過度な負担なく、デジタルインボイスの利用することができる理想的なシステム・サービスを皆様に提供されることを私自身も強く期待するところです。

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