HOME > 情報システム分野 > IT レポート > 第1部:令和3年度 障害福祉サービス等報酬改定の全体像について

【UCHIDA ビジネスITオンラインセミナー 福祉版】 第1部:令和3年度 障害福祉サービス等報酬改定の全体像について

2021/11/5 [福祉,セミナーレポート]

本記事は「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定について(厚生労働省)」に関するオンラインセミナーの講演録(全3部)です。第1部は、令和3年度障害福祉サービス等(障害者福祉サービス・障害児入通所支援)報酬改定について、改定のねらいや全体像を解説いたします。

一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会
常務理事兼事務局長 又村 あおい 氏

前職は神奈川県平塚市役所福祉部勤務。障害児福祉制度全般や、権利擁護施策、障害児者支援を通じた地域づくりなどが主な活動分野。主な著書に『あたらしいほうりつの本』(全国手をつなぐ育成会連合会発行)など。

令和3年度障害福祉サービス等報酬改定議論の概括

0.56%の微増

令和2年12月11日までに、障害福祉サービス等報酬改定検討チームによって23回にわたって議論が行われ、「報酬改定の基本的な方向性」が出されました。報酬全体としては、0.56%プラスという結果になりました。

プラス0.56%とは金額にしてどのくらいなのでしょうか。国と市区町村の予算を合わせて約170億円です。そのうち、通年ベース0.1%は、今年(2021年)9月までの臨時措置です。これはコロナ禍において、消毒液やマスクなど普段なら必要のない備品等を購入する際に利用していただくものです。9月を過ぎると打ち切られる可能性がありますので、ご注意ください。

0.56%プラスは、微増ではありますが、「全体的に少しだけ上乗せされる」のではなく、政策的に重点をおきたい分野には手厚く、そうではないところには薄く、あるいは経営実態調査の結果などをふまえて、メリハリのある適用がなされます。

待っていても情報は来ない。自ら積極的に収集する姿勢で

報酬改定については、例年であれば、「全国障害保健福祉主管課長会議」を開催しその場で報告されるのですが、今回は新型コロナウイルス対策のため、書類が公開されるのみにとどまりました。

このため、都道府県、市区町村ごとに、報酬改定の理解度のばらつきが生じると考えられます。報酬改定にあまり関心が高くない自治体においては、待っていても情報を出してもらえない可能性もあります。ですから、各事業所が、自ら積極的に情報収集を行っていく必要があります。改定に向けて事前の準備や体制づくりが必要な項目もあります。積極的に情報収集を行った事業所とそうでない事業所では大きな差が出てくるかもしれません。

令和3年度報酬改定における主要事項

今回の改定の、主要項目は以下の6点です。

スライド資料:令和3年度報酬改定における主要事項

1、2、3の項目については、第2部および第3部のセミナーで詳しく説明します。

今回説明するのは、
4.精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進
5.感染症や災害への対応力の強化等
6.障害福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行うための報酬等の見直し
です。6の中には、報酬の見直しだけでなく、「ICTの活用」など、報酬以外の要素も含まれています。

(1)感染症や災害への対応力の強化等

まず、「5.感染症や災害への対応力の強化等」からお話しします。
これに関しては、報酬そのものというよりは、事業所の運営基準や新型コロナ特例の要件緩和などが中心です。

新型コロナを含む感染症対策については、以下の3つの項目があります。

① 感染対策に関する委員会の設置、指針の策定、業務継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定と、事前の訓練が義務付けられる

ただし3年間の経過措置があり、実質的には平成6年の4月から義務になります。そのときまでに、委員会ができていない、指針ができていない、BCPができていないとなると、法が定める事業所の運営基準を満たせないことになり、事業の継続ができなくなります。
あるいは、指導監査の際に、できていないと指摘事項となります。そのようなことにならないよう、早めに動いたほうがいいでしょう。

② 新型コロナ対応で各種経費の「かかり増し」があることをふまえ、2021年9月まで全サービスにおいて基本報酬に1単位の上乗せがある

前述のように、コロナ禍以前には購入することのなかった防護服や消毒液、マスク等の経費に充てる費用が基本報酬に上乗せされるということです。現時点では、9月までとされていますが、コロナの感染状況によって延長される可能性もあります。

(2)制度の持続性を高めるICT活用

ICTについては、たとえば、訪問系サービスの「特定事業所加算」における「会議の定期的開催」や、計画相談サービス担当者会議の実施加算などについて、テレビ会議でもかまわないと認められました。

ただし、「個別援助としては面談等を行う」タイプのものは、引き続き対面が基本となります。「関係者が集まって会議を開催する」「支援職員が医療職からの指導を受ける」タイプのものはテレビ会議でOKと、切り分けられています。具体的には、以下の表を参照してください。

報酬全体に関わる改定の方向性

(1)地域生活支援拠点の整備

スライド資料:地域生活支援拠点の整備

1項の「地域生活支援拠点の整備」とは、障害児者の生活を地域全体で支えるサービス提供体制を構築することです。しかし、地域生活支援拠点の整備に対する補助金は存在しません。では、どうするか。各市区町村にもともとあるサービスを利用する、あるいはもともとある施設を指名するしかありません。ここで、今回の報酬改定で設定された新たな加算をいかに獲得するかがポイントになります。

