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【化学品・化粧品ITフェア2026】 「自社流マネジメントエクセレンスの追求」データ利活用の考え方と進め方

2025/6/11 [化学,経営,セミナーレポート]

ビッグデータとAIによるデータドリブン経営の実現。これは意思決定の迅速化という大きな「功」をもたらします。一方でデジタル技術がどれほど進化し、生成AIが日常のツールとなっても、それを受け入れる組織、現場のオペレーション、そして価値創出のプロセスそのものが「変革(X)」されなければ、真の成果を得ることはできません。賢いデータ利活用の在り方を提起し自社流マネジメントエクセレンスの追求を考えましょう。

株式会社日本能率協会コンサルティング
dXコンサルティング事業本部 本部長/プリンシパル・コンサルタント
毛利 大 氏

※2026年4月収録のセミナーを講演録として掲載しております。

JMACが考えるDXとは

1)会社概要

まず簡単に自己紹介します。私は株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)dX事業本部の毛利です。本日は「自社流マネジメントエクセレンスの追求―データ利活用の考え方と進め方」についてお話しします。JMACは日本能率協会グループのコンサルティング会社で、製造業を中心に支援してきました。現在は約200名のコンサルタントが在籍しています。私はサプライチェーン改革や新工場構築などに携わり、その流れでスマートファクトリー領域も見てきました。

2)DXにおける「X」の重要性

当社は、特定のシステムやロボットといったソリューションを持たない分、まず企業としてのグランドデザイン(全体構想)を描くところから支援します。DXで本当に重要なのはデジタル(D)よりトランスフォーメーション(X)です(当社では敢えて「DX」ではなく「dX」と表記しています)。何をどう変えたいのかを先に決めて、業務改革とデジタル活用をセットで進める。ここが価値創出の肝になります。

3)DXの3階層構造

企業のDXは、大きく次の3階層で整理できます。
(1)課題解決領域:部門内の課題をデジタルで改善(スモール&クイック)
(2)最適化領域:部門横断で事業全体を最適化(利害対立を越えて最適点を探る)
(3)価値創出領域:製品・サービスの価値そのものをデータで高める

(1)は部門内の目の前の課題を、デジタルで改善していく取り組みです。(2)は部門横断で事業目線に立ち、営業と製造などの利害のぶつかりを整理しながら、全体としての最適解を見つけていく領域です。(3)は製品にデジタル要素を組み込み、得られたデータをアフターサービスや顧客接点の改善に活かして価値を高めていく取り組みです。今回は特に、成果に直結しやすい「最適化領域」に焦点を当てます。

4)スマートファクトリーの本質

スマートファクトリーは、販売計画から生産・進捗管理までをデータでつなぎ、最適に制御する考え方です。多くの会社ではSFA、ERP、PLM、MESなどのシステムを入れていても、全体としては分断されがちです。これらを連携させ、納期・品質・原価を統合的に見ていくことが重要になります。そして一番大事なのは「DXで何を実現したいか」という目的です。目的に合わせて、どの領域をどこまでつなぐかを設計します。

ものづくりDXの根幹は生産システムのリデザイン

1)DXの起点は目的から

DXでよくある失敗が、ツール起点です。『DXを進めろ』と言われて展示会に行き、ツールから入って『何かできないか』を探す。これは当社では「可能性発掘型アプローチ」と呼んでいますが、結局行き詰まりやすい。
重要なのは、「何を実現したいのか」→「そのために何が必要か」の順番です。もちろん、世の中のツールにアンテナを張るのは大事です。ただし「自分たちは何を実現したいか」という普遍テーマとセットで考えないと前に進みません。以下は、追求すべき普遍的なテーマから発想する視点です。

この図では、生産機能(工場)を中心においていますが、工場のスマート化を考えるときに、工場単体で考えるのではなく、営業・開発・調達まで含めた全体最適で考えることが不可欠です。

2)3つの軸で考える

例えば、生産システムを高度化するためには、物理的な工程設計(フィジカルエクセレンス)、DXによる革新的業務設計(オペレーショナルエクセレンス)、フィジカルとオペレーショナルを常に高度化させるための管理基盤(マネジメントエクセレンス)の3つの軸で考えることが大事だとJMACでは考えています。

この3軸で自社の強み・弱みを見極めることが、DXの出発点になります。

3)各事業の生産システムは、需給特性―工程特性により異なる

生産システムを例にとると、会社や事業によって前提がまったく違います。例えば、原薬・製剤のような見込み型で設備集約の事業では、操業効率や切替時間短縮が重要になります。一方、個別受注で労働集約の事業では、毎回違うものづくりを現場に正確に伝え、ロスなく作業につなげる仕組みが要になります。この違いは、工程特性×需給特性の2軸で整理できます。自社はどの類型かを押さえると、DXで狙う課題がはっきりして改善がシャープになります。

