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【戦略を動かす原価管理再構築】 第2回:戦略と原価管理のギャップ
〜ギャップの出やすい7つのパターン〜

2025/12/19 [化学,食品,会計,コラム]

本連載「戦略を動かす原価管理再構築」では、全6回を通じて“戦略と数字のズレ”を解き明かし、さらに、そのズレをどのように修正し、戦略を実行に結びつける原価管理へと変えていくかを考えます。

株式会社日本能率協会コンサルティング
経営コンサルティング事業本部 チーフ・コンサルタント
近藤 駿 氏

事業会社にて経営企画業務に携わり、JMAC入社。これまでのコンサルティング領域は、中期のビジョン策定・経営計画策定支援と管理会計システム再構築である。経営計画策定支援にて業務改善が重点課題となる場合等、具体的な改善案の検討および改善施策の実行も含めた支援実績多数。

前回は、戦略が実行されない本当の理由は“社員の意識”ではなく、原価の見方が戦略とずれていることだとお伝えしました。

では、そのズレは実際にどこで起こっているのでしょうか。
化学メーカー・食品メーカーで多く見られるのが、「戦略変更の方向性」と「原価管理の構造」が合わなくなることで生じる7つのギャップです。

このギャップが、現場の行動を“戦略とは逆方向”へと導いてしまいます。

①セグメントの粗さが、戦略の焦点をぼかす

戦略上「どの事業を伸ばすか」を明確にしても、原価管理のセグメント(区分)が粗いままでは、戦略上重要な領域の収益性が埋もれてしまいます。

食品メーカーでは、プレミアム商品群とNB(量販向け汎用品)を同じカテゴリで原価管理をしているケースが典型です。 こだわり素材を使うプレミアム品は原価率が高く見え、実際にはブランド価値が高いのに“採算が悪い”と誤解されがちです。

化学メーカーでも、機能材分野が量産品に埋もれ、それぞれの収益性の違いが見えにくくなることで戦略の焦点がぼけます。

戦略が示す「伸ばすべき領域」が数字では見えない──これが最初のギャップです

②新事業・新素材を既存体系に押し込めてしまう

新素材、新用途、新チャネルなど、新事業は初期投資が多く発生します。
しかし、原価体系が量産品前提のままだと、立ち上げ期の費用がすべて“赤字”に見えてしまいます。

化学メーカーでは、試作ラインのコストが量産ラインに混在し、食品メーカーでは、新商品開発のチャネル開拓費が既存商品の採算を悪化させていきます。

すると経営は「やっぱり採算が悪い」と判断し、成長事業を縮小してしまいます。

つまり、新事業が既存の“効率基準”で裁かれる──これが2つ目のギャップです

③顧客・用途別の見方ができず、価値創造の源泉が見えない

戦略が「用途開発」「顧客別価値」を求めても、原価管理が製品別のままだと、その用途の違い・顧客の違いによる付加価値の差が見えません。

化学メーカーでは、同じグレードでも自動車用途と電子材料用途では要求特性も付加価値も大きく異なります。
しかし、用途別の利益が見えないと、営業は“売上の大きい用途”を優先し、高収益のニッチ用途が育ちません。

食品メーカーでも、健康志向商品と汎用商品の付加価値の差が数字で見えず、市場成長より“効率の良い従来品”へ向かう行動を誘発します。

3つ目のギャップは、収益力が高く重点化すべき顧客・用途セグメントが見えないことです

④「製造時点」だけで原価を見ており、前後工程の戦略コストが見えない

いま原価は製造現場だけでは完結しません。
開発、試作、品質保証、環境対応など、製造の前後で発生する“戦略的コスト”が増えているからです。

化学メーカーでは、分析・試作・認証対応が、食品メーカーでは、検査・切替ロス・包装変更対応が増えています。

しかし、従来の原価体系ではこれらが販管費に埋もれ、製品別・用途別に見えません。

戦略に必要なコストが“見えない負担”となり、新しい挑戦が萎縮する
これが4つ目のギャップです。

⑤付加価値の源泉が変わったのに、費目が追随しない

価値源泉が「材料×労務」から「設計・品質・用途開発」などへ広がっているにもかかわらず、費目が昔のままでは、その価値を数字で捉えることができません。

化学では用途開発や品質安定化、食品では包装設計や品質保証など、戦略上重要な活動にかかる費用は増えますが、実務ではこれらが製造経費や販管費に一括で計上され、どの製品・用途の価値に紐づく費用なのかが分からない状態になりがちです。

結果として、本来であれば売上や粗利と結びつけて「価値に見合った投資かどうか」を評価すべきところが、評価そのものができず、“ただのコスト増”として扱われてしまうのです。

価値の源泉を測る仕組みが古い──これが5つ目のズレです

⑥管理単位が粗く、現場の努力が数字に表れない

戦略が多様化や小ロット対応を求めても、原価管理が「製品別・月次平均」のままでは、現場の改善努力が数字に反映されないことが多くなります。

本来、指図書別に歩留まり差異を算出することは可能ですが、標準歩留まりが“製品単位で1つ”しかない場合、PBとNB、用途別仕様など、本来歩留まり特性が異なるものがすべて同じ基準で評価されてしまいます。

さらに、差異を製品別・顧客別損益に展開する仕組みがない企業も多く、現場が改善しても“経営の数字”に反映されない構造が残りがちです。

その結果、現場は「やっても報われない」と感じ、戦略的な取り組みより“従来の効率維持”へ回帰してしまう。

行動原理が戦略とズレる瞬間です(6つ目のギャップ)

⑦部門責任範囲を広げたのに、原価情報が粗いまま

組織として、事業単位や顧客単位での利益責任を求めるようになっても、原価情報が粗いままでは判断できません。

「事業として判断せよ」と言われても、共通費が大量に配賦され、損益の実像がつかめません。

「顧客別で判断せよ」と言われても、原価が製品別にしか見えないのです。

こうして、責任範囲だけ広がり、情報はついてこない、これが責任と数字の粗さのミスマッチが最後のギャップです。

ギャップの本質は「戦略の言葉が数字に翻訳されていない」こと

7つのギャップに共通するのは、戦略の変化に対して、原価管理の設計が追随していないということです。

戦略上の価値基準を変えても、原価の見方・評価指標・管理単位が過去のままなら、現場はどうしても“昔の合理性”で動いてしまいます。

次回(第3回)は、この“ギャップを直そうとすると必ず現れる”原価管理再構築の5つの壁を解説します。

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