今回の改定で、緊急対応の評価に、新たな加算がたくさんできました。また、自立生活援助・地域定着相談の緊急時支援に50単位が加算されます。短期入所の利用初日には緊急時か否かにかかわらず100単位が加算されます。

ただし、重要なポイントがあります。それは、拠点の指定を受けているかどうかです。加算を受けるには、「拠点の指定」を受けていることが条件なのです。

さて、みなさんの事業所はどうでしょうか。市区町村から、あなたの事業所は拠点の指定を受けていますよという書類を受け取ったことはありますか? おそらくないのではないでしょうか。私もそのような書類は見たことがありません。では、どうやって拠点施設だということを証明すればいいのでしょうか。「自分の市区町村の拠点指定はどうなっているのか」「指定を受けていることを証明するにはどうすればいいのか」を、ぜひ地区町村に確認してください。でなければ、加算は受け取れません。この報酬改定は絵に描いた餅になってしまいます。

(2)精神障害にも対応した地域包括ケアシステム

精神障害対応の地域包括ケアは、市区町村がやることまでは決まっています。しかし、地域生活支援拠点と同様、精神対応包括ケアの構築に特化した補助金は存在せず、各サービスの加算等を活用することが前提です。一方、地域生活支援拠点と異なり、「市区町村による指定」という概念がないため、加算の条件に該当しさえすれば、精神対応包括ケアに対応していなくても、加算は算定可能です。

具体的には、以下のような加算があります。

スライド資料:精神障害にも対応した地域包括ケアシステム-1

たとえば3項の「自立生活援助で緊急時支援」をした場合、22時から6時の間に緊急出動したらプラス711単位、電話対応をした場合はプラス94単位の加算になります。

4項の「地域移行相談」で3人以上移行実績があった場合、基本報酬が35,000円ほどになります。この3人というのは、精神障害でなければならないとは書かれていません。知的障害でも身体障害でも、対象になります。

スライド資料:精神障害にも対応した地域包括ケアシステム-2

5、6項は、精神科病院が対象ですので皆さんには関係がありませんが、注目したいのは、7、8項です。

7項は、自立生活支援所や地域移行/定着相談の際に、居住支援法人や居住支援協議会と連携することで、体制加算がつきます。居住支援法人・居住支援協議会は、国土交通省が所管していて、都道府県や政令指定都市に整備されています。中核市以下はほぼ整備されていません。ですからまずは都道府県の居住支援法人・居住支援協議会にあたって連携をしてください。連携をするだけで実際に居住支援法人に関わりがあってもなくても、全ての地域移行・定着相談、自立生活援助の利用者全員に35単位の加算が取れます。この加算をとれるかどうかは大きいです。

さらに、8項の「居住支援法人と協働して、自立支援協議会で居住支援」に関する課題報告を評価すると500単位の加算があります。

(3)ピアサポートの専門性の評価

今回、相談支援系のサービス、自立支援援助、そして就労継続B型にもピアサポートの援助がつきました。このインパクトは大きいです。

以下を見てください。

スライド資料:ピアサポートの専門性の評価

相談支援事業全般、自立支援援助で、ピアサポーターが支援にあたることで全ての利用者に月1,000円の加算がつきます。就労継続B型に関しては、ピアサポーターが配置されて利用者ごと個別サポートを実施すると、月1,000円加算されます。体制加算ではありませんが、実質体制加算です。なぜなら、たとえば利用者が30人いて、ピアサポーターが週3日くるとして、1カ月で12日間。この間、30人の利用者に対して、ピアサポーターが何も関わりませんでしたということはありえませんから、30人全部の加算が取れます。だから実質体制加算なのです。ただし月1,000円ですので、30人で3万円です。

これに比べて、相談支援や自立生活支援で、ひと月にピアサポーターが一人いて全体で100件のサービス等利用計画やモニタンリングを実施したら、全部に1,000円加算ですから100件×1,000円で10万円になります。このインパクトは大きいです。この加算はぜひ活用しましょう。

基本的に、ピアサポーターは養成研修を受けなければなりませんが、今のところきちんと研修をやっているところはなく、自治体が認める研修であればOKとなっています。どの研修なら認められるか、近々発表されると思いますので、その情報にはアンテナを張っておいてください。

ピアサポートの定義は、「障害者または『障害者であった者』として自治体が認めた者が、自らの経験を活かして他の障害者への支援活動や相談援助などを行うこと」となっています。加算を算定するためには、原則として、障害者と事業所管理者などが両方とも国の定めたカリキュラムによるピアサポート研修を修了することが条件となっています。しかし、令和6年3月までは、障害者のみ研修でも加算対象となります。