4)マネジメントエクセレンスの落とし穴

フィジカル(設備)、オペレーション(業務・IT)、マネジメント(データ活用)の3つの中で、取り組みやすいのはマネジメントエクセレンスです。既存の設備や仕組みを大きく変えず、データの取り方・使い方を工夫して進められるからです。例えば、コストやKPIの見える化、データに基づく意思決定、PDCAの高速化でパフォーマンス向上を狙います。ただし落とし穴もあります。見える化しても、現場が使いこなせないと「きれいなグラフができただけ」で終わります。だからこそ「何を実現するためにデータを使うのか」を明確にして、意思決定と行動の変化につなげる必要があります。

マネジメントエクセレンスがもたらす変革

1)人と組織の役割が変わる

マネジメントエクセレンスは、単に生産性を上げるだけでなく、現場の人や組織の役割そのものを変えていきます。例えば、こんなふうに役割がシフトします。

  • オペレーター:作業中心 → データを見て改善を考える
  • 現場責任者:リアルタイムデータでその場判断・改善
  • 部課長:共通KPIで全体最適のPDCAを高速化
  • 工場長:サプライチェーンと連動し工場のあり方を見直す

要するに、「作業中心」から「判断・改善中心」へ寄っていく、ということですね。

2)意思決定の“データのズレ”がなくなる

これまで経営・工場・各部門・現場が、それぞれ別のデータを見て判断していた、という状態がありました。マネジメントエクセレンスではデータを一気通貫でつなぎ、同じ前提で議論できるようにします。すると「どの数字が正しいか」を揉める時間が減り、意思決定のスピードと質が上がります。

3)工場の枠を超えた“ワンファクトリー化”

複数の工場がある場合でも、データでつながることで、あたかも一つの工場のように運営できるようになります。

4)“2種類のPDCA”が同時に回る

データ活用が進むと、PDCAの回し方が変わります。従来の「計画型PDCA」に加えて、問題を見つけたらすぐ対処して効果を確認する「問題解決型PDCA」も同時に回るようになり、改善のスピードと精度が上がります

5)PDCAが“リアルタイム化”する

デジタル化によってPDCAの時間軸は、月次→日次→リアルタイムへと一気に短縮されます。「ためて後で分析」から「検知した瞬間に判断して制御」へ変わり、改善が日常業務に組み込まれていきます

AI readyの状態をどう構築していくか

1)データ利活用の功罪

ビッグデータやAIでデータドリブン経営を実現するのは、多くの企業が目指すべきムーンショットだと思います。ただ、進め方を間違えると負の遺産になります。出口戦略がないままデータを溜め続けると、デジタル上の「産業廃棄物」が増えていく、というリスクも見ておく必要があります。

2)データ管理コストの膨張と将来予測

データ管理コストは、今どのような状況にあるのでしょうか。
データ管理コストは増え続けています。2005年頃はIT予算の10〜15%程度と言われていましたが、2025年時点では実質で大きく増加しています。背景にはデータ量増だけでなく、「何がどこにあるかわからない」ことで探索コストが増え、インフラや人件費が膨らむ問題があります。将来、データ維持だけでIT予算の大半を食うリスクもあります。

3)データの産業廃棄物化を阻止するマネジメント

データを産業廃棄物化させないためにどうしたらいいのか。
対策としては、まず死蔵データを特定し、例えば「1年以上使っていないものは計画的に廃棄する」といったルールが必要です。あわせて、発生から廃棄までのライフサイクル管理を決めて、ストレージを無駄なく保ちます。もう一つ大事なのは「何を変革したいのか」を起点にデータを集めることです。目的から逆算して、必要最小限を蓄積する発想に切り替えていきます。

4)現状の診断

データ基盤が「メタボ」か「筋肉質」かは、思考の起点、保管方針、コスト構造、環境負荷の4視点で診断してみてください。そこからDXの方向性のヒントが見えてきます。

DX成功の3つの心構え

最後に、変革期に押さえたいポイントを3つお伝えします。

1)dよりXを語る

ツールではなく業務変革を起点に考えることです。会議で「どのツールを入れるか」の話になったら、「それで誰のどの業務がどう変わるの?」という問いに置き換えてみてください。

2)データは鮮度を重視

過去の膨大なデータよりも、今この瞬間の現場の事実を捉える「生きたデータ」に投資する、という発想が大事です。

3)許容する文化

失敗を許容し、学習を加速する文化が重要です。正解が見えないなら、プロトタイプを早く回して、データから学んで次に活かす。この回転数を上げていきましょう。デジタル以前に、トランスフォーメーションにとことんこだわってください。

業務改革とデジタル活用をセットで、ストーリー性を持って価値につなげていく。そんな進め方を意識していただければと思います。ご清聴ありがとうございました。

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