(4)医療連携体制加算の大幅な見直し

従来は、看護職員がいれば4時間単位で一律加算でしたが、改定によって、1時間単位で医療的ケアの有無で報酬を細かく分けることになりました。

たとえば、短期入所の場合、1名対応なら、4時間以内で600単位だったものが、医療的ケアなしで1時間未満だと32単位になります。その代わり、医療的ケアがあって、一定時間看護職員が必要なら最大20,000円まで出す、つまり今までよりむしろ多くなります。

以下は、加算の一覧表です。

(5)障害者虐待防止・身体拘束の廃止

障害者虐待防止については、来年度(令和4年度)から虐待防止の委員会の設置や、責任者の配置、職員研修が義務化されます。

令和5年度からは、身体拘束廃止に向けた取組、すなわち委員会設置、指針の作成、職員への周知も義務化されます。しかし、小規模な事業所で、2つも委員会を作るのは不可能ですから、2つの委員会を兼ねて開催してもかまいません。

この義務化により、身体拘束廃止に向けた委員会を未設置の場合でも、身体拘束廃止未実施とみなされ、一律マイナス5単位の減算の対象となります。もし、未実施であることが露見したら、状況が改善されるまで全利用者が減算の対象となります。

(6)処遇改善加算や福祉・介護職員等特定処遇改善加算の見直し

福祉・介護職員処遇改善加算(IV)および(V)ならびに、福祉・介護職員処遇改善特別加算は、加算を取る事業所が少ないため廃止となります。大勢には影響ありません。

福祉・介護職員等特定処遇改善加算については、ルールが柔軟になりました。従来は、技能が高い人がそうでない人の2倍以上いなければなりませんでしたが、今後は、2倍でなくても多ければいいとなりました。たとえば10人の職員のうち、技能の高い人が6人、そうでない人が4人という場合でもよいということです。少し人材確保がしやすくなるのではないでしょうか。

(7)報酬全体に関わる改定の方向性

・送迎加算、食事提供加算
どちらも3年継続になりました。
送迎加算は、一部サービスで廃止も検討されていましたが、実態として、地方など送迎なしでは利用できないケースも多かったことから継続になりました。
経過措置扱いだった食事提供加算については、いろいろな議論がありましたが、結局3年延長になりました。

・常勤要件・常勤換算要件
育児介護との両立支援や離職防止(定着促進)のため、常勤要件・常勤換算要件が一部緩和されました。

具体的には、育児・介護休業法による時短勤務制度を利用する場合は、32時間を下回る場合でも、30時間以上の勤務であれば、常勤換算してよく、代替職員は不用になります。また、常勤者が産休後、育児や介護休業等を利用した場合、同等の資質を有する複数の非常勤職員を常勤換算して確保してもよくなりました。これによって代替職員を常勤で雇わなくてすむので人の工面がしやすくなると思います。

(8)課長会議資料から

会議の資料の中で、気になったところが2点ありましたのでご報告します。
1つは、共生型類型の利用者負担を軽減する「新高額障害福祉サービス等給付費」の詳細です。ようやく示されましたので、興味のある人は確認してください。

もう1つは、行動援護についてです。これまでは、市区町村によって行動援護を在宅時に利用できない運用としていたこともありましたが、在宅でも利用できることが改めて明記されました。

障害者福祉の方向性はどうなるのか

すでに国の検討は法改正に向いています。厚労省は、雇用と福祉の連携を目指す新しい検討会を立ち上げています。社会保障審議会障害者部会においては、障害者総合支援法の改正が議題として示され、年内をめどに議論を取りまとめることになっています。

障害者雇用・福祉施策の連携に関する検討会では、以下の3点を主な検討事項とし、すでに議論が進んでいます。
(1)効果的で切れ目のない専門的支援体制の構築について
(2)技術革新や環境変化を踏まえた多様な就労支援ニーズへの対応について
(3)その他雇用施策と福祉施策の連携強化に関する事項について

その中でも、障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会ワーキンググループでは、障害者の就労支援体系の在り方について、つまり就労系障害福祉サービスの在り方をどう考えるのか、ということが検討課題に明示されています。ですので、ことによっては、この検討会での結論をもとに、就労系の障害福祉サービスを再編成しようということになる可能性もあります。

以下は、障害者総合支援法の見直しにかかる、4つの論点を示したものです。
1.地域における障害者支援について
2.障害児支援について
3.障害者の就労支援について
4. その他
これらもすでに議論が進んでいます。

ぜひ、これまで述べた、障害者雇用・福祉施策の連携に関する検討会やワーキンググループの動きを概要だけでも把握して、この先の3年、そのさらに先の3年、法改正も含めた方向性をウォッチしておいていただきたいと思います。

障がい者福祉施設の経営者・職員の皆さまへ

主な製品シリーズ

  • 文書自動配信サービス「AirRepo(エアレポ)」
  • 業種特化型基幹業務システム スーパーカクテルCore
  • 会議室予約・運用システム SMART ROOMS
  • 絆 高齢者介護システム
  • 絆 障がい者福祉システム あすなろ台帳

セミナーレポートやホワイトペーパーなど、IT・経営に関する旬な情報をお届けする [ ITレポート ] です。

PAGE TOP

COPYRIGHT(C) UCHIDA YOKO CